孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
179 / 245
第5章

第12話 お前が王都に留まるってなら

しおりを挟む
 アルデオレがティスリに、みんながティスリの慰労会をやりたがっていると伝えると、ティスリが希望した店は、気楽に入れそうな市中の酒場だった。

 まぁ確かに、ここ連日、格式張った式典が続いたからな。街中の酒場のほうが嬉しいのだろう──が、ラーフルが大反対したので、酒場といっても個室のあるそれなりの店に落ち着いた。

 さらにはそのラーフルが、門番兵よろしく直立不動で突っ立っているので、ティスリが声を掛ける。

「ラーフルも座ってください。今はお忍びなのですから」

「しかし……」

「ではもう命令です。座って気楽にしてなさい。いいですね?」

「了解しました……」

 と、そんなやりとりでようやくラーフルも着席して、円卓には、オレたち村の連中と、ティスリ達王侯貴族が同じ食卓に着いた。

 ああいう式典後にこんな光景を見ると、平民と貴族と、さらには王族まで一緒に食卓を囲むなんて、なんだか不思議な気がしてくるなぁ。

 こういうのも、ティスリの気質ならではなんだろうけど。

 そんなティスリはワイングラス(中身は葡萄ジュース)を手にしながら口を開いた。

「今日は、わたしのために慰労会まで開いて頂き、本当にありがとうございます」

 するとすかさずユイナスがいった。

「ふん! 別にあんたのためなんかじゃないわよ! お兄ちゃんがやるっていってるから仕方なくだからね!」

 妹よ……その物言いだと、まるで率先して慰労会をしたがっているようにも聞こえるぞ? まぁユイナスのことだからそういう意図はまるでないだろうが。

 ティスリはそんなユイナスに苦笑を向け、しかしめげることなく「それでは、両国の発展を願って……乾杯」と宣言して慰労会が始まる。

 そんな挨拶を聞いて、リリィが苦々しくつぶやいた。

「両国ですか……まったくあの連中は……お姉様に受けたご恩も忘れて、本当に憎たらしい……」

 四大貴族が興した国──ザルガトス四公領国よんこうりょうこくを思い出したのか、リリィがまた文句を漏らす。協議会からこっち、リリィはずっとああなのだ。

 そんなリリィにティスリが聞いた。

「そう言えばあなたの家は、どうして独立に賛同しなかったのですか?」

「何をおっしゃいますのお姉様! 忠義の化身たるテレジア家がお姉様を裏切るわけないじゃないですか! お姉様のあるところ、すなわちテレジア家があるところなのですよ!?」

 ヒートアップするリリィからティスリは視線を外すとラーフルを見た。するとそれだけで、ティスリの意図を汲み取ったラーフルが答えた。

「テレジア家の家長様は、その……子煩悩ですから。独立に加担でもしようものなら、リリィ様からどれほどの不興を買うか、分かったものではありませんし」

「ああ……なるほど」

 いや子煩悩って……政治判断をそんなことで決めてもいいのだろうか? 結果的に、ティスリ側に付くのは正解だと思うけども。

「ということは……リリィにも助けられたということになりますね」

「お、お姉様!!」

 珍しくティスリがリリィを褒めて、リリィが感極まって涙目になる。

「そんなもったいなきお言葉! わたしは何もしておりませんわ!」

「ええ。確かにあなたは特に何もしていませんが、そのストーカー気質も時には役立つのだなと驚いただけです」

「持ち上げてから突き落とす! さすがはお姉様ですわ!?」

 ま、まぁ……リリィ本人が喜んでいるならいいか……

 そんな感じでたわいない雑談が進んでいく。

 そして前菜を食べ終えたところで、ティスリが、ちらりちらりとこちらに視線を向けてくることに気づいた──ユイナスが。

「ちょっとティスリ! さっきからなんなの!? そのウザい視線は!」

「えっ!? い、いやあの、ウザい視線とは……?」

「さっきからお兄ちゃんを盗み見てるでしょ!」

「そ、そんなことはありませんが……」

 などと言いながらも、ちょっと上目遣いでこちらを見てくるティスリに、オレは思わずドキリとする。

「お兄ちゃんもなんなの!? あんな女と見つめ合うくらいなら──」

「べべべ、別に見つめ合ってないが!?」

「見つめ合ってたでしょ! そういうのはわたしとだけやればいいの!」

 そういってユイナスが顔を近づけてくるものだから、鬱陶しくなったオレは、ユイナスのおでこを押して引き離した。

「はいはい分かった。そもそも談笑の場なんだから誰を見ようと勝手だろーが」

「でも!」

「いいからお前はちょっと黙ってろ──で、ティスリ、何か聞きたい事でもあるのか?」

 オレは、なんとかユイナスをなだめると、改めてティスリを見た。

 するとティスリは、なぜかソワソワと視線を泳がせている。ユイナスの文句なんて、そこまで気にする必要ないと思うのだが……

 オレが不思議に思っていると、ティスリがソワソワした感じのまま言ってくる。

「これまで忙しくて聞けていませんでしたが、その……王都観光はどうでしたか……?」

 そしてティスリは、どういうわけかミアのほうを見た。

 ミアも、その視線の意味を図りかねたのか、少しだけ小首を傾げている。

 だからオレは改めて聞いた。

「王都観光って、協議会当日の?」

「え、ええ……そうです」

 ああ、そう言えば、あのときのオレは護衛も兼ねてたんだっけな。その報告をしていなかったことを思い出す。

「特に敵襲もなかったし、怪しい人影もなかったぜ」

「い、いえ……そういうことではなく……」

「……? じゃあどういうことなんだ?」

 ますます意味が分からずオレが眉をひそめると、ティスリはなぜか語気を強めた。

「と、とにかく! 当日は、みんなで街を回ったんですね!?」

「え、ああ。そうだけど──」

「誰かとはぐれたりとか、誰かと二人っきりになったとかはしていないのですね!?」

「ああ、そういうことか」

 おそらくティスリは、一時的にでも誰かが連れ去られてしまい、そこで脅迫か何かを受けてやしないか……などを心配しているのだろう。たぶん。

 それならそうと言ってくれればいいのに、なんだって、こんな回りくどい質問をしたんだろ?

「もちろん、誰一人はぐれていないし、みんなずっと一緒だったぜ。なぁミア」

 とりあえずミアに話を振ってみると、ミアも頷いてくれる。

「うん、そうだね……」

「だからティスリ、誘拐とか脅迫とか、そういう心配はないから安心しろって」

(……ティスリさんの心配は、そーゆーことじゃないと思うけど……)

「ん? ミア、何か言ったか?」

「ううん、別に。なんでもない」

 あれ……? なんでかミアが不機嫌になってない……?

 その反対に、ティスリはどうしてかホッとした感じになっているし……

 いったいどういう心境なのかよく分からないが、まぁ……襲撃の気配もなかったということで安心したのだろう。ミアが不機嫌なのはちょっとよく分からないけれども。

 だがさすがのオレも、こういう雰囲気を深掘りすると藪蛇になりかねないことはすでに学習済みだ。オレだって成長するのだ!

 だからオレは話題を逸らすことにした。

「それでティスリ、今後はどうするんだ?」

「そうですね……しばらくは様子見といったところですが……」

 ティスリは目を伏せて、いっとき考えてから答えてきた。

「独立した貴族が、あまりに酷い政策をするようならば介入しなければなりませんが、現時点での経済や情勢は安定しています。急な方針転換はしないと思いたいですね……」

「ふむ、なるほどな……」

 聞いてみたはいいものの、オレは、それ以上に小難しい話を膨らませることは出来なかった!

 だから内心、またぞろ妙な話の展開にならないかヒヤヒヤしていたのだが、ティスリがオレに質問してくれたおかげで事なきを得た。

「アルデの方は……今後、どうするつもりですか?」

「どう、とは?」

「わたしはまだ当分、王都に留まらなければならないでしょう。情報がもっとも集まるのがこの王都ですので。こんなことなら、情報相互換通信網の整備を急げばよかったのですが、今はまだ使えませんし……」

「じょうほう……なんだって?」

「いえ、こちらの話です。いずれにしてもわたしは、王都に留まる必要があるのですが、アルデの村は独立側ですよね。もし心配なら──」

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

 と、そこでユイナスがティスリの話を遮って、オレに耳打ちしてくる。

「ティスリは案に『お前はクビだ』といってるんだよ」

「えっ!? なんで!?」

「ちちち、違いますよユイナスさん!?」

 どうやらユイナスの声はティスリにも聞こえたらしく、ティスリは大慌てで首を横に振った。

「わたしは、もし地元の事が心配ならしばらく村に帰るのも──」

「お兄ちゃん、やっぱり『お前は村に帰れ』って言ってるわよ?」

「だから違いますってば!?」

「分かった分かった、さすがにオレも、ユイナスの言うことは信じてないから」

 オレがそういうと、ティスリはほっとして、逆にユイナスはむくれていたが、あからさまに嘘を吹聴するユイナスのほうが悪いんだからオレは放っておく。

 まったく……ティスリのおかげで実家の暮らしはよくなったってのに、コイツは本当に恩義も何も感じていないなぁ……

 オレはそんなことを考えながらティスリに告げる。

「お前が王都に留まるってなら、オレも王都にいるに決まってるだろ」

「えっ……」

「なんでそんな意外そうな顔してんだ? 側近だったり護衛だったり従者だったり……まぁなんの役目なのかはいまいち定まってないけど当然だろ」

「そ、そうですか……」

 どういうわけか、さっきからティスリはチラチラとミアを見ている。そのミアは、相変わらずちょっと面白くなさそうというか、気落ちしているというかだが……ユイナスと違って口を挟んではこない。

 でもやっぱり……深掘りはやめておこう。ここで何かミアに声を掛けたら………………ぜったいにティスリが不機嫌になる!

 なんでかは分からないが、オレにはその核心があるのだ!

 というわけでオレは目前の落とし穴を見事回避して、内心で自画自賛していると……またもやユイナスが思いも寄らないことをいってくる。

「ま、そうなるわよね。お兄ちゃんのことだから、そういうと思ったわ」

「ん? なんだ分かってたのかよ。っていうか、お前はもうすぐ学校が始まるだろ? 王都観光もそろそろ切り上げて──」

「何言ってるのよお兄ちゃん。お兄ちゃんが王都に残るというのなら、わたしだって残るに決まってるじゃない」

 ユイナスがそんなことを言ってくるものだから、オレは素っ頓狂な声を上げるしかないのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

処理中です...