177 / 245
第5章
第10話 今以上の協力
しおりを挟む
「移動の自由など言語道断だ!」
ジハルドがティアリース殿下の提案を述べた途端、四大貴族の方々は激高しました。
「平民は我々の財産なのだぞ!?」
「それを取り上げると言っているようなものだ!」
「もはや国家の成り立ちをも否定する所業!」
「あの女は、いったいなんの権限があるというのだ!?」
いやなんの権限って……そもそもあなた方が独立するほうが「なんの権限で?」と問われても仕方がないでしょうに。
交渉のテーブルに付くことすら出来ない臆病者だというのに、よく吠えます。まさに弱い犬ほど……といったところなのでしょう。
まぁいいですけどね。焚きつけたのは我々ですし。
だからわたしは、呆れ顔でいってやりました。
「何も殿下は、あなた方の財産を没収するだなんて言ってないでしょうに。善政を敷けば、むしろ財産は増えるのですよ?」
「没収と言われているのも同然だ! なぜ平民に施しをする必要がある!」
「家畜によい餌を撒いて、富が増えるとでも思っているのか!?」
「だいたいこの国の発展は、我らの犠牲の上に成り立っているのだ!」
「その通りだ! 我らの忠誠をないがしろにし、あの女は平民に施しばかりしおって!」
はぁ……やれやれ。
確かに徴税率は下がりましたが、全体のパイは増えたのですから、彼らだって美味しい思いをしているでしょうに。
「かつてと同じ徴税率なら、今はもっと贅沢が出来た!」などという意味不明のトンデモ理論をかざして駄々をこねるとか子供同然ですね。
だからわたしは、もはや説得は無駄だと悟って早々に切り札を出しました。
「では、あの殿下と事を構えるつもりですか?」
「ぬっ……!?」
わたしがそう言うと、これまでの勢いがあっさりと削がれて、立ち上がって拳を振り上げていた貴族なんかは、腰が抜けたかのように着席しました。
「も、もちろん……我らとて早々に戦争を起こす気はない……」
「ならこの条件、飲むしかないでしょう?」
「だがしかし……平民の移動を自由にするなど前代未聞だ……」
前例主義もここまでくると、無能を量産する方便にしかなりませんね。だからわたしは呆れながらも言いました。
「なら移動させなければいいでしょう?」
「は? 何を言っている?」
「だから。なぜそんな律儀に条約を守ろうと考えているのです? 反故にすればいいだけの話でしょうに」
「ば、馬鹿かお前は? フェルガナ領主がどうなったのか知らないのか? あの女の不興を買っただけで逮捕投獄されたのだぞ……!?」
「聞いてはいますが、今回の場合、条約違反がバレたら逮捕ではなく戦争でしょうけどね」
「ならば余計にマズイではないか!?」
「つい先日も、あの女は一人で王城を半壊させたのだぞ!?」
「すでに完全防御結界をも完成させたとか!」
「あのデタラメな戦闘力がなければ、我らだって唯々諾々としてはおらぬ!」
まったく本当に、この人達は……
気に食わないことには喚くくせに、ちょっと脅したらすぐ怖じ気づくわで……
無能だらけだから扱いやすいと思っていましたが、むしろ、ここまで馬鹿で臆病だと扱いにくいですね。
わたしは深いため息をついてから、根気よく説明します。
「バレなければいいだけの話です。違う国になるのですから、殿下であろうとも、今のように自由な采配ができるわけないでしょう?」
「バレずに、とはいってもな……万が一にでもバレたりしたら……」
「いやそもそも、条約違反の疑いがあるだけで、あの女のことだ、攻め込んでくるぞ!」
「もし攻め込まれたら……あの女の魔法に対抗する手段は、我々にないのだ!」
「だとしたら条約違反などというリスクを冒せるはずもない!」
この人達は、鳥頭なのでしょうか?
ヒトの脳ミソが詰まってるんですかね?
殿下への対抗策は、事前に何度も説明したというのに。
わたしが呆れて言葉を失っていると、四大貴族の一人が言ってきます。
「そもそも貴国だって、あの女と小競り合いしていたであろうが! そのとき、戦闘力を様々と見せつけられたのであろう!?」
その話を持ち出されて、わたしは妙案を思いつきます。
「ええ、そうですね。ですがあのとき、殿下は戦っておりませんよ」
「なに?」
「巧みな外交手腕……といえば聞こえがいいですが、ようは彼女は、戦争を起こすだけの覚悟がないのですよ」
当時の外交交渉を思い出し、わたしは思わず苦笑します。
我が国が隣国と国境紛争をしていたあのときも、仲介役に入った殿下は、誰もが予想だにしなかった妙案を持ち出し、国際紛争をあっという間に解決して見せたのです。
それにより世界大戦への突入はなくなったと言えばそうですし、その手腕は確かに見事ではありました。が……
わたしはそのとき、思いました。軽い失望感を伴って。
彼女には、王者の資格はないと。
王者とは、所詮は血にまみれた存在であることを理解していない──それが彼女です。
つまりはせっかくの戦闘力を持っていたとしても、行使できないのならなんの意味もありません。
だからわたしは、改めて言いました。
「彼女は、疑いだけで戦争を起こしたりはしませんよ。それにその領主だって極刑は免れているのでしょう? 罪状は反逆罪だというのに」
「む……確かに、そうだが……」
「それだけ甘いのです、彼女は。よくよく考えてください。いくら頭がよかろうとも、魔力があろうとも、あなた方からみたら孫に等しい年齢なのですよ? そんな若造が、戦争を起こし、多くの民を戦地に送れると思いますか?」
「………………」
「とくに殿下はお優しい。どういうわけか非常に平民を気遣っている。だったらなおさら、戦争など起こせませんよ」
「だがそうはいっても、追い詰めたら窮鼠猫を噛むことだったあり得るのだぞ?」
「であったとしても、我々が武器供与したのはなんのためだったのですか」
「そ、それはそうだが……」
それでも決心をつけられない愚鈍な貴族共に、もはや面倒になったわたしは奥の手を出します。
「最終的には、我々が今以上の協力をしますよ」
「今以上の協力とは、どういう意味だ?」
「派兵すると言っているのです」
「ま、誠か……?」
「ええもちろん、我々魔族がね」
こうして四大貴族は、ようやく決心を固めるのでした。
ジハルドがティアリース殿下の提案を述べた途端、四大貴族の方々は激高しました。
「平民は我々の財産なのだぞ!?」
「それを取り上げると言っているようなものだ!」
「もはや国家の成り立ちをも否定する所業!」
「あの女は、いったいなんの権限があるというのだ!?」
いやなんの権限って……そもそもあなた方が独立するほうが「なんの権限で?」と問われても仕方がないでしょうに。
交渉のテーブルに付くことすら出来ない臆病者だというのに、よく吠えます。まさに弱い犬ほど……といったところなのでしょう。
まぁいいですけどね。焚きつけたのは我々ですし。
だからわたしは、呆れ顔でいってやりました。
「何も殿下は、あなた方の財産を没収するだなんて言ってないでしょうに。善政を敷けば、むしろ財産は増えるのですよ?」
「没収と言われているのも同然だ! なぜ平民に施しをする必要がある!」
「家畜によい餌を撒いて、富が増えるとでも思っているのか!?」
「だいたいこの国の発展は、我らの犠牲の上に成り立っているのだ!」
「その通りだ! 我らの忠誠をないがしろにし、あの女は平民に施しばかりしおって!」
はぁ……やれやれ。
確かに徴税率は下がりましたが、全体のパイは増えたのですから、彼らだって美味しい思いをしているでしょうに。
「かつてと同じ徴税率なら、今はもっと贅沢が出来た!」などという意味不明のトンデモ理論をかざして駄々をこねるとか子供同然ですね。
だからわたしは、もはや説得は無駄だと悟って早々に切り札を出しました。
「では、あの殿下と事を構えるつもりですか?」
「ぬっ……!?」
わたしがそう言うと、これまでの勢いがあっさりと削がれて、立ち上がって拳を振り上げていた貴族なんかは、腰が抜けたかのように着席しました。
「も、もちろん……我らとて早々に戦争を起こす気はない……」
「ならこの条件、飲むしかないでしょう?」
「だがしかし……平民の移動を自由にするなど前代未聞だ……」
前例主義もここまでくると、無能を量産する方便にしかなりませんね。だからわたしは呆れながらも言いました。
「なら移動させなければいいでしょう?」
「は? 何を言っている?」
「だから。なぜそんな律儀に条約を守ろうと考えているのです? 反故にすればいいだけの話でしょうに」
「ば、馬鹿かお前は? フェルガナ領主がどうなったのか知らないのか? あの女の不興を買っただけで逮捕投獄されたのだぞ……!?」
「聞いてはいますが、今回の場合、条約違反がバレたら逮捕ではなく戦争でしょうけどね」
「ならば余計にマズイではないか!?」
「つい先日も、あの女は一人で王城を半壊させたのだぞ!?」
「すでに完全防御結界をも完成させたとか!」
「あのデタラメな戦闘力がなければ、我らだって唯々諾々としてはおらぬ!」
まったく本当に、この人達は……
気に食わないことには喚くくせに、ちょっと脅したらすぐ怖じ気づくわで……
無能だらけだから扱いやすいと思っていましたが、むしろ、ここまで馬鹿で臆病だと扱いにくいですね。
わたしは深いため息をついてから、根気よく説明します。
「バレなければいいだけの話です。違う国になるのですから、殿下であろうとも、今のように自由な采配ができるわけないでしょう?」
「バレずに、とはいってもな……万が一にでもバレたりしたら……」
「いやそもそも、条約違反の疑いがあるだけで、あの女のことだ、攻め込んでくるぞ!」
「もし攻め込まれたら……あの女の魔法に対抗する手段は、我々にないのだ!」
「だとしたら条約違反などというリスクを冒せるはずもない!」
この人達は、鳥頭なのでしょうか?
ヒトの脳ミソが詰まってるんですかね?
殿下への対抗策は、事前に何度も説明したというのに。
わたしが呆れて言葉を失っていると、四大貴族の一人が言ってきます。
「そもそも貴国だって、あの女と小競り合いしていたであろうが! そのとき、戦闘力を様々と見せつけられたのであろう!?」
その話を持ち出されて、わたしは妙案を思いつきます。
「ええ、そうですね。ですがあのとき、殿下は戦っておりませんよ」
「なに?」
「巧みな外交手腕……といえば聞こえがいいですが、ようは彼女は、戦争を起こすだけの覚悟がないのですよ」
当時の外交交渉を思い出し、わたしは思わず苦笑します。
我が国が隣国と国境紛争をしていたあのときも、仲介役に入った殿下は、誰もが予想だにしなかった妙案を持ち出し、国際紛争をあっという間に解決して見せたのです。
それにより世界大戦への突入はなくなったと言えばそうですし、その手腕は確かに見事ではありました。が……
わたしはそのとき、思いました。軽い失望感を伴って。
彼女には、王者の資格はないと。
王者とは、所詮は血にまみれた存在であることを理解していない──それが彼女です。
つまりはせっかくの戦闘力を持っていたとしても、行使できないのならなんの意味もありません。
だからわたしは、改めて言いました。
「彼女は、疑いだけで戦争を起こしたりはしませんよ。それにその領主だって極刑は免れているのでしょう? 罪状は反逆罪だというのに」
「む……確かに、そうだが……」
「それだけ甘いのです、彼女は。よくよく考えてください。いくら頭がよかろうとも、魔力があろうとも、あなた方からみたら孫に等しい年齢なのですよ? そんな若造が、戦争を起こし、多くの民を戦地に送れると思いますか?」
「………………」
「とくに殿下はお優しい。どういうわけか非常に平民を気遣っている。だったらなおさら、戦争など起こせませんよ」
「だがそうはいっても、追い詰めたら窮鼠猫を噛むことだったあり得るのだぞ?」
「であったとしても、我々が武器供与したのはなんのためだったのですか」
「そ、それはそうだが……」
それでも決心をつけられない愚鈍な貴族共に、もはや面倒になったわたしは奥の手を出します。
「最終的には、我々が今以上の協力をしますよ」
「今以上の協力とは、どういう意味だ?」
「派兵すると言っているのです」
「ま、誠か……?」
「ええもちろん、我々魔族がね」
こうして四大貴族は、ようやく決心を固めるのでした。
0
お気に入りに追加
365
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる