上 下
173 / 192
第5章

第6話 お姉様のご寵愛を狙ってのことですわね!?

しおりを挟む
 アルデオレは、王都に戻ってから始めて街中に繰り出していた。

 何しろティスリに付き添っている間は、城内に缶詰だったからな。もっとも城内は広かったので、本来なら缶詰という感じはしないはずなのだが、貴族反乱で凄まじい緊迫感だったから、雰囲気的に息が詰まる思いをしていたのだ。

 しかしそんな城内とは打って変わって、王都の市中は至って平穏そのものだった。

「うわぁ! わたし、こんなオシャレなカフェでお茶してみたかったのよね!」

 その平穏代表ともいえるユイナスが、暢気な声を上げながらテラス席に座る。

 オレ達は、午前中は王都内を観光し、昼休憩でこのオープンカフェへとやってきた。以前、ティスリと一緒に来たことのあるカフェだ。

 今回も、王侯貴族専用のフロアに案内されたオレ達は、道行く人を見下ろせるテラスに陣取った。他の客もいない占有テラスだ。

 小心者のナーヴィンなんかは、給仕される度に恐縮しまくっているし、貴族が出入りする場には慣れてそうなミアですらちょっと気後れしている感じなのに、我が妹と来たら……とても偉そうにふんぞり返っている。

 もはや、リリィより貴族に見えるぞアイツ……度胸があるのか、怖い物知らずなのか……

 だからオレは、妹をたしなめるためにも言ってやる。

「こういう思いが出来るのもティスリのおかげなんだから、ちょっとは感謝しろよな、お前は」

「ここはリリィの顔パスでしょ。ティスリは関係ないじゃない」

「もちろんそうだけど、そのリリィだって、ティスリがいたから知り合えたんだろ」

「ティスリがいなかったら、わたしが独力でお兄ちゃんとここに来てるわよ!」

「その自信は……いったいどこからくるんだか……」

 たしかにユイナスは、オレと違って頭はいいが……とはいえ、平民出身でこんなお高いカフェに出入りできるようになるとは思えないがなぁ……

 それこそ、ティスリが作った魔動車みたいに、とんでもない発明でもしない限りは。我が妹にはそこまでの才覚があるとは思えないが。

 そんなことを考えていたら、そのユイナスが聞いてくる。

「ところでお兄ちゃんは、いつまで王都にいるの?」

「ん? そうだなぁ……」

 改めてそう問われると、オレも明確に答えられない。

 もし今日の協議会で決着が付くなら、そこまで長く王都に留まる必要はないだろうが、とはいえ、事は内戦に発展しかねないほどの一大事だ。たった一回の話し合いで決着が付くとも思えない。

 ラーフルだって、本来なら、協議会を開催すること自体が数カ月はかかると言っていたし……この事態が収拾するには、下手したら数年かかるかも。

 となるとオレは、数年は王都に留まることになると思うが……オレが貴族の動向を考えたところで分かるわけがなかった。

 ということでオレは、リリィに顔を向けた。

「どう思うリリィ? どのくらいで決着が付くかな」

「そうですわね……」

 リリィは思案顔になると、ブツブツと独り言を始める。

「さすがのお姉様でも、四大貴族の反乱を短期間で平定することは──」

「えっ……!?」

 そして、その独り言を聞いてしまったミアが驚きの声を上げた。

「リ、リリィ様……! いま……なんとおっしゃいましたか……!?」

「え……?」

 そう問われて、リリィはポカンとしながら、先ほどの独り言を再び口にしてしまう──オレが止める間もなく。

「ですから、四大貴族の反乱を平定するには──」

「よ、四大貴族の反乱!?」

「あっ……!」

 驚愕するミアの顔を見て、リリィは、貴族反乱の件を内緒にしていたことを思い出したのだろう。大慌てで言い分けを始める。

「な、なぁんて、冗談ですわよ、冗談!」

「え、でも……」

「当家以外の貴族が反乱を起こした、だなんてあり得るわけないじゃないですか! それをお姉様が平定するために王都に戻った、などと誰が信じるというのですの!? だいたい、お姉様は一般人であるからして、例え四大貴族が反乱したとしても無関係ではないですか!?」

 うんリリィ……しゃべればしゃべるほど墓穴を掘っているぞ……?

 案の定、ミアの顔は瞬く間に顔面蒼白に変わる。ちなみにユイナスはあまり関心がないのかつまらなさそうにしていて、ナーヴィンに至っては、これがどれほどの大事なのか理解していないのかポカンとしていた。

「ちょ、ちょっとアルデ!」

 そんな仲間を観察していたら、リリィがオレに矛先を向けてきた。

「あなたのせいで、妙な誤解が生まれたじゃないですか!」

「ええ……オレのせいじゃないだろ? 口を滑らせたのはお前じゃん」

「滑らせてなどいませんわ!? お姉様が秘密にしていたことをわたしがバラしただなんてあってはならないのです! これがバレたら、わたしはお姉様にどんなお仕置きを受けるのか……はぁはぁ……」

 ………………最後のほうは聞かなかったことにしよう。

 とはいえ聡いミアのことだ。ここでどう取りつくろうとも、もはや貴族反乱は事実だと気づくだろう。となれば、隠し続けても無駄に心配させるだけだ。

 だからオレは観念して話すことにした。

「まぁ……貴族反乱は事実だよ。だからティスリは王都に戻ってきて、連中と話し合いをしている。まさにそれが今日ってわけだ」

「ちょ! アルデ!?」

 ミアが驚きの声を上げるより早く、リリィが言ってくる。

「あなた──なぜ話してしまうのですか!? お姉様が隠していたことを!」

「いやそれは、お前がボロを出したせいだろ。そこまで言ったらもう隠し通せないって」

「だからといってバラす人がいますか! あなたまさか、お姉様のご寵愛、、、を狙ってのことですわね!?」

「そんなの狙ってねぇよ!?」

 リリィのいう『ご寵愛』が一体なんなのかは……知りたくもないので突っ込まないでおこう……

 それにミアは口が硬いから、極秘事項だと言っておけば問題ない。ユイナスに至っては、吹聴する相手がいないから大丈夫だ(なにしろぼっちだし)。

 問題あるとしたら……ナーヴィンだな。

「ということでナーヴィン。これって軍事機密だからして、もしこれを外部にもらしたら……」

 未だに状況を理解していないナーヴィンに、オレは鋭い眼光を向ける。

「お前のクビ、物理的に飛ぶからな? いやまぢで」

「……!?」

 オレの迫力に気押されたナーヴィンは、顔を引きつらせてのけぞった。

「な、なんでそんなことをオレに聞かせるんだよ!? そもそも、そんな秘密をどうしてお前が知ってるんだ!」

「そりゃあ、オレは元々王城勤務だったし。あとティスリは政商だから、裏情報にも詳しいんだよ」

 今さらティスリを政商と言ったところで、もはや信憑性はまるでないと思うのだが、どういうわけか、ナーヴィンはその点については疑っていないようだった。

「そ、そういうもんなのか……だ、だけど……」

「とにかく、誰にも言わなければいいだけの話だ」

「く、くそ……居合わせただけで首が飛びかねないとか……とんだ藪蛇だ……」

 まぁそれに、いま協議会の真っ最中だから、遠からず公表されると思うからな。ティスリのことだし、いつまでも秘密にしておくとも思えない。

 だからナーヴィンが、酒の席でうっかり話してしまったとしても、大した問題にはならないだろう。そもそも酔っ払いの戯れ言として受け取られる可能性のほうが高いし。

 そんなことを考えていたら、まだ青い顔のミアが聞いてきた。

「ね、ねぇアルデ……そうなると……わたしたちの村はどうなるのかな……?」

「ふむ……確かに……」

 そう問われるも、オレはすぐに返答することが出来ず……まずは、昨日までティスリが立案していたプランを思い出してみた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...