孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

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第4章

第36話 この華やかな場が一気に修羅場と化すことは、聡いオレはもう学習済みだ!

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 アルデオレ達は、リリィの本島宅でひと息付いた後、夕方から島の夏祭りへ繰り出すことになっていた。夜には花火大会もあるという。

 さらには、この地域の民族衣装を着ようという話になる。なんでも浴衣というそうで涼しいんだとか。男女それぞれに用意されているとのことで、オレとナーヴィンも着てみたが、確かに通気性のよい生地で涼しかった。

 っていうかこの前開きの不思議な民族衣装は、前に王都の旅館で着たっけか。あのときはティスリが酔って大変だったんだよなぁ……浴衣がはだけたりもして……

 っと、ヤバいヤバい!

 そこでオレは頭を大きく振って、その記憶を振り切った。ただでさえご機嫌斜めなティスリに、アイツの醜態をオレが思い出しているなんて悟られでもしたら大変だ。

 もっとも、今のティスリは他の女性陣と一緒に、浴衣選びでずっと更衣室に閉じこもっているが。紺色か灰色しかない浴衣を選ぶのに、なんでそんなに時間がかかっているんだか謎だ。

 ということでオレとナーヴィンは、ボードゲームをやったりして時間を潰していたら、出発時間ギリギリに、ようやく女性陣が現れた。

 玄関ホールで彼女達を見た途端、ナーヴィンが歓喜の声を上げる。

「おう!? めちゃくちゃ華やかじゃないかみんな! 特にティスリさん!!」

 そう──ナーヴィンの言うとおり、女性陣の浴衣は男のそれと打って変わって、非常に華やかだった。

 生地には様々な花の模様が描かれていて実に鮮やかだ。まるでキラキラと輝いているかのようにも見える。さらには髪もアップにされていたりして、普段の印象とはまるで違う感じだった。

 だがしかし!

 ここで特定の誰か(おもにミア)に見取れたりしたら、この華やかな場が一気に修羅場と化すことは、聡いオレはもう学習済みだ!

 思い返せば王都での一件も、ティスリがキレたのは『女性親衛隊員にオレが手を出した』と勘違いしたからだからな! 何がどうなってそんな勘違いが生まれたのかは未だに分からんが!

 だからオレは、女性陣が着替えている間ずっと考え、そしてついに気づいたのだ!

 この状況を打破する起死回生の策を!

「おお……いいじゃないかみんな。ユイナスもよく似合ってるぞ」

「えっ! お兄ちゃん!? わたしだけを褒めてくれるの!?」

「いや……『みんないい』とも言ってるが……」

「お兄ちゃん! ついにわたしの魅力に陥落したのね!?」

「陥落してないし魅力にも気づいてないが、いいと思うぞ」

「もうお兄ちゃんったら! 恥ずかしがり屋さんなんだから!!」

 ちょっと褒めただけで大喜びするユイナスは、オレの腕を取ってきたが、ユイナスなら問題ない。オレは、浮かれるユイナスをテキトーにあしらいながら、チラリとティスリを見た。

 よし……! ティスリの機嫌は特に悪化していないぞ!

 どういうわけかティスリは、ユイナスを構っているだけならご機嫌斜めにならないのだ。むしろ羨ましそうな感じさえある! ティスリは一人っ子だし、兄妹に憧れでもあるのかな?

 しかしこれがミア相手となると話はまるで違ってくるわけだ。

 つまりミアを相手にした途端、その機嫌は急転直下する……!

 午前中のカヤックツアーを振り返ってみても、ミアが、オレと同じカヤックに乗りたいと言い出してから機嫌が斜めった気がするし。

 ちなみにリリィに関しては、そもそもオレに絡んでくることはないので安心だ。だがしかし、昨夜ティスリにハメられたように、リリィの衣服を問われる場合もあるので、どんな浴衣を着ているかくらいは気に留めておかないとだが。

 いすれにしてもミアには悪いが、ティスリの前で浴衣を褒めるのは元より、会話したり目を合わせたりするのも駄目だ。そのためには、ユイナスに意識を集中させなければ!

 ……ってかオレ、楽しいバカンスだというのになんだってこんなに気苦労してんだ? ティスリの浴衣姿を褒めまくっている脳天気なナーヴィンが羨ましいよ……はぁ……

「ねぇねぇお兄ちゃん! 今日は二人っきりでお祭りを見て回ろうよ!」

 真っ先に浴衣を褒めたからか、機嫌がもはや限界突破のユイナスがそんなことを言ってくる。確かにユイナスと二人のほうが、変な気苦労をしなくていいかとも思うのだが……

「いや、見知らぬ土地で案内役がいないのは何かと不便だろ。今日はみんなと一緒に回ろうぜ」

「ええ……? わたしは別に、お兄ちゃんと二人っきりになれるなら、お祭りはどうでもいいわよ?」

「オレはお祭りを見たいの。せっかく旅行にきてるのにイベント参加しないのはもったいないだろ」

「それはそうだけど……まぁいいか……」

 割合あっさり引き下がってくれたのでオレはホッとする。

 何しろ今日は、ユイナスと二人になるわけには行かない。なぜならミアに呼び出しを受けているのだから。

 リリィの本島宅に来る道中で受け取ったメモ書きの内容は「話があるから、二人で会いたい」というものだった。それとミアの通信呪文が書かれていた。

 最初、なんで呪文が書かれているのか分からなかったのだが、少しして、守護の指輪で通信するときに使う呪文であることを思い出した。そういや、通信魔法まで付いてるんだっけか、あの指輪。とんでもなく万能アイテムだな。

 オレはその機能のことをすっかり忘れていて、それどころか指輪を旅行に持ってくること自体を忘れていたのだが、用意周到なティスリがスペアを作ってくれたので、今はオレも装備している。

 そしてミアからもらった通信呪文は、オレとミアの間だけで通信できるというものだった。もらったばかりの魔具をこうもあっさり使いこなすとは、さすがはミアだな。

 だからオレは、女性陣が更衣室に閉じこもっているときに、いちどミアに通信したのだが「会って話がしたい」とのことで、その用件を聞くことは出来なかった。

 だから祭りの最中にちょっと抜け出して会うことになった。そのくらいなら、トイレに行くとかいえば抜け出せるだろう。抜け出した後は通信魔法でミアを呼び出せばいいというわけだ。

 しかしユイナスと二人きりになってしまっては、トイレだからと抜け出すこともままならない。なので今日は集団行動しなければならないのだ。

 それにしてもミアのヤツ、いったいなんの用件だ? まさかユイナスをどうにかしろと言いたいわけでもないだろうし。

 でもまぁいいか。用件を聞けば分かるだろ。

 ということでオレ達は、日も暮れてきたかという時分に夏祭りへと繰り出すのだった。
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