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第4章

第34話 無言の圧力を受けているのだ……!

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 海のバカンス三日目。今日のアルデオレ達は、別荘のある島から移動して、平民も住む近隣の島へとやってきていた。こちらのほうが本島ということで、結構な住民がいるようだ。その人口はうちの村より断然多いらしい。

 普通なら船で数時間はかかるそうだが、ティスリの魔法で文字通りひとっ飛びだった。ユイナス、ミア、ナーヴィンがそれぞれ度肝を抜かれていたが。

 そうして到着した島では、ものすっごい密林を木舟カヤックで見て回る遊びがあるそうで、オレ達はそれを楽しんだ。

 昨日のシュノーケリングといい、お貴族様はほんといろんな遊びを考えるもんだ。オレたち平民が海に潜ったり森に入ったりするときは、漁か狩りであくまでも仕事だから、それを遊びにするなんて思いつきもしないだろうな。

 そんなわけで基本的には楽しく過ごしているのだが──

「い、いやぁ、凄かったなティスリ。オレ達の村にも森はあるが、ぜんぜん種類が違くて迫力満点だったな!」

「………………ソーデスネ」

 ──ティスリの機嫌は、今日もすこぶる斜めだった。

 いや昨夜、水着の件で意味不明な揉め方をしたから、今日のティスリは機嫌が悪いことは覚悟していた。

 だけど今朝、なぜかティスリは上機嫌だったのだ。

 ほんと、どうしてなのかはまるで分からなかったんだが、とにかく機嫌が直ったならそれでいいかと、オレは胸を撫で下ろしながらカヤックツアーなるものを楽しんでいたのだが……

 ふと気づけば、ティスリの機嫌は再び悪化していた。乱高下が激し過ぎんか……?

 ただこれに関しては、明確に思い当たる節がある。

 まず、今日は水着を着ていないから今回は関係ない。

 つぎに、相変わらずオレはユイナスに掛かりっきりだが、ティスリは、ユイナスに関してはとても寛容なのでそこも問題ない。

 ということで問題なのは……ミアなのだ。

「ほんと、カヤックツアーは凄かったよね、アルデ。わたしもう、一生分の遊びを経験しちゃったかも」

「ちょっとミア! お兄ちゃんと話してるんじゃないわよ!?」

「ええ……? お話するくらい、いいじゃない」

「あと距離! 距離が近すぎ!!」

「そんなことないよ?」

「ありすぎなのよ!」

 と、こんな感じで……

 どういうわけか、今日はミアがオレから離れない……!

 だからユイナスが怒り心頭なのは当然として、後ろを歩くティスリからも無言の圧力を受けているのだ……!

 カヤックツアーのときだって、誰と乗るかでちょっと揉めたし。カヤックは二人乗りだったから、ユイナスがオレと乗ると言い出すことは、付き合いの長いミアなら分かっているはずなのだが……

 どうしてか、ミアはオレと乗ることを譲らなかった。

 だから最終的にはじゃんけんになって、オレはナーヴィンと乗る羽目になったが。

 そうして今は、そのカヤックツアーも終わって、リリィの本島宅に向かっているのだが……

 オレの右側にはユイナスがひっついて、左側はミアが歩いていた……手でも繋がんばかりの距離感で。

 そんなミアに、ユイナスが文句を言いまくっている。

「とにかくお兄ちゃんから離れなさいよ!」

「離れてるってば」

「どこがよ!? っていうかなんなのあんた! 昨日までは大人しかったってのに、今日は一体どういうつもりよ!」

「だって、旅行に来てからずっとユイナスちゃんがアルデを独占してるじゃない。そろそろよくない?」

「よくないわよ! お兄ちゃんはわたしのものなんだから!!」

「なんでオレがお前のものなんだよ。ってか二人ともちょっと離れてくれ……!」

 という感じでオレが仲裁に入ることは、一度や二度じゃなくなっていた。

 すると後ろからナーヴィンが言ってくる。

「くそーーー! なんでアルデばっかり! ティスリさん、あんなヤツは見捨てませんか!?」

「ソーデスネ。見捨てられても文句はイエマセンネ」

 おいナーヴィン! ティスリを煽るな!?

 と言ってやりたいが、オレが抗議したら間違いなくティスリの機嫌が崩壊するので、オレはぐっと堪える。

 そんなことを考えていたら──服の裾がちょいっと引っ張られた。

 少しだけ離れたミアだったが、なぜかオレの服をつまんでいる。

 えっと……これはどういう……

 目が合うと、ミアは恥ずかしそうに視線を逸らして──

 ──またぞろユイナスが喚き立てる。

「ちょっとユイナス!? お兄ちゃんの服を掴むな!」

「あ、バレた?」

「バレるに決まってるでしょ!!」

 くそ暑いというのに、ユイナスはますます熱くなっていた。

 はぁ……この状況、いったいどうしたものかと思っていたら、ユイナスが振り向いてリリィを呼んだ。

「ちょっとリリィ!」

「な、なんですの……!?」

 不思議なことに今日は大人しいリリィだったが、まるでユイナスにビビっているかのような感じでワタワタしている。大貴族様だというのに、なんでだ?

「こっち来なさい!」

「ど、どうしてですか!?」

「いいから! あ、ミア! わたしがいない間にお兄ちゃんに手を出したら許さないからね!?」

 などと言いながら、ユイナスはリリィを引っ張って反対側の歩道にいってしまう。何か聞かれたくない話でもあるのだろうか。

「アルデ……」

 するとミアがオレに声を掛けてくる。

「これ、あとで読んで」

「え……?」

 そうしてミアは、さっと、オレにメモ書きを手渡す。その後はすぐに離れてくれた。

 その内容は気になるが……しかし背後からティスリの視線をヒシヒシと感じるので、オレは、そのメモ履きを素早くポケットにしまった。

 角度的にティスリには見えていないはずだが……内心ヒヤヒヤするしかないオレだった。

 っていうかオレ、なんでこんなに焦ってるんだ……!? 悪いことなんて何もしていないのに……
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