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第4章
第26話 見た目は下着同然
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別荘に到着したあとは、女性陣だけドレッシングルームに案内されました。
そこでティスリは、守護の指輪(南国ver)を思い出し、忘れないうちにとポケットから取り出します。
「今回も、守護の指輪を渡しておきますね」
するとユイナスさんが、ちょっと顔を引きつらせました。
「こ、これ……無差別に爆殺するヤツじゃん……!」
不穏なその台詞に、ミアさんも驚いてわたしを見ます。
「ば、爆殺って……!?」
なのでわたしは慌てて首を横に振ります。
「ち、違いますよ! 元々無差別に爆殺したりなんてしませんが、ユイナスさんが怖いということだったので、その機能はギリギリまで発現しないようにしてありますから!」
わたしの説明に、しかしユイナスさんの視線から不信感が消えません。
「ギリギリってどんな状況よ?」
「例えば、刀剣を突き刺されそうになったり、弓矢が刺さりそうになったりしない限りは大丈夫ですよ」
「そもそも、そんな目に遭いたくないんだけど!?」
「もちろん、わたしもこのバカンスでそんな状況になるとは思っていませんが、万が一のためというか……いえそれ以上に、今回は水難事故防止の意味合いのほうが強いので……!」
海のレジャーは、時に危険なこともあります。潮の流れが急変したり、高波に攫われる可能性はゼロではありません。
そんな水難事故に遭ったとき、空気の結界を張り巡らせて事なきを得る魔法を付与したのです。さらに万が一にも漂流なんてしてしまったなら、救難信号が自動的に送信される機能も付けました。
そういう説明をしたら、ユイナスさんは渋々ながらに頷きます。
「確かに……水遊びは危険なこともあるから気をつけなさいと、お母さんも言ってたけど……」
「水難事故は、どんなに気をつけても毎年起きてしまっていると聞きますから。用心に越したことはありませんので」
「分かったわよ……この旅行中だけだからね」
ということでユイナスさんは指輪を受け取ってくれました。ミアさんも「ありがとうございます」といいながら受け取ります。
「リリィの指輪も、水難事故防止バージョンに交換してください」
「お姉様! わたしのために貴重な魔法を使ってくれたのですか!?」
「あなただけ事故に遭っては寝覚めが悪いでしょう?」
「いつ何時も、わたしのことを考えてくださっているのですね!」
「あなたのことだけを考えているわけではないですよ? これまでのやりとりで理解できないのですか……!?」
大喜びして抱きつこうとしてくるリリィを躱しながら、わたしはなんとか指輪を手渡します。まったく……あれほど身体的接触は禁止だと言っているのに……
わたしはため息をつきながら、残り二つの指輪を確認しました。あとでアルデとナーヴィンさんにも渡しておかないとと記憶に留めておきます。どうせアルデは指輪を忘れてきているでしょうし、バージョンアップもさせたのでアルデの分も作っておいたのです。
「さてと……それでどうして、わたしたちはドレッシングルームに来ているのですか?」
指輪を渡した後、わたしはその疑問を口にしました。
するとリリィが、胸を張ってクローゼットに手を向けました。
「それはもちろん、皆さんに水着を選んで頂くためですわ!」
「……水着?」
そうして侍女が二人がかりで、クローゼットの大きな扉を開いていくと──
──その向こうは倉庫のように広いウォークインクローゼットになっていて、所狭しとカラフルな下着が吊されていました。
「おお! 用意してくれるとは聞いてたけど、こんなに!?」
それを見て、どうやら事前に知っていたらしいユイナスさんが感嘆の声を上げます。
「すごい! 最新トレンドの水着がこんなに! ちょっとは役に立つじゃないリリィ!」
「ちょっと、とはなんですかちょっととは! そもそもこの別荘地もわたしの敷地ですのよ!?」
「そうだったわね。苦しゅうないわよ、リリィ」
「なぜあなたが偉そうですの!?」
というか、ユイナスさんとリリィって、なんだか妙に仲良しなんですよね……
もちろん、貴族然としたリリィが、身分の分け隔てなくユイナスさんと仲良くするのはいいことなのですが……
だからユイナスさんに王女だとバレてしまったわたしだって、もっと仲良くできるはずなんですが……
なんだか微妙に、避けられているというか怯えられているというかで……くうぅ……なぜなのでしょう? リリィが羨ましいです……
わたしがちょっとしょげていると、ミアさんが言いました。
「も、もしかして……これを着て海に入るんですか……?」
ミアさんが手に取っているのは、素材が違うとはいえ見た目は下着同然です。驚くのも無理はない……というかわたしも驚いていますが……!?
だからわたしもリリィに言いました。
「リリィ、これはいったいなんなのですか?」
「あら? お姉様はご存じだと思っていたのですが」
「『水着』自体は知っています。実物も見せてもらったことがありますし」
「さすがですお姉様! さぞお忙しかったでしょうに、それでも流行の最先端を見逃さないとは!」
「流行はどうでもいいのですが、しかし、わたしが見たのは、もっと全身を布で覆っていましたよ?」
「全身を……? ああ、もしかしてそれは初期型なのでは?」
「初期型?」
「ええ。水着の初期型は、濡れても不快感の少ない『服』として作られましたが、今は用途が違います。つまり現在の水着とは──」
そしてリリィは、クローゼットの奥までズラリと並ぶ水着を指差して言いました。
「──意中のお相手を魅了するために着るのですわ!」
「はいぃ!?」「えぇ!?」
わたしとミアさん、二人の悲鳴が重なります!
ちなみにユイナスさんは、すでにクローゼットの中に入って、布切れ同然の水着をあれこれと選んでいました!
「ねぇリリィ~。これって試着できるの~?」
「えぇ、試着OKですわよ。そちらの侍女が手伝いますから」
そう言いながら、リリィもクローゼットの中に入っていきました。
そうしてわたしとミアさん、二人が取り残されて──
「ちょ、ちょっと待ちなさいリリィ!」
──わたしはリリィを呼び止めます。
「魅了するとはどういうことですか!?」
試着室を案内し終えたリリィが戻ってきて首を傾げます。
「えーっと、そのままの意味ですが……」
「どうしてわたしが、アルデを魅了しなくてはならないのですか!」
「いえ別に、アルデを魅了するとは一言も言ってませんが……」
「……!?」
二の句を継げなくなっていると、リリィが補足をしてきます。
「もちろん水着は、遊泳するにも適した素材と形状をしておりますわよ? むしろお姉様は、どうやって遊泳されるおつもりだったのですか?」
「え……?」
そう問われて、わたしは自分の思考を振り返り……
「そもそも、男性がいる前で遊泳なんて考えてませんでしたよ……!」
「海にきたのに? では何をなさるおつもりだったのです?」
「それは……特に考えてませんでしたが……例えば船で沖に出て釣りをするとか? 海を見ながら読書とか?」
「もちろん、釣りも読書も素晴らしいとは思いますが、海に来たのなら、やはり一度は泳がないと」
「そ、そうかもですが……!」
そもそもわたしは遊泳なんてしたことがありませんから、そんなことを言われたって困ります!
だいたい、アルデの前で肌を晒すなんて出来るわけないじゃないですか!? いつだったか晒した気がしなくもないのは気のせいです!!
頬が熱くなるのが分かったわたしは、アルデから思考を逸らすためにミアさんに話を振りました!
「ミ、ミアさんは、遊泳の経験はおありですか……!?」
「え、あ、はい……子供の頃に、水遊び程度ですが……」
「そのときは、どういう服装で泳いでいたのですか!?」
「その頃は子供でしたし、わたしたち平民が水着なんて買えませんから……その、下着のまま……」
「な、なるほど……」
確かに子供の頃なら、下着でも全然問題ないのでしょうけれども……
いや、だったらなおさら、大人になったというのに下着同然なのはやっぱり問題なのでは!?
「リ、リリィ……世の中の女性は、みんな、あんな布切れを付けて泳ぐのですか……?」
どうにも信じられなくて念押しで聞きますが、わたしに対してリリィが嘘をつくとも思えませんし……
案の定、リリィは頷いてきました。
「もちろんですわ。この手の水着が普及し始めたのはここ数年ですが、最近はどんどん布面積も小さくなって、今年はビキニというのが人気ですわね!」
「そそそ、そんなの本当に下着じゃないですか!?」
などと話していたら、向こうから、そのビキニを身につけたユイナスさんがやってきました!?
どう見ても、下着姿にしか見えません!
「どうよ、似合ってるでしょう?」
下着姿だというのに得意げにそう言ってくるユイナスさん!
そんな彼女に、リリィが至って真剣な顔で答えました!
「うーむ……ちょっとお胸が寂しいですわね」
「な、なにおう!?」
「あなたは美少女ですし、そういう需要もあるとは思いますが、ビキニを着るにはまだ発育が──」
「リリィだって似たようなもんじゃない!」
「なぜわたしのことを!? アドバイスを求めてきたのはあなたのほうでしょう!」
「こういうときは褒めてほしいから聞いてるのよ!」
などと言い合いが始まりました。
そ、それにしてもユイナスさん……大胆すぎじゃないでしょうか? 兄妹ということでアルデの視線は気にならないのかもしれませんが、ナーヴィンさんだっているというのに……
わたしが呆然としていると、ふと、ミアさんと目が合いました。
「ミ、ミアさん……どうされますか……?」
「そ、そうですね……」
「わたしは、とてもじゃないですが着られませんが……」
わたしたちが逡巡している間も、リリィとユイナスさんは、なんだかんだと仲良く水着選びを再開します。わたしはそれを呆然と見守るしかありません。
やがてユイナスさんの水着も絞り込まれたようです。ビキニなのに代わりはありませんが、胸元にフリルが多くあしらわれたものにするようです。
そのフリルを撫でながらリリィが説明しています。
「ほらこのようにフリル付きなら、ビキニでも胸の薄さがカバーできましてよ?」
「むぅ……でもやっぱりもっと見せた方が……」
「それに、このタイプなら寄せてあげられますから谷間も作れますわ」
「た、谷間! 分かった! このタイプから選ぶわ!」
そうしてユイナスさんは、数名の侍女を引き連れて再び試着室へと行きました。
「まったく手の掛かるコですわね。すみませんお姉様、お待たせ致しましたわ」
特に待っていないのですが、リリィが水着片手にやってきます。
「肌の露出が気になるようでしたら、ワンピースタイプやスカート付きもありますわよ。どうでしょう?」
そうしてリリィが、わたしたちにもいくつか水着を見せてくれるものの……
ワンピースといったって、洋服のそれとはまるで違い、ボディラインがクッキリはっきり出てしまいますし……
こ、これを来て、アルデの前に出るとか……
とてもじゃないけど無理すぎです!
「あ、あのリリィ? わたしはやっぱり──」
わたしが断ろうとしたのと同時、ミアさんと声が重なりました。
「わ、わたしはワンピースをお借りしてもいいでしょうか!?」
「ええ!?」
決死の覚悟を感じるミアさんのその発言に、わたしは思わず聞き返します!
「ほ、本気ですかミアさん!?」
するとミアさんは、真っ赤になりながらも頷きます。
「ほ、本気です……そもそも水着を着られるなんて、生涯で今だけかもしれませんし……」
「生涯で着なくてもいい服ですよ!?」
「だ、大丈夫です! 海にわたしたち以外いないのなら、数年経っても恥ずかしくて悶え死ヌ程度ですむと思います!」
「それはひじょーにマズイのでは!?」
わたしは必死でミアさんを止めるも、ミアさんの決意は固く、いくつかのワンピース水着を手渡されて試着室へと消えていきました……
「さぁて。いよいよお姉様だけですわね♪」
そうして、なんだかちょっと怪しげな笑みを浮かべながら、リリィが近づいてきます……!
「ちょ、リリィ? わたしに触れてはならないという約束を破ったら……」
「お姉様との約束をわたしが破るとでも?」
「あなた最近、しょっちゅう破っているでしょ!?」
「だぁいじょーぶですわよ。(残念ながら)お姉様の着衣を手伝うのは侍女の役目ですし」
「なぜ着ること前提なのですか!?」
そうしてわたしの悲鳴は、ドレッシングルームとクローゼット内にこだましたのでした……
そこでティスリは、守護の指輪(南国ver)を思い出し、忘れないうちにとポケットから取り出します。
「今回も、守護の指輪を渡しておきますね」
するとユイナスさんが、ちょっと顔を引きつらせました。
「こ、これ……無差別に爆殺するヤツじゃん……!」
不穏なその台詞に、ミアさんも驚いてわたしを見ます。
「ば、爆殺って……!?」
なのでわたしは慌てて首を横に振ります。
「ち、違いますよ! 元々無差別に爆殺したりなんてしませんが、ユイナスさんが怖いということだったので、その機能はギリギリまで発現しないようにしてありますから!」
わたしの説明に、しかしユイナスさんの視線から不信感が消えません。
「ギリギリってどんな状況よ?」
「例えば、刀剣を突き刺されそうになったり、弓矢が刺さりそうになったりしない限りは大丈夫ですよ」
「そもそも、そんな目に遭いたくないんだけど!?」
「もちろん、わたしもこのバカンスでそんな状況になるとは思っていませんが、万が一のためというか……いえそれ以上に、今回は水難事故防止の意味合いのほうが強いので……!」
海のレジャーは、時に危険なこともあります。潮の流れが急変したり、高波に攫われる可能性はゼロではありません。
そんな水難事故に遭ったとき、空気の結界を張り巡らせて事なきを得る魔法を付与したのです。さらに万が一にも漂流なんてしてしまったなら、救難信号が自動的に送信される機能も付けました。
そういう説明をしたら、ユイナスさんは渋々ながらに頷きます。
「確かに……水遊びは危険なこともあるから気をつけなさいと、お母さんも言ってたけど……」
「水難事故は、どんなに気をつけても毎年起きてしまっていると聞きますから。用心に越したことはありませんので」
「分かったわよ……この旅行中だけだからね」
ということでユイナスさんは指輪を受け取ってくれました。ミアさんも「ありがとうございます」といいながら受け取ります。
「リリィの指輪も、水難事故防止バージョンに交換してください」
「お姉様! わたしのために貴重な魔法を使ってくれたのですか!?」
「あなただけ事故に遭っては寝覚めが悪いでしょう?」
「いつ何時も、わたしのことを考えてくださっているのですね!」
「あなたのことだけを考えているわけではないですよ? これまでのやりとりで理解できないのですか……!?」
大喜びして抱きつこうとしてくるリリィを躱しながら、わたしはなんとか指輪を手渡します。まったく……あれほど身体的接触は禁止だと言っているのに……
わたしはため息をつきながら、残り二つの指輪を確認しました。あとでアルデとナーヴィンさんにも渡しておかないとと記憶に留めておきます。どうせアルデは指輪を忘れてきているでしょうし、バージョンアップもさせたのでアルデの分も作っておいたのです。
「さてと……それでどうして、わたしたちはドレッシングルームに来ているのですか?」
指輪を渡した後、わたしはその疑問を口にしました。
するとリリィが、胸を張ってクローゼットに手を向けました。
「それはもちろん、皆さんに水着を選んで頂くためですわ!」
「……水着?」
そうして侍女が二人がかりで、クローゼットの大きな扉を開いていくと──
──その向こうは倉庫のように広いウォークインクローゼットになっていて、所狭しとカラフルな下着が吊されていました。
「おお! 用意してくれるとは聞いてたけど、こんなに!?」
それを見て、どうやら事前に知っていたらしいユイナスさんが感嘆の声を上げます。
「すごい! 最新トレンドの水着がこんなに! ちょっとは役に立つじゃないリリィ!」
「ちょっと、とはなんですかちょっととは! そもそもこの別荘地もわたしの敷地ですのよ!?」
「そうだったわね。苦しゅうないわよ、リリィ」
「なぜあなたが偉そうですの!?」
というか、ユイナスさんとリリィって、なんだか妙に仲良しなんですよね……
もちろん、貴族然としたリリィが、身分の分け隔てなくユイナスさんと仲良くするのはいいことなのですが……
だからユイナスさんに王女だとバレてしまったわたしだって、もっと仲良くできるはずなんですが……
なんだか微妙に、避けられているというか怯えられているというかで……くうぅ……なぜなのでしょう? リリィが羨ましいです……
わたしがちょっとしょげていると、ミアさんが言いました。
「も、もしかして……これを着て海に入るんですか……?」
ミアさんが手に取っているのは、素材が違うとはいえ見た目は下着同然です。驚くのも無理はない……というかわたしも驚いていますが……!?
だからわたしもリリィに言いました。
「リリィ、これはいったいなんなのですか?」
「あら? お姉様はご存じだと思っていたのですが」
「『水着』自体は知っています。実物も見せてもらったことがありますし」
「さすがですお姉様! さぞお忙しかったでしょうに、それでも流行の最先端を見逃さないとは!」
「流行はどうでもいいのですが、しかし、わたしが見たのは、もっと全身を布で覆っていましたよ?」
「全身を……? ああ、もしかしてそれは初期型なのでは?」
「初期型?」
「ええ。水着の初期型は、濡れても不快感の少ない『服』として作られましたが、今は用途が違います。つまり現在の水着とは──」
そしてリリィは、クローゼットの奥までズラリと並ぶ水着を指差して言いました。
「──意中のお相手を魅了するために着るのですわ!」
「はいぃ!?」「えぇ!?」
わたしとミアさん、二人の悲鳴が重なります!
ちなみにユイナスさんは、すでにクローゼットの中に入って、布切れ同然の水着をあれこれと選んでいました!
「ねぇリリィ~。これって試着できるの~?」
「えぇ、試着OKですわよ。そちらの侍女が手伝いますから」
そう言いながら、リリィもクローゼットの中に入っていきました。
そうしてわたしとミアさん、二人が取り残されて──
「ちょ、ちょっと待ちなさいリリィ!」
──わたしはリリィを呼び止めます。
「魅了するとはどういうことですか!?」
試着室を案内し終えたリリィが戻ってきて首を傾げます。
「えーっと、そのままの意味ですが……」
「どうしてわたしが、アルデを魅了しなくてはならないのですか!」
「いえ別に、アルデを魅了するとは一言も言ってませんが……」
「……!?」
二の句を継げなくなっていると、リリィが補足をしてきます。
「もちろん水着は、遊泳するにも適した素材と形状をしておりますわよ? むしろお姉様は、どうやって遊泳されるおつもりだったのですか?」
「え……?」
そう問われて、わたしは自分の思考を振り返り……
「そもそも、男性がいる前で遊泳なんて考えてませんでしたよ……!」
「海にきたのに? では何をなさるおつもりだったのです?」
「それは……特に考えてませんでしたが……例えば船で沖に出て釣りをするとか? 海を見ながら読書とか?」
「もちろん、釣りも読書も素晴らしいとは思いますが、海に来たのなら、やはり一度は泳がないと」
「そ、そうかもですが……!」
そもそもわたしは遊泳なんてしたことがありませんから、そんなことを言われたって困ります!
だいたい、アルデの前で肌を晒すなんて出来るわけないじゃないですか!? いつだったか晒した気がしなくもないのは気のせいです!!
頬が熱くなるのが分かったわたしは、アルデから思考を逸らすためにミアさんに話を振りました!
「ミ、ミアさんは、遊泳の経験はおありですか……!?」
「え、あ、はい……子供の頃に、水遊び程度ですが……」
「そのときは、どういう服装で泳いでいたのですか!?」
「その頃は子供でしたし、わたしたち平民が水着なんて買えませんから……その、下着のまま……」
「な、なるほど……」
確かに子供の頃なら、下着でも全然問題ないのでしょうけれども……
いや、だったらなおさら、大人になったというのに下着同然なのはやっぱり問題なのでは!?
「リ、リリィ……世の中の女性は、みんな、あんな布切れを付けて泳ぐのですか……?」
どうにも信じられなくて念押しで聞きますが、わたしに対してリリィが嘘をつくとも思えませんし……
案の定、リリィは頷いてきました。
「もちろんですわ。この手の水着が普及し始めたのはここ数年ですが、最近はどんどん布面積も小さくなって、今年はビキニというのが人気ですわね!」
「そそそ、そんなの本当に下着じゃないですか!?」
などと話していたら、向こうから、そのビキニを身につけたユイナスさんがやってきました!?
どう見ても、下着姿にしか見えません!
「どうよ、似合ってるでしょう?」
下着姿だというのに得意げにそう言ってくるユイナスさん!
そんな彼女に、リリィが至って真剣な顔で答えました!
「うーむ……ちょっとお胸が寂しいですわね」
「な、なにおう!?」
「あなたは美少女ですし、そういう需要もあるとは思いますが、ビキニを着るにはまだ発育が──」
「リリィだって似たようなもんじゃない!」
「なぜわたしのことを!? アドバイスを求めてきたのはあなたのほうでしょう!」
「こういうときは褒めてほしいから聞いてるのよ!」
などと言い合いが始まりました。
そ、それにしてもユイナスさん……大胆すぎじゃないでしょうか? 兄妹ということでアルデの視線は気にならないのかもしれませんが、ナーヴィンさんだっているというのに……
わたしが呆然としていると、ふと、ミアさんと目が合いました。
「ミ、ミアさん……どうされますか……?」
「そ、そうですね……」
「わたしは、とてもじゃないですが着られませんが……」
わたしたちが逡巡している間も、リリィとユイナスさんは、なんだかんだと仲良く水着選びを再開します。わたしはそれを呆然と見守るしかありません。
やがてユイナスさんの水着も絞り込まれたようです。ビキニなのに代わりはありませんが、胸元にフリルが多くあしらわれたものにするようです。
そのフリルを撫でながらリリィが説明しています。
「ほらこのようにフリル付きなら、ビキニでも胸の薄さがカバーできましてよ?」
「むぅ……でもやっぱりもっと見せた方が……」
「それに、このタイプなら寄せてあげられますから谷間も作れますわ」
「た、谷間! 分かった! このタイプから選ぶわ!」
そうしてユイナスさんは、数名の侍女を引き連れて再び試着室へと行きました。
「まったく手の掛かるコですわね。すみませんお姉様、お待たせ致しましたわ」
特に待っていないのですが、リリィが水着片手にやってきます。
「肌の露出が気になるようでしたら、ワンピースタイプやスカート付きもありますわよ。どうでしょう?」
そうしてリリィが、わたしたちにもいくつか水着を見せてくれるものの……
ワンピースといったって、洋服のそれとはまるで違い、ボディラインがクッキリはっきり出てしまいますし……
こ、これを来て、アルデの前に出るとか……
とてもじゃないけど無理すぎです!
「あ、あのリリィ? わたしはやっぱり──」
わたしが断ろうとしたのと同時、ミアさんと声が重なりました。
「わ、わたしはワンピースをお借りしてもいいでしょうか!?」
「ええ!?」
決死の覚悟を感じるミアさんのその発言に、わたしは思わず聞き返します!
「ほ、本気ですかミアさん!?」
するとミアさんは、真っ赤になりながらも頷きます。
「ほ、本気です……そもそも水着を着られるなんて、生涯で今だけかもしれませんし……」
「生涯で着なくてもいい服ですよ!?」
「だ、大丈夫です! 海にわたしたち以外いないのなら、数年経っても恥ずかしくて悶え死ヌ程度ですむと思います!」
「それはひじょーにマズイのでは!?」
わたしは必死でミアさんを止めるも、ミアさんの決意は固く、いくつかのワンピース水着を手渡されて試着室へと消えていきました……
「さぁて。いよいよお姉様だけですわね♪」
そうして、なんだかちょっと怪しげな笑みを浮かべながら、リリィが近づいてきます……!
「ちょ、リリィ? わたしに触れてはならないという約束を破ったら……」
「お姉様との約束をわたしが破るとでも?」
「あなた最近、しょっちゅう破っているでしょ!?」
「だぁいじょーぶですわよ。(残念ながら)お姉様の着衣を手伝うのは侍女の役目ですし」
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そうしてわたしの悲鳴は、ドレッシングルームとクローゼット内にこだましたのでした……
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