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第4章
第17話 憲兵を爆殺(瀕死)
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地方貴族を締め上げたその翌日、アルデ達は、宿屋の食堂で朝食を取っていた。
本来なら、街の宿屋なんかに、ティスリやリリィが泊まるはずもないのだが、この街でいちばん上等なのがここだったから致し方ない。
こんな田舎街では、王女や大貴族が訪問してくるなんて想定はされていないし、万が一にでも来てしまったのなら、貴族の屋敷に泊まるのが普通だからな。
しかし締め上げたばかりの貴族んちに泊まるのも気まずいわけで。いやまぁティスリとリリィは気にしなさそうだけど、少なくともオレは嫌だぞ。
というわけで街の宿屋に宿泊している。
この旅で、こういう宿屋にティスリは慣れていたが、リリィのほうはだいぶおかんむりではあった。しかしティスリの「なら、あなただけ出て行けばいいでしょう?」という冷たい一言で、涙目になって宿泊を決めていた。
そんなやりとりがあった後の宿泊だったのだが、その後は、特に問題になることもなく一泊できたというわけだ。
「そう言えば、ナーヴィンさんはどうされたんですか?」
サラダをつまんでからティスリがそんなことを言ってくる。朝食のテーブルを囲んでいるのは、ティスリ、リリィ、ユイナス、そしてオレの四人だから気になったのだろう。
そんなティスリにオレが答えた。
「ああ、昨日はけっこう呑んでたからな。たぶん二日酔いだろう」
みんなで夕食を取った後、男二人で飲みに行くことはティスリにも伝えていたので、それを思い出したティスリは「ああ」と言いながら頷く。
「なるほど。二日酔いはツラいですからね……」
自身のことを思い出したらしいティスリは、妙にしみじみしながらも聞いてきた。
「それで昨夜は、ナーヴィンさんの説得はできたのですか?」
女性陣もいる中で、男二人だけで夜に飲みに行くとなれば、妙な勘ぐりをされかねないと思ったオレは(というか実際、ナーヴィンは夜の街に行ったわけだし)、その理由をティスリに伝えていた。
つまり、ナーヴィンがティスリの元で働きたがっているから駄目だと説得してくる、と。
ティスリとしても、ナーヴィンを雇用することは考えていないわけなので、だからオレは怪しまれることなく送り出されたわけだが……
「いや、駄目だった。アイツ、メチャクチャ頑固な性格だからな」
「そうですか……それは困りましたね……」
そういってティスリは小さなため息をつく。しかし口では「困った」と言っているが、大して気にしていない感じでもあった。
ティスリからしたら、募集もしていない求人にナーヴィンがエントリーしてきたところで、「無理ですごめんなさい不採用。貴殿の活躍を祈っています」と告げれば済む話だから、大した問題ではないんだろうけどな。
そもそもオレも、そこまで問題視しているわけでもないのだが、事ある毎にナーヴィンの愚痴を聞かされるのは面倒なのだ。だから早めに諦めてほしいんだが……
と、そこにユイナスが口を挟んでくる。
「別にいいじゃない、雇ってあげれば」
思いがけないことを言ってくるユイナスに、オレは眉をひそめた。
「はぁ? 何言ってんだお前は」
「従者の一人や二人増えたって、ティスリの財力なら問題ないでしょ」
「そりゃそうだけど、雇ったってやる仕事がないだろ」
「だからいいじゃない、別に。無能な人間がいたって、ティスリの能力ならやっぱり問題ないでしょ」
「いや、問題ありまくりなんだよ」
とにかく、ティスリの回りは意外と危険が多いのだ。領都でだってグレナダ兄妹が攫われたし……ってあれはティスリのせいじゃないか。でもそこに首を突っ込むのはティスリなわけで。
守護の指輪があるとはいえ、何かの拍子で付け忘れる可能性だってある。現に、オレは実家に忘れて付けてないし。
というわけでナーヴィンを旅に連れて行くわけにはいかないのだ。
なんか釈然としないからとか、妙に腹立たしいからとか、そういう主観的な理由じゃないのだ、うん!
というわけで、きちんとした問題点をユイナスに説明しようとしたら、リリィが身を乗り出してきた。
「ならばわたしも、お姉様の従者に雇ってくださいまし!」
何が『ならば』なのかさっぱり分からない理論展開に、ティスリは冷静に──
「無理ですごめんなさい不採用。貴殿の活躍を祈っています」
──取り付く島もなかった。
「な、なぜですのお姉様!? わたし、お姉様のためなら粉骨砕身で働く所存! なんでもやりますわよ!」
「ならば今すぐ王都に帰って、今回のような貴族達を洗いざらい調べ上げ、しかるべき処置を執ってください。それが仕事内容です」
「そ、それではお姉様のお供ができませんわ!?」
「ということは『なんでもやる』といったのは嘘だったわけですね。嘘をつく人間なんて信じられません。不採用」
「そそそ、そんな!?」
などとしょーもないやりとりが始まっていた。
ふむ……でもまぁ、そういう手はあるな。
どういう手かというと、ティスリのコネでもって、ティスリの側じゃない場所にナーヴィンを就職させるという手だ。ティスリに同行さえしなければ危険はないわけだし。
ティスリは、魔動車の商会と懇意にしているというか、あの商会はティスリのものなのか? その辺は詳しく聞いてないが、だが少なくとも、ナーヴィン一人をどこかの商会にねじ込むことくらいは可能だろう。
もともと、アイツの目的は『女子全員に総スカンを食らっている村を出て、嫁さんを捜す』ことだったんだから、どこかの街で働けるなら、渋々ながらも応じるかもしれない。
そもそもティスリが高嶺の花過ぎることは、ナーヴィンだって分かってきただろうし。
ということでオレは、そのことをティスリに聞こうとした、そのタイミングで──
──バタン!
食堂の出入口が乱暴に開かれた。
「なんだ?」
オレは出入口に視線を送ると、そこには数人の憲兵が立っていた。
その憲兵が、居丈高に声を上げる。
「この中に、ナーヴィン・ベレルクはいるか!」
なぜ憲兵がナーヴィンの名前を知っているのかが分からず、オレは思わずティスリを見る。
だが、さすがのティスリも眉をひそめているだけだ。事態を把握し切れていないらしい。
オレたちがそんな目配せをしていたら、宿屋の主人が入ってきた。
「な、何事でございましょうか、憲兵様」
「ナーヴィン・ベレルクという男を捜している。この中にいるか?」
「え、ええっと……宿泊台帳を見れば分かるかと……」
「ならばすぐに確認しろ。昨晩、路上強盗をした犯罪者だ!」
……はぁ?
まったく思いがけぬ話が飛び出してきて、オレは目を丸くする。
ビビりで貧弱なナーヴィンが、強盗なんてできるはずがない。女性や子供相手でも返り討ちにあいかねない体力なんだぞ?
だからオレは再びティスリを見ると──ティスリは呆れ返った表情になって「なるほど……そういうことですか」とつぶやいていた。
どうやら憲兵の一言で、事と次第を把握したらしい。
「なぁティスリ、これってどういう──」
オレがティスリに話しかけようとしたそのとき、廊下から、男の悲鳴が聞こえてきた。ナーヴィンだ。
「だ、だからなんだよお前達!? なんでオレを──」
ボンボン、ボボン!
「キ、キサマ!? 抵抗したな!?」
「憲兵に手を上げるなど即刻処刑だぞ!」
「しょ、処刑!? オレは何もしていな──」
ボボン! ボンボン!!
「コ、コイツ! 魔法士か!?」
「くそ! そんなの聞いてないぞ!?」
「オ、オレは何もやってねぇ! おまえらが勝手に自爆──」
ボン! ボボンボン!!
「………………」
「………………」
「お、お~い……憲兵の皆さ~ん? 無事……じゃねぇよな?」
こうして………………廊下は静まり返った。
おそらくは、店主が調べるのを待たず、ナーヴィンを見つけた憲兵が捕まえようとしたんだろうが……
「なぁ……ティスリ。お前が作った指輪が、無差別に爆発したんじゃないか、アレ……」
「失礼な。守護の指輪は無差別爆発なんて発現しませんよ」
そうしてティスリは、涼しい顔で言ってくる。
「想定通りに爆発しているのだから狙い通りです。ならば問題ないでしょう?」
う、う~ん……
憲兵を爆殺(瀕死)したら、普通なら絶対に大問題、というより人生終了なんだが……
ティスリの周囲はやっぱり危険がいっぱいだ──などと、オレはまた一つ、ナーヴィンへの説得材料を手に入れるのだった。
本来なら、街の宿屋なんかに、ティスリやリリィが泊まるはずもないのだが、この街でいちばん上等なのがここだったから致し方ない。
こんな田舎街では、王女や大貴族が訪問してくるなんて想定はされていないし、万が一にでも来てしまったのなら、貴族の屋敷に泊まるのが普通だからな。
しかし締め上げたばかりの貴族んちに泊まるのも気まずいわけで。いやまぁティスリとリリィは気にしなさそうだけど、少なくともオレは嫌だぞ。
というわけで街の宿屋に宿泊している。
この旅で、こういう宿屋にティスリは慣れていたが、リリィのほうはだいぶおかんむりではあった。しかしティスリの「なら、あなただけ出て行けばいいでしょう?」という冷たい一言で、涙目になって宿泊を決めていた。
そんなやりとりがあった後の宿泊だったのだが、その後は、特に問題になることもなく一泊できたというわけだ。
「そう言えば、ナーヴィンさんはどうされたんですか?」
サラダをつまんでからティスリがそんなことを言ってくる。朝食のテーブルを囲んでいるのは、ティスリ、リリィ、ユイナス、そしてオレの四人だから気になったのだろう。
そんなティスリにオレが答えた。
「ああ、昨日はけっこう呑んでたからな。たぶん二日酔いだろう」
みんなで夕食を取った後、男二人で飲みに行くことはティスリにも伝えていたので、それを思い出したティスリは「ああ」と言いながら頷く。
「なるほど。二日酔いはツラいですからね……」
自身のことを思い出したらしいティスリは、妙にしみじみしながらも聞いてきた。
「それで昨夜は、ナーヴィンさんの説得はできたのですか?」
女性陣もいる中で、男二人だけで夜に飲みに行くとなれば、妙な勘ぐりをされかねないと思ったオレは(というか実際、ナーヴィンは夜の街に行ったわけだし)、その理由をティスリに伝えていた。
つまり、ナーヴィンがティスリの元で働きたがっているから駄目だと説得してくる、と。
ティスリとしても、ナーヴィンを雇用することは考えていないわけなので、だからオレは怪しまれることなく送り出されたわけだが……
「いや、駄目だった。アイツ、メチャクチャ頑固な性格だからな」
「そうですか……それは困りましたね……」
そういってティスリは小さなため息をつく。しかし口では「困った」と言っているが、大して気にしていない感じでもあった。
ティスリからしたら、募集もしていない求人にナーヴィンがエントリーしてきたところで、「無理ですごめんなさい不採用。貴殿の活躍を祈っています」と告げれば済む話だから、大した問題ではないんだろうけどな。
そもそもオレも、そこまで問題視しているわけでもないのだが、事ある毎にナーヴィンの愚痴を聞かされるのは面倒なのだ。だから早めに諦めてほしいんだが……
と、そこにユイナスが口を挟んでくる。
「別にいいじゃない、雇ってあげれば」
思いがけないことを言ってくるユイナスに、オレは眉をひそめた。
「はぁ? 何言ってんだお前は」
「従者の一人や二人増えたって、ティスリの財力なら問題ないでしょ」
「そりゃそうだけど、雇ったってやる仕事がないだろ」
「だからいいじゃない、別に。無能な人間がいたって、ティスリの能力ならやっぱり問題ないでしょ」
「いや、問題ありまくりなんだよ」
とにかく、ティスリの回りは意外と危険が多いのだ。領都でだってグレナダ兄妹が攫われたし……ってあれはティスリのせいじゃないか。でもそこに首を突っ込むのはティスリなわけで。
守護の指輪があるとはいえ、何かの拍子で付け忘れる可能性だってある。現に、オレは実家に忘れて付けてないし。
というわけでナーヴィンを旅に連れて行くわけにはいかないのだ。
なんか釈然としないからとか、妙に腹立たしいからとか、そういう主観的な理由じゃないのだ、うん!
というわけで、きちんとした問題点をユイナスに説明しようとしたら、リリィが身を乗り出してきた。
「ならばわたしも、お姉様の従者に雇ってくださいまし!」
何が『ならば』なのかさっぱり分からない理論展開に、ティスリは冷静に──
「無理ですごめんなさい不採用。貴殿の活躍を祈っています」
──取り付く島もなかった。
「な、なぜですのお姉様!? わたし、お姉様のためなら粉骨砕身で働く所存! なんでもやりますわよ!」
「ならば今すぐ王都に帰って、今回のような貴族達を洗いざらい調べ上げ、しかるべき処置を執ってください。それが仕事内容です」
「そ、それではお姉様のお供ができませんわ!?」
「ということは『なんでもやる』といったのは嘘だったわけですね。嘘をつく人間なんて信じられません。不採用」
「そそそ、そんな!?」
などとしょーもないやりとりが始まっていた。
ふむ……でもまぁ、そういう手はあるな。
どういう手かというと、ティスリのコネでもって、ティスリの側じゃない場所にナーヴィンを就職させるという手だ。ティスリに同行さえしなければ危険はないわけだし。
ティスリは、魔動車の商会と懇意にしているというか、あの商会はティスリのものなのか? その辺は詳しく聞いてないが、だが少なくとも、ナーヴィン一人をどこかの商会にねじ込むことくらいは可能だろう。
もともと、アイツの目的は『女子全員に総スカンを食らっている村を出て、嫁さんを捜す』ことだったんだから、どこかの街で働けるなら、渋々ながらも応じるかもしれない。
そもそもティスリが高嶺の花過ぎることは、ナーヴィンだって分かってきただろうし。
ということでオレは、そのことをティスリに聞こうとした、そのタイミングで──
──バタン!
食堂の出入口が乱暴に開かれた。
「なんだ?」
オレは出入口に視線を送ると、そこには数人の憲兵が立っていた。
その憲兵が、居丈高に声を上げる。
「この中に、ナーヴィン・ベレルクはいるか!」
なぜ憲兵がナーヴィンの名前を知っているのかが分からず、オレは思わずティスリを見る。
だが、さすがのティスリも眉をひそめているだけだ。事態を把握し切れていないらしい。
オレたちがそんな目配せをしていたら、宿屋の主人が入ってきた。
「な、何事でございましょうか、憲兵様」
「ナーヴィン・ベレルクという男を捜している。この中にいるか?」
「え、ええっと……宿泊台帳を見れば分かるかと……」
「ならばすぐに確認しろ。昨晩、路上強盗をした犯罪者だ!」
……はぁ?
まったく思いがけぬ話が飛び出してきて、オレは目を丸くする。
ビビりで貧弱なナーヴィンが、強盗なんてできるはずがない。女性や子供相手でも返り討ちにあいかねない体力なんだぞ?
だからオレは再びティスリを見ると──ティスリは呆れ返った表情になって「なるほど……そういうことですか」とつぶやいていた。
どうやら憲兵の一言で、事と次第を把握したらしい。
「なぁティスリ、これってどういう──」
オレがティスリに話しかけようとしたそのとき、廊下から、男の悲鳴が聞こえてきた。ナーヴィンだ。
「だ、だからなんだよお前達!? なんでオレを──」
ボンボン、ボボン!
「キ、キサマ!? 抵抗したな!?」
「憲兵に手を上げるなど即刻処刑だぞ!」
「しょ、処刑!? オレは何もしていな──」
ボボン! ボンボン!!
「コ、コイツ! 魔法士か!?」
「くそ! そんなの聞いてないぞ!?」
「オ、オレは何もやってねぇ! おまえらが勝手に自爆──」
ボン! ボボンボン!!
「………………」
「………………」
「お、お~い……憲兵の皆さ~ん? 無事……じゃねぇよな?」
こうして………………廊下は静まり返った。
おそらくは、店主が調べるのを待たず、ナーヴィンを見つけた憲兵が捕まえようとしたんだろうが……
「なぁ……ティスリ。お前が作った指輪が、無差別に爆発したんじゃないか、アレ……」
「失礼な。守護の指輪は無差別爆発なんて発現しませんよ」
そうしてティスリは、涼しい顔で言ってくる。
「想定通りに爆発しているのだから狙い通りです。ならば問題ないでしょう?」
う、う~ん……
憲兵を爆殺(瀕死)したら、普通なら絶対に大問題、というより人生終了なんだが……
ティスリの周囲はやっぱり危険がいっぱいだ──などと、オレはまた一つ、ナーヴィンへの説得材料を手に入れるのだった。
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