孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
139 / 245
第4章

第17話 憲兵を爆殺(瀕死)

しおりを挟む
 地方貴族を締め上げたその翌日、アルデオレ達は、宿屋の食堂で朝食を取っていた。

 本来なら、街の宿屋なんかに、ティスリやリリィが泊まるはずもないのだが、この街でいちばん上等なのがここだったから致し方ない。

 こんな田舎街では、王女や大貴族が訪問してくるなんて想定はされていないし、万が一にでも来てしまったのなら、貴族の屋敷に泊まるのが普通だからな。

 しかし締め上げたばかりの貴族んちに泊まるのも気まずいわけで。いやまぁティスリとリリィは気にしなさそうだけど、少なくともオレは嫌だぞ。

 というわけで街の宿屋に宿泊している。

 この旅で、こういう宿屋にティスリは慣れていたが、リリィのほうはだいぶおかんむりではあった。しかしティスリの「なら、あなただけ出て行けばいいでしょう?」という冷たい一言で、涙目になって宿泊を決めていた。

 そんなやりとりがあった後の宿泊だったのだが、その後は、特に問題になることもなく一泊できたというわけだ。

「そう言えば、ナーヴィンさんはどうされたんですか?」

 サラダをつまんでからティスリがそんなことを言ってくる。朝食のテーブルを囲んでいるのは、ティスリ、リリィ、ユイナス、そしてオレの四人だから気になったのだろう。

 そんなティスリにオレが答えた。

「ああ、昨日はけっこう呑んでたからな。たぶん二日酔いだろう」

 みんなで夕食を取った後、男二人で飲みに行くことはティスリにも伝えていたので、それを思い出したティスリは「ああ」と言いながら頷く。

「なるほど。二日酔いはツラいですからね……」

 自身のことを思い出したらしいティスリは、妙にしみじみしながらも聞いてきた。

「それで昨夜は、ナーヴィンさんの説得はできたのですか?」

 女性陣もいる中で、男二人だけで夜に飲みに行くとなれば、妙な勘ぐり、、、、、をされかねないと思ったオレは(というか実際、ナーヴィンは夜の街に行ったわけだし)、その理由をティスリに伝えていた。

 つまり、ナーヴィンがティスリの元で働きたがっているから駄目だと説得してくる、と。

 ティスリとしても、ナーヴィンを雇用することは考えていないわけなので、だからオレは怪しまれることなく送り出されたわけだが……

「いや、駄目だった。アイツ、メチャクチャ頑固な性格だからな」

「そうですか……それは困りましたね……」

 そういってティスリは小さなため息をつく。しかし口では「困った」と言っているが、大して気にしていない感じでもあった。

 ティスリからしたら、募集もしていない求人にナーヴィンがエントリーしてきたところで、「無理ですごめんなさい不採用。貴殿の活躍を祈っています」と告げれば済む話だから、大した問題ではないんだろうけどな。

 そもそもオレも、そこまで問題視しているわけでもないのだが、事ある毎にナーヴィンの愚痴を聞かされるのは面倒なのだ。だから早めに諦めてほしいんだが……

 と、そこにユイナスが口を挟んでくる。

「別にいいじゃない、雇ってあげれば」

 思いがけないことを言ってくるユイナスに、オレは眉をひそめた。

「はぁ? 何言ってんだお前は」

「従者の一人や二人増えたって、ティスリの財力なら問題ないでしょ」

「そりゃそうだけど、雇ったってやる仕事がないだろ」

「だからいいじゃない、別に。無能な人間がいたって、ティスリの能力ならやっぱり問題ないでしょ」

「いや、問題ありまくりなんだよ」

 とにかく、ティスリの回りは意外と危険が多いのだ。領都でだってグレナダ兄妹が攫われたし……ってあれはティスリのせいじゃないか。でもそこに首を突っ込むのはティスリなわけで。

 守護の指輪があるとはいえ、何かの拍子で付け忘れる可能性だってある。現に、オレは実家に忘れて付けてないし。

 というわけでナーヴィンを旅に連れて行くわけにはいかないのだ。

 なんか釈然としないからとか、妙に腹立たしいからとか、そういう主観的な理由じゃないのだ、うん!

 というわけで、きちんとした問題点をユイナスに説明しようとしたら、リリィが身を乗り出してきた。

「ならばわたしも、お姉様の従者に雇ってくださいまし!」

 何が『ならば』なのかさっぱり分からない理論展開に、ティスリは冷静に──

「無理ですごめんなさい不採用。貴殿の活躍を祈っています」

 ──取り付く島もなかった。

「な、なぜですのお姉様!? わたし、お姉様のためなら粉骨砕身で働く所存! なんでもやりますわよ!」

「ならば今すぐ王都に帰って、今回のような貴族達を洗いざらい調べ上げ、しかるべき処置を執ってください。それが仕事内容です」

「そ、それではお姉様のお供ができませんわ!?」

「ということは『なんでもやる』といったのは嘘だったわけですね。嘘をつく人間なんて信じられません。不採用」

「そそそ、そんな!?」

 などとしょーもないやりとりが始まっていた。

 ふむ……でもまぁ、そういう手はあるな。

 どういう手かというと、ティスリのコネでもって、ティスリのそばじゃない場所にナーヴィンを就職させるという手だ。ティスリに同行さえしなければ危険はないわけだし。

 ティスリは、魔動車の商会と懇意にしているというか、あの商会はティスリのものなのか? その辺は詳しく聞いてないが、だが少なくとも、ナーヴィン一人をどこかの商会にねじ込むことくらいは可能だろう。

 もともと、アイツの目的は『女子全員に総スカンを食らっている村を出て、嫁さんを捜す』ことだったんだから、どこかの街で働けるなら、渋々ながらも応じるかもしれない。

 そもそもティスリが高嶺の花過ぎることは、ナーヴィンだって分かってきただろうし。

 ということでオレは、そのことをティスリに聞こうとした、そのタイミングで──

 ──バタン!

 食堂の出入口が乱暴に開かれた。

「なんだ?」

 オレは出入口に視線を送ると、そこには数人の憲兵が立っていた。

 その憲兵が、居丈高に声を上げる。

「この中に、ナーヴィン・ベレルクはいるか!」

 なぜ憲兵がナーヴィンの名前を知っているのかが分からず、オレは思わずティスリを見る。

 だが、さすがのティスリも眉をひそめているだけだ。事態を把握し切れていないらしい。

 オレたちがそんな目配せをしていたら、宿屋の主人が入ってきた。

「な、何事でございましょうか、憲兵様」

「ナーヴィン・ベレルクという男を捜している。この中にいるか?」

「え、ええっと……宿泊台帳を見れば分かるかと……」

「ならばすぐに確認しろ。昨晩、路上強盗をした犯罪者だ!」

 ……はぁ?

 まったく思いがけぬ話が飛び出してきて、オレは目を丸くする。

 ビビりで貧弱なナーヴィンが、強盗なんてできるはずがない。女性や子供相手でも返り討ちにあいかねない体力なんだぞ?

 だからオレは再びティスリを見ると──ティスリは呆れ返った表情になって「なるほど……そういうことですか」とつぶやいていた。

 どうやら憲兵の一言で、事と次第を把握したらしい。

「なぁティスリ、これってどういう──」

 オレがティスリに話しかけようとしたそのとき、廊下から、男の悲鳴が聞こえてきた。ナーヴィンだ。

「だ、だからなんだよお前達!? なんでオレを──」

 ボンボン、ボボン!

「キ、キサマ!? 抵抗したな!?」

「憲兵に手を上げるなど即刻処刑だぞ!」

「しょ、処刑!? オレは何もしていな──」

 ボボン! ボンボン!!

「コ、コイツ! 魔法士か!?」

「くそ! そんなの聞いてないぞ!?」

「オ、オレは何もやってねぇ! おまえらが勝手に自爆──」

 ボン! ボボンボン!!

「………………」

「………………」

「お、お~い……憲兵の皆さ~ん? 無事……じゃねぇよな?」

 こうして………………廊下は静まり返った。

 おそらくは、店主が調べるのを待たず、ナーヴィンを見つけた憲兵が捕まえようとしたんだろうが……

「なぁ……ティスリ。お前が作った指輪が、無差別に爆発したんじゃないか、アレ……」

「失礼な。守護の指輪は無差別爆発なんて発現しませんよ」

 そうしてティスリは、涼しい顔で言ってくる。

「想定通りに爆発しているのだから狙い通りです。ならば問題ないでしょう?」

 う、う~ん……

 憲兵を爆殺(瀕死)したら、普通なら絶対に大問題、というより人生終了なんだが……

 ティスリの周囲はやっぱり危険がいっぱいだ──などと、オレはまた一つ、ナーヴィンへの説得材料を手に入れるのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...