孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
133 / 245
第4章

第11話 頭が悪いから天才のティスリに教わるんだよ!

しおりを挟む
 魔動車で二時間ほど走り、ティスリわたし達はこの地域──『郡』を管轄する郡庁前へと到着しました。

 カルヴァン王国の行政区分は、大別すると二つに分かれます。王族が直轄する『天領』と、中央貴族が治める『領』です。ですが現代においては、カルヴァン王家はわたし──は抜けたのでアジノス陛下しかいませんから、天領も、テレジア家のような大貴族に委任している状態です。よって『領』に関しては実質一種類と言ってもいいでしょう。

 その『領』内にも行政区分がありますが、やはり二つに分かれます。それが『』と『ぐん』です。

 『都』には、領都と、領都に匹敵する規模の街が包括されます。そうして『都』は中央貴族が治めます。王都に住むから中央貴族というわけではなく、この『都』を管理する存在が中央貴族と呼ばれるわけです。

 対して『郡』は地方貴族が治めます。『郡』の中には市町村というさらに細かな行政区分がありますが、市町村については、地方貴族が治めたり、住民代表が取りまとめたりと人手に応じてまちまちです。

 そんな行政区分について、主にアルデに向けてわたしは説明していました。郡庁前広場で。

「例えばあなたの地元は、農村ですから土地が広い割に人口が少ないので、地方貴族だけでは手が回らず、取りまとめを住民に委任しているわけです」

「ははぁ……だからミアんちが村長をやっているわけか」

「ええ、そういうことです」

「ということは、これからオレたちが殴り込むのはどっちの貴族なんだ?」

「殴り込みなんてしませんし、どちらの貴族なのかはいま説明したでしょう?」

「え? 説明されたっけ……?」

 アルデはポカンとした表情をナーヴィンさんに向けると、彼はちょっと戸惑いつつも言いました。

「えーっと……だからほら、あれだ。オレたちがこれから行くのは郡庁なわけだから、つまりはそういうことだよ!」

「どういうことだよ?」

 どうやら二人とも分かっていないようです。

「あなた達は学校を卒業したのですよね? これは初等部で習う知識ですよ?」

 わたしがそういうと、アルデは頬を掻きながら視線を逸らします。

「あー……そんなことを習った気もするが、普段は使わない知識だと忘れるもんなんだ」

「アルデは特に、つい最近まで衛士をやっていたでしょう? 国の中枢にいて行政区分の知識を使わないわけないと思いますが」

「え、えっと……衛士は城を守るのが主任務だし? つまり城を守っていればいいわけだし? だから行政区分なんて使わないのさ!」

「はぁ……やはりアルデには、これから、一般教養をみっちり教える必要がありますね」

「みっちりとは!?」

 アルデが顔を引きつらせていると、ユイナスさんが言ってきました。

「お兄ちゃん、これから向かうのは郡庁だから、縛り上げるのは地方貴族だよ」

「おお、そうなのか」

 ユイナスさんはそう言いますが、わたしは、別に縛り上げることまでは考えていないのですが……

 ですがわたしが訂正する間もなく、ユイナスさんは話を続けています。

「もっとも、地方貴族を監督するのも中央貴族の役目だから、場合によっては中央貴族もただでは済まないでしょうけどね」

「なんだ、じゃあ別にどっちでもいいじゃんか」

「よくはないでしょ。子供でも知っていることをお兄ちゃんが忘れていること自体が問題なんだから」

「ぐっ……そ、それは……」

「だからわ・た・し・が、お兄ちゃんをしっかり再教育してあげるね!」

「な、なんでだよ!?」

 狼狽うろたえるアルデに自身の腕を絡めながら、ユイナスさんがわたしに言ってきます。

「ということだから。ティスリはお兄ちゃんに勉強なんて教えなくていいわよ!」

「そ、そうですか? ですが──」

「そもそも初等部程度の勉強を、大天才であらせられるティスリサマ、、が教えるなんてもったいない! ティスリサマ、、は、どうぞご自身の才能を、ご商売やお国のために活かしてくださいな」

「え、えっと……」

 わたしが口ごもっていると、ユイナスさんを振りほどいてアルデが抗議の声をあげました。

「妹に勉強を教わるなんて嫌なんだが!?」

 そのアルデをユイナスさんが睨み付けます。

「なんでよ!?」

「オレにもプライドってもんがあるの!」

「プライドがあるなら、せめて初等部くらいの勉強は覚えておきなさいよ」

「うぐっ……!」

「それとも何? 先生役はティスリのほうがいいってわけ?」

「そうだな! ティスリのほうが百倍マシだわ!」

「はぁ!?」「えっ!?」

 ユイナスさんとわたし、二人の声が重なりました。ユイナスさんが慌ててアルデに詰め寄ります。

「どどど、どういうことよお兄ちゃん!?」

「どういうことも何も、妹から勉強を教わるなんて嫌だから、ティスリに教わると言っているんだが?」

「それは妹差別でしょうお兄ちゃん!?」

「そんな差別、聞いたこともない」

「頭が悪いんだから観念してわたしに教わりなさいよ!?」

「頭が悪いから天才のティスリに教わるんだよ!」

 なんだか破れかぶれになってきたアルデに向かって、ナーヴィンさんが手を上げました。

「はいはーい! ならオレも一緒にティスリ先生に教わりたい!」

「お前は黙ってろ!」「あんたは黙ってなさい!」

「なんでだよ!?」

 収拾がつかなくなってきたところで、リリィが手を叩きながら言いました。

「はいはい、その辺にしてくださいな。お姉様が指導されるのはわたしだけに決まっているでしょう?」

「あなたの教師なんてわたしは嫌ですよ。自学自習してください」

 わたしがハッキリそういうと、リリィはしゃがみ込んで、地面に転がっていた石をツンツンし始めます……が、リリィはどうでもいいので放っておきましょう。

 ですがリリィのおかげでとりあえず話が遮られたので、わたしは仕切り直します。

「話を戻しますよ。とにかくこれから、地方貴族と面談して、なぜ税率が高いのか、つまり国の方針と違うのかを問いただします。あくまでも面談ですから、危険なことにはならないと思いますが──」

 そしてわたしは、ポケットから守護の指輪を三つ取り出しました。

「──念のため、この指輪を装着してください。万が一の荒事になった場合、この指輪があなたたちを守ります」

 わたしがそう言った途端、リリィが立ち上がったかと思うとわたしの手を握りしめてきました。

「お、お姉様!? 『指輪がわたしを守ってくれる』だなんて、これはもはやエンゲージぐへぇ!」

 リリィのみぞおちに、軽めの魔法を一発食らわせて地面に転がすと、わたしは指輪の効果をユイナスさんとナーヴィンさんに説明します。

 その説明中、ナーヴィンさんがなぜか地面に視線を向けて震えている気がしますが──おそらくは、荒事と言ったせいで怖がらせてしまったようです。魔法の素人にとっては、指輪の効果なんて信じられるはずもないでしょうから、怖くなってしまうのも無理からぬことですね。

 そうして指輪の説明を終えて、ふと、わたしはアルデの手に視線を向けました。

「アルデ、指輪を装着してこなかったのですか?」

「ん、ああ。ここ最近は付けてなかったからすっかり忘れてた」

「まったく仕方がないですね。確かに村ではしなくていいといいましたが……まぁいいでしょう」

 仮に荒事になったとしても、アルデならなんの問題もないでしょうし。

 そうしてわたしは、うっかり気絶させてしまったリリィに回復魔法を掛け、指輪を三人に渡した後、先触れも無しに郡庁へと入るのでした。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...