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第4章
第7話 こぼれる笑みを抑えるのに必死だった……うふふ……
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ユイナスたちが、魔動車でリリィの天幕に訪れると、それを出迎えるリリィ達は、全員が最敬礼の姿勢をとっている。
そんな様子を魔動車の中から眺め、わたしは思わずつぶやいていた。
「うっわ……すっご……」
ティスリが来たからこそ全員が最敬礼しているのだろうけれど、20人近い人間が、全員片膝を付いて頭を垂れているサマは……圧巻というか壮観というか……
特に、普段から偉そうな態度のリリィまで頭を下げているのを見ると、なんだかちょっとゾクゾクしてくるわね……
「おいティスリ、これ、まずくないか?」
ちょっとした愉悦に浸っていたら、前の席に座るお兄ちゃんがティスリに耳打ちしていた。
「こんなのをユイナスに見せたら、ほら、アレだ……」
「ああ、身分のことですか?」
「おいおい、ユイナスに聞こえるって……」
いや、お兄ちゃんの声も十分に聞こえてるんだけど……っていうか!
ティスリの耳元で囁くような真似しないでよ!? ティスリもなんで平然と受け入れてんのよ! あんた王女なんだし、異性かつ平民の顔が耳元にまで近づくなんてまずいでしょ!?
わたしが心の中で叫び声を上げていたら、ティスリは「それでしたら、すでにバレていると思います」とお兄ちゃんに言ってから、わたしに顔を向けた。
「ユイナスさん、わたしの身分については、リリィからすでに聞いてますよね?」
そう問われ、隠す必要もなかったのでわたしは頷く。
「ええ。あんた王女だったんでしょ」
ティスリのほうは「やっぱり」という顔をしていたけど、お兄ちゃんは大いに驚いたようだった。
「お、お前……」
そしてお兄ちゃんは、呆然としながら言ってくる。
「ティスリが王女だと知っていてなお、そんな態度だったのか……?」
「何よ、お兄ちゃんだって似たようなものじゃない」
「い、いやまぁ……そう言われるとそうなんだが……」
わたしにそう指摘されお兄ちゃんが口ごもると、代わりにティスリが答えてきた。
「今のわたしはお忍びですし、近所のお姉さんくらいの態度がちょうどいいですから、今のままで構いませんよ」
「あんたをお義姉さんだと思ったことは一度たりともないわよ!」
「そ、そうですか……」
わたしが断言すると、ティスリはシュンとする──この女、やっぱりお兄ちゃん狙いじゃない! しれっと義理の姉に収まろうとするなんて!
わたしが憤慨していると、お兄ちゃんが言ってきた。
「ユイナスの態度は後回しにするとして、そろそろ出るか。連中を待たせるのも悪いし」
っていうかお兄ちゃんが話を振ったんじゃないと思うも、車の中で長話していても仕方がないので、わたしたちは外に出た。
魔動車の扉を開けると、屋外のムッとした熱気が全身を包み込むものだから、わたしは思わず顔をしかめる。魔動車や天幕に設置されているという空冷魔法って、ほんとすごいわよね……
わたしがそんなことを考えていたら、最敬礼をする全員にティスリが言った。
「皆さん、面を上げてください」
そうすると全員、一糸乱れぬ感じで起立する。
その先頭にいたリリィは──なぜか涙ぐんでいた。
「お、お姉様……お久しゅうございます……!」
そして言うや否や、両手をガバッと広げてティスリに飛びつく──と、ティスリはひらりと身をかわす。
勢い余ったリリィは、魔動車に飛びつく羽目になり「熱ッ!?」と悲鳴を上げた。直射日光を浴びた車体は、かなり熱くなっていたようだ。
っていうか……やっぱり嫌われてるじゃない、リリィのヤツ。
ティスリの弱みを握れなかったら、絶対に再会できなかったでしょうよコレ……
今にして思えば、ティスリの酒乱を目撃できたのは幸運だったわね。それに今後、何かティスリの弱みを握りたいと思えば、酒を呑ませればいいかもだし……
わたしがそんなことを考えていたら、鼻まで打ったらしいリリィが、別の意味で涙目になりながら言ってきた。
「さ、先触れを頂ければ、わたしたちのほうからはせ参じましたのに……」
そんなリリィにティスリが言った。
「従者でもないユイナスさんを先触れに出すわけにはいかないでしょう? アルデでは場所が分かりませんし。であればわたしが出向いたほうが早いというものです」
「そうでしたか! さすがはお姉様! どんなときでも誰にでも、お気遣いを忘れませんわね!」
どうでもいいことまで絶賛してから、リリィは天幕へと手を向ける。
「それでは、ただの天幕に案内するのも申し訳ないのですけれども、空冷魔法も設置してありますからここよりは涼しいはずです。どうぞ天幕のほうへ」
そうしてわたしたちは天幕へと足を向ける──その途中で。
わたしはリリィに近寄る。そうして、完全に浮かれまくって上機嫌のリリィに耳打ちをした。
「リリィ、分かってるわよね?」
「え? あ、ああ……ユイナスさん、あなたには感謝しかありませんわ」
「感謝とかどうでもいいのよッ。報酬の件は──」
「ええ、もちろんです。すでに準備してありますから、お姉様との謁見後にお渡ししますわ」
「ならいいわ……」
や、やった……!
これでわたしは、向こう10年はお兄ちゃんとイチャイチャできる……!
あとは、ティスリとお兄ちゃんの仲を引き裂けば、すべてがわたしの計画通りになるんだ……! そもそも、王女と平民の結婚だなんてあり得ないって話だし!
そしてわたしは、お兄ちゃんと……うふ……ふふふふ……
間もなく現実になるであろう理想の生活に、わたしは、こぼれる笑みを抑えるのに必死だった……うふふ……
そんな様子を魔動車の中から眺め、わたしは思わずつぶやいていた。
「うっわ……すっご……」
ティスリが来たからこそ全員が最敬礼しているのだろうけれど、20人近い人間が、全員片膝を付いて頭を垂れているサマは……圧巻というか壮観というか……
特に、普段から偉そうな態度のリリィまで頭を下げているのを見ると、なんだかちょっとゾクゾクしてくるわね……
「おいティスリ、これ、まずくないか?」
ちょっとした愉悦に浸っていたら、前の席に座るお兄ちゃんがティスリに耳打ちしていた。
「こんなのをユイナスに見せたら、ほら、アレだ……」
「ああ、身分のことですか?」
「おいおい、ユイナスに聞こえるって……」
いや、お兄ちゃんの声も十分に聞こえてるんだけど……っていうか!
ティスリの耳元で囁くような真似しないでよ!? ティスリもなんで平然と受け入れてんのよ! あんた王女なんだし、異性かつ平民の顔が耳元にまで近づくなんてまずいでしょ!?
わたしが心の中で叫び声を上げていたら、ティスリは「それでしたら、すでにバレていると思います」とお兄ちゃんに言ってから、わたしに顔を向けた。
「ユイナスさん、わたしの身分については、リリィからすでに聞いてますよね?」
そう問われ、隠す必要もなかったのでわたしは頷く。
「ええ。あんた王女だったんでしょ」
ティスリのほうは「やっぱり」という顔をしていたけど、お兄ちゃんは大いに驚いたようだった。
「お、お前……」
そしてお兄ちゃんは、呆然としながら言ってくる。
「ティスリが王女だと知っていてなお、そんな態度だったのか……?」
「何よ、お兄ちゃんだって似たようなものじゃない」
「い、いやまぁ……そう言われるとそうなんだが……」
わたしにそう指摘されお兄ちゃんが口ごもると、代わりにティスリが答えてきた。
「今のわたしはお忍びですし、近所のお姉さんくらいの態度がちょうどいいですから、今のままで構いませんよ」
「あんたをお義姉さんだと思ったことは一度たりともないわよ!」
「そ、そうですか……」
わたしが断言すると、ティスリはシュンとする──この女、やっぱりお兄ちゃん狙いじゃない! しれっと義理の姉に収まろうとするなんて!
わたしが憤慨していると、お兄ちゃんが言ってきた。
「ユイナスの態度は後回しにするとして、そろそろ出るか。連中を待たせるのも悪いし」
っていうかお兄ちゃんが話を振ったんじゃないと思うも、車の中で長話していても仕方がないので、わたしたちは外に出た。
魔動車の扉を開けると、屋外のムッとした熱気が全身を包み込むものだから、わたしは思わず顔をしかめる。魔動車や天幕に設置されているという空冷魔法って、ほんとすごいわよね……
わたしがそんなことを考えていたら、最敬礼をする全員にティスリが言った。
「皆さん、面を上げてください」
そうすると全員、一糸乱れぬ感じで起立する。
その先頭にいたリリィは──なぜか涙ぐんでいた。
「お、お姉様……お久しゅうございます……!」
そして言うや否や、両手をガバッと広げてティスリに飛びつく──と、ティスリはひらりと身をかわす。
勢い余ったリリィは、魔動車に飛びつく羽目になり「熱ッ!?」と悲鳴を上げた。直射日光を浴びた車体は、かなり熱くなっていたようだ。
っていうか……やっぱり嫌われてるじゃない、リリィのヤツ。
ティスリの弱みを握れなかったら、絶対に再会できなかったでしょうよコレ……
今にして思えば、ティスリの酒乱を目撃できたのは幸運だったわね。それに今後、何かティスリの弱みを握りたいと思えば、酒を呑ませればいいかもだし……
わたしがそんなことを考えていたら、鼻まで打ったらしいリリィが、別の意味で涙目になりながら言ってきた。
「さ、先触れを頂ければ、わたしたちのほうからはせ参じましたのに……」
そんなリリィにティスリが言った。
「従者でもないユイナスさんを先触れに出すわけにはいかないでしょう? アルデでは場所が分かりませんし。であればわたしが出向いたほうが早いというものです」
「そうでしたか! さすがはお姉様! どんなときでも誰にでも、お気遣いを忘れませんわね!」
どうでもいいことまで絶賛してから、リリィは天幕へと手を向ける。
「それでは、ただの天幕に案内するのも申し訳ないのですけれども、空冷魔法も設置してありますからここよりは涼しいはずです。どうぞ天幕のほうへ」
そうしてわたしたちは天幕へと足を向ける──その途中で。
わたしはリリィに近寄る。そうして、完全に浮かれまくって上機嫌のリリィに耳打ちをした。
「リリィ、分かってるわよね?」
「え? あ、ああ……ユイナスさん、あなたには感謝しかありませんわ」
「感謝とかどうでもいいのよッ。報酬の件は──」
「ええ、もちろんです。すでに準備してありますから、お姉様との謁見後にお渡ししますわ」
「ならいいわ……」
や、やった……!
これでわたしは、向こう10年はお兄ちゃんとイチャイチャできる……!
あとは、ティスリとお兄ちゃんの仲を引き裂けば、すべてがわたしの計画通りになるんだ……! そもそも、王女と平民の結婚だなんてあり得ないって話だし!
そしてわたしは、お兄ちゃんと……うふ……ふふふふ……
間もなく現実になるであろう理想の生活に、わたしは、こぼれる笑みを抑えるのに必死だった……うふふ……
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