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第4章
第6話 今すぐ出迎える準備をしなさい!
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「はぁ……暇ですわ……」
空冷魔法を効かせた天幕内で、リリィはぼやきます。
お姉様を追いかけて、こんな田舎くんだりまで来たのはいいものの、ぶっちゃけやることがありません。領都に滞在していたころは、暇つぶしの娯楽はまだありましたが、今は実質野宿ですし……
持参した数冊の本も読み終えてしまい、親衛隊とチェスなどをやって時間を潰すにも限界があります。さりとて、お姉様が間近にいるのに会いに行けないアンニュイな気分では勉強をする気にもなれません。
はぁ……お姉様……今ごろ何をしていらっしゃるのかしら……
ユイナスの報告によれば、先々日の農業視察で、それは大変なご活躍をされたとのことで。わたしも、圧倒される農民の姿を見たかったですわ……
しかしその後の懇親会で、お姉様はお酒に酔ってしまったそうなのです。ユイナスが散々絡まれたと腹を立てていましたが、むしろそれはご褒美でしょう!?
魔法で酒精の効果を軽減していたようですが、しかし結局は二日酔いになられてしまったということで……お姉様のお体が心配です。
「まったくユイナスったら……一日に二度はお姉様の状況を報告しなさいと言っているのに……」
お姉様が二日酔いで寝込んでいると聞いて、気が気でなくなったわたしが、お姉様の容体をユイナスに聞いていたら、なぜかユイナスは逆ギレしたのです。
「しつこい! 二日酔いは病気じゃないんだから大丈夫よ! なのにあなたもお兄ちゃんも、ティスリティスリって……!」と言いながら帰ってから、そろそろ一日が経とうとしています。
だからお姉様の容体がそうなったのか、わたしはまだ知らないのです。だというのにわたしは待っていることしか出来なくて、挙げ句の果てにはめちゃくちゃ暇で……
もうこうなったら、お姉様の元にはせ参じようかしら……?
わたしがそんなことを考えていたら、天幕の外から切羽詰まった声が聞こえました。
「リ、リリィ様! 大変です!」
「何事ですか騒々しい。お姉様がいなくなった以上に大変なことなんて──」
「そ、その王女殿下が今こちらに向かっている模様です!」
「え……?」
「周辺警備をしていた者が、殿下の魔動車を発見しました! その魔動車は真っ直ぐこちらに向かっているとのことです!」
「な…………!?」
「い、いかが致しましょうリリィ様? 今から撤収作業を始めても間に合いませんが……」
「なぜ撤収するのです!? 今すぐ出迎える準備をしなさい!」
「りょ、了解致しました……!」
そういって親衛隊員の気配が出入口からなくなります。
「こここ、これは一体どういうことですか……!?」
わたしは姿鏡を前に、わたわたと容姿のチェックをしながらも考えます。
可能性としては、わたしがここにいることがバレてしまったか、あるいは、お姉様との面会をユイナスが取り付けたか……
出来れば後者であって欲しいところですが、しかしそうであるならば先触れがあってしかるべきですし、それがないということは……
「も、もしかして……無断で追いかけてきたことを叱責されるかも……」
悪いイメージが頭の中いっぱいに広がり……
わたしは……
わたしは……
もうゾクゾクが止まりませんわ!?
「リリィ様、全員準備が出来ました!」
わたしが一人で身震いしていると、天幕の外から声が聞こえました。
「わ、分かりました……わたしも出ます」
そうしてわたしは、真夏の照りつける陽光の元へと身をさらし、この丘へと伸びる一本道へと視線を向けます。
確かに、その道を走る魔動車が一台。真っ直ぐとこちらに向かってきています。
「ま、間違いありません……お姉様ですわ!」
そうして、魔動車の中に誰が乗っているのか視認できるか出来ないかまで近づいたとき。
わたしたちは全員、片膝を付いて最敬礼の姿勢をとり、お姉様を出迎えるのでした。
空冷魔法を効かせた天幕内で、リリィはぼやきます。
お姉様を追いかけて、こんな田舎くんだりまで来たのはいいものの、ぶっちゃけやることがありません。領都に滞在していたころは、暇つぶしの娯楽はまだありましたが、今は実質野宿ですし……
持参した数冊の本も読み終えてしまい、親衛隊とチェスなどをやって時間を潰すにも限界があります。さりとて、お姉様が間近にいるのに会いに行けないアンニュイな気分では勉強をする気にもなれません。
はぁ……お姉様……今ごろ何をしていらっしゃるのかしら……
ユイナスの報告によれば、先々日の農業視察で、それは大変なご活躍をされたとのことで。わたしも、圧倒される農民の姿を見たかったですわ……
しかしその後の懇親会で、お姉様はお酒に酔ってしまったそうなのです。ユイナスが散々絡まれたと腹を立てていましたが、むしろそれはご褒美でしょう!?
魔法で酒精の効果を軽減していたようですが、しかし結局は二日酔いになられてしまったということで……お姉様のお体が心配です。
「まったくユイナスったら……一日に二度はお姉様の状況を報告しなさいと言っているのに……」
お姉様が二日酔いで寝込んでいると聞いて、気が気でなくなったわたしが、お姉様の容体をユイナスに聞いていたら、なぜかユイナスは逆ギレしたのです。
「しつこい! 二日酔いは病気じゃないんだから大丈夫よ! なのにあなたもお兄ちゃんも、ティスリティスリって……!」と言いながら帰ってから、そろそろ一日が経とうとしています。
だからお姉様の容体がそうなったのか、わたしはまだ知らないのです。だというのにわたしは待っていることしか出来なくて、挙げ句の果てにはめちゃくちゃ暇で……
もうこうなったら、お姉様の元にはせ参じようかしら……?
わたしがそんなことを考えていたら、天幕の外から切羽詰まった声が聞こえました。
「リ、リリィ様! 大変です!」
「何事ですか騒々しい。お姉様がいなくなった以上に大変なことなんて──」
「そ、その王女殿下が今こちらに向かっている模様です!」
「え……?」
「周辺警備をしていた者が、殿下の魔動車を発見しました! その魔動車は真っ直ぐこちらに向かっているとのことです!」
「な…………!?」
「い、いかが致しましょうリリィ様? 今から撤収作業を始めても間に合いませんが……」
「なぜ撤収するのです!? 今すぐ出迎える準備をしなさい!」
「りょ、了解致しました……!」
そういって親衛隊員の気配が出入口からなくなります。
「こここ、これは一体どういうことですか……!?」
わたしは姿鏡を前に、わたわたと容姿のチェックをしながらも考えます。
可能性としては、わたしがここにいることがバレてしまったか、あるいは、お姉様との面会をユイナスが取り付けたか……
出来れば後者であって欲しいところですが、しかしそうであるならば先触れがあってしかるべきですし、それがないということは……
「も、もしかして……無断で追いかけてきたことを叱責されるかも……」
悪いイメージが頭の中いっぱいに広がり……
わたしは……
わたしは……
もうゾクゾクが止まりませんわ!?
「リリィ様、全員準備が出来ました!」
わたしが一人で身震いしていると、天幕の外から声が聞こえました。
「わ、分かりました……わたしも出ます」
そうしてわたしは、真夏の照りつける陽光の元へと身をさらし、この丘へと伸びる一本道へと視線を向けます。
確かに、その道を走る魔動車が一台。真っ直ぐとこちらに向かってきています。
「ま、間違いありません……お姉様ですわ!」
そうして、魔動車の中に誰が乗っているのか視認できるか出来ないかまで近づいたとき。
わたしたちは全員、片膝を付いて最敬礼の姿勢をとり、お姉様を出迎えるのでした。
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