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第3章

番外編5 ユイナスとお胸

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「ねぇお兄ちゃん、わたしもちょっと呑ませてよ、お酒」

「ダメだってば。成人するまで我慢してろ」

 ユイナスわたしがお兄ちゃんにいくら言っても、お兄ちゃんは頑なに飲酒を受け入れてくれない。

 飲みの席で、ひとりで呑まずに食事だけしているのは、子供の頃からぜんぜん楽しくなかったんだけど、今日はティスリもいるから余計に面白くない。

 あと単純に、お酒には興味もあったし。

 だからわたしは食い下がってみた。

「成人って、あと1年ちょっとじゃない。いま呑んだって大して変わらないわよ」

「それでもダメだ。お前まで酒乱だったら大変だからな」

「お前までって……どういうこと?」

「あ、いや……ただの仮定でこっちの話だ」

「…………?」

 お兄ちゃんは歯切れの悪い受け答えをしながら、ふと、ティスリのほうに目を向ける。

 ティスリが酒乱だっていうのかしら? 確か、魔法で酒精を云々とは言っていたけれど、今は、ほんのりと頬を赤らめているだけで、別に暴れそうな感じはしない。

 っていうか……あの容姿で頬を染めて、目をちょっと潤ませているだなんて……どんな男でもイチコロじゃない? 実際に、ナーヴィンなんて両目をハートにしているし。

 そもそも、ナーヴィンはさっきからティスリにちょっかいを出しているのに、まったく相手にされてないのよね。ナーヴィンとティスリがくっつけば、わたしも安心なのに。もっと気張りなさいよ情けない男ね。

 などとわたしが考えていると、ティスリがにこやかに言ってくる。

「酒精は、成長期の人間には体に毒なのですよ」

 ティスリとはあんまり会話したくないのだけれど、毒と言われては気になってしまう。だからわたしは質問した。

「毒って……例えばどんな影響が出るの?」

「そうですね。まず脳への影響が懸念されます。一言でいうならば……おバカになるということですね」

「お、おバカ……? それは酔っ払ったからじゃなくて?」

「はい。酔いが抜けても脳への悪影響が残る恐れがあります。何しろ成長過程ですから」

「そ、そうなんだ……」

 お酒って……そんなに怖いものだったの? でもそうであれば、いくら大人だからって、毎日カパカパ呑んでたらまずくない?

 幸い、うちの両親もお兄ちゃんも、毎日お酒を呑むようなことはしていないけど、心配になってきたわたしは、お兄ちゃんの飲酒を今すぐ止めたくなった。

 わたしがお兄ちゃんの身を案じていると、ティスリがさらに話を続ける。

「あとは、成長への悪影響も懸念されます」

「せ、成長への悪影響って……?」

「そうですね……例えば身長が止まってしまうとか」

「し、身長が……!?」

「ええ。それと女性なら、肉付きが悪くなったりとか」

「肉付きも……? でもそれはダイエットになるんじゃない?」

「成長期の女子がダイエットなんてするものではありませんよ。それと、ここでいう肉付きというのは……その……胸とかの話です」

「胸……!」

 そう言われて、わたしは思わずティスリの胸を凝視する。

 ティスリは、身長は平均的に見えるのに、その胸のボリュームは異常だった。身長の比率に対して、明らかに胸が大きすぎる。

 しかもそれが悪目立ちしているかといえばそうではなく、どういうわけか、小さな体にしっくりなじんでいた。おそらくは、その形のなせるワザだろう。きっとハリもあるに違いない。

 あんな大きな脂肪の塊を、いったいどうやって理想の形にとどめているのか……わたしには謎だったけど……もしかして魔法かしら?

 とにもかくにも、あれを使ってお兄ちゃんを誘惑されたら──大変にマズイ!

 例えば……温泉宿なんかに行って、なぜか前がはだける民族衣装を着崩して、半裸の状態でお兄ちゃんに迫ったとしたら……!

 いくら激ニブのお兄ちゃんでも、そのニブさが吹き飛ぶに違いないのだ!!

 くっ……!

 なんて体をしているのよ、あの女は!

 つまり、ああいう体型になりたいのなら、酒は呑むなということなのか……

 でもわたし、中等部に上がってから、身長の伸びが止まってしまったのだけれど……

 だから数人の同級生女子の中では、いちばん小さいんですけど……

 これって……これって……

 どういうことなの!?

 これまでお酒なんて呑んだことないのに!

 過去を振り返りわたしが苛立ちを感じていたら、ふと、視界の片隅にミアの姿が目にとまる。

 ミアは、なぜか寂しそうにお酒をチビチビやっていたけれど……

 ………………この女狐も、かなりスタイルがいいのよね。

 人づてで聞いた話だと、まず身長は160センチ後半にもなるらしい。これは女性ではかなりの高身長だと思う。少なくとも、村の女子で一番背が高いのは事実だし。

 ちなみにお兄ちゃんは180センチを超えているから、二人でいると目立つのよね。っていうかお兄ちゃんは背が高いのに、なんでわたしの身長は止まっちゃったの……!?

 い、いやいや……こういうのは家系だっていうから、きっとわたしもこれから大きくなれるはず……

 あとミアは胸も大きい。ティスリほどではないにしろ、十分過ぎるほどにふくよかな膨らみが付いていた。領都に行ったとき、一度だけ演劇を見たことがあるんだけど、ミアはそこの演者のようなスタイルだった……身長も高いし。もしミアが街中に生まれていたら、そういう仕事に就いていたかもしれない。

 そんな二人を見た後にわたしは……つい、自分の胸を見下ろしてしまう。

 ………………うん。

 今日も、手元足元がよく見えるわ!!

 わたしが……その絶望感に打ちひしがれそうになっていたら、お兄ちゃんが頭をぽんぽんしてくれた。

「分かっただろ、ユイナス」

「え? な、何が?」

「まだ希望はあるんだ」

「なんの話……?」

「ここで酒を呑んだら、その希望を摘むことになるんだぞ」

「だからなんの話よ!?」

「え? いやだからお前、昔から胸のこと気にしてたじゃん」

「お兄ちゃんのえっち!!」

「げふぅ!」

 そうしてわたしの右ストレートがお兄ちゃんに炸裂する。

 くっ! お兄ちゃんは昔からデリカシーがないけど、よくもまぁ妹の胸のことをズゲズゲと……!

 わたしが涙目になっていると、ティスリもミアも、お兄ちゃんをじとーっと睨んでいた。この辺は、さすがに同性だけあって通じるところがあるらしい。

「な、なんだよ。オレはお前のためを思って──」

「わたしのためだというのなら、もうしゃべらないで!!」

「ぐはぁ!」

 そして涙のアッパーカットが、お兄ちゃんの顎を捉えたのだった……



(番外編おしまい。第4章につづく!) 
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