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第3章
番外編4 ミアの学生時代
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(アルデとティスリさん……すごく仲よさそうだな……)
言い合う二人を見て、ミアは思わずため息をついていた。
でもアルデもティスリさんも、お互いのことしか見ていないのか、わたしのため息には全然気づいていなかったけれども。
今回の懇親会で分かったことは、ティスリさんって、アルデにだけは心を開いているというか、許しているというか、そんな感じだということ。
一見して真の強い人だということは分かったけれど、でもだからこそ、あんなくだけた感じになるとは思わなかったな。
同じ平民でも政商の娘さんということだから、わたしたちとはまったく立場の違う人なのに、アルデにだけは素のままで接しているようだった。
ちなみに、わたしたちには礼節を持って接してくれている。貴族のように横柄な感じは微塵もないし、しかも、こちらが恐縮しすぎないようにもしてくれている。
つまりティスリさんは、もの凄い気遣いさんなのだ。
なのにアルデには素の自分を見せている感じで……だから本来なら、完全無欠なティスリさんなのに、常にアルデと一緒にいるものだから、その素がわたしたちにも垣間見えてくる。
二人の言い合いだって、一見するとケンカし合っているようにも見えるけど……なんだか楽しそうだし。ふたりとも。
(これってもしかして……アルデに甘えているのかな?)
ユイナスちゃんの反応から見ても、普段から、あの二人が仲良しさんであることは間違いなさそうだし……
だとしたら、アルデに甘えた結果にああいう態度なんだろうな。もうちょっと、上手く甘えたらいいのにとは思うケド。
そんなわけでわたしは、混成酒を何度も口に運んでいた。今日のペースが早いのは自分でも分かっているけれど、どうしてもお酒が止められない。
(はぁ……どうして、こんな事になっちゃったんだろ……)
気づけばわたしは、学生の頃を振り返っていた。
* * *
平民学校中等部に進級すると、アルデはいきなり落第しそうになっていて……
一学期の終業式が終わり、みんなが帰宅した教室でアルデの成績を見たわたしは……唖然としていた。
「ちょ、ちょっとアルデ……体育以外の成績が、2と1しかないじゃない……!」
学校の成績は5段階評価になっている。5が最高で1が最低。しかも年度末までに、全教科で3以上の成績を取っておかないと落第してしまうというのに。
アルデは、まったく危機感のない顔で頬を掻いていた。
「あー……なんか急に難しくなってきたから……」
「どうして相談してくれなかったの?」
「いや、相談したところで、オレの頭が良くなるわけでもないし」
「勉強くらい教えてあげるってば」
「えー……いいよ別に。勉強する時間が惜しいし、それに頭が悪くたって仕事は出来るさ」
「何言ってるの。落第したら、もう一年同じ勉強しなくちゃなんだよ? わたしと別々のクラスになっちゃうし、それに卒業できなかったら、仕事だってパートタイムのままじゃない」
「学校をサボればいいだろ?」
「平民学校も卒業できなかったら、いずれ仕事がなくなっちゃうよ!」
アルデの両親は病弱で農業が出来ずにいる。内職でなんとかやりとりしているって話だけど、農業に比べたら収入はぜんぜん少ないと思う。
だからアルデは、幼い頃からいろんな仕事を手伝ってはお駄賃を得てきた。アルデの身体能力は大人顔負けだったから、農業は元より、狩猟や採集、さらには賞金首の捕縛までもしてきて、ハラハラするどころの騒ぎじゃなかったこともあったけど。
でもわたしたちの本分は学生だから、朝8時から15時までは勉強をしなければならない。
そして平民学校の9年間に退学はない。高等教育を受ける学校では退学があるそうだけど、平民学校の場合は、出来るまで根気よく学ばせる方針だった。
だから学校を卒業しないことには、アルデはフルタイムで働けない。
この制度は、わたしたちの世代から始まったこともあり、アルデは制度自体に不満を持っているんだけど……そのアルデが顔をしかめながら言った。
「平民学校って王女発案なんだろ? 王女様も余計な制度を作ってくれたよな。ちょっと前までは、子供だって普通にフルタイムで働いていたってのに」
「その王女殿下のおかげで、この国は急速に発展しているって話だから、今後はいろんな勉強が必要になってくるんだよ」
「いろんな勉強って……三角形の面積とか、どこで必要になるんだよ?」
「そ、それは……分からないけれど……でもせめて、初等部の読み書き計算くらいはマスターしないと」
「そんなの、指で数えればなんとかなるだろ」
「あのねぇ……アルデのうちは農地を持っていないんだから、アルデは働きに出ることになるのよ? つまり給金をもらって働くの」
「今までだってそうだったけど、別に問題なかったぞ?」
「それは、アルデがまだ子供で、しかも村の中だけで働いていたからでしょ。大人になるにつれ、いろんな人と関わるんだから、そこで読み書き計算も出来ないようでは、下手をしたら給金を誤魔化されてしまうのよ?」
「う……そ、それは……まずいけどさぁ……」
「そうでしょ? 分かったなら──」
「ならずっと、村の中で働けばいいだろ」
「まぁ……そうかもしれないけど……でもこの村、ほぼ農業しかないし」
「そしたらミアんちでオレを雇ってくんない?」
「…………え?」
唐突にそんなことを言われて、わたしは思わず鼓動を撥ね上げる。
でもアルデは、そんなわたしの様子に気づきもせず、勝手に話を進めていく。
「ほら、ミアんちの農場は人手が足りないって言ってたじゃんか。村長も兼任しているから。これまでだって、繁忙期にオレは手伝ってきたわけだし。だったら雇ってくれよ。本格的に農業するのもいいかと思ってたし」
え? え? え……?
ど、どゆこと……?
た、確かに、うちの農地は人手が足りないから、村の人達に謝礼を出して、様々な作業を手伝ってもらっていたけれど……
その中にはアルデも含まれていたけれど……
ででで、でも……
わたしのうちで、本格的に農業をやりたいだなんて……
そ、それって……
それって……ほとんど……
ほとんど婿入りと変わらなくない!?
「おーいミア? どうした? 急に黙って」
「え!? あ、はい!」
わたしが我に返ると、アルデはぽかんとした表情でわたしを見ていた。
もちろん、わたしは知っている。
朴念仁が過ぎるアルデは、うちに婿入りなんて微塵も考えていないことに。
で、でも……
卒業したら、同じ村にいたって、毎日会えるわけじゃないし……
けどアルデがうちの農場に就職してくれるなら、アルデとはほぼ毎日、顔を合わせるわけで……
こ、これって……もしかして……
チャンス、なのかな?
い、いや!
ちょっと待って!?
冷静になろうわたし!
そもそも、うちへの就職と、アルデの勉強は関係なくない……!?
「え、えっと……うちに就職してくれるのは別に構わないけれど……」
「本当か!?」
「うん、たぶん。お父さんもきっと喜ぶだろうし」
「やった! それなら──」
「で・も。就職と勉強とはまったく別の話デス」
「ぐっ……そ、それは……」
「いえむしろ、うちの採用条件は、平民学校卒業なんだよね~?」
「その条件、今作ったろ!?」
「だとしても、国の制度として、平民学校は卒業しなくちゃダメなんです」
「卒業しなくたって、逮捕とかされないじゃん」
「そうであってもだよ。正式に採用するなら、卒業資格は重要なの。これはうちだけじゃなくて、まともな仕事をやっているところならみんなそうだからね」
「はぁ……本当に、王女は余計な制度を作ってくれたよ……」
「何を言ってるのよ。一昔前は、わたしたち平民には勉強をさせてくれなかったのよ? そのせいで、貴族には散々欺されてきたって話なんだから。殿下には感謝してもしきれないでしょ」
「そうかもだけどさぁ……」
がっくりと肩を落とすアルデに、わたしは元気づけるためさらに言った。
「そもそも学校の授業は、そこまで難しくないでしょう?」
「それはお前だから言えるんだっつーの」
「卒業さえすれば、安定した仕事に就けるんだから、がんばればいいじゃない」
「今すぐにでも仕事できるのにか? むしろお預け食らってる気分だよ」
「もぅ……アルデは地頭はいいんだから。がんばればなんとでもなるよ」
「現時点では頭悪いって言ってるよな、それ?」
「事実じゃない?」
「ぬぅ……」
やっぱり乗り気にならないアルデに、わたしは……か細い声しか出せなかったけど……とにかく言った。
「だ、だから……わたしが勉強を見てあげるから……一緒にがんばろ?」
心臓が破裂しそうなほど、わたしはドキドキしているというのにアルデは……すっごく不服そうな顔だった。
「本当に……学校卒業したら雇ってくれるんだな?」
「う、うん……今日にでもお父さんに聞いてみるけど、たぶん大丈夫だよ」
「はぁぁぁ……なら、勉強教えてくれ……」
「もぅ? それが人にモノを頼む態度かな?」
「ぐっ……」
わたしは膝が震えそうなほどだというのに、アルデはちっとも気づいてくれないから……ちょっといじわるしたくなった。
だからそっぽを向いてみたら、アルデが勢いよく頭を下げてくる。
「よろしくお願いします! ミア先生!!」
「ふふっ、よろしい。そうしたら早速これから──」
バタン!
わたしが居残り授業を提案しようとしたら、教室の扉が勢いよく開けられる。
「ちょっとあんたたち!? 放課後、誰もいない昼下がりの教室で、いったい何をしているの!?」
なぜか、妙に正確な場面描写を言いながら、ユイナスちゃんが飛び込んできた。
それを見たアルデはぽかんとして言った。
「なんだよユイナス? そんなに息を切らして」
「お兄ちゃんが帰ってこないから捜しにきたのよ!」
「はぁ? いったん家に帰ったってのに、また戻ってきたのか?」
「そうよ! そうしたらこの女狐とふたりっきりになって──」
「お前な、いい加減、先輩を女狐扱いするのはやめろ」
「こうしてお兄ちゃんとふたりっきりになってるんだから女狐でいいわよ!」
「毎度、意味の分からんことを……」
ユイナスちゃんは、お兄ちゃんが大好きすぎるから、わたしはずっと敵視されているんだけど……最近はもう諦めているから、わたしは苦笑するしかない。
そしてアルデもすごく鈍いから──だからわたしが隠しておきたいことをホイホイ言っていた。
「ミアには、勉強を教わる約束をしてただけだよ……まぁ明日から?」
さりげに先延ばしにするアルデに、わたしが何かを言う前にユイナスちゃんに言われてしまう。
「この女に勉強を教わる!? 何言っているのお兄ちゃん!」
「何言っているのはお前の方だが?」
「その女に勉強を教わったら、教わったなら……どうなるか分かったもんじゃないわ!?」
「そりゃあまぁ……それでオレの成績があがるかと問われたら、ちょっと自信ないケド……」
「そういう話をしてんじゃないわよ! あ、そうだ! ならわたしがお兄ちゃんに勉強を教えてあげる!」
「はぁ? お前、学年が違うだろ」
「お兄ちゃんより頭いいもん!!」
断言されて、涙目になるアルデはひとまず放っておいて(事実でもあるし)、わたしはユイナスちゃんに言った。
「そうしたら、ユイナスちゃんも一緒に勉強会しよう?」
するとユイナスちゃんがキッと睨んでくる。
「なんであんたと勉強会なんてしなくちゃいけないのよ!」
「けど……さすがにユイナスちゃんでも、中等部の勉強はまだ難しいでしょう? でもアルデをこのまま落第させるわけにもいかないし。そして勉強会にユイナスちゃんが参加すれば……安心でしょ?」
わたしのその話に、ユイナスちゃんはいっとき黙考してから、やがて頷く。
「分かった……それでいいわ。けど、もしも抜け駆けなんてしたら許さないわよ!?」
「大丈夫、そんなことしないよ」
そうしてわたしは、やっぱり苦笑を返すしかないのだった。
* * *
「思えばあのときが……最後の……」
学生時代を振り返っていたわたしは、後悔なんてしても仕方がないのに、思わずつぶやいていた。
思ったより……酔ってしまったのかもしれない。だからわたしはお水をひとくち含む。
そうして正面に座るアルデ、ティスリさん、ユイナスちゃんを改めて眺めた。
(お似合い……なのかな……)
ふと、そんなことを思ってしまう。
この村で、わたしはアルデとずっと一緒にいたけれど──結局、その距離は詰められなかった。なのにティスリさんは、わずか数カ月のうちに、アルデの隣にいても違和感がまったくないように見える。
あのとき──中等部の三年間で、わたしもアルデと距離を詰められていたのなら、今、アルデの隣にいたのはわたしだったのかなぁ……
でも結局わたしはぜんぜん駄目で……
なんとかアルデが卒業したあとは、アルデは「衛士になる」と急に言い始めて、だから試験勉強も見てあげたけど、そこでもわたしは何も言えなくて……
最後は、離ればなれになってしまった。
わたしが、何も伝えなかったから。
そうしてアルデは、わたしを残して王都へと旅立った。
(もう……遅いのかな……)
チクチクと痛む胸の痛みをなんとかしたくて、酔いすぎているというのに、わたしはお酒に手を伸ばすしかなくなっていた──
(to be continued──)
言い合う二人を見て、ミアは思わずため息をついていた。
でもアルデもティスリさんも、お互いのことしか見ていないのか、わたしのため息には全然気づいていなかったけれども。
今回の懇親会で分かったことは、ティスリさんって、アルデにだけは心を開いているというか、許しているというか、そんな感じだということ。
一見して真の強い人だということは分かったけれど、でもだからこそ、あんなくだけた感じになるとは思わなかったな。
同じ平民でも政商の娘さんということだから、わたしたちとはまったく立場の違う人なのに、アルデにだけは素のままで接しているようだった。
ちなみに、わたしたちには礼節を持って接してくれている。貴族のように横柄な感じは微塵もないし、しかも、こちらが恐縮しすぎないようにもしてくれている。
つまりティスリさんは、もの凄い気遣いさんなのだ。
なのにアルデには素の自分を見せている感じで……だから本来なら、完全無欠なティスリさんなのに、常にアルデと一緒にいるものだから、その素がわたしたちにも垣間見えてくる。
二人の言い合いだって、一見するとケンカし合っているようにも見えるけど……なんだか楽しそうだし。ふたりとも。
(これってもしかして……アルデに甘えているのかな?)
ユイナスちゃんの反応から見ても、普段から、あの二人が仲良しさんであることは間違いなさそうだし……
だとしたら、アルデに甘えた結果にああいう態度なんだろうな。もうちょっと、上手く甘えたらいいのにとは思うケド。
そんなわけでわたしは、混成酒を何度も口に運んでいた。今日のペースが早いのは自分でも分かっているけれど、どうしてもお酒が止められない。
(はぁ……どうして、こんな事になっちゃったんだろ……)
気づけばわたしは、学生の頃を振り返っていた。
* * *
平民学校中等部に進級すると、アルデはいきなり落第しそうになっていて……
一学期の終業式が終わり、みんなが帰宅した教室でアルデの成績を見たわたしは……唖然としていた。
「ちょ、ちょっとアルデ……体育以外の成績が、2と1しかないじゃない……!」
学校の成績は5段階評価になっている。5が最高で1が最低。しかも年度末までに、全教科で3以上の成績を取っておかないと落第してしまうというのに。
アルデは、まったく危機感のない顔で頬を掻いていた。
「あー……なんか急に難しくなってきたから……」
「どうして相談してくれなかったの?」
「いや、相談したところで、オレの頭が良くなるわけでもないし」
「勉強くらい教えてあげるってば」
「えー……いいよ別に。勉強する時間が惜しいし、それに頭が悪くたって仕事は出来るさ」
「何言ってるの。落第したら、もう一年同じ勉強しなくちゃなんだよ? わたしと別々のクラスになっちゃうし、それに卒業できなかったら、仕事だってパートタイムのままじゃない」
「学校をサボればいいだろ?」
「平民学校も卒業できなかったら、いずれ仕事がなくなっちゃうよ!」
アルデの両親は病弱で農業が出来ずにいる。内職でなんとかやりとりしているって話だけど、農業に比べたら収入はぜんぜん少ないと思う。
だからアルデは、幼い頃からいろんな仕事を手伝ってはお駄賃を得てきた。アルデの身体能力は大人顔負けだったから、農業は元より、狩猟や採集、さらには賞金首の捕縛までもしてきて、ハラハラするどころの騒ぎじゃなかったこともあったけど。
でもわたしたちの本分は学生だから、朝8時から15時までは勉強をしなければならない。
そして平民学校の9年間に退学はない。高等教育を受ける学校では退学があるそうだけど、平民学校の場合は、出来るまで根気よく学ばせる方針だった。
だから学校を卒業しないことには、アルデはフルタイムで働けない。
この制度は、わたしたちの世代から始まったこともあり、アルデは制度自体に不満を持っているんだけど……そのアルデが顔をしかめながら言った。
「平民学校って王女発案なんだろ? 王女様も余計な制度を作ってくれたよな。ちょっと前までは、子供だって普通にフルタイムで働いていたってのに」
「その王女殿下のおかげで、この国は急速に発展しているって話だから、今後はいろんな勉強が必要になってくるんだよ」
「いろんな勉強って……三角形の面積とか、どこで必要になるんだよ?」
「そ、それは……分からないけれど……でもせめて、初等部の読み書き計算くらいはマスターしないと」
「そんなの、指で数えればなんとかなるだろ」
「あのねぇ……アルデのうちは農地を持っていないんだから、アルデは働きに出ることになるのよ? つまり給金をもらって働くの」
「今までだってそうだったけど、別に問題なかったぞ?」
「それは、アルデがまだ子供で、しかも村の中だけで働いていたからでしょ。大人になるにつれ、いろんな人と関わるんだから、そこで読み書き計算も出来ないようでは、下手をしたら給金を誤魔化されてしまうのよ?」
「う……そ、それは……まずいけどさぁ……」
「そうでしょ? 分かったなら──」
「ならずっと、村の中で働けばいいだろ」
「まぁ……そうかもしれないけど……でもこの村、ほぼ農業しかないし」
「そしたらミアんちでオレを雇ってくんない?」
「…………え?」
唐突にそんなことを言われて、わたしは思わず鼓動を撥ね上げる。
でもアルデは、そんなわたしの様子に気づきもせず、勝手に話を進めていく。
「ほら、ミアんちの農場は人手が足りないって言ってたじゃんか。村長も兼任しているから。これまでだって、繁忙期にオレは手伝ってきたわけだし。だったら雇ってくれよ。本格的に農業するのもいいかと思ってたし」
え? え? え……?
ど、どゆこと……?
た、確かに、うちの農地は人手が足りないから、村の人達に謝礼を出して、様々な作業を手伝ってもらっていたけれど……
その中にはアルデも含まれていたけれど……
ででで、でも……
わたしのうちで、本格的に農業をやりたいだなんて……
そ、それって……
それって……ほとんど……
ほとんど婿入りと変わらなくない!?
「おーいミア? どうした? 急に黙って」
「え!? あ、はい!」
わたしが我に返ると、アルデはぽかんとした表情でわたしを見ていた。
もちろん、わたしは知っている。
朴念仁が過ぎるアルデは、うちに婿入りなんて微塵も考えていないことに。
で、でも……
卒業したら、同じ村にいたって、毎日会えるわけじゃないし……
けどアルデがうちの農場に就職してくれるなら、アルデとはほぼ毎日、顔を合わせるわけで……
こ、これって……もしかして……
チャンス、なのかな?
い、いや!
ちょっと待って!?
冷静になろうわたし!
そもそも、うちへの就職と、アルデの勉強は関係なくない……!?
「え、えっと……うちに就職してくれるのは別に構わないけれど……」
「本当か!?」
「うん、たぶん。お父さんもきっと喜ぶだろうし」
「やった! それなら──」
「で・も。就職と勉強とはまったく別の話デス」
「ぐっ……そ、それは……」
「いえむしろ、うちの採用条件は、平民学校卒業なんだよね~?」
「その条件、今作ったろ!?」
「だとしても、国の制度として、平民学校は卒業しなくちゃダメなんです」
「卒業しなくたって、逮捕とかされないじゃん」
「そうであってもだよ。正式に採用するなら、卒業資格は重要なの。これはうちだけじゃなくて、まともな仕事をやっているところならみんなそうだからね」
「はぁ……本当に、王女は余計な制度を作ってくれたよ……」
「何を言ってるのよ。一昔前は、わたしたち平民には勉強をさせてくれなかったのよ? そのせいで、貴族には散々欺されてきたって話なんだから。殿下には感謝してもしきれないでしょ」
「そうかもだけどさぁ……」
がっくりと肩を落とすアルデに、わたしは元気づけるためさらに言った。
「そもそも学校の授業は、そこまで難しくないでしょう?」
「それはお前だから言えるんだっつーの」
「卒業さえすれば、安定した仕事に就けるんだから、がんばればいいじゃない」
「今すぐにでも仕事できるのにか? むしろお預け食らってる気分だよ」
「もぅ……アルデは地頭はいいんだから。がんばればなんとでもなるよ」
「現時点では頭悪いって言ってるよな、それ?」
「事実じゃない?」
「ぬぅ……」
やっぱり乗り気にならないアルデに、わたしは……か細い声しか出せなかったけど……とにかく言った。
「だ、だから……わたしが勉強を見てあげるから……一緒にがんばろ?」
心臓が破裂しそうなほど、わたしはドキドキしているというのにアルデは……すっごく不服そうな顔だった。
「本当に……学校卒業したら雇ってくれるんだな?」
「う、うん……今日にでもお父さんに聞いてみるけど、たぶん大丈夫だよ」
「はぁぁぁ……なら、勉強教えてくれ……」
「もぅ? それが人にモノを頼む態度かな?」
「ぐっ……」
わたしは膝が震えそうなほどだというのに、アルデはちっとも気づいてくれないから……ちょっといじわるしたくなった。
だからそっぽを向いてみたら、アルデが勢いよく頭を下げてくる。
「よろしくお願いします! ミア先生!!」
「ふふっ、よろしい。そうしたら早速これから──」
バタン!
わたしが居残り授業を提案しようとしたら、教室の扉が勢いよく開けられる。
「ちょっとあんたたち!? 放課後、誰もいない昼下がりの教室で、いったい何をしているの!?」
なぜか、妙に正確な場面描写を言いながら、ユイナスちゃんが飛び込んできた。
それを見たアルデはぽかんとして言った。
「なんだよユイナス? そんなに息を切らして」
「お兄ちゃんが帰ってこないから捜しにきたのよ!」
「はぁ? いったん家に帰ったってのに、また戻ってきたのか?」
「そうよ! そうしたらこの女狐とふたりっきりになって──」
「お前な、いい加減、先輩を女狐扱いするのはやめろ」
「こうしてお兄ちゃんとふたりっきりになってるんだから女狐でいいわよ!」
「毎度、意味の分からんことを……」
ユイナスちゃんは、お兄ちゃんが大好きすぎるから、わたしはずっと敵視されているんだけど……最近はもう諦めているから、わたしは苦笑するしかない。
そしてアルデもすごく鈍いから──だからわたしが隠しておきたいことをホイホイ言っていた。
「ミアには、勉強を教わる約束をしてただけだよ……まぁ明日から?」
さりげに先延ばしにするアルデに、わたしが何かを言う前にユイナスちゃんに言われてしまう。
「この女に勉強を教わる!? 何言っているのお兄ちゃん!」
「何言っているのはお前の方だが?」
「その女に勉強を教わったら、教わったなら……どうなるか分かったもんじゃないわ!?」
「そりゃあまぁ……それでオレの成績があがるかと問われたら、ちょっと自信ないケド……」
「そういう話をしてんじゃないわよ! あ、そうだ! ならわたしがお兄ちゃんに勉強を教えてあげる!」
「はぁ? お前、学年が違うだろ」
「お兄ちゃんより頭いいもん!!」
断言されて、涙目になるアルデはひとまず放っておいて(事実でもあるし)、わたしはユイナスちゃんに言った。
「そうしたら、ユイナスちゃんも一緒に勉強会しよう?」
するとユイナスちゃんがキッと睨んでくる。
「なんであんたと勉強会なんてしなくちゃいけないのよ!」
「けど……さすがにユイナスちゃんでも、中等部の勉強はまだ難しいでしょう? でもアルデをこのまま落第させるわけにもいかないし。そして勉強会にユイナスちゃんが参加すれば……安心でしょ?」
わたしのその話に、ユイナスちゃんはいっとき黙考してから、やがて頷く。
「分かった……それでいいわ。けど、もしも抜け駆けなんてしたら許さないわよ!?」
「大丈夫、そんなことしないよ」
そうしてわたしは、やっぱり苦笑を返すしかないのだった。
* * *
「思えばあのときが……最後の……」
学生時代を振り返っていたわたしは、後悔なんてしても仕方がないのに、思わずつぶやいていた。
思ったより……酔ってしまったのかもしれない。だからわたしはお水をひとくち含む。
そうして正面に座るアルデ、ティスリさん、ユイナスちゃんを改めて眺めた。
(お似合い……なのかな……)
ふと、そんなことを思ってしまう。
この村で、わたしはアルデとずっと一緒にいたけれど──結局、その距離は詰められなかった。なのにティスリさんは、わずか数カ月のうちに、アルデの隣にいても違和感がまったくないように見える。
あのとき──中等部の三年間で、わたしもアルデと距離を詰められていたのなら、今、アルデの隣にいたのはわたしだったのかなぁ……
でも結局わたしはぜんぜん駄目で……
なんとかアルデが卒業したあとは、アルデは「衛士になる」と急に言い始めて、だから試験勉強も見てあげたけど、そこでもわたしは何も言えなくて……
最後は、離ればなれになってしまった。
わたしが、何も伝えなかったから。
そうしてアルデは、わたしを残して王都へと旅立った。
(もう……遅いのかな……)
チクチクと痛む胸の痛みをなんとかしたくて、酔いすぎているというのに、わたしはお酒に手を伸ばすしかなくなっていた──
(to be continued──)
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今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
女男の世界
キョウキョウ
ライト文芸
仕事の帰りに通るいつもの道、いつもと同じ時間に歩いてると背後から何かの気配。気づいた時には脇腹を刺されて生涯を閉じてしまった佐藤優。
再び目を開いたとき、彼の身体は何故か若返っていた。学生時代に戻っていた。しかも、記憶にある世界とは違う、極端に男性が少なく女性が多い歪な世界。
男女比が異なる世界で違った常識、全く別の知識に四苦八苦する優。
彼は、この価値観の違うこの世界でどう生きていくだろうか。
※過去に小説家になろう等で公開していたものと同じ内容です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
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ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
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