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第3章
番外編3 ティスリとナーヴィン(とアルデ)
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「ティスリさん、出身地ってどこなんですか?」
アルデたち五人で開催された飲み会が始まると、ナーヴィンは、何かにつけてはティスリに話しかけていた。
「わたしは王都出身ですよ」
「王都! そりゃまたすげぇですねぇ」
「別にすごくなんてありませんよ。たまたま生まれたに過ぎないのですから」
王族のティスリがそういうのも妙な話ではあるけどなぁ。
平民が生まれた場所ならともかく、王侯貴族の場合は出身地=身分という認識だから、普通は「たまたま」なんて言わない。「神様から賜った領地と身分」という話だからな。
だというのに、貴族のトップである王族のティスリが「生まれた場所なんてたまたま」というのだから不思議な気分だ。なぜなら「身分なんてたまたま」と言っているのにも等しいわけで。
今は平民のフリをしているとはいえ、よくよく考えたら、普通の貴族は平民のフリなんてしたがらないだろうし、やむを得ずしたところで、今のような発言は絶対にしないだろうな。
オレがそんなことを考えていたら、ナーヴィンがさらに聞いていた。
「仕事は政商って聞いてましたが、王都ではどんな仕事をしてたんですか?」
「主に嗜好品や高級品を王城に納めていたんですよ。いわゆる交易ですね。例えば香辛料とか絹などを取り扱っていました」
「ははぁ……それもすげぇですね。高級品なんて、オレは見たこともないですよ……」
「大したものではありませんよ。なくてもぜんぜん困りませんし」
「けど政商ってことは、貴族相手の商売だったんでしょう? 貴族との商談は何かと大変だって聞きましたけど、平気でしたか?」
ナーヴィンよ……お前は今、その貴族の親玉に話しているわけだが……
まぁティスリはそういうところの度量は広いから、気を悪くするはずもないが、ティスリの正体を知っているオレからすると苦笑したくなるな。
そしてオレの予想通り、親玉ティスリは特に気分を害した様子もなく、ナーヴィンの失言を受け流している。
「ええ、とくに問題ありませんでしたね。王城は、王女殿下のお膝元ですから、不正なんて出来なかったのでしょう」
するとナーヴィンは、ちょっと身を乗り出しながらさらに聞いた。
「けど、ティスリさんって美人ですし、貴族や役人達に声を掛けられたりとかは……」
「ふふ。相手は貴族ですよ? 平民のわたしに声を掛けるわけないじゃないですか」
「じゃあ、平民同士は? 商人の仕事って、いろんな人と会うっていうし、取引先の男とかに口説かれたりとか……」
「ふふふ。あり得ませんよ。まぁ包み隠さす言えば、どうも皆さん、わたしの才覚に嫉妬していたか、わたしの魔法を怖がっていたかだったのでしょうね」
「そうなんですか? 商人って見る目ないんですねぇ! オレなら絶対に放っておかないのに!」
「ふふふふ。ナーヴィンさんって、冗談がお上手ですね」
「冗談じゃないですよ!? もしティスリさんがうちの村にいたら、オレは絶対に口説きますね、えぇ!」
「あら、嬉しいですね。ならわたし、この村に生まれたかったです」
「本当ですか!? それじゃあ──」
「ですが残念なことに、わたしは王都生まれですから。ナーヴィンさんに口説かれることはありませんね、今後も」
「いやいやいや、今からでも遅くは──」
「おい、ナーヴィン」
なんだか雲行きが怪しくなってきたので、オレはナーヴィンに声を掛ける。
「そのくらいにしとけ」
そもそもどう聞いたって、ナーヴィンの口説き文句をティスリは完全拒否しているのに、さらに食い下がるのはヤバイ。相手がティスリであるならなおさらだ。
だというのにナーヴィンは、不満げに言ってきた。
「そのくらいってなんだよ? 男女で飲み会してたら、このくらいの会話は普通だろ?」
「そもそも今日は、そういう飲み会じゃねーんだっつーの」
「じゃあ、男女が集まってるのになんの飲み会だってんだよ」
「村の連中とティスリの親睦を深めるのが目的だったんだよ。なのにお前が、みんなを連れてこなかったから……」
「それはオレのせいじゃなくて、ミアのせいだろ」
話の矛先がミアに向かい、ミアは肩を落として「ごめんなさい……」と頭を下げてくる。
「あ、いや別に、ミアを責めたいわけじゃないぞ……? みんなに伝えなかったオレも悪かったしな」
オレがミアをフォローしていたら、ナーヴィンはすかさずティスリに話を向けていた。
「それでそれでティスリさん、この際もうぶっちゃけると、付き合ってる男とかいるんですか……!?」
「はぁ……男性、ですか?」
いやナーヴィンよ……まだ飲み会も序盤だというのにその質問はないだろ? 男女のアレを目的とする飲み会でもそんな切り出し方はないと思うが。
コイツがモテない理由は、まさにこういうトコなんだろうな……
だからオレはため息をつきながら、再び二人の会話を遮った。
「だ・か・ら、そういう話をティスリにするんじゃない」
今は、きょとんとした表情で小首を傾げるティスリだったが、その内心は鬼の形相かもしれないのだ。下手するとナーヴィンの命……までは奪わないにしても、2~3日は起き上がれない体に仕上がるかもしれない。
つまりオレは、ナーヴィンの身を案じて庇ってやっているというのに、ナーヴィンは非常に不満そうだった。
「だからなんだよさっきから。オレが、ティスリさんにどんな話題を振ろうが、アルデには関係ないだろ」
「オレの任務の一つは、ティスリの男避けだっつったろ。だからそういう会話は許さないの」
「どんな任務だよそれ? あ、でも! 男避けしたいってことは、男がいないってことじゃ──」
「バカかお前は。男避けしたいってことは、むしろ男がいるって可能性が高いだろ」
「むむむ……ティスリさん! そこんトコどうなんですか!?」
またぞろティスリに聞こうとするので、今度はオレもすぐに遮る。
「ノーコメントだ、ノーコメント。ってか今後、お前がティスリと話したいときは、いちどオレを通せ」
「お前はティスリさんのなんなんだよ!?」
「だから護衛だって言ってんだろ」
「ただの護衛が、人の恋路を邪魔していい道理にはならないだろ!」
「恋路にもなってないだろ、お前の場合。そもそも、オレはお前の身を案じて言ってんだぞ?」
「身を案じてって……どういう意味だよ?」
「お前は、ティスリの怖さを知らないんだよ」
「はぁ? 怖さ?」
「そうだよ。かつてコイツが、いったいどれだけの男を、魔法で屠ってきたと思ってんだ。今日も農場で魔法を使ってただろ」
「ほ、屠ってきた……?」
「まぁ正確には、命に別状はなくて黒焦げになっただけだったが、けどメチャクチャ痛そうだったぞ?」
「え……まぢで?」
「まぢだよまぢ。前に領都にいたときなんか、訓練された兵士たちを一撃のもとに沈めたんだからな」
「へ、兵士を……?」
「そうだよ。日頃からの訓練で、怪我にはそれなりに耐性があるはずの兵士達が、情けないまでに悶絶してたんだからな」
「も、もんぜつ……」
「しかもティスリのヤツ、回復魔法も使えるくせに、そいつらには使ってやらなかったんだ。まぁ命に別状はなかったとはいえ、むしろだからこそ、ある意味ちょっとした拷問だったなアレは」
「ご、ごうもん……!」
「そんなティスリが、男避けしたいって言ってるのに、お前がそんなガンガン言い寄ったら、心証が悪くなるのは当たり前だろ。下手すりゃ攻撃されるぞ。だからオレは、お前の身を案じて──」
「ね、ねぇ……アルデ……アルデ……!」
──と、ティスリが如何に強いかをナーヴィンに言って聞かせていたら。
なぜか慌てた様子のミアが声を掛けてきた。
「ん? どしたミア……」
するとミアは、くいくいっと、オレの隣の席を指差している。
その指差す方向には……ティスリがいた。
満面の笑顔で。
……………………えーと。
さきほど、ナーヴィンに向けていた微笑とはまるで違う。だから今の笑顔がヤヴァイ代物だということは……オレにも分かった。
「オレ………………嘘は言ってないよな?」
にこにこ……
「そもそも、うるさいナーヴィンを黙らせるにはこうするしかなかったわけで……」
にこにこ、にこにこ……
「お前だって鬱陶しく絡まれるのはイヤだろ? だったらいっそ、ここで威嚇行為をしていたほうがいいわけで……」
にこにこにこにこ……!
「オレは職務に忠実だっただけで、やましいことは何一つしていないぜ!?」
にこにこ、ぷっちん。
「主の陰口を堂々と叩いておいてソレですか!?」
そしてティスリは、唐突にキレた。
このままでは黒焦げにされるのはこっちじゃねーか!?
だからオレは覚悟を決めて応戦する!
「本人の前で言ってんだから陰口じゃねーよ!?」
「言葉尻を捕らないでください! そもそもモノには言い方もあるでしょう!?」
「言い方も何も、ぜんぶ本当のことじゃねーか!」
「あのときは襲撃されたんだから当然だったでしょ! ただの民間人を黒焦げにしたことなんてありませんよ!」
「おまい、出会ったときオレを爆殺しようとしたじゃねーか!?」
「それは、あなたがわたしの寝込みを襲おうとしたからでしょう!」
「襲ってねーよ!? けど爆弾抱えて寝ているような状況を一言も言ってこないなんて──」
「ちょっとあんたたち!?」
オレとティスリが舌戦を繰り広げていたその下で、ユイナスがバンッとテーブルを叩く。
あ、やべ……ユイナスがいたのを忘れてた。
ユイナスには、ティスリの醜聞はあまり聞かせたくなかったんだが……ナーヴィンがあまりにしつこくて、つい……
そのユイナスは、怒りの炎を背負いながら、静かに口を開く。
「爆殺だとか、寝込みを襲うだとか……いったいどういうことなのかしら?」
なぜかユイナスに気に入られようとしているティスリは、さきほどまでの怒りは消し飛んでワタワタしていた。
「ユ、ユイナスさん……誤解、そこはまったくの誤解なんです……!」
「なら、男どもを黒焦げにしたのは本当なのね?」
「い、いやですから……それは知人が襲撃を受けてやむを得ず……」
「そもそも! 襲撃を受けるとかいう状況がおかしいんだけど!?」
ティスリではユイナスを言い含められそうにないので、オレも仲裁に入った。
「まぁ待てユイナス。ちゃんと、順を追って話すから──」
「お兄ちゃんも! この女を襲ったってどういうこと!?」
「襲ってねぇしそれこそ誤解だ!」
そんな感じで、ユイナスをなだめるのに小一時間近く掛かってしまう。
はぁ……まったく……
ティスリが黙っていさえすれば、話はここまでややこしくならなかったというのに……
確かにオレも、なんだかちょっとイライラしてて言いすぎたかもしれないけどさ……
ナーヴィンのときは、王女様っぽい微笑を浮かべて、ヤツの戯れ言を上手く交わしていたんだから、オレのちょっとした失言だって多めに見てくれてもいいだろ。
なのにオレがちょっと何か言うと、ティスリはオレにだけムキになってくるんだからさぁ。
外面の良さを、もうちょっとオレに向けてもいいだろ、とオレは内心ぐちぐち愚痴るのだった……
(to be continued──)
アルデたち五人で開催された飲み会が始まると、ナーヴィンは、何かにつけてはティスリに話しかけていた。
「わたしは王都出身ですよ」
「王都! そりゃまたすげぇですねぇ」
「別にすごくなんてありませんよ。たまたま生まれたに過ぎないのですから」
王族のティスリがそういうのも妙な話ではあるけどなぁ。
平民が生まれた場所ならともかく、王侯貴族の場合は出身地=身分という認識だから、普通は「たまたま」なんて言わない。「神様から賜った領地と身分」という話だからな。
だというのに、貴族のトップである王族のティスリが「生まれた場所なんてたまたま」というのだから不思議な気分だ。なぜなら「身分なんてたまたま」と言っているのにも等しいわけで。
今は平民のフリをしているとはいえ、よくよく考えたら、普通の貴族は平民のフリなんてしたがらないだろうし、やむを得ずしたところで、今のような発言は絶対にしないだろうな。
オレがそんなことを考えていたら、ナーヴィンがさらに聞いていた。
「仕事は政商って聞いてましたが、王都ではどんな仕事をしてたんですか?」
「主に嗜好品や高級品を王城に納めていたんですよ。いわゆる交易ですね。例えば香辛料とか絹などを取り扱っていました」
「ははぁ……それもすげぇですね。高級品なんて、オレは見たこともないですよ……」
「大したものではありませんよ。なくてもぜんぜん困りませんし」
「けど政商ってことは、貴族相手の商売だったんでしょう? 貴族との商談は何かと大変だって聞きましたけど、平気でしたか?」
ナーヴィンよ……お前は今、その貴族の親玉に話しているわけだが……
まぁティスリはそういうところの度量は広いから、気を悪くするはずもないが、ティスリの正体を知っているオレからすると苦笑したくなるな。
そしてオレの予想通り、親玉ティスリは特に気分を害した様子もなく、ナーヴィンの失言を受け流している。
「ええ、とくに問題ありませんでしたね。王城は、王女殿下のお膝元ですから、不正なんて出来なかったのでしょう」
するとナーヴィンは、ちょっと身を乗り出しながらさらに聞いた。
「けど、ティスリさんって美人ですし、貴族や役人達に声を掛けられたりとかは……」
「ふふ。相手は貴族ですよ? 平民のわたしに声を掛けるわけないじゃないですか」
「じゃあ、平民同士は? 商人の仕事って、いろんな人と会うっていうし、取引先の男とかに口説かれたりとか……」
「ふふふ。あり得ませんよ。まぁ包み隠さす言えば、どうも皆さん、わたしの才覚に嫉妬していたか、わたしの魔法を怖がっていたかだったのでしょうね」
「そうなんですか? 商人って見る目ないんですねぇ! オレなら絶対に放っておかないのに!」
「ふふふふ。ナーヴィンさんって、冗談がお上手ですね」
「冗談じゃないですよ!? もしティスリさんがうちの村にいたら、オレは絶対に口説きますね、えぇ!」
「あら、嬉しいですね。ならわたし、この村に生まれたかったです」
「本当ですか!? それじゃあ──」
「ですが残念なことに、わたしは王都生まれですから。ナーヴィンさんに口説かれることはありませんね、今後も」
「いやいやいや、今からでも遅くは──」
「おい、ナーヴィン」
なんだか雲行きが怪しくなってきたので、オレはナーヴィンに声を掛ける。
「そのくらいにしとけ」
そもそもどう聞いたって、ナーヴィンの口説き文句をティスリは完全拒否しているのに、さらに食い下がるのはヤバイ。相手がティスリであるならなおさらだ。
だというのにナーヴィンは、不満げに言ってきた。
「そのくらいってなんだよ? 男女で飲み会してたら、このくらいの会話は普通だろ?」
「そもそも今日は、そういう飲み会じゃねーんだっつーの」
「じゃあ、男女が集まってるのになんの飲み会だってんだよ」
「村の連中とティスリの親睦を深めるのが目的だったんだよ。なのにお前が、みんなを連れてこなかったから……」
「それはオレのせいじゃなくて、ミアのせいだろ」
話の矛先がミアに向かい、ミアは肩を落として「ごめんなさい……」と頭を下げてくる。
「あ、いや別に、ミアを責めたいわけじゃないぞ……? みんなに伝えなかったオレも悪かったしな」
オレがミアをフォローしていたら、ナーヴィンはすかさずティスリに話を向けていた。
「それでそれでティスリさん、この際もうぶっちゃけると、付き合ってる男とかいるんですか……!?」
「はぁ……男性、ですか?」
いやナーヴィンよ……まだ飲み会も序盤だというのにその質問はないだろ? 男女のアレを目的とする飲み会でもそんな切り出し方はないと思うが。
コイツがモテない理由は、まさにこういうトコなんだろうな……
だからオレはため息をつきながら、再び二人の会話を遮った。
「だ・か・ら、そういう話をティスリにするんじゃない」
今は、きょとんとした表情で小首を傾げるティスリだったが、その内心は鬼の形相かもしれないのだ。下手するとナーヴィンの命……までは奪わないにしても、2~3日は起き上がれない体に仕上がるかもしれない。
つまりオレは、ナーヴィンの身を案じて庇ってやっているというのに、ナーヴィンは非常に不満そうだった。
「だからなんだよさっきから。オレが、ティスリさんにどんな話題を振ろうが、アルデには関係ないだろ」
「オレの任務の一つは、ティスリの男避けだっつったろ。だからそういう会話は許さないの」
「どんな任務だよそれ? あ、でも! 男避けしたいってことは、男がいないってことじゃ──」
「バカかお前は。男避けしたいってことは、むしろ男がいるって可能性が高いだろ」
「むむむ……ティスリさん! そこんトコどうなんですか!?」
またぞろティスリに聞こうとするので、今度はオレもすぐに遮る。
「ノーコメントだ、ノーコメント。ってか今後、お前がティスリと話したいときは、いちどオレを通せ」
「お前はティスリさんのなんなんだよ!?」
「だから護衛だって言ってんだろ」
「ただの護衛が、人の恋路を邪魔していい道理にはならないだろ!」
「恋路にもなってないだろ、お前の場合。そもそも、オレはお前の身を案じて言ってんだぞ?」
「身を案じてって……どういう意味だよ?」
「お前は、ティスリの怖さを知らないんだよ」
「はぁ? 怖さ?」
「そうだよ。かつてコイツが、いったいどれだけの男を、魔法で屠ってきたと思ってんだ。今日も農場で魔法を使ってただろ」
「ほ、屠ってきた……?」
「まぁ正確には、命に別状はなくて黒焦げになっただけだったが、けどメチャクチャ痛そうだったぞ?」
「え……まぢで?」
「まぢだよまぢ。前に領都にいたときなんか、訓練された兵士たちを一撃のもとに沈めたんだからな」
「へ、兵士を……?」
「そうだよ。日頃からの訓練で、怪我にはそれなりに耐性があるはずの兵士達が、情けないまでに悶絶してたんだからな」
「も、もんぜつ……」
「しかもティスリのヤツ、回復魔法も使えるくせに、そいつらには使ってやらなかったんだ。まぁ命に別状はなかったとはいえ、むしろだからこそ、ある意味ちょっとした拷問だったなアレは」
「ご、ごうもん……!」
「そんなティスリが、男避けしたいって言ってるのに、お前がそんなガンガン言い寄ったら、心証が悪くなるのは当たり前だろ。下手すりゃ攻撃されるぞ。だからオレは、お前の身を案じて──」
「ね、ねぇ……アルデ……アルデ……!」
──と、ティスリが如何に強いかをナーヴィンに言って聞かせていたら。
なぜか慌てた様子のミアが声を掛けてきた。
「ん? どしたミア……」
するとミアは、くいくいっと、オレの隣の席を指差している。
その指差す方向には……ティスリがいた。
満面の笑顔で。
……………………えーと。
さきほど、ナーヴィンに向けていた微笑とはまるで違う。だから今の笑顔がヤヴァイ代物だということは……オレにも分かった。
「オレ………………嘘は言ってないよな?」
にこにこ……
「そもそも、うるさいナーヴィンを黙らせるにはこうするしかなかったわけで……」
にこにこ、にこにこ……
「お前だって鬱陶しく絡まれるのはイヤだろ? だったらいっそ、ここで威嚇行為をしていたほうがいいわけで……」
にこにこにこにこ……!
「オレは職務に忠実だっただけで、やましいことは何一つしていないぜ!?」
にこにこ、ぷっちん。
「主の陰口を堂々と叩いておいてソレですか!?」
そしてティスリは、唐突にキレた。
このままでは黒焦げにされるのはこっちじゃねーか!?
だからオレは覚悟を決めて応戦する!
「本人の前で言ってんだから陰口じゃねーよ!?」
「言葉尻を捕らないでください! そもそもモノには言い方もあるでしょう!?」
「言い方も何も、ぜんぶ本当のことじゃねーか!」
「あのときは襲撃されたんだから当然だったでしょ! ただの民間人を黒焦げにしたことなんてありませんよ!」
「おまい、出会ったときオレを爆殺しようとしたじゃねーか!?」
「それは、あなたがわたしの寝込みを襲おうとしたからでしょう!」
「襲ってねーよ!? けど爆弾抱えて寝ているような状況を一言も言ってこないなんて──」
「ちょっとあんたたち!?」
オレとティスリが舌戦を繰り広げていたその下で、ユイナスがバンッとテーブルを叩く。
あ、やべ……ユイナスがいたのを忘れてた。
ユイナスには、ティスリの醜聞はあまり聞かせたくなかったんだが……ナーヴィンがあまりにしつこくて、つい……
そのユイナスは、怒りの炎を背負いながら、静かに口を開く。
「爆殺だとか、寝込みを襲うだとか……いったいどういうことなのかしら?」
なぜかユイナスに気に入られようとしているティスリは、さきほどまでの怒りは消し飛んでワタワタしていた。
「ユ、ユイナスさん……誤解、そこはまったくの誤解なんです……!」
「なら、男どもを黒焦げにしたのは本当なのね?」
「い、いやですから……それは知人が襲撃を受けてやむを得ず……」
「そもそも! 襲撃を受けるとかいう状況がおかしいんだけど!?」
ティスリではユイナスを言い含められそうにないので、オレも仲裁に入った。
「まぁ待てユイナス。ちゃんと、順を追って話すから──」
「お兄ちゃんも! この女を襲ったってどういうこと!?」
「襲ってねぇしそれこそ誤解だ!」
そんな感じで、ユイナスをなだめるのに小一時間近く掛かってしまう。
はぁ……まったく……
ティスリが黙っていさえすれば、話はここまでややこしくならなかったというのに……
確かにオレも、なんだかちょっとイライラしてて言いすぎたかもしれないけどさ……
ナーヴィンのときは、王女様っぽい微笑を浮かべて、ヤツの戯れ言を上手く交わしていたんだから、オレのちょっとした失言だって多めに見てくれてもいいだろ。
なのにオレがちょっと何か言うと、ティスリはオレにだけムキになってくるんだからさぁ。
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