孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
120 / 245
第3章

番外編3 ティスリとナーヴィン(とアルデ)

しおりを挟む
「ティスリさん、出身地ってどこなんですか?」

 アルデオレたち五人で開催された飲み会が始まると、ナーヴィンは、何かにつけてはティスリに話しかけていた。

「わたしは王都出身ですよ」

「王都! そりゃまたすげぇですねぇ」

「別にすごくなんてありませんよ。たまたま生まれたに過ぎないのですから」

 王族のティスリがそういうのも妙な話ではあるけどなぁ。

 平民が生まれた場所ならともかく、王侯貴族の場合は出身地=身分という認識だから、普通は「たまたま」なんて言わない。「神様から賜った領地と身分」という話だからな。

 だというのに、貴族のトップである王族のティスリが「生まれた場所なんてたまたま」というのだから不思議な気分だ。なぜなら「身分なんてたまたま」と言っているのにも等しいわけで。

 今は平民のフリをしているとはいえ、よくよく考えたら、普通の貴族は平民のフリなんてしたがらないだろうし、やむを得ずしたところで、今のような発言は絶対にしないだろうな。

 オレがそんなことを考えていたら、ナーヴィンがさらに聞いていた。

「仕事は政商って聞いてましたが、王都ではどんな仕事をしてたんですか?」

「主に嗜好品や高級品を王城に納めていたんですよ。いわゆる交易ですね。例えば香辛料とか絹などを取り扱っていました」

「ははぁ……それもすげぇですね。高級品なんて、オレは見たこともないですよ……」

「大したものではありませんよ。なくてもぜんぜん困りませんし」

「けど政商ってことは、貴族相手の商売だったんでしょう? 貴族との商談は何かと大変だって聞きましたけど、平気でしたか?」

 ナーヴィンよ……お前は今、その貴族の親玉に話しているわけだが……

 まぁティスリはそういうところの度量は広いから、気を悪くするはずもないが、ティスリの正体を知っているオレからすると苦笑したくなるな。

 そしてオレの予想通り、親玉ティスリは特に気分を害した様子もなく、ナーヴィンの失言を受け流している。

「ええ、とくに問題ありませんでしたね。王城は、王女殿下のお膝元ですから、不正なんて出来なかったのでしょう」

 するとナーヴィンは、ちょっと身を乗り出しながらさらに聞いた。

「けど、ティスリさんって美人ですし、貴族や役人達に声を掛けられたりとかは……」

「ふふ。相手は貴族ですよ? 平民のわたしに声を掛けるわけないじゃないですか」

「じゃあ、平民同士は? 商人の仕事って、いろんな人と会うっていうし、取引先の男とかに口説かれたりとか……」

「ふふふ。あり得ませんよ。まぁ包み隠さす言えば、どうも皆さん、わたしの才覚に嫉妬していたか、わたしの魔法を怖がっていたかだったのでしょうね」

「そうなんですか? 商人って見る目ないんですねぇ! オレなら絶対に放っておかないのに!」

「ふふふふ。ナーヴィンさんって、冗談がお上手ですね」

「冗談じゃないですよ!? もしティスリさんがうちの村にいたら、オレは絶対に口説きますね、えぇ!」

「あら、嬉しいですね。ならわたし、この村に生まれたかったです」

「本当ですか!? それじゃあ──」

「ですが残念なことに、わたしは王都生まれですから。ナーヴィンさんに口説かれることはありませんね、今後も」

「いやいやいや、今からでも遅くは──」

「おい、ナーヴィン」

 なんだか雲行きが怪しくなってきたので、オレはナーヴィンに声を掛ける。

「そのくらいにしとけ」

 そもそもどう聞いたって、ナーヴィンの口説き文句をティスリは完全拒否しているのに、さらに食い下がるのはヤバイ。相手がティスリであるならなおさらだ。

 だというのにナーヴィンは、不満げに言ってきた。

「そのくらいってなんだよ? 男女で飲み会してたら、このくらいの会話は普通だろ?」

「そもそも今日は、そういう飲み会じゃねーんだっつーの」

「じゃあ、男女が集まってるのになんの飲み会だってんだよ」

「村の連中とティスリの親睦を深めるのが目的だったんだよ。なのにお前が、みんなを連れてこなかったから……」

「それはオレのせいじゃなくて、ミアのせいだろ」

 話の矛先がミアに向かい、ミアは肩を落として「ごめんなさい……」と頭を下げてくる。

「あ、いや別に、ミアを責めたいわけじゃないぞ……? みんなに伝えなかったオレも悪かったしな」

 オレがミアをフォローしていたら、ナーヴィンはすかさずティスリに話を向けていた。

「それでそれでティスリさん、この際もうぶっちゃけると、付き合ってる男とかいるんですか……!?」

「はぁ……男性、ですか?」

 いやナーヴィンよ……まだ飲み会も序盤だというのにその質問はないだろ? 男女のアレを目的とする飲み会でもそんな切り出し方はないと思うが。

 コイツがモテない理由は、まさにこういうトコなんだろうな……

 だからオレはため息をつきながら、再び二人の会話を遮った。

「だ・か・ら、そういう話をティスリにするんじゃない」

 今は、きょとんとした表情で小首を傾げるティスリだったが、その内心は鬼の形相かもしれないのだ。下手するとナーヴィンの命……までは奪わないにしても、2~3日は起き上がれない体に仕上がるかもしれない。

 つまりオレは、ナーヴィンの身を案じて庇ってやっているというのに、ナーヴィンは非常に不満そうだった。

「だからなんだよさっきから。オレが、ティスリさんにどんな話題を振ろうが、アルデには関係ないだろ」

「オレの任務の一つは、ティスリの男避けだっつったろ。だからそういう会話は許さないの」

「どんな任務だよそれ? あ、でも! 男避けしたいってことは、男がいないってことじゃ──」

「バカかお前は。男避けしたいってことは、むしろ男がいるって可能性が高いだろ」

「むむむ……ティスリさん! そこんトコどうなんですか!?」

 またぞろティスリに聞こうとするので、今度はオレもすぐに遮る。

「ノーコメントだ、ノーコメント。ってか今後、お前がティスリと話したいときは、いちどオレを通せ」

「お前はティスリさんのなんなんだよ!?」

「だから護衛だって言ってんだろ」

「ただの護衛が、人の恋路を邪魔していい道理にはならないだろ!」

「恋路にもなってないだろ、お前の場合。そもそも、オレはお前の身を案じて言ってんだぞ?」

「身を案じてって……どういう意味だよ?」

「お前は、ティスリの怖さを知らないんだよ」

「はぁ? 怖さ?」

「そうだよ。かつてコイツが、いったいどれだけの男を、魔法でほふってきたと思ってんだ。今日も農場で魔法を使ってただろ」

「ほ、屠ってきた……?」

「まぁ正確には、命に別状はなくて黒焦げになっただけだったが、けどメチャクチャ痛そうだったぞ?」

「え……まぢで?」

「まぢだよまぢ。前に領都にいたときなんか、訓練された兵士たちを一撃のもとに沈めたんだからな」

「へ、兵士を……?」

「そうだよ。日頃からの訓練で、怪我にはそれなりに耐性があるはずの兵士達が、情けないまでに悶絶してたんだからな」

「も、もんぜつ……」

「しかもティスリのヤツ、回復魔法も使えるくせに、そいつらには使ってやらなかったんだ。まぁ命に別状はなかったとはいえ、むしろだからこそ、ある意味ちょっとした拷問だったなアレは」

「ご、ごうもん……!」

「そんなティスリが、男避けしたいって言ってるのに、お前がそんなガンガン言い寄ったら、心証が悪くなるのは当たり前だろ。下手すりゃ攻撃されるぞ。だからオレは、お前の身を案じて──」

「ね、ねぇ……アルデ……アルデ……!」

 ──と、ティスリが如何に強いかをナーヴィンに言って聞かせていたら。

 なぜか慌てた様子のミアが声を掛けてきた。

「ん? どしたミア……」

 するとミアは、くいくいっと、オレの隣の席を指差している。

 その指差す方向には……ティスリがいた。

 満面の笑顔で。

 ……………………えーと。

 さきほど、ナーヴィンに向けていた微笑とはまるで違う。だから今の笑顔がヤヴァイ代物だということは……オレにも分かった。

「オレ………………嘘は言ってないよな?」

 にこにこ……

「そもそも、うるさいナーヴィンを黙らせるにはこうするしかなかったわけで……」

 にこにこ、にこにこ……

「お前だって鬱陶しく絡まれるのはイヤだろ? だったらいっそ、ここで威嚇行為をしていたほうがいいわけで……」

 にこにこにこにこ……!

「オレは職務に忠実だっただけで、やましいことは何一つしていないぜ!?」

 にこにこ、ぷっちん。

「主の陰口を堂々と叩いておいてソレですか!?」

 そしてティスリは、唐突にキレた。

 このままでは黒焦げにされるのはこっちじゃねーか!?

 だからオレは覚悟を決めて応戦する!

「本人の前で言ってんだから陰口じゃねーよ!?」

「言葉尻を捕らないでください! そもそもモノには言い方もあるでしょう!?」

「言い方も何も、ぜんぶ本当のことじゃねーか!」

「あのときは襲撃されたんだから当然だったでしょ! ただの民間人を黒焦げにしたことなんてありませんよ!」

「おまい、出会ったときオレを爆殺しようとしたじゃねーか!?」

「それは、あなたがわたしの寝込みを襲おうとしたからでしょう!」

「襲ってねーよ!? けど爆弾抱えて寝ているような状況を一言も言ってこないなんて──」

「ちょっとあんたたち!?」

 オレとティスリが舌戦を繰り広げていたその下で、ユイナスがバンッとテーブルを叩く。

 あ、やべ……ユイナスがいたのを忘れてた。

 ユイナスには、ティスリの醜聞はあまり聞かせたくなかったんだが……ナーヴィンがあまりにしつこくて、つい……

 そのユイナスは、怒りの炎を背負いながら、静かに口を開く。

「爆殺だとか、寝込みを襲うだとか……いったいどういうことなのかしら?」

 なぜかユイナスに気に入られようとしているティスリは、さきほどまでの怒りは消し飛んでワタワタしていた。

「ユ、ユイナスさん……誤解、そこはまったくの誤解なんです……!」

「なら、男どもを黒焦げにしたのは本当なのね?」

「い、いやですから……それは知人が襲撃を受けてやむを得ず……」

「そもそも! 襲撃を受けるとかいう状況がおかしいんだけど!?」

 ティスリではユイナスを言い含められそうにないので、オレも仲裁に入った。

「まぁ待てユイナス。ちゃんと、順を追って話すから──」

「お兄ちゃんも! この女を襲ったってどういうこと!?」

「襲ってねぇしそれこそ誤解だ!」

 そんな感じで、ユイナスをなだめるのに小一時間近く掛かってしまう。

 はぁ……まったく……

 ティスリが黙っていさえすれば、話はここまでややこしくならなかったというのに……

 確かにオレも、なんだかちょっとイライラしてて言いすぎたかもしれないけどさ……

 ナーヴィンのときは、王女様っぽい微笑を浮かべて、ヤツの戯れ言を上手く交わしていたんだから、オレのちょっとした失言だって多めに見てくれてもいいだろ。

 なのにオレがちょっと何か言うと、ティスリはオレにだけムキになってくるんだからさぁ。

 外面の良さを、もうちょっとオレに向けてもいいだろ、とオレは内心ぐちぐち愚痴るのだった……

(to be continued──)
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

処理中です...