112 / 192
第3章
第27話 お前なら、火中の栗くらい拾えそうだな
しおりを挟む
アルデは、ティスリが気を使ってくれているとはちょっと信じられなかったが……オレがそんな戸惑いを感じている内に、昼休憩は終わってしまう。
村の若い連中とティスリは、一通りの面通しを終えて、あとはナーヴィンを中心に雑談をしているようだが、そこにウルグが声を掛けた。
「ほーれ、休憩時間はもう終わりじゃぞ。自分の仕事に戻れ」
すると全員がブーイングを上げる。なんだが学校のノリそのまんまだな。卒業してけっこう経つというのに。
そんな感じでオレが呆れていると、ティスリがウルグを見た。
「ウルグさん、午前中の農作業で、実は提案があるんです。もしよろしければ、彼らにもその提案を見せたいのですが」
ティスリにそう言われ、ウルグは首を傾げた。
「別に構わんが、提案とはなんじゃ?」
「午前中に農作業をやりながら、ちょっとした魔法を作りまして」
「魔法を作った? さっき使ってくれたヤツではないのか?」
「あれは農作業用の魔法ではありませんでしたので、だから専用の魔法を作りました。その魔法を皆さんで見て頂いて、より改良を加えたいのです。上手くいけば今後の作業がラクになると思います」
「本当か? ならばぜひ見せてほしいぞ」
ということでオレたちは、ナーヴィン達共々、畑に戻ることになった。
ティスリは、魔法の説明をウルグさんにしながら歩いて行くので、その少し後ろを付いていく。魔法や農業の説明を聞いても分からないしな。
するとナーヴィンがオレに声を掛けてくる。
「オレ、魔法を見るなんて初めてだぞ」
「そりゃそうだろうな。衛士をやっていたオレだって、滅多に魔法は見られなかったんだから」
オレがそう言うと、ナーヴィンが感心しながら言ってくる。
「それにしてもティスリさんはすごいな。魔法まで作れるなんて」
「まぁなぁ……」
そもそもの話をすれば、農作業をやりながら、頭の中だけで魔法を開発するなんて、魔法の研究者をやっている人間だって出来ないと思うが……
ティスリの天才ぶりをナーヴィンに伝えたら、ますます興味を持たれてしまうだろうからオレは黙っておく。
「にしてもアルデより強くて、政商の娘で魔法士で、それでいてあんなに美少女で……完全無欠じゃね?」
「そうだなぁ……」
それを補って余りあるほどに気が強くて生意気なのだが、前を歩くティスリに聞かれてもまずいのでオレは言わないでおく。
「それでいて、性格もおしとやかで上品で気品に満ちているし。オレたちと同じ平民だなんて思えないよな」
「あぁ………………」
コイツはティスリの一体何を見ているのやら?
オレは、ティスリの性格やこれまでの所業を洗いざらいぶちまけたい衝動に駆られるも、すぐ後ろにユイナスが歩いているのでかろうじて堪える。
「なぁアルデ。ティスリさんの護衛、オレと変わってくれない?」
「あのなぁ……お前は戦えないだろ」
「じゃあオレを追加ってことで。どうせお前のことだから、ティスリさんの世話は出来ないんだろ? それをオレがやるから」
「そもそも男が女性の世話なんて出来るか。それにティスリは、侍女とかいなくても自分一人でなんでもやれるぞ」
「じゃあ何でもいいから、ティスリさんの旅にオレを連れていってくれよ。もともとオレだって村を出るつもりだったし」
「ダメに決まってんだろ」
「なんでだよー?」
「お前を連れてったところで、なんのメリットもないからだよ」
「それをいうならアルデだって同じじゃん。彼女、自分の身は自分で守れるんだろ」
「それは………………まぁ、そうかもしれないが……」
そう言われてみれば、守護の指輪一つとっても、ティスリに護衛なんてまったく必要ないだろう。
強いていえば平民の文化や慣習に疎いくらいだったが、ここ数カ月の旅でそれも理解しただろうし。となると従者の役割も必要なさそうだ。
…………あれ?
オレってもしかして、たいして仕事してなくない?
ティスリといると、王城半壊したり、領主を逮捕したり、たぶん明日には不正を働く役人を縛り上げに行ったりするのだろうけれど、だから字面だけ見ればとんでもない事態に巻き込まれているわけだが、ティスリがいればなんとでもなるし。
となると、それでも旅のお供が必要ってことなら……別にナーヴィンでもいいってことになるわけで……
ティスリって、なんでオレを雇ってるんだ……?
「おーい、おーいアルデ。人の話を聞いてるのか?」
「え、あ……な、なんだよ」
名前を呼ばれて我に返ると、ナーヴィンが話を続けてきた。
「だから、オレを連れていったら得られるメリットを説明しただろ」
ぜんぜん聞いてなかったが、いずれにしろ、ナーヴィンを旅に連れて行くメリットなんてゼロに変わりないが……
言い出したら引かないナーヴィンは、放っておいたらティスリに詰め寄って、せっかく猫を被っているというのに、しつこく絡んだ末に本気で怒らせかねない。
そうなると、やっぱり後が面倒だ。
「あー……ならちょっとした試験をして、それをパスできるなら考えてもいい」
「試験? どんな試験だ?」
「まぁティスリにも聞いてみないとだが、明日あたりに、オレたちはちょっと野暮用で町役場にいくからな。もしそこで功績を挙げられたなら、旅の同行を考えてもいいぞ」
「町役場って、村長さんが納税しに行ったりしている場所のことか?」
「ああ、そうだ」
「お貴族様の詰所みたいな場所に、なんの用があるんだよ」
ぽかんとするナーヴィンにオレはニヤリと笑う。
「付いてくれば分かるさ。それとも、貴族相手の面倒事はイヤか?」
「と、とんでもない!」
ナーヴィンは、勢いよく首を横に振る。
「ティスリさんと一緒にいられるのなら、例え火の中・水の中だ!」
「よく言った。お前なら、火中の栗くらい拾えそうだな」
「………………え?」
オレがそう言うと、ナーヴィンはぽかんとして言ってくる。
「いやあの……本気で火の中に飛び込むわけじゃないよな?」
「当たり前だろ。あくまでも例えだ例え」
ナーヴィンがちょっと狼狽えていると、オレたちはミアの麦畑へと戻ってくる。
するとティスリが振り返り、みんなに言った。
「それではこれから、刈り取り魔法の実演をしてみますので、皆さん、わたしの後ろで確認してみてください」
村の若い連中とティスリは、一通りの面通しを終えて、あとはナーヴィンを中心に雑談をしているようだが、そこにウルグが声を掛けた。
「ほーれ、休憩時間はもう終わりじゃぞ。自分の仕事に戻れ」
すると全員がブーイングを上げる。なんだが学校のノリそのまんまだな。卒業してけっこう経つというのに。
そんな感じでオレが呆れていると、ティスリがウルグを見た。
「ウルグさん、午前中の農作業で、実は提案があるんです。もしよろしければ、彼らにもその提案を見せたいのですが」
ティスリにそう言われ、ウルグは首を傾げた。
「別に構わんが、提案とはなんじゃ?」
「午前中に農作業をやりながら、ちょっとした魔法を作りまして」
「魔法を作った? さっき使ってくれたヤツではないのか?」
「あれは農作業用の魔法ではありませんでしたので、だから専用の魔法を作りました。その魔法を皆さんで見て頂いて、より改良を加えたいのです。上手くいけば今後の作業がラクになると思います」
「本当か? ならばぜひ見せてほしいぞ」
ということでオレたちは、ナーヴィン達共々、畑に戻ることになった。
ティスリは、魔法の説明をウルグさんにしながら歩いて行くので、その少し後ろを付いていく。魔法や農業の説明を聞いても分からないしな。
するとナーヴィンがオレに声を掛けてくる。
「オレ、魔法を見るなんて初めてだぞ」
「そりゃそうだろうな。衛士をやっていたオレだって、滅多に魔法は見られなかったんだから」
オレがそう言うと、ナーヴィンが感心しながら言ってくる。
「それにしてもティスリさんはすごいな。魔法まで作れるなんて」
「まぁなぁ……」
そもそもの話をすれば、農作業をやりながら、頭の中だけで魔法を開発するなんて、魔法の研究者をやっている人間だって出来ないと思うが……
ティスリの天才ぶりをナーヴィンに伝えたら、ますます興味を持たれてしまうだろうからオレは黙っておく。
「にしてもアルデより強くて、政商の娘で魔法士で、それでいてあんなに美少女で……完全無欠じゃね?」
「そうだなぁ……」
それを補って余りあるほどに気が強くて生意気なのだが、前を歩くティスリに聞かれてもまずいのでオレは言わないでおく。
「それでいて、性格もおしとやかで上品で気品に満ちているし。オレたちと同じ平民だなんて思えないよな」
「あぁ………………」
コイツはティスリの一体何を見ているのやら?
オレは、ティスリの性格やこれまでの所業を洗いざらいぶちまけたい衝動に駆られるも、すぐ後ろにユイナスが歩いているのでかろうじて堪える。
「なぁアルデ。ティスリさんの護衛、オレと変わってくれない?」
「あのなぁ……お前は戦えないだろ」
「じゃあオレを追加ってことで。どうせお前のことだから、ティスリさんの世話は出来ないんだろ? それをオレがやるから」
「そもそも男が女性の世話なんて出来るか。それにティスリは、侍女とかいなくても自分一人でなんでもやれるぞ」
「じゃあ何でもいいから、ティスリさんの旅にオレを連れていってくれよ。もともとオレだって村を出るつもりだったし」
「ダメに決まってんだろ」
「なんでだよー?」
「お前を連れてったところで、なんのメリットもないからだよ」
「それをいうならアルデだって同じじゃん。彼女、自分の身は自分で守れるんだろ」
「それは………………まぁ、そうかもしれないが……」
そう言われてみれば、守護の指輪一つとっても、ティスリに護衛なんてまったく必要ないだろう。
強いていえば平民の文化や慣習に疎いくらいだったが、ここ数カ月の旅でそれも理解しただろうし。となると従者の役割も必要なさそうだ。
…………あれ?
オレってもしかして、たいして仕事してなくない?
ティスリといると、王城半壊したり、領主を逮捕したり、たぶん明日には不正を働く役人を縛り上げに行ったりするのだろうけれど、だから字面だけ見ればとんでもない事態に巻き込まれているわけだが、ティスリがいればなんとでもなるし。
となると、それでも旅のお供が必要ってことなら……別にナーヴィンでもいいってことになるわけで……
ティスリって、なんでオレを雇ってるんだ……?
「おーい、おーいアルデ。人の話を聞いてるのか?」
「え、あ……な、なんだよ」
名前を呼ばれて我に返ると、ナーヴィンが話を続けてきた。
「だから、オレを連れていったら得られるメリットを説明しただろ」
ぜんぜん聞いてなかったが、いずれにしろ、ナーヴィンを旅に連れて行くメリットなんてゼロに変わりないが……
言い出したら引かないナーヴィンは、放っておいたらティスリに詰め寄って、せっかく猫を被っているというのに、しつこく絡んだ末に本気で怒らせかねない。
そうなると、やっぱり後が面倒だ。
「あー……ならちょっとした試験をして、それをパスできるなら考えてもいい」
「試験? どんな試験だ?」
「まぁティスリにも聞いてみないとだが、明日あたりに、オレたちはちょっと野暮用で町役場にいくからな。もしそこで功績を挙げられたなら、旅の同行を考えてもいいぞ」
「町役場って、村長さんが納税しに行ったりしている場所のことか?」
「ああ、そうだ」
「お貴族様の詰所みたいな場所に、なんの用があるんだよ」
ぽかんとするナーヴィンにオレはニヤリと笑う。
「付いてくれば分かるさ。それとも、貴族相手の面倒事はイヤか?」
「と、とんでもない!」
ナーヴィンは、勢いよく首を横に振る。
「ティスリさんと一緒にいられるのなら、例え火の中・水の中だ!」
「よく言った。お前なら、火中の栗くらい拾えそうだな」
「………………え?」
オレがそう言うと、ナーヴィンはぽかんとして言ってくる。
「いやあの……本気で火の中に飛び込むわけじゃないよな?」
「当たり前だろ。あくまでも例えだ例え」
ナーヴィンがちょっと狼狽えていると、オレたちはミアの麦畑へと戻ってくる。
するとティスリが振り返り、みんなに言った。
「それではこれから、刈り取り魔法の実演をしてみますので、皆さん、わたしの後ろで確認してみてください」
1
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる