孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

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第3章

第19話 アルデとわたしは他人なのですから

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 村の案内をしてもらったティスリわたしは、日も暮れた時分にアルデの実家へと帰ってきました。

 するとアサーニさんが、わたしのために部屋を用意してくれていて、「夕食までゆっくりしてね」とのこと。なのでわたしはお言葉に甘えることにしました。

 そうしてわたしは個室のベッドに腰掛けて、今日のことを振り返ります。

 生まれて初めて見た広大な麦畑は、とても素晴らしくて感動的でした。

 出会った村人達も親切な方ばかりでしたし、アルデのご家族もよくしてくれます。妹さんに嫌われてしまったのは残念ですが、まだ出会ったばかりですし、これから挽回できるかもしれません。

 さらには明日、農業体験までできるのですから、この村に来た成果としては十二分過ぎるでしょう。

 だというのに、わたしは苛立ちを隠せずにいました。

「アルデのせいで、いい気分が台無しです……!」

 わたしは、あのときのアルデの台詞を思い出し、だから苛立たしさも再燃し始めます。

 護衛として、、、、、、お前とティスリだけで食事させるのは認められない──というあの台詞。

 『護衛だから男避けをしている』ということは、アルデがわたしの護衛でなければ、わたしが異性に絡まれていても放置ということですよね……!

 確かにわたしは、護衛任務の一つに男避けを入れたかもしれませんが、あんな、あからさまに護衛だと言わなくても別に構わないでしょう……!?

 っていうかあの場面で護衛だと主張する必要ありましたか!?

 「二人で食事させるわけにはいかない」とだけ言えばよかったでしょ!

 まったくアルデときたら!

 なんでああやって他人行儀な台詞を──

 他人行儀な……

 他人……

 そうしてわたしは、ハタと気づきます。

「それは……そうですよね……アルデとわたしは、そもそも他人なのですから」

 アルデとわたしは、ただの雇用関係であり、わたしが雇用主でアルデが従業員。

 アルデはわたしを護衛することが役目で、それに対してわたしは給金を支払う。

 逆を言えば雇用関係がなくなって、わたしが給金を支払わなければ、あるいはアルデが退職を申し出てきたら、それだけで縁が切れる関係なのですから。

 ごく当たり前のことだというのに、わたしはどうして苛立っていたのかしら……

 ふと我に返ってみれば、なんだか今日のわたしはちょっとおかしかった気がします。

 自分から、アルデの交友関係を尋ねたのに、実際に会ってみれば、なんだか心がざわついて……

 それにミアさんのときだって、妙にイライラしてしまったし……

 今になって振り返ってみれば、アルデは別に、何も悪いことはしていませんでしたよね?

 ミアさんとは、思い出話をしていただけなのですから。

 でも強いて言えば……ミアさんは女性ですし、その異性に対して、いくらなんでも気安すぎだとは思いましたが……

 生まれた頃から一緒だと、そういうものなのでしょうか? わたしには異性の幼馴染みがいないからよく分かりませんが……ミアさんも、アルデのことを『手の掛かる弟』と言っていましたし。

 ですが……そうであったとしても、実際に血の繋がりはないわけですから、少なくともアルデのほうは、一定の距離感を保ちつつミアさんと接するべきでは?

 そうでないと、何かの拍子に思わぬことが起こってしまうかもしれませんし……!

 だいたい、アルデはわたしのことを雇用主としか見ていないのに、ミアさんにはなんでああなんです?

 一緒にいた時間がちょっと長いからといって、接する態度にああも差を付けられたら、こっちだって苛立つというものでしょう……!? 雇用関係だとはいえ、わたしたちだって知らない仲じゃないんですから!

 そう──やっぱり悪いのはアルデなのです!

 アルデは、女性に対して、もっと平等に接するべきなんです!

 なんでわたしだけ、まるで腫れ物に触るかのように扱われなければならないんですか!

「やはり、わたしの苛立ちは正当だったのです……!」

 その結論に、わたしの気持ちはおおむね晴れます。なんとなく釈然としない気持ちも少し残りましたが、それは些細なことです。

 アルデと二人になったら、この辺をしっかり諫めなければなりませんね。

 雇用主として!

「そうなのです。わたしとミアさんを平等に扱うよう諫めなければ………………あれ?」

 苛立たしい原因は分かりましたがしかし、アルデにどう言おうかと考え始めると、わたしの思考は止まってしまいます。

 お、おかしいですね……? わたしに考えられないことなどないはずなのに……

 どんな難問であろうとも、普段はすぐ答えが出てくるのに、どうやってアルデを諫めればいいのかが分かりません……!

「えっと……だから……アルデには……ミアさんとわたしを同等に扱うように注意すれば、このイライラは収まるわけで……」

 そう、注意すればいいだけ。

 ただそれだけのはずなのに──

 ──どうして今度は恥ずかしさを感じるのですか!?

 頬が火照っているのが自分でも分かり、わたしは両手で頬を押さえます。

「な、なぜなの……? べ、別に恥ずかしいことは何もないはず……」

 しかし、アルデに注意するイメージをするだけで、気恥ずかしさが止まりません……!

 こ、この感情は……いったいなんなのですか!?

 どうしてこんなに恥ずかしいの……!?

 ──と、わたしが混乱の極みにさしかかろうとしたその直前、扉がノックされます。そして扉の向こうから、アサーニさんが声を掛けてきました。

「ティスリさん、お夕食ができました」

 なのでわたしは、混乱する思考を振り切って、慌てて声を出しました。

「あっ、はい! すぐ行きます」

 い、いけない……ただの想像で心を乱しては……

 このあと、ユイナスさんとも仲良くしたいわけですから、気を引き締めなくては──

 ──と、そこで。

 わたしはまたふと気づきます。

「わたし……どうしてこんなに……ユイナスさんと仲良くしたいのかしら?」

 これまでの人生で、誰かと仲良くなりたいだなんて、わたしは一度だって思ったことがないのに。

 いったい、どうして……?

 観光もかねて立ち寄ったはずのアルデの地元で、こんなに悩まされる羽目になるとは、夢にも思っていなかったわたしなのでした……
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