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第3章
第10話 やはり……アルデがそんなだからでしょうね
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「悪かったなティスリ。まさかユイナスがあんなに突っかかって来るとは思いも寄らなくて」
アルデはシバにリードを付けながらティスリに謝ると、ティスリは、怒っている様子もなく返事をする。
「構いません。こういう事態も想定の一つでしたから」
「そうだったのか? 家族のオレでも想定してなかったのに恐れ入ったな」
「まぁ……家族だから想定できなかったというか、あるいはアルデだからかもしれませんが」
「フォローしてんのか、けなしてんのかどっちなんだよ」
シバにリードを付け終わり、散歩に喜んで尻尾をぶんぶん振っているシバをひと撫でしてからオレは立ち上がる。そうしてティスリと並んで歩き始めながら、オレはぼやいた。
「にしても……なんだってユイナスは、あんなに突っかかるんだろうなぁ……?」
「やはり……アルデがそんなだからでしょうね」
「え……? オレが悪いの?」
「別に、悪いとは言ってませんが……分からないのならもういいです」
歯切れが悪い感じでティスリは顔を逸らす。どうやらそれ以上は説明してくれないようなので、妹の育て方がまずかったのかなぁ……などと考えていると、今さっきユイナスに言われたことを思い出した。
「あ、そうだ。この守護の指輪って、はめてないと効果ないの?」
「ええ。指にはめることが常時起動のスイッチになっていますので」
「そうなのか……だとしたら、村にいる間は外しててもいいか? またぞろ変な誤解を受けるのもイヤだろ?」
「…………変な誤解、ですか」
「……?」
オレの横でティスリが、なんともいえない表情をしているものだから、オレは首を傾げる。怒っているようではなさそうだが、さりとて上機嫌というわけでもないし……
ティスリの感情が分からないなんて初めてかもしれないが、少なくとも怒っているわけではないようなので、オレは念押しで話を続けた。
「それに、この村で危険なことなんてないし、人口の少ない村だから、その手の噂なんてあっという間に広がるし」
するとティスリは頷いてきた。
「そうですね……そもそもが念のために装備しているだけの魔具ですし、外しても構いませんよ。そうしたらわたしも外しておきましょうか」
「護衛対象には付けておいて欲しいところだが……まぁお前ならぜんぜん大丈夫だろうしな」
オレとティスリは、守護の指輪をポケットにしまう。とてつもない効果が付与された魔具だから、本来はきちんとした宝石箱なんかに入れて大切に扱わねばならないと思うのだが……まぁ無くさなければいいか。
そうしてオレたちは、麦畑が広がる田舎道を並んで歩いて行く。シバは尻尾をピンと立てているからご機嫌のようだ。
真っ青な空に黄金色の大地は、ティスリに改めて指摘されてみると、確かに綺麗なもんだった。久しぶりに見る地元の光景は懐かしくもあるし。
日中の日差しはかなり熱いが、吹き抜ける風はいくぶん涼しかったので、王都の夏よりは涼しい感じだ。衛士勤務のときは、あまりの暑さに驚いたものだからな。
そんな天気の中、農作業をしていたおっちゃんおばちゃん達が寄ってきたりして、何度か挨拶しながらも、オレたちは村の中央広場へとやってきた。
中央広場と言っても、そんなご大層なものではなく、一本の大きな樹の回りを十数軒の商店が建ち並ぶという程度のものだ。食品店・日用品店・食堂・酒場があって、それ以外としては、農業に必要な物品を扱う店や、農耕機具や家屋の補修を行う店などが、専門分野ごとに大樹の回りを囲んでいる。
店が少ない割に、広場は100人くらいが集まれるほどに広いが、それは定期的に訪れる隊商のためのものだ。あとは村の祭りや武闘大会なんかもこの場で催される。
そして広場から五分くらい歩いた場所に村長の家があった。村長と言っても貴族ではなく平民で、税金の支払いをとりまとめたり、貴族からの通達を村に知らせたりなど、貴族との折衝を担当する。貴族と村人の板挟みになることも多い損な役割だ。その家屋も、別に立派というわけでもなく普通だ。
オレがそんな説明をティスリにすると、ティスリが聞いてきた。
「村長さんにも挨拶したほうがいいでしょうか?」
「へ?」
思わぬことを言われ、オレは聞き返す。
「わたしはよそ者ですし、政商の娘ということにしていますから、挨拶をするのもおかしくはないでしょう?」
「え……あー……その……そぉだなぁ……?」
「どうして急に歯切れが悪くなったのです?」
「そんなことないガ!?」
「声も裏返っていますよ?」
ティスリに指摘されるまでもなく、オレの挙動がいきなり不審になったのは自分でも分かっている。
べ、別に……やましいことなんてないのだが……
どういうわけか、ティスリを村長宅に連れて行くのは……胸騒ぎがする。
なぜかと言えば村長宅には──
「わふわふ!」
──オレが考え事をしていたら、シバが急に走り出した。考え事をしていたせいで、うっかりリードから手を離してしまう。
「あっ、おいシバ! 急にどうした!?」
シバが向かう先には日用品店があって、たった今、一人の女性が出てきたところだった。
その女性は、突進してくるシバに慌てることもなく、買い物袋を店の軒先に置くと、しゃがんでシバを出迎えた。
「シバ? 一人でどうしたの? お散歩中にアサーニさんとはぐれちゃった?」
シッポをぶんぶん振るシバを抱きとめて、その頭を優しく撫でてから、彼女は周囲を見渡す。飼い主を探すためだろう。
「あっ……」
そうしてすぐに、立ちすくむオレを発見したようだ。ばっちりと目が合う。
やむを得ず──というのも、久しぶりに会ったというのに失礼な話だが、しかし彼女は、胸騒ぎの理由でもあったのだから仕方がない。
「よ、よう……ミア。元気だったか?」
そうしてオレは、片手を上げると幼なじみの元に近づいていった。
アルデはシバにリードを付けながらティスリに謝ると、ティスリは、怒っている様子もなく返事をする。
「構いません。こういう事態も想定の一つでしたから」
「そうだったのか? 家族のオレでも想定してなかったのに恐れ入ったな」
「まぁ……家族だから想定できなかったというか、あるいはアルデだからかもしれませんが」
「フォローしてんのか、けなしてんのかどっちなんだよ」
シバにリードを付け終わり、散歩に喜んで尻尾をぶんぶん振っているシバをひと撫でしてからオレは立ち上がる。そうしてティスリと並んで歩き始めながら、オレはぼやいた。
「にしても……なんだってユイナスは、あんなに突っかかるんだろうなぁ……?」
「やはり……アルデがそんなだからでしょうね」
「え……? オレが悪いの?」
「別に、悪いとは言ってませんが……分からないのならもういいです」
歯切れが悪い感じでティスリは顔を逸らす。どうやらそれ以上は説明してくれないようなので、妹の育て方がまずかったのかなぁ……などと考えていると、今さっきユイナスに言われたことを思い出した。
「あ、そうだ。この守護の指輪って、はめてないと効果ないの?」
「ええ。指にはめることが常時起動のスイッチになっていますので」
「そうなのか……だとしたら、村にいる間は外しててもいいか? またぞろ変な誤解を受けるのもイヤだろ?」
「…………変な誤解、ですか」
「……?」
オレの横でティスリが、なんともいえない表情をしているものだから、オレは首を傾げる。怒っているようではなさそうだが、さりとて上機嫌というわけでもないし……
ティスリの感情が分からないなんて初めてかもしれないが、少なくとも怒っているわけではないようなので、オレは念押しで話を続けた。
「それに、この村で危険なことなんてないし、人口の少ない村だから、その手の噂なんてあっという間に広がるし」
するとティスリは頷いてきた。
「そうですね……そもそもが念のために装備しているだけの魔具ですし、外しても構いませんよ。そうしたらわたしも外しておきましょうか」
「護衛対象には付けておいて欲しいところだが……まぁお前ならぜんぜん大丈夫だろうしな」
オレとティスリは、守護の指輪をポケットにしまう。とてつもない効果が付与された魔具だから、本来はきちんとした宝石箱なんかに入れて大切に扱わねばならないと思うのだが……まぁ無くさなければいいか。
そうしてオレたちは、麦畑が広がる田舎道を並んで歩いて行く。シバは尻尾をピンと立てているからご機嫌のようだ。
真っ青な空に黄金色の大地は、ティスリに改めて指摘されてみると、確かに綺麗なもんだった。久しぶりに見る地元の光景は懐かしくもあるし。
日中の日差しはかなり熱いが、吹き抜ける風はいくぶん涼しかったので、王都の夏よりは涼しい感じだ。衛士勤務のときは、あまりの暑さに驚いたものだからな。
そんな天気の中、農作業をしていたおっちゃんおばちゃん達が寄ってきたりして、何度か挨拶しながらも、オレたちは村の中央広場へとやってきた。
中央広場と言っても、そんなご大層なものではなく、一本の大きな樹の回りを十数軒の商店が建ち並ぶという程度のものだ。食品店・日用品店・食堂・酒場があって、それ以外としては、農業に必要な物品を扱う店や、農耕機具や家屋の補修を行う店などが、専門分野ごとに大樹の回りを囲んでいる。
店が少ない割に、広場は100人くらいが集まれるほどに広いが、それは定期的に訪れる隊商のためのものだ。あとは村の祭りや武闘大会なんかもこの場で催される。
そして広場から五分くらい歩いた場所に村長の家があった。村長と言っても貴族ではなく平民で、税金の支払いをとりまとめたり、貴族からの通達を村に知らせたりなど、貴族との折衝を担当する。貴族と村人の板挟みになることも多い損な役割だ。その家屋も、別に立派というわけでもなく普通だ。
オレがそんな説明をティスリにすると、ティスリが聞いてきた。
「村長さんにも挨拶したほうがいいでしょうか?」
「へ?」
思わぬことを言われ、オレは聞き返す。
「わたしはよそ者ですし、政商の娘ということにしていますから、挨拶をするのもおかしくはないでしょう?」
「え……あー……その……そぉだなぁ……?」
「どうして急に歯切れが悪くなったのです?」
「そんなことないガ!?」
「声も裏返っていますよ?」
ティスリに指摘されるまでもなく、オレの挙動がいきなり不審になったのは自分でも分かっている。
べ、別に……やましいことなんてないのだが……
どういうわけか、ティスリを村長宅に連れて行くのは……胸騒ぎがする。
なぜかと言えば村長宅には──
「わふわふ!」
──オレが考え事をしていたら、シバが急に走り出した。考え事をしていたせいで、うっかりリードから手を離してしまう。
「あっ、おいシバ! 急にどうした!?」
シバが向かう先には日用品店があって、たった今、一人の女性が出てきたところだった。
その女性は、突進してくるシバに慌てることもなく、買い物袋を店の軒先に置くと、しゃがんでシバを出迎えた。
「シバ? 一人でどうしたの? お散歩中にアサーニさんとはぐれちゃった?」
シッポをぶんぶん振るシバを抱きとめて、その頭を優しく撫でてから、彼女は周囲を見渡す。飼い主を探すためだろう。
「あっ……」
そうしてすぐに、立ちすくむオレを発見したようだ。ばっちりと目が合う。
やむを得ず──というのも、久しぶりに会ったというのに失礼な話だが、しかし彼女は、胸騒ぎの理由でもあったのだから仕方がない。
「よ、よう……ミア。元気だったか?」
そうしてオレは、片手を上げると幼なじみの元に近づいていった。
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