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第3章
第5話 いい加減はっきりしないと、そのうち後ろから刺されるぞ?
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アルデが運転する魔動車の助手席で、ティスリは感嘆の声を上げました。
「す、すごい……これが小麦畑なのですね……」
「ああ、ちょうど収穫前に間に合ったな」
昨晩キャンプをした湖畔の森を抜けると、別世界が広がっていました。
なだらかに波打つ大地は、地平線の彼方まで黄金色に輝いています。大地のすべてに、初夏の太陽をふんだんに浴びた小麦が実っていました。まさかこれほどまでに広大だとは想像していませんでした。
その黄金色の大地と青空の境界線からは、入道雲が大きく膨れあがっています。あの雲の上に街があってもおかしくないほどに巨大です。ですがそれ以外に雲はなく、蒼天の空が抜けていき、黄金色に輝く大地と青空のコントラストがまた大変に素晴らしいものでした。
だからわたしは感極まってつぶやきました。
「まさか……我が国にこれほど美しい場所があるとは……」
わたしのその言葉に、アルデは苦笑しています。
「こんなの、農業をしていれば当たり前の景色なんだけどな」
「そうなのですね……しかし、王都に住まう臣民だって、これほどの美しさを知っている人間はあまりいないと思いますよ」
「そうかもしれないな。農村は観光地でもないし。そうしたらちょっと外に出てみるか?」
「そうですね。外の空気も感じてみたいです」
わたしがそう言うと、アルデは、麦畑を突っ切る農道の脇に魔動車を停めました。
魔動車のドアを開けると、夏の熱気が入り込んできます。湖畔の朝は涼しかったですし、魔動車内は氷系魔法で空冷していたので、これほど気温が上昇していることに気づきませんでした。
アルデも驚きの声を上げます。
「あっつ! いよいよ夏の到来だなぁ」
「この辺の気候は暑いのですか?」
「本来ならそれほどでもなくて、暑くても30度くらいかな。で、今日はその暑い日みたいだ」
「そうですか。そうすると王都のほうが暑いようですね」
この地は王都より北に位置していますから、多少は過ごしやすいようです。王都の夏は毎日30度を超えますからね。
わたしはそんなことを思い出しながらも、改めて麦畑を眺めました。目の前の穂を見ると、しっかりと実っているようです。大粒の麦を実らせて穂先が垂れています。
そんな小麦は風に吹かれており、麦畑全体を見渡せば、まるで波のようでした。麦の擦れる音が潮騒のように感じられます。
──と、そんな麦畑の向こうから、一人の男性がこちらにやってきます。農作業をしている農家の方でしょうか。
アルデも気づいたようで、目を凝らしながら言いました。
「あれは……ウルグじいさんか?」
「お知り合いですか?」
「ああ、うちの近所に住んでるじいさんだ。ってか村の人間なら全員顔なじみだけどな──おーい、ウルグじいさーん!」
アルデが手を振ると、向こうから麦わら帽子を被った老人──ウルグさんが歩いてきました。こんがりと日焼けしていて足腰もしっかりしているようです。
そんなウルグさんは、人の良さそうな笑顔をこちらに向けてきました。
「やっぱりアルデかぁ」
「おぅ。じいさんも精が出るな」
「まぁなぁ。それでお前さん、いつ帰ってきたんじゃ?」
「今から帰るとこだよ」
「そうかそうか。しかしお前さん、ずいぶんとめんこい女子を見つけてきたもんじゃなぁ」
話の流れを察して、わたしはにこやかに言いました。
「あの……わたしは別に、アルデの伴侶とかではありませんからね?」
するとウルグさんは気抜けした顔つきになります。
「なんじゃ、結婚相手を家族に紹介するため戻ったんじゃないのか?」
「違います。わたしはアルデの雇用主です」
もういい加減、このやりとりにも慣れてきましたよ?
なのでわたしは、落ち着き払ってにこやかに言いました。
「わたしはティスリ・レイドと言います。政商をしていまして、今は各地を視察中です。そのため、アルデにはわたしの護衛をしてもらっているんです」
「はぁ。なんだ、そういうことか」
ウルグさんは、やれやれと言った感じでアルデに言いました。
「となるとアルデよ、お前さん、いったいいつになったら結婚するんじゃ?」
ウルグさんのその問いかけに、アルデは面倒そうな顔つきで答えます。
「いつって言われてもな。そのうちだよ、そのうち」
「お前さんもいい歳じゃろが。王都にまで行ったというのに、女子の一人も見つけられんとは、どんだけ甲斐性無しなんじゃ」
「うっせぇよ。あっちでは忙しくて、それどころじゃなかったんだ」
「まったく……ああ、そういえば、ミズーリんとこの娘っ子も、まだ独り者だったな」
「ミズーリって……ミアの事か?」
「そうそう。お前さん、同い年じゃったろ? だったらミアで手を打ったらよかろうに」
「そう言われてもなぁ……」
………………何か、わたしそっちのけで分けの分からない話をし始めましたね?
わたしはなぜか腹立たしさを感じ始めて、アルデの袖を引っ張りました。
「アルデ。そのミアという女性とはどういうご関係で?」
わたしの問いかけに、アルデはきょとんとした顔つきで言ってきます。
「え……? ご関係も何も、ただの幼なじみだけど……」
「へぇ? ただの幼なじみ、ですか。ただの幼なじみが、どうして結婚相手の候補に挙がるんでしょうねぇ?」
「いやそれは……お互い独身だからだろ?」
白々しくも、アルデはそんなありきたりな言い分けをしてくるので、わたしはウルグさんを見ました。
「ウルグさんの村には、その方以外の独身女性はいないのですか?」
「そう言われてみれば、マリーもルイーズもまだ独身じゃったか」
「へぇ……けっこういるじゃないですか、独身女性」
そしてわたしは、アルデにぐいっと詰め寄ります。
「だというのに、どうしてミアって人の名前が即座にあがってきたのでしょうねぇ?」
アルデは、顔を引きつらせながら言ってきました。
「オ、オレに聞かれても!? ってかティスリはなんでそんなに怒ってんだよ!」
「怒ってなどいませんが!」
わたしはむしろその指摘に腹を立てました。なぜならまったくもって不本意で的外れだからです!
わたしが怒っていると、ウルグさんが言ってきました。
「アルデとミアは、昔から仲がよかったんじゃよ。だから村の連中全員が、二人は結婚するものとばかり思っていたんじゃが、アルデが衛士になるっていうんでなぁ。その後、本当に村を出てしまったから結婚の話は頓挫しとるんじゃ」
「へえぇぇぇぇぇぇ……?」
わたしは、ジロリとアルデを睨みます。アルデは数歩後ずさりました。
「な、なんだよ……?」
「ウルグさんの話から推察するに、ただの幼なじみとはとても思えませんが?」
「仲がいいから幼なじみなんだろ!? だったらやっぱりただの幼なじみじゃんか!」
「仲がよかろうが悪かろうが、同郷の同世代はみんな幼なじみです。そんな幼なじみの中でも、もっとも懇意であったのがそのミアって人なのでしょう?」
「そ、それはそうかもしれないが……」
アルデが言葉に詰まっていると、ウルグさんが言いました。
「それでアルデよ、ミアとは結局どうなったんじゃ?」
「どうもなってないが!?」
わたしもアルデに質問します。
「ならばなぜ、そんなに慌てているのですか?」
「慌ててもねぇが!?」
………………どうにも、怪しいですね?
これまで、一切合切まったくもって、恋人はおろか女性の陰すらアルデにはなかったので、「この男、どんだけモテないのでしょう」とわたしは哀れみすら覚えていましたが……
まさか、わたしの与り知らぬところで、コソコソとよろしくやっていたのではないでしょうね?
だからわたしは言いました。
「せっかくアルデの故郷に来たのですから、そのミアって人ものちほど紹介してもらいましょうか」
わたしがそう告げると、アルデは悲鳴に近い声を上げます。
「な、なんでだよ!?」
「女性にうつつを抜かして、わたしの護衛を疎かにされてはたまりませんからね。雇用主として、しっかり見定める必要があります」
「そんな雇用主がいてたまるか!?」
「ここにいるじゃないですか!」
「そもそもお前に護衛なんて必要ないだろ!?」
「必要であろうとなかろうと仕事は仕事です!」
わたしたちが言い合っていると、それを見ていたウルグさんは、大きなため息をついてからアルデに声を掛けました。
「おい、アルデよ」
「な、なんだよ……」
警戒心剥き出しのアルデは、用心深くウルグさんを見ます。またぞろ昔話でも掘り起こされやしないかとヒヤヒヤしているのでしょう。
どうやらアルデは、この故郷でやましいことがたくさんあるようですね。いったいどんな醜聞があるのか、それはこれから、じっっっくりと、きっちりハッキリ白黒付ける必要がありそうですね──
──雇用主として!
わたしがそんなことを考えていたら、ウルグさんは重苦しい雰囲気で言いました。
「お前さん、子供の頃からそんなじゃから、結婚相手が決まらんのじゃよ」
「そんなってどんなだよ!?」
「いい加減はっきりしないと、そのうち後ろから刺されるぞ?」
「怖い事いうな!?」
ウルグさんの言わんとしている真意は、超絶天才美少女であるわたしであってもよく分かりませんでしたが、しかし、そのうちアルデが後ろから刺されそうという台詞には大変に説得力がありました。
「ティスリもなんで頷いてんだ!?」
だからわたしは無意識に頷いていたのでしょう、アルデが非難の矛先をこちらに向けてきます。
「なんでって、さすがは先達の言葉だと思っただけですよ。アルデは本当に刺されそうですからね」
「だからなんでだ!?」
「さぁ? ご自分の胸に聞いてみればいいでしょ」
わたしはそう言い放つと、ウルグさんに挨拶をしてから魔動車に戻るのでした。
「す、すごい……これが小麦畑なのですね……」
「ああ、ちょうど収穫前に間に合ったな」
昨晩キャンプをした湖畔の森を抜けると、別世界が広がっていました。
なだらかに波打つ大地は、地平線の彼方まで黄金色に輝いています。大地のすべてに、初夏の太陽をふんだんに浴びた小麦が実っていました。まさかこれほどまでに広大だとは想像していませんでした。
その黄金色の大地と青空の境界線からは、入道雲が大きく膨れあがっています。あの雲の上に街があってもおかしくないほどに巨大です。ですがそれ以外に雲はなく、蒼天の空が抜けていき、黄金色に輝く大地と青空のコントラストがまた大変に素晴らしいものでした。
だからわたしは感極まってつぶやきました。
「まさか……我が国にこれほど美しい場所があるとは……」
わたしのその言葉に、アルデは苦笑しています。
「こんなの、農業をしていれば当たり前の景色なんだけどな」
「そうなのですね……しかし、王都に住まう臣民だって、これほどの美しさを知っている人間はあまりいないと思いますよ」
「そうかもしれないな。農村は観光地でもないし。そうしたらちょっと外に出てみるか?」
「そうですね。外の空気も感じてみたいです」
わたしがそう言うと、アルデは、麦畑を突っ切る農道の脇に魔動車を停めました。
魔動車のドアを開けると、夏の熱気が入り込んできます。湖畔の朝は涼しかったですし、魔動車内は氷系魔法で空冷していたので、これほど気温が上昇していることに気づきませんでした。
アルデも驚きの声を上げます。
「あっつ! いよいよ夏の到来だなぁ」
「この辺の気候は暑いのですか?」
「本来ならそれほどでもなくて、暑くても30度くらいかな。で、今日はその暑い日みたいだ」
「そうですか。そうすると王都のほうが暑いようですね」
この地は王都より北に位置していますから、多少は過ごしやすいようです。王都の夏は毎日30度を超えますからね。
わたしはそんなことを思い出しながらも、改めて麦畑を眺めました。目の前の穂を見ると、しっかりと実っているようです。大粒の麦を実らせて穂先が垂れています。
そんな小麦は風に吹かれており、麦畑全体を見渡せば、まるで波のようでした。麦の擦れる音が潮騒のように感じられます。
──と、そんな麦畑の向こうから、一人の男性がこちらにやってきます。農作業をしている農家の方でしょうか。
アルデも気づいたようで、目を凝らしながら言いました。
「あれは……ウルグじいさんか?」
「お知り合いですか?」
「ああ、うちの近所に住んでるじいさんだ。ってか村の人間なら全員顔なじみだけどな──おーい、ウルグじいさーん!」
アルデが手を振ると、向こうから麦わら帽子を被った老人──ウルグさんが歩いてきました。こんがりと日焼けしていて足腰もしっかりしているようです。
そんなウルグさんは、人の良さそうな笑顔をこちらに向けてきました。
「やっぱりアルデかぁ」
「おぅ。じいさんも精が出るな」
「まぁなぁ。それでお前さん、いつ帰ってきたんじゃ?」
「今から帰るとこだよ」
「そうかそうか。しかしお前さん、ずいぶんとめんこい女子を見つけてきたもんじゃなぁ」
話の流れを察して、わたしはにこやかに言いました。
「あの……わたしは別に、アルデの伴侶とかではありませんからね?」
するとウルグさんは気抜けした顔つきになります。
「なんじゃ、結婚相手を家族に紹介するため戻ったんじゃないのか?」
「違います。わたしはアルデの雇用主です」
もういい加減、このやりとりにも慣れてきましたよ?
なのでわたしは、落ち着き払ってにこやかに言いました。
「わたしはティスリ・レイドと言います。政商をしていまして、今は各地を視察中です。そのため、アルデにはわたしの護衛をしてもらっているんです」
「はぁ。なんだ、そういうことか」
ウルグさんは、やれやれと言った感じでアルデに言いました。
「となるとアルデよ、お前さん、いったいいつになったら結婚するんじゃ?」
ウルグさんのその問いかけに、アルデは面倒そうな顔つきで答えます。
「いつって言われてもな。そのうちだよ、そのうち」
「お前さんもいい歳じゃろが。王都にまで行ったというのに、女子の一人も見つけられんとは、どんだけ甲斐性無しなんじゃ」
「うっせぇよ。あっちでは忙しくて、それどころじゃなかったんだ」
「まったく……ああ、そういえば、ミズーリんとこの娘っ子も、まだ独り者だったな」
「ミズーリって……ミアの事か?」
「そうそう。お前さん、同い年じゃったろ? だったらミアで手を打ったらよかろうに」
「そう言われてもなぁ……」
………………何か、わたしそっちのけで分けの分からない話をし始めましたね?
わたしはなぜか腹立たしさを感じ始めて、アルデの袖を引っ張りました。
「アルデ。そのミアという女性とはどういうご関係で?」
わたしの問いかけに、アルデはきょとんとした顔つきで言ってきます。
「え……? ご関係も何も、ただの幼なじみだけど……」
「へぇ? ただの幼なじみ、ですか。ただの幼なじみが、どうして結婚相手の候補に挙がるんでしょうねぇ?」
「いやそれは……お互い独身だからだろ?」
白々しくも、アルデはそんなありきたりな言い分けをしてくるので、わたしはウルグさんを見ました。
「ウルグさんの村には、その方以外の独身女性はいないのですか?」
「そう言われてみれば、マリーもルイーズもまだ独身じゃったか」
「へぇ……けっこういるじゃないですか、独身女性」
そしてわたしは、アルデにぐいっと詰め寄ります。
「だというのに、どうしてミアって人の名前が即座にあがってきたのでしょうねぇ?」
アルデは、顔を引きつらせながら言ってきました。
「オ、オレに聞かれても!? ってかティスリはなんでそんなに怒ってんだよ!」
「怒ってなどいませんが!」
わたしはむしろその指摘に腹を立てました。なぜならまったくもって不本意で的外れだからです!
わたしが怒っていると、ウルグさんが言ってきました。
「アルデとミアは、昔から仲がよかったんじゃよ。だから村の連中全員が、二人は結婚するものとばかり思っていたんじゃが、アルデが衛士になるっていうんでなぁ。その後、本当に村を出てしまったから結婚の話は頓挫しとるんじゃ」
「へえぇぇぇぇぇぇ……?」
わたしは、ジロリとアルデを睨みます。アルデは数歩後ずさりました。
「な、なんだよ……?」
「ウルグさんの話から推察するに、ただの幼なじみとはとても思えませんが?」
「仲がいいから幼なじみなんだろ!? だったらやっぱりただの幼なじみじゃんか!」
「仲がよかろうが悪かろうが、同郷の同世代はみんな幼なじみです。そんな幼なじみの中でも、もっとも懇意であったのがそのミアって人なのでしょう?」
「そ、それはそうかもしれないが……」
アルデが言葉に詰まっていると、ウルグさんが言いました。
「それでアルデよ、ミアとは結局どうなったんじゃ?」
「どうもなってないが!?」
わたしもアルデに質問します。
「ならばなぜ、そんなに慌てているのですか?」
「慌ててもねぇが!?」
………………どうにも、怪しいですね?
これまで、一切合切まったくもって、恋人はおろか女性の陰すらアルデにはなかったので、「この男、どんだけモテないのでしょう」とわたしは哀れみすら覚えていましたが……
まさか、わたしの与り知らぬところで、コソコソとよろしくやっていたのではないでしょうね?
だからわたしは言いました。
「せっかくアルデの故郷に来たのですから、そのミアって人ものちほど紹介してもらいましょうか」
わたしがそう告げると、アルデは悲鳴に近い声を上げます。
「な、なんでだよ!?」
「女性にうつつを抜かして、わたしの護衛を疎かにされてはたまりませんからね。雇用主として、しっかり見定める必要があります」
「そんな雇用主がいてたまるか!?」
「ここにいるじゃないですか!」
「そもそもお前に護衛なんて必要ないだろ!?」
「必要であろうとなかろうと仕事は仕事です!」
わたしたちが言い合っていると、それを見ていたウルグさんは、大きなため息をついてからアルデに声を掛けました。
「おい、アルデよ」
「な、なんだよ……」
警戒心剥き出しのアルデは、用心深くウルグさんを見ます。またぞろ昔話でも掘り起こされやしないかとヒヤヒヤしているのでしょう。
どうやらアルデは、この故郷でやましいことがたくさんあるようですね。いったいどんな醜聞があるのか、それはこれから、じっっっくりと、きっちりハッキリ白黒付ける必要がありそうですね──
──雇用主として!
わたしがそんなことを考えていたら、ウルグさんは重苦しい雰囲気で言いました。
「お前さん、子供の頃からそんなじゃから、結婚相手が決まらんのじゃよ」
「そんなってどんなだよ!?」
「いい加減はっきりしないと、そのうち後ろから刺されるぞ?」
「怖い事いうな!?」
ウルグさんの言わんとしている真意は、超絶天才美少女であるわたしであってもよく分かりませんでしたが、しかし、そのうちアルデが後ろから刺されそうという台詞には大変に説得力がありました。
「ティスリもなんで頷いてんだ!?」
だからわたしは無意識に頷いていたのでしょう、アルデが非難の矛先をこちらに向けてきます。
「なんでって、さすがは先達の言葉だと思っただけですよ。アルデは本当に刺されそうですからね」
「だからなんでだ!?」
「さぁ? ご自分の胸に聞いてみればいいでしょ」
わたしはそう言い放つと、ウルグさんに挨拶をしてから魔動車に戻るのでした。
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