82 / 192
第2章
番外編1 クルースちゃんの求愛:後編
しおりを挟む
前編はこちら。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/825245338/342676888/episode/6332173
親衛隊隊長であるラーフルは、アルデ・ラーマに手籠めにされた親衛隊隊員クルースの心の傷を癒やすため、中央貴族の嫡男を紹介することになった──のだが。
クルースと同い年で……
とても優しくて……
誰にでも親切で……
花を愛でて歌を嗜む……
そんな、吟遊詩人の物語に出てくるかのような男なんて──いるはずがない!
いたらわたしに紹介して欲しいくらいだ!!
しかし!
そんな嘘をついてしまったのは、他ならぬわたしなわけで──!
だからわたしは、言い分けの一つも出来ないくらいに追い込まれていた。
ただでさえ、王女殿下捜索で疲弊して、夜も眠れない日々を送っているというのにこの仕打ち……
いったい、わたしが何をしたというのだろう……?
いやもちろん、殿下に対して大変に不義理なことをしてしまったのだから、殿下に責め立てられるのならやむを得ない。
だがしかし、殿下とは関係のないことで悩まされるのは勘弁して欲しいのだが……
いや……そもそもあのとき。
クルースと対峙したときに、わたしが嘘をつかなければこんなことにはならなかったのだ。もっといえば、殿下に対してもあんな嘘の手紙をしたためたから、親衛隊を追放となっても文句は言えない状況に陥っているわけで……
「ふふ……すべて身から出た錆びということか……」
わたしは、王都の路地裏で力なく笑う。
今日も今日とて、激務の合間を縫って中央貴族を訪ね回っているわけだが、しかし、わたしが自分で言った条件に合う男性どころか、同世代の男性はほとんど結婚してしまっている。
いくばくか残っている男性といえば、リゴールのようなロクでもない男ばかりで──そう言えば、ヤツは失脚して今や獄中だったな。
しかしヤツと似た輩など、いくらなんでもクルースには紹介できないし、そういう輩に限って、地方貴族の我々など相手にもしないのだ。こっちから願い下げだというのに!
「ハァ……いったいどうすれば……」
わたしは路地裏から、高台にそびえる王城を見上げる。
今、王城は修理の真っ只中だった。王女殿下の魔法により、空中庭園から城の中程にまで大きく瓦解したのだ。
だから修理というよりは、もはや新たに作っていると言っても過言ではないだろう。いったい完成はいつになるのか──建築に関しては素人のわたしでは、その予定は計り知れない。
だがそこで、わたしはふと思った。
「新たに作る……か」
理想の貴族がいないのなら、新たに作ればいいのではなかろうか?
そんなバカげた考えに、しかしわたしは吸い寄せられるのを自覚せずにいられない。
もちろん、人を作ることなんて出来るわけがない。どこかの幼子をこれから育てて、理想の男性に仕立て上げるなんて奇っ怪な物語があったりもしたが──いや、あれは男性が幼女を育てるのだったか? まぁそれはともかく、わたしたちにそんな時間はない。
だとしたら……残された方法は……
最近は、吟遊詩人が奏でる物語の演劇化が流行っているという。
そんな演劇の中であれば、どんな美男子だって用意できるだろう。
つまり現実に存在しない理想の美男子だって、作ることは可能なわけで……
「もしも……わたしがそれを演じきれば……」
わたしは、寝不足と疲労で倒れそうになる体をなんとか支えながら、そんなことを考え始めていた。
* * *
王都でも屈指のレストランで、今日、クルースはお見合いを致します!
しかも中央貴族の嫡男と!
さらにその男性は──
わたしと同い年で……
とても優しくて……
誰にでも親切で……
花を愛でて歌を嗜む……
──そんな、吟遊詩人の物語に出てくるかのような男性だというのです!
まさかそれほどの男性が、中央貴族の出自でありながら、まだ未婚のまま残っていただなんて!
わたしの期待は、否が応でも膨らんでしまうというものです!
そんなわけで、わたしは一時間も早く、レストランの個室に訪れてしまいました。
今日は、朝から入念に化粧をしてもらい、最近流行りの髪型に整え、この日のために新調したドレスを着込んでいます。侍女達にも「ばっちりです!」とお墨付きをもらいましたから、見た目で侮られることなどあり得ないでしょう。
いえ、そもそも侮られるなんてことあり得ませんよね。
なんと言っても、とてもお優しい方のようですから。
ただ……不安材料がないわけでもありません。
何しろ紹介者のラーフルが、今日は急用で同席出来ないということですから……
ですが最近のラーフルは、殿下捜索でてんやわんやのようですから致し方ありません。
例え一人でも頑張りませんと……!
そんな感じで気合いを入れていると、個室の扉がノックされます。
い、いよいよ……理想の殿方がお越しになったのですね!
わたしは胸を撥ね上げました。
* * *
ラーフルは、男装がバレないかどうかヒヤヒヤしていたが、クルースは初見でわたしだとは気づかなかったようだ。気休め程度ではあるものの錯覚魔法も使っているからだと思うが。
一方のクルースは、見事にドレスアップしていて非常に綺麗だった。同性のわたしでも見惚れてしまうほどだというのに、どうして婚約者が出来ないのか不思議でならない。
いや……それもこれも、地方貴族出だからということか。ここ王都では、地方貴族は冷遇されるからな。
そんなことを考えていたら、クルースがスカートをつまみ上げて、優雅に一礼してきた。
「初めまして、ラーランド様。わたくし、クルース・ブリュージュと申します」
「あ、ああ……ラーランドです。どうぞよろしく」
慣れない偽名で答えると、クルースは小首を傾げて言ってきた。
「どうかしまして? 何か戸惑っているかのようにお見受けしますが」
「あ、いや……クルースさんがあまりにも綺麗で、驚いています」
「まぁ! ラーランド様ったらお上手なんですから♪」
などと会話をしながら、わたしたちは座席へと着いた。さっそく給仕がドリンクを運んでくる。
ちなみに、わたしの声音は魔法で男性のものへと変えている。錯覚魔法ともども持続時間は三時間だから、それまでにケリを付けなくては。
ケリを付けるとは──つまるところ、このお見合いを破談させるということに他ならないが。
なぜなら……わたしがいつまでも男装をするわけにもいかないのだから。
こんな当たり前の事に気づいたのは、ラーランドとしてお見合いを打診してから数日経ったあとだった。その頃には、もはやお見合いを断るわけにも行かず……今こうして面と向かっている。
だから今日は、一切のミスもなく、穏便のうちにこのお見合いを破談させなくてはならない。
もちろん、わたしからクルースを振るなんて言語道断だ。クルースのほうから、わたしを嫌うよう仕向けなければならない。
しかし、一体どうすればクルースが嫌ってくれるのか、皆目見当もつかないまま当日を迎えてしまう。
本当に、どうすれば……
わたしが逡巡していると、クルースはにっこり笑って言ってきた。
「ふふ……ラーフルから聞いていた通りでしたわ」
「え……聞いていたとは?」
「ラーランド様は物静かなお方だと伺っておりましたが、その通りだなと思って」
「そ、そうですか……ええ実は、ぼくは人見知りが激しいのです……」
「そうでしたの。ですが今日は、わたしのことなんて気になさらなくて大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえると……ありがたい……です」
「それにしてもラーランド様は、まるで女性のようですのね?」
「え!?」
いきなりそんなことを言われて、わたしは心臓を撥ね上げた。
「ぼぼぼぼくはれっきとした男ですよ!?」
「うふふ、もちろん存じておりますわ。まるで女性のように美しい男性と言いたかったのですけれど、男性を称えるには微妙な褒め言葉でしたわね。失礼致しました」
「いえ……別に大丈夫です……」
「それでラーランド様は、歌を嗜むと伺ったのですが、どのような歌がお好きなのでしょう?」
「う、歌ですか……?」
そう言えば、そんな設定があったな……
わたしは、歌なんて聞いたこともないので一瞬たじろぐも、しかしこれは……ひょっとしたらチャンスなのではなかろうか?
だからわたしは切り出した。
「実は……それは嘘なのです……」
「うそ、と申しますと?」
「ぼくは、歌も嗜まなければ花も愛でません……」
「まぁ、そうでしたの」
「それどころか!」
そしてわたしはガバッと立ち上がった。
「実は仕事もせずに、日がな一日屋敷に閉じこもっている引きこもりなのです!」
「まぁ……」
クルースが目を丸くする。
よし、この方向性はいいかもしれない!
ラーランドは、仕事もしていない穀潰し! この方向で行こう!
突如として思い浮かんだそのアイディアは、まるで神の啓示のように感じられ、わたしは一気に捲し立てた!
「だから中央貴族の出でありながら、誰にも相手にされず、家族にも白眼視され……しかしぼくは、働いたら負けかなと思っておりますので、先祖代々の資産を食い潰して食っちゃ寝をしているんです」
「そうでしたの……」
「しかもぼくの本当の趣味はギャンブルでして、夜な夜な闇賭博に足を運んでは、現金をつぎ込んでいる次第です。ですのであと数年で、我が家の資産はなくなり食い詰める予定です」
「すごいですのね……」
「ええ、すごいでしょう? あと酒乱でして。呑んだら手が付けられなくなるそうで、今では夜会の誘いもなくなりました。当然、晩餐会や舞踏会なんて行けるはずもなく、毎日ウジウジしている次第です」
「どおりで、公式の場でお見かけしなかったわけですね……」
「その通りです。そんなぼくの将来の夢は、屋敷警備員になることです。ぼくのせいで資産はなくなりますが、親はまだ働いておりますので、親が働けなくなるまで、そのスネにむしゃぶりつこうと思ってます」
「まぁ、そんな夢が……」
「はい。それでクルースさん──こんなぼくでも、結婚して頂けるというのでしょうか?」
そうして。
個室にしじまが訪れる。
部屋の隅に控えている給仕が、口の端を引きつらせるほどには酷すぎる話だったはずだが──しかしクルースの微笑は崩れない。
いったい何を考えているのか──さすがに貴族だけあって、その胸の内をすぐさま悟らせてくれるはずもないか。
だからわたしはダメ押しをした。
「クルースさん、あなたには、できれば当家をついで頂きたいのです」
「え?」
「つまり女主人になって頂きたい。そうしてぼくを一生涯養って頂きたいのです!」
「そうでしたか……」
「いかがでしょうクルースさん!?」
わたしがぐいっと身を乗り出すと、クルースはにっこり笑って言ってきた。
「ラーランド様……」
「はい」
「す……」
「す?」
「すばらしいですわ!」
「……はい?」
意味が分からずわたしは首を傾げると、クルースはわたしの隣にやってきて、わたしの手を取った。
そして目を爛々と輝かせ、クルースが言ってくる。
「このような席で、ご自身の欠点を隠そうともせず正直におっしゃってくれたその心意気──わたし、とっても感動致しました!」
「へ?」
「大丈夫ですラーランド様! わたし、その程度の欠点などで嫌いになったり致しません!」
「は?」
「ラーランド様のおっしゃる通り、わたしがあなたを養います! ラーランド様は、これまで通り、お屋敷でお過ごしになって頂いて構いません!!」
「ちょ、ちょっとクルース……さん!」
な、なんたることだ……!
クルース、いくらなんでも必死すぎ──いや敷居が低すぎるだろうお前!?
この先、クルースが、とんでもないダメンズに欺されやしないかと、わたしは心配になってきたが、とにかく今は目前の問題に集中しなくては!
しかし、これほどまでにダメな男でもOKとなると、もはや打ち手がないぞ!?
これ以外に、いったいどんなダメな男ならフラれると……ん?
そ、そうか!
ダメな男だからいけなかったんだ!
突発的に思いついたそのアイディアに、わたしは飛びついた。
「クルースさん! ぼくにはまだ隠し事があります!」
「まぁ! なんですの!?」
「実は……実はぼく……女なんです!」
「えっ!?」
「先ほど、クルースさんは言いましたよね!? ぼくが女性のようだって! 実はあの見立ては大正解だったのです! ほらこの通り──」
わたしは、ガバッと胸をはだける。
そこにはさらしで固めた胸があった。さらしの上からとはいえ、女性の胸であることは分かるはず……!
「──ぼくは、いえわたしは女です!」
そしてまた、レストランの個室は沈黙に支配される。
頭の片隅に、いったいわたしは何をしているんだろう……? という思いがよぎるも、わたしはそれを全力でスルーした。
いったいどれくらいの静寂だったのだろうか?
数秒だったかもしれないし、一時間だったかもしれない。
静寂の終わりは、ラーフルの右手がすっと動いたことだった。
そしてその指先が、わたしの胸に触れた。
「……!?」
同性に胸を触られる──いや、そもそも他人に胸を触られるなどという初体験に、わたしは全身鳥肌になるも、ぐっと堪える。
するとクルースが言ってきた。
「ふふ……大丈夫ですわよ、ラーランド様……」
背筋を駆け抜ける悪寒に、わたしは声を出せなくなっていた。
だ、だいじょうぶって……いったいなにが……!?
ゆっくりとクルースの顔を覗き込むと、酒を呑んでもいないのに、泥酔でもしているかのような瞳をわたしに向けてくる。
「もうこの際……性別だって関係ありませんわ!」
「いや関係あるだろ性別ワ!?」
思わず地で突っ込むもクルースは気づきもしない。さらにわたしの胸に触れていた指先は、ツツツ──っと、胸から鎖骨、そして首元から頬へと這っていく。
わたしは思わず身震いした!
完全に陶酔しきった表情で、クルースが言ってくる。
「だいじょ~ぶです♪ わたし、性別なんて気にしません」
「わたしが気にするんだよ!?」
「あら? 女性だと白状したとたん、逆に男らしくなりましたね?」
「くっ──も、もうダメだ!」
わたしは後方へ飛び退くと、すぐさまその場に土下座した。
「クルース! すまない! わたしはラーフルだ!!」
クルースの反応を見るのが怖くて、わたしは土下座したまま洗いざらいぶちまける。
「中央貴族の未婚男性は、見つけることが出来なかったんだ! でもお見合いを楽しみにしていたクルースのことを考えると、そんなこと言えなくて! だからわたしが男装してお見合いに臨んでしまったんだ!」
「まぁ……」
「こんなことをしたって、なんの解決にもならないことはよく分かっている! しかし──」
「大丈夫ですわよ、ラーフル」
予想だにしなかったほど優しい声でそう言われ、わたしは思わず顔を上げる。
するとクルースが、女神のごとき慈愛に満ちた表情で手を差し伸べてきた。
それは、まるで救いの手のようであった。
だからわたしは無意識にその手を取って、そして立ち上がる。
「ラーフル。わたし、分かってましたよ」
「えっ……」
「だって、いくら男装したって、魔法を使ったって、長年の付き合いであるラーフルの顔を見間違えるわけないじゃない」
「そ……そうだったのか……」
「いったいラーフルが、どんな男前になるのかを試したくて、ちょっとからかってしまいました。ごめんなさいね?」
「いや……元々悪いのはこっちだし……」
「そんなことありません。ラーフルは、傷ついたわたしのために尽力してくれたのです。悪いはずがありませんわ」
「そ、そうか……ありがとう……クルース」
そうしてわたしたちは、しばらく見つめ合って……
見つめ合って……
見つめ合い続けて……
………………………………にわかに違和感を覚え、わたしは言った。
「あの……クルース? そろそろ手を離してもらえないだろうか?」
「なぜです?」
「いや、なぜも何も……」
「でも、手を離したらラーフルは逃げてしまうのでしょう?」
「逃げるって、別にそんなことは……」
「わたし、あなたをからかいはしましたが、さきほど言ったことに嘘偽りはなくてよ?」
「さきほど言ったこと……って………………?」
わたしの問いかけに、しかしクルースは、満面笑顔であるばかり。
だからわたしは、改めて問いかける。
「な、なぁ……クルース? お前、なんだか雰囲気がちょっと──」
しかしわたしの問いは、最後まで言い切ることは出来なかった。
「──ん!?」
突然、クルースに手を引っ張られ、不意の出来事にわたしはバランスを崩し、まるでクルースにもたれかかるかのような姿勢になった途端。
クルースの唇が、わたしの唇と重なる。
「!?!?」
目を見開いて飛び退くと、クルースの熱い視線がこちらを向いていた。
「ラーフル……あなただけですわ……」
「な、な、な!?」
「これほど、わたしのためを思ってくれているのは……あなただけだったのです……」
「い、いま何を!?」
「ですからもう……ロクでもない男なんていりません……」
「いらないって!?」
「だからラーフル! わたしと結婚しましょう!!」
「出来るわけないだろ!?」
わたしめがけて猛進してくるクルースをギリかわすと、わたしは個室の扉を開け放ち、一目散に逃げ出した。
「あっ! ラーフル! 待って! 逃がしませんことよ!!」
「わたしはノーマルだ!」
「そんなの、わたしの魅力で変えて差し上げますわ!!」
「無理に決まってるだろ!?」
こうして──
──これ以降、わたしは四六時中、クルースの猛烈な求愛を受けまくることになるのだが、それはまた別の話としておきたい。というかもう話したくない。
わたし、呪われているのかな……(涙)
(おしまい)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/825245338/342676888/episode/6332173
親衛隊隊長であるラーフルは、アルデ・ラーマに手籠めにされた親衛隊隊員クルースの心の傷を癒やすため、中央貴族の嫡男を紹介することになった──のだが。
クルースと同い年で……
とても優しくて……
誰にでも親切で……
花を愛でて歌を嗜む……
そんな、吟遊詩人の物語に出てくるかのような男なんて──いるはずがない!
いたらわたしに紹介して欲しいくらいだ!!
しかし!
そんな嘘をついてしまったのは、他ならぬわたしなわけで──!
だからわたしは、言い分けの一つも出来ないくらいに追い込まれていた。
ただでさえ、王女殿下捜索で疲弊して、夜も眠れない日々を送っているというのにこの仕打ち……
いったい、わたしが何をしたというのだろう……?
いやもちろん、殿下に対して大変に不義理なことをしてしまったのだから、殿下に責め立てられるのならやむを得ない。
だがしかし、殿下とは関係のないことで悩まされるのは勘弁して欲しいのだが……
いや……そもそもあのとき。
クルースと対峙したときに、わたしが嘘をつかなければこんなことにはならなかったのだ。もっといえば、殿下に対してもあんな嘘の手紙をしたためたから、親衛隊を追放となっても文句は言えない状況に陥っているわけで……
「ふふ……すべて身から出た錆びということか……」
わたしは、王都の路地裏で力なく笑う。
今日も今日とて、激務の合間を縫って中央貴族を訪ね回っているわけだが、しかし、わたしが自分で言った条件に合う男性どころか、同世代の男性はほとんど結婚してしまっている。
いくばくか残っている男性といえば、リゴールのようなロクでもない男ばかりで──そう言えば、ヤツは失脚して今や獄中だったな。
しかしヤツと似た輩など、いくらなんでもクルースには紹介できないし、そういう輩に限って、地方貴族の我々など相手にもしないのだ。こっちから願い下げだというのに!
「ハァ……いったいどうすれば……」
わたしは路地裏から、高台にそびえる王城を見上げる。
今、王城は修理の真っ只中だった。王女殿下の魔法により、空中庭園から城の中程にまで大きく瓦解したのだ。
だから修理というよりは、もはや新たに作っていると言っても過言ではないだろう。いったい完成はいつになるのか──建築に関しては素人のわたしでは、その予定は計り知れない。
だがそこで、わたしはふと思った。
「新たに作る……か」
理想の貴族がいないのなら、新たに作ればいいのではなかろうか?
そんなバカげた考えに、しかしわたしは吸い寄せられるのを自覚せずにいられない。
もちろん、人を作ることなんて出来るわけがない。どこかの幼子をこれから育てて、理想の男性に仕立て上げるなんて奇っ怪な物語があったりもしたが──いや、あれは男性が幼女を育てるのだったか? まぁそれはともかく、わたしたちにそんな時間はない。
だとしたら……残された方法は……
最近は、吟遊詩人が奏でる物語の演劇化が流行っているという。
そんな演劇の中であれば、どんな美男子だって用意できるだろう。
つまり現実に存在しない理想の美男子だって、作ることは可能なわけで……
「もしも……わたしがそれを演じきれば……」
わたしは、寝不足と疲労で倒れそうになる体をなんとか支えながら、そんなことを考え始めていた。
* * *
王都でも屈指のレストランで、今日、クルースはお見合いを致します!
しかも中央貴族の嫡男と!
さらにその男性は──
わたしと同い年で……
とても優しくて……
誰にでも親切で……
花を愛でて歌を嗜む……
──そんな、吟遊詩人の物語に出てくるかのような男性だというのです!
まさかそれほどの男性が、中央貴族の出自でありながら、まだ未婚のまま残っていただなんて!
わたしの期待は、否が応でも膨らんでしまうというものです!
そんなわけで、わたしは一時間も早く、レストランの個室に訪れてしまいました。
今日は、朝から入念に化粧をしてもらい、最近流行りの髪型に整え、この日のために新調したドレスを着込んでいます。侍女達にも「ばっちりです!」とお墨付きをもらいましたから、見た目で侮られることなどあり得ないでしょう。
いえ、そもそも侮られるなんてことあり得ませんよね。
なんと言っても、とてもお優しい方のようですから。
ただ……不安材料がないわけでもありません。
何しろ紹介者のラーフルが、今日は急用で同席出来ないということですから……
ですが最近のラーフルは、殿下捜索でてんやわんやのようですから致し方ありません。
例え一人でも頑張りませんと……!
そんな感じで気合いを入れていると、個室の扉がノックされます。
い、いよいよ……理想の殿方がお越しになったのですね!
わたしは胸を撥ね上げました。
* * *
ラーフルは、男装がバレないかどうかヒヤヒヤしていたが、クルースは初見でわたしだとは気づかなかったようだ。気休め程度ではあるものの錯覚魔法も使っているからだと思うが。
一方のクルースは、見事にドレスアップしていて非常に綺麗だった。同性のわたしでも見惚れてしまうほどだというのに、どうして婚約者が出来ないのか不思議でならない。
いや……それもこれも、地方貴族出だからということか。ここ王都では、地方貴族は冷遇されるからな。
そんなことを考えていたら、クルースがスカートをつまみ上げて、優雅に一礼してきた。
「初めまして、ラーランド様。わたくし、クルース・ブリュージュと申します」
「あ、ああ……ラーランドです。どうぞよろしく」
慣れない偽名で答えると、クルースは小首を傾げて言ってきた。
「どうかしまして? 何か戸惑っているかのようにお見受けしますが」
「あ、いや……クルースさんがあまりにも綺麗で、驚いています」
「まぁ! ラーランド様ったらお上手なんですから♪」
などと会話をしながら、わたしたちは座席へと着いた。さっそく給仕がドリンクを運んでくる。
ちなみに、わたしの声音は魔法で男性のものへと変えている。錯覚魔法ともども持続時間は三時間だから、それまでにケリを付けなくては。
ケリを付けるとは──つまるところ、このお見合いを破談させるということに他ならないが。
なぜなら……わたしがいつまでも男装をするわけにもいかないのだから。
こんな当たり前の事に気づいたのは、ラーランドとしてお見合いを打診してから数日経ったあとだった。その頃には、もはやお見合いを断るわけにも行かず……今こうして面と向かっている。
だから今日は、一切のミスもなく、穏便のうちにこのお見合いを破談させなくてはならない。
もちろん、わたしからクルースを振るなんて言語道断だ。クルースのほうから、わたしを嫌うよう仕向けなければならない。
しかし、一体どうすればクルースが嫌ってくれるのか、皆目見当もつかないまま当日を迎えてしまう。
本当に、どうすれば……
わたしが逡巡していると、クルースはにっこり笑って言ってきた。
「ふふ……ラーフルから聞いていた通りでしたわ」
「え……聞いていたとは?」
「ラーランド様は物静かなお方だと伺っておりましたが、その通りだなと思って」
「そ、そうですか……ええ実は、ぼくは人見知りが激しいのです……」
「そうでしたの。ですが今日は、わたしのことなんて気になさらなくて大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえると……ありがたい……です」
「それにしてもラーランド様は、まるで女性のようですのね?」
「え!?」
いきなりそんなことを言われて、わたしは心臓を撥ね上げた。
「ぼぼぼぼくはれっきとした男ですよ!?」
「うふふ、もちろん存じておりますわ。まるで女性のように美しい男性と言いたかったのですけれど、男性を称えるには微妙な褒め言葉でしたわね。失礼致しました」
「いえ……別に大丈夫です……」
「それでラーランド様は、歌を嗜むと伺ったのですが、どのような歌がお好きなのでしょう?」
「う、歌ですか……?」
そう言えば、そんな設定があったな……
わたしは、歌なんて聞いたこともないので一瞬たじろぐも、しかしこれは……ひょっとしたらチャンスなのではなかろうか?
だからわたしは切り出した。
「実は……それは嘘なのです……」
「うそ、と申しますと?」
「ぼくは、歌も嗜まなければ花も愛でません……」
「まぁ、そうでしたの」
「それどころか!」
そしてわたしはガバッと立ち上がった。
「実は仕事もせずに、日がな一日屋敷に閉じこもっている引きこもりなのです!」
「まぁ……」
クルースが目を丸くする。
よし、この方向性はいいかもしれない!
ラーランドは、仕事もしていない穀潰し! この方向で行こう!
突如として思い浮かんだそのアイディアは、まるで神の啓示のように感じられ、わたしは一気に捲し立てた!
「だから中央貴族の出でありながら、誰にも相手にされず、家族にも白眼視され……しかしぼくは、働いたら負けかなと思っておりますので、先祖代々の資産を食い潰して食っちゃ寝をしているんです」
「そうでしたの……」
「しかもぼくの本当の趣味はギャンブルでして、夜な夜な闇賭博に足を運んでは、現金をつぎ込んでいる次第です。ですのであと数年で、我が家の資産はなくなり食い詰める予定です」
「すごいですのね……」
「ええ、すごいでしょう? あと酒乱でして。呑んだら手が付けられなくなるそうで、今では夜会の誘いもなくなりました。当然、晩餐会や舞踏会なんて行けるはずもなく、毎日ウジウジしている次第です」
「どおりで、公式の場でお見かけしなかったわけですね……」
「その通りです。そんなぼくの将来の夢は、屋敷警備員になることです。ぼくのせいで資産はなくなりますが、親はまだ働いておりますので、親が働けなくなるまで、そのスネにむしゃぶりつこうと思ってます」
「まぁ、そんな夢が……」
「はい。それでクルースさん──こんなぼくでも、結婚して頂けるというのでしょうか?」
そうして。
個室にしじまが訪れる。
部屋の隅に控えている給仕が、口の端を引きつらせるほどには酷すぎる話だったはずだが──しかしクルースの微笑は崩れない。
いったい何を考えているのか──さすがに貴族だけあって、その胸の内をすぐさま悟らせてくれるはずもないか。
だからわたしはダメ押しをした。
「クルースさん、あなたには、できれば当家をついで頂きたいのです」
「え?」
「つまり女主人になって頂きたい。そうしてぼくを一生涯養って頂きたいのです!」
「そうでしたか……」
「いかがでしょうクルースさん!?」
わたしがぐいっと身を乗り出すと、クルースはにっこり笑って言ってきた。
「ラーランド様……」
「はい」
「す……」
「す?」
「すばらしいですわ!」
「……はい?」
意味が分からずわたしは首を傾げると、クルースはわたしの隣にやってきて、わたしの手を取った。
そして目を爛々と輝かせ、クルースが言ってくる。
「このような席で、ご自身の欠点を隠そうともせず正直におっしゃってくれたその心意気──わたし、とっても感動致しました!」
「へ?」
「大丈夫ですラーランド様! わたし、その程度の欠点などで嫌いになったり致しません!」
「は?」
「ラーランド様のおっしゃる通り、わたしがあなたを養います! ラーランド様は、これまで通り、お屋敷でお過ごしになって頂いて構いません!!」
「ちょ、ちょっとクルース……さん!」
な、なんたることだ……!
クルース、いくらなんでも必死すぎ──いや敷居が低すぎるだろうお前!?
この先、クルースが、とんでもないダメンズに欺されやしないかと、わたしは心配になってきたが、とにかく今は目前の問題に集中しなくては!
しかし、これほどまでにダメな男でもOKとなると、もはや打ち手がないぞ!?
これ以外に、いったいどんなダメな男ならフラれると……ん?
そ、そうか!
ダメな男だからいけなかったんだ!
突発的に思いついたそのアイディアに、わたしは飛びついた。
「クルースさん! ぼくにはまだ隠し事があります!」
「まぁ! なんですの!?」
「実は……実はぼく……女なんです!」
「えっ!?」
「先ほど、クルースさんは言いましたよね!? ぼくが女性のようだって! 実はあの見立ては大正解だったのです! ほらこの通り──」
わたしは、ガバッと胸をはだける。
そこにはさらしで固めた胸があった。さらしの上からとはいえ、女性の胸であることは分かるはず……!
「──ぼくは、いえわたしは女です!」
そしてまた、レストランの個室は沈黙に支配される。
頭の片隅に、いったいわたしは何をしているんだろう……? という思いがよぎるも、わたしはそれを全力でスルーした。
いったいどれくらいの静寂だったのだろうか?
数秒だったかもしれないし、一時間だったかもしれない。
静寂の終わりは、ラーフルの右手がすっと動いたことだった。
そしてその指先が、わたしの胸に触れた。
「……!?」
同性に胸を触られる──いや、そもそも他人に胸を触られるなどという初体験に、わたしは全身鳥肌になるも、ぐっと堪える。
するとクルースが言ってきた。
「ふふ……大丈夫ですわよ、ラーランド様……」
背筋を駆け抜ける悪寒に、わたしは声を出せなくなっていた。
だ、だいじょうぶって……いったいなにが……!?
ゆっくりとクルースの顔を覗き込むと、酒を呑んでもいないのに、泥酔でもしているかのような瞳をわたしに向けてくる。
「もうこの際……性別だって関係ありませんわ!」
「いや関係あるだろ性別ワ!?」
思わず地で突っ込むもクルースは気づきもしない。さらにわたしの胸に触れていた指先は、ツツツ──っと、胸から鎖骨、そして首元から頬へと這っていく。
わたしは思わず身震いした!
完全に陶酔しきった表情で、クルースが言ってくる。
「だいじょ~ぶです♪ わたし、性別なんて気にしません」
「わたしが気にするんだよ!?」
「あら? 女性だと白状したとたん、逆に男らしくなりましたね?」
「くっ──も、もうダメだ!」
わたしは後方へ飛び退くと、すぐさまその場に土下座した。
「クルース! すまない! わたしはラーフルだ!!」
クルースの反応を見るのが怖くて、わたしは土下座したまま洗いざらいぶちまける。
「中央貴族の未婚男性は、見つけることが出来なかったんだ! でもお見合いを楽しみにしていたクルースのことを考えると、そんなこと言えなくて! だからわたしが男装してお見合いに臨んでしまったんだ!」
「まぁ……」
「こんなことをしたって、なんの解決にもならないことはよく分かっている! しかし──」
「大丈夫ですわよ、ラーフル」
予想だにしなかったほど優しい声でそう言われ、わたしは思わず顔を上げる。
するとクルースが、女神のごとき慈愛に満ちた表情で手を差し伸べてきた。
それは、まるで救いの手のようであった。
だからわたしは無意識にその手を取って、そして立ち上がる。
「ラーフル。わたし、分かってましたよ」
「えっ……」
「だって、いくら男装したって、魔法を使ったって、長年の付き合いであるラーフルの顔を見間違えるわけないじゃない」
「そ……そうだったのか……」
「いったいラーフルが、どんな男前になるのかを試したくて、ちょっとからかってしまいました。ごめんなさいね?」
「いや……元々悪いのはこっちだし……」
「そんなことありません。ラーフルは、傷ついたわたしのために尽力してくれたのです。悪いはずがありませんわ」
「そ、そうか……ありがとう……クルース」
そうしてわたしたちは、しばらく見つめ合って……
見つめ合って……
見つめ合い続けて……
………………………………にわかに違和感を覚え、わたしは言った。
「あの……クルース? そろそろ手を離してもらえないだろうか?」
「なぜです?」
「いや、なぜも何も……」
「でも、手を離したらラーフルは逃げてしまうのでしょう?」
「逃げるって、別にそんなことは……」
「わたし、あなたをからかいはしましたが、さきほど言ったことに嘘偽りはなくてよ?」
「さきほど言ったこと……って………………?」
わたしの問いかけに、しかしクルースは、満面笑顔であるばかり。
だからわたしは、改めて問いかける。
「な、なぁ……クルース? お前、なんだか雰囲気がちょっと──」
しかしわたしの問いは、最後まで言い切ることは出来なかった。
「──ん!?」
突然、クルースに手を引っ張られ、不意の出来事にわたしはバランスを崩し、まるでクルースにもたれかかるかのような姿勢になった途端。
クルースの唇が、わたしの唇と重なる。
「!?!?」
目を見開いて飛び退くと、クルースの熱い視線がこちらを向いていた。
「ラーフル……あなただけですわ……」
「な、な、な!?」
「これほど、わたしのためを思ってくれているのは……あなただけだったのです……」
「い、いま何を!?」
「ですからもう……ロクでもない男なんていりません……」
「いらないって!?」
「だからラーフル! わたしと結婚しましょう!!」
「出来るわけないだろ!?」
わたしめがけて猛進してくるクルースをギリかわすと、わたしは個室の扉を開け放ち、一目散に逃げ出した。
「あっ! ラーフル! 待って! 逃がしませんことよ!!」
「わたしはノーマルだ!」
「そんなの、わたしの魅力で変えて差し上げますわ!!」
「無理に決まってるだろ!?」
こうして──
──これ以降、わたしは四六時中、クルースの猛烈な求愛を受けまくることになるのだが、それはまた別の話としておきたい。というかもう話したくない。
わたし、呪われているのかな……(涙)
(おしまい)
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる