孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

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第2章

第31話 やぁやぁ我こそは

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 大会までの間、ティスリわたしたちは、ベラトさんの治療を継続して、それぞれのコンディション調整にも努めました。

 ベラトさんの骨折は順調に回復していき、一週間で剣を振るえるようになりました。ですが大会側が用意した訓練場で練習すると、領主に見つかる可能性もあります。

 見つかったところで、グレナダ姉弟に貸し与えている守護の指輪があれば身の安全は保証されますが、ところ構わず刺客を黒焦げにしていたら、領主から難癖を付けられる可能性もありましたので、ベラトさんのリハビリと調整は都の郊外で行いました。わたしの飛行魔法があれば移動はあっという間ですし。

 そうこうしているうちに現地エントリーの予選も始まり、出場することになったわたしとアルデは、予選開催のコロシアムへと出向きました。今日はアルデの予選だけなので、わたしは付き添いですが。

 その控え室で、アルデが聞いてきます。

「そういや、予選であんまり目立たないほうがいいか?」

 地方予選で目立ったベラトさんがダークホースと見なされて、襲撃を受けたことを思い出したのでしょう。わたしは「そうですね……」と少し考えてから言いました。

「普通に戦いましょう。こちらに襲撃が来るのであれば、如何にようにも出来ますし」

 わたしたちが黒づくめたちの襲撃に遭ったとしても、返り討ちにした上で、どこかに閉じ込めておくなどすれば、領主から文句を言われる筋合いもないというものです。証拠がないですし、向こうも公には出来ないのですから。

「それにわたしたちの活躍を見て、領主が焦れば焦るほど尻尾を掴みやすいでしょうしね」

 わたしがそんな説明をすると、アルデが肩を回しながら言ってきました。

「そうか、なら簡単でいいな。そうしたらちょっくら行ってくるわ」

 アルデは気軽にそう言うと控え室を後にします。わたしも介添人セコンド席に向かいました。

 この大会では、選手にセコンドを付けることが出来るので、アルデにはわたしが付きました。ちなみにベラトさんにはフォッテスさんが付きます。

 アルデを介添えする必要はないと思いますが、セコンド席は、闘技台の間近にある台座の上なので、そこに座れば戦いがよく見えて大迫力なのです。観戦するには特等席と言えるでしょう。観客席は、闘技台から数十メートルも離れていますからね。

 わたしはセコンド席につくと闘技台を眺めました。セコンド席のほうが少し高いので闘技台全体を見渡せます。

(ふむ……思った通りよく見えますね)

 アルデはすでに闘技台にあがっていて、他にも29名の選手がいます。

 現地エントリーの予選はバトルロワイヤル形式だそうで、これを何度か勝ち抜くことで本戦出場となります。事前エントリーと比べるとけっこう雑な扱いですが、時間短縮のため致し方ないのでしょう。

 コロシアムには、予選にもかかわらず観客もかなり入っていて、結構な人気のようですね。

 わたしが周囲を見渡していると、闘技場にブザーが鳴って、壇上の審判が拡声器越しに言いました。

「それでは予選を開始する! 各自構え!」

 審判はそう言いながら片手を高々と上げました。闘技台の30名が、模造刀や模造槍などを構えます。

 武術大会で使う模造武器は、命を奪うほどの威力でもない限り刃が砕け散ることはありません。なので実戦に近い戦い方が可能となります。その分怪我も増えますが。

 そんな模造武器を構えたわけですが、アルデは気が抜けた感じで突っ立ったままでした。普段のアホ面のまま。

 まぁアルデの実力なら構えるまでもないのでしょうけれども、もうちょっとこう……格好付けるとか出来ないのですかね、まったく。

 わたしがそんなことを思っていたら、審判が手を振り下ろします。

「では始め!」

 すると闘技台の各場所で剣戟やにらみ合いが始まりました。アルデの前にも一人の男が立ちはだかります。

「やぁやぁ我こそはゲフゥ!」

 なぜか名乗りを上げようとしていたその男は、アルデに瞬殺されました。

「お前! なかなか腕が立つじゃないか! だがこの鎖鎌の悪魔と恐れられグフゥ!」

 長広舌を振るい始めた大男もアルデにされました。

 バトルロワイヤルだというのに、なぜ無駄口を叩くのか……謎な方々ですね。

 すると今度は複数の選手が言いました。

「おい! アイツ強いぞ!」

「くくっ! ならアイツから叩くか!」

「よしきた! オイみんな、こっちだ!」

「分かった!」

「覚悟しろ!」

 バトルロワイヤルで徒党を組むなら、その基本は『弱い者から全員で叩く』だと思うのですが、何を考えたのか、強者であるアルデを狙い撃ちにします。

 そうしてアルデを取り囲んだ五人の選手達が、一斉に飛びかかりました。

 ですが、即席のチームに連携なんてあるはずもなく、アルデは、選手達の合間あいまをかいくぐっては模造刀を一閃。全員、悲鳴を上げることもなく意識を失いました。

 どうにも戦い慣れしていない選手が多いようです。まぁ予選ですしそんなものでしょうか。

(それにしても……やはり、剣の腕だけ、、は立ちますね、本当に)

 わたしはそんなことを考えながら、アルデの動きを目で追います。

 周囲もアルデの強さに気づいたのでしょう。アルデが一人、また一人と倒すごとに観客席からは歓声が起こり、セコンド席からは悲鳴が上がりました。

 なるほど。バトルロワイヤル形式なのは、観客を飽きさせないためでもあるのですね。地方予選と違って、領都での予選なら客入りも多いですし。

 いずれにしても、アルデの実力はこんなものではなく、本来ならもっと観客を楽しませられると思うのですが、まだ予選で相手も弱いですし致し方ないでしょう。というより、本戦に出てもアルデの本領が発揮されることはないでしょうけれども。

 わたしと戦えないのが残念でなりませんね、まったく。

 そうして闘技台上の選手が三分の一まで減ったとき、審判が号令を掛けました。

「各自そこまで!」

 それに合わせて、選手達の動きもピタリと止まります。

「いま残っているものを第一予選通過者とする! 各自、第二予選の30分前には控え室に入っておくように!」

 そんな感じで、初回の予選は終了しました。

 アルデが闘技台から降りてくるので、わたしは近寄ります。

 汗の一つも掻いていないので、いちおう持参していたタオルは隠したまま、わたしは問いかけました。

「どうでしたか?」

「まぁ……案の定といった感じだな」

 不抜けた顔でアルデは肩をすくめます。弱い者いじめみたいになるから好きじゃない、と言っていただけあってつまらなそうですね。

 それと比べ、なぜかわたしには満足感がありますが……自分の意図通りに、小生意気なアルデを出場させることができたからでしょうか?

 となると、アルデが苦戦を強いられればもっと楽しめるかも?

「それは仕方ありませんね。なんでしたら、わたしが魔法で弱体化デバフをしてあげましょうか?」

「いやなんでだよ!? そもそも魔法は禁止だろーが」

「実行委員会に、わたしの魔法を検知するほどの能力があるわけないでしょう?」

「だとしても勘弁してくれよ……面白くないのに加えて大変になるなんてまっぴらだ」

「まったく、面倒くさがりですねアルデは」

「いや、デバフを面倒だと思うのは当然だと思うが……しかも意味ないし」

 そんな軽口を叩きながら、わたしたちは予選会場を後にします。

 その日、午後に二回の予選がありましたが、アルデはすべて快勝して本戦出場を決めました。

 そして翌日には女子部門の予選となりましたが、もちろんわたしも、魔法抜きで予選通過しました。

 その後、案の定襲撃者がわたしたちの前に現れましたが、その全員を返り討ちにして、地下水路の制御室に閉じ込めました。

 拘留場所にはちょっと悩みましたが、グレナダ姉弟を監禁しようとしていただけあって、制御室には保存食と飲料、あとトイレもあったのでそこにしました。場所はバレていますが、魔法的な処置もしたので、例え発見されたとしても助け出すことは不可能でしょう。

 グレナダ姉弟のほうに襲撃者は現れていないので、怪我が完治していることはバレていないようです。ただ本戦が始まったら姉弟のほうにも襲撃者が向かうでしょうから、わたしたちと行動を共にするために、旅館で寝泊まりしてもらうようにしました。

 そんなことがありながら、裏で欲望が渦巻いている武術大会本戦はいよいよ開催されます。

 そうして、わたしたちは本戦でも順調に勝ち進んでいきました。
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