孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

文字の大きさ
上 下
70 / 245
第2章

第26話 どんなヤツなのかと思ってね

しおりを挟む
 フォッテスわたしが不安でどうにかなりそうになっていると、馬車が止まった。

 すると黒ずくめの一人が「出ろ」とだけ声を掛けてきた。

 わたしは、嗚咽をぐっと飲み込むとベラトを見た。ベラトは力強く頷くと立ち上がる。ベラトが先に荷台を出て、わたしはその後に続いた。

(ここは……地下水路?)

 荷台から出ると、そこはちょっとした空間になっていた。

 天井は、民家の二階分くらいの高さで、堅牢な石造りになっている。たくさんの柱とアーチ状のはりがあって、それらがこの空間を支えているのだろう。視界を下に向ければ水路があって、かなり勢いよく水が流れていた。舟二隻が余裕ですれ違えるほどに幅もある。

 わたしが周囲を見回していると、黒づくめの一人が言った。

「こっちだ。歩け」

 両手を拘束されているわたしたちは、まるで手綱に繋がれた馬のような扱いで引っ張られたので、やむを得ず歩き始める。

「あのぅ……旦那」

 歩き始めると後ろから声がした。暗くてよく見えないけど、御者の一人が黒づくめに声を掛けたようだ。

「馬車はどうしましょう? この通路に置いていては邪魔になるかと思いますが。馬が暴れるかもしれませんし」

「どこか開けた場所に繋いでこい」

「へい、分かりやした」

 そうして馬車は、来た道を引き返していく。

「お前らはこっちだ。歩け」

 わたしたちは再び手綱を引っ張られて、水路の奥へと進んでいった。何回か階段も下る。

 いったい何階分くだったのか分からなくなってきたところで、水路の壁面に鉄製の扉が現れる。黒づくめ達はその扉を開きながら言った。

「そういえば……あの三兄弟はまだ戻ってこないのか?」

「ええ……馬車を繋ぎに行ったあと、まだ追いついてきません……」

「まさか、逃げたのではあるまいな!?」

「!?」

 黒づくめ達に緊張が走る。

「追っ手を掛けろ! 絶対に逃がすな!」

 言うや否や、黒ずくめの半分が来た道を引き返していく。

「お前らは中に入れ!」

 苛立った黒づくめの一人が、ベラトとわたしを、半ば無理やり扉の向こうへと押し込めた。

 扉の向こうはちょっとしたホールになっていた。魔法による証明がうっすらと付いていて、ガシャン、ガシャン……と定期的に機械音が聞こえてくる。どうやら、水路を制御するための装置か何かが近くにあるらしい。向こうには制御台らしき台座と、地下水路を見渡せる大きな窓もあった。

 そして制御台の椅子に、一人の男が座っている。

 黒づくめの一人がその男に声を掛けた。

「ジェフさん、どうしてこちらに?」

「いやなに。優勝候補の一人を捕らえたと聞いて、どんなヤツなのかと思ってね」

 黒づくめの問いかけに、ジェフと呼ばれた男は立ち上がる。

 痩せぎすの体には黒のライトアーマーをまとっていて、腰にはレイピアのような剣を二本下げている。全身黒づくめなのは、わたしたちを攫ってきた男達と変わらないけど、この男の雰囲気がとても怖くて、わたしは鳥肌を立てていた。

 その目を見るだけで、鋭利な刃物を突きつけられたかのような……そんな恐怖を感じてしまう。

 その男が、気軽な感じで黒づくめ達に問いかけた。

「それで、コイツらどうするんだ?」

「大会終了まで、ここに閉じ込めておくようにとのお達しです」

「そ、そんな……!」

 わたしが思わず声を出してしまうと、男達の視線が集まる。それだけで、わたしは立っていられなくなって尻もちを付いてしまった。

 するとわたしの前にベラトが立ちはだかって、わたしの姿を隠してくれる。

 そんなベラトにジェフが言った。

「お~お、勇ましいねぇ。カノジョには手出しをさせないってか?」

「恋人じゃない。ぼくの姉だ」

「ああ、なんだ。シスコン野郎か」

「お前の目的はなんだ? どうしてオレたちをさらった?」

「言っただろ。大会終了まで、お前らを監禁したいんだとよ、こいつらが」

「どうしてだ?」

「ははっ。そんなことをご丁寧に言うわけないだろ。けどまぁ……」

 そう言ってジェフは、腰に下げていた剣のうち一本を抜き身で放り投げた。

 ベラトは、手を縛られているにもかかわらず剣を器用に受け取る。

「ジェフさん!?」

 剣を渡してしまったのを見て、黒づくめたちが騒ぐが、しかしジェフはそれに構わずベラトに言った。

「オレに勝てたなら、教えてやってもいいぜ?」

 ベラトが武器を持ったことで、黒づくめ達が一斉に抜刀する。しかしジェフは肩をすくめて黒づくめ達を見た。

「オレさぁ、こんな作戦、もともとイヤだったんだよね」

「しかし……!」

「この作戦ってさ、オレがこのガキに負けるかもしれないってことだろ?」

「そうは言ってませんが、万が一の保険です」

「だからその、万が一が気に入らないつってんの」

 そうしてジェフは剣を抜くと、その切っ先をベラトに向けた。

「だからここで証明してやろうって言ってんだよ。オレに敵う人間なんざ、この世に一人もいないってことをさ」

 ベラトは──投げ渡された剣で両手の拘束を切ってから、剣を正眼に構えた。わたしは思わず息を呑む。

「ベラト……戦う気!?」

「姉さん、出来るだけ下がってて」

「でも……!」

「大丈夫。なんとかしてみせる」

 ジェフという男は妙に自信ありげだし、そもそも、黒づくめ三人も剣を抜いてしまっている。

 さきほどの会話から、ジェフが戦っている最中は手出ししてこないかもしれないが……しかしジェフが劣勢だと見れば間違いなく加勢してくるはず。

 そうしたら……ベラトに勝ち目はない……!

 でも……わたしが出ていったところで足手まといにしかならないし……!

「姉さん、早く下がって……!」

「……!」

 張り詰めた声でベラトに言われ、まだ足腰が立たないわたしは、床を這って部屋の隅へと待避する。

 逃げるわたしの背に、剣戟の音が届いた……!

「くっ……!」

 次いでベラトの苦悶の声も!

 わたしは嗚咽を漏らしながら、地べたを必死で這いつくばって移動して、こんなに悔しくて情けないのは初めてで──だから思わず願ってしまった。

 アルデさんやティスリさんがいてくれれば……!

 そして気づく。

 胸元で光るネックレスに。

「そ……そうだ……!?」

 ネックレスに気づいた途端、わたしの足は動くようになった。

 だからわたしは起き上がって、急いでホールの隅へと待避する。

 振り返ると、ホール中央でベラトとジェフが切り結んでいた。

 いま使っているのは模造刀じゃない。真剣だ。早くしないとベラトが死んじゃうかもしれない……!

(で、でも……落ち着いて……落ち着いて呪文を……!)

 わたしはネックレスについた石を握りしめると、ジェフや黒づくめたちに聞こえないよう気をつけながら、ティスリさんに教わった呪文を詠唱した──まるで祈るかのように。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...