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第2章

第21話 そんなの嘘デスあり得ない絶対に!!

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 ティスリわたしは、二日酔いでまだズキズキする頭を押さえながら、訓練場となっているコロシアムの客席に隠れていました。

 そうして、望遠魔法と集音魔法を用いて、アルデ達の様子を遠隔で観察します。

「だ、誰がぼっちですか誰が……!」

 相変わらず、アルデは不敬なことを言っているので、わたしはいささか腹を立てていました。するとその怒りが頭に達して痛みをぶり返し、わたしは顔をしかめます。

 うう……

 やっぱり二日酔いはつらいですね……

 最高位の回復魔法を連発しても、どういうわけか、回復まできっちり半日はかかりますし……

 それに……です。

 わたしは昨日……何かとんでもないことをしでかしたかのような……

 目が冷めたとき、あり得ない光景がフラッシュバックしてきたのでわたしは……絶対に夢だ、あり得ない、信じるもんかと思ったのですが……

 だから旅館で、扉越しにアルデに声を掛けられたときなんて、体中が火照ってしまって出るに出られなかったわけですが……

 でもあれは全部夢だったと自分を納得させて、アルデのあとを付けてみれば。

 今し方のあの三人の会話……

 とくに、フォッテスさんが言った単語……

 わたしはそれを思い返して頭を抱えました。

「そんなの嘘デスあり得ない絶対に!!」

 わ、わたしが……

 アルデの頬に……

 キスをしただなんて!

 あるはずがないのです! アレはたんなるのわたし夢で、フォッテスさんは幻覚を見ていたのです!

「絶対に違いますから!!」

 わたしが頭を抱えてジタバタしていると、向こうから声を掛けられました。

「おい、誰かいるのか?」

 男性の声が聞こえてきたので、わたしはベンチの陰から頭だけ出して、声のするほうに視線を向けました。

 すると、少し向こうのベンチに、見覚えのある男三人がいました。

「あなたたちは……昨日、フォッテスさんに絡んでいた三人組ですか」

「お、お前は……!」

「もしかして、まだフォッテスさんを狙っているのですか?」

 諦めが悪そうなのは元より、頭も悪そうな三人組にわたしがドン引きしていると、そのうち一人が言ってきました。

「違う! あんなアバズレなんて興味あるか!」

 自分たちで声を掛けたくせに酷い言いようです。なのでわたしは、頭の痛みもあっていっそう苛立たしく感じました。

「勝手に絡んでおきながら、相手にされないと知るや否や罵詈雑言とは。もはや人間の屑といっても過言ではありませんね」

 わたしは立ち上がってそう言い放つと、男達は肩をいからせながら近づいてきました。

「はっ! お前、あの男の連れだからといっていい気になるなよ!」

「っていうかお前のほうが断トツでいい女じゃねぇか!」

「こうなったらお前に落とし前を付けさせて──」

爆破フレーラ

 魔法発現すると、三人から小気味よく、ボン・ボン・ボボンという爆発音が聞こえてきました。

 昨夜は爆殺するのを勘弁してあげたというのに、学習しない人達ですね。まぁもっとも、黒焦げになる程度にしてあげましたから、死んだりはしていませんが。

 足元でピクピクしている男達を見下ろしていたら、背後から声が聞こえてきました。

「あっちゃぁ……遅かったか」

「……!?」

 この声は……アルデ!?

 その途端、わたしの顔が熱くなります。

「お前な、ところ構わず人間を黒焦げにするなよ……」

 そんなことを言いながらアルデは……こ、このわたしをスルーして(!)、男三人の元へと歩いて行きます。

「おーい、お前ら、生きてるか?」

 手足をピクピクさせているのですから生きているに決まっているでしょう! なのにアルデはしゃがんで男たちをつついたりしています。

 下手に突かれたほうが痛いでしょ!? などと言いたいのですが、なぜかわたしは上手く声が出せません……!

「まぁ……無残な見た目の割に軽傷のようだけど」

 アルデは立ち上がると、わたしへと顔を向けて……眉をひそめました。

「ってかお前……なんでそんなに真っ赤なの?」

「ししし知りませんよ! 二日酔いだからです!!」

「だから酒はやめとけって言ったじゃん……で、こいつらどうすんだよ」

「その辺に転がしておけばいいでしょう!?」

「いや、さすがにそれはまずいだろ。襲われたわけでもないんだし」

「襲われたかもしれない、、、、、、じゃないですか!」

「いや、だとしても過剰防衛が過ぎるって」

「分かりましたよウルサイですね!」

 わたしは回復魔法を発現させて、男達の傷をみるみるうちに治しました。

「ほら、これでいいでしょう!」

 さっきまで呻き声を上げていた男達が「う、う~ん……」と言いながら起き上がります。そしてわたしを見たかと思えば──

「バ、バケモノだ!」

 あまりに失礼なことを言ってくるので、わたしは思わず叫びます。

「誰がバケモノですか!!」

「ひぃ~~~!」

「お、お助けぇぇぇぇ!」

「気持ちよかったから勘弁してやらぁぁぁ!」

 などと安直な悲鳴を……いえ、何か変なことを口走っていた人もいた気がしますが、とにかく男達は逃げていきました。

「やっぱ、妙なのがいたな……」

 アルデは首を傾げながらもわたしを見ました。

 わたしはアルデと目が合って……思わず視線を逸らします。

「なぁ……お前さぁ……もしかして昨日の……」

「な、何も覚えてません!」

「そうなのか?」

「そうなのです! わたしは夢を見ていただけ! ただそれだけなのですからね!?」

「そういうことなら、まぁいいけど」

 よ、よし……これで昨日の悪夢は記憶の彼方に葬り去ることが出来ました。どうしてアルデがわたしの夢を知っているんだとか、そういう細かいことは気にしません!

「ところで連中、なんだってこんな場所にいたんだ?」

 アルデが、男三人組が消えたほうを眺めながら言ってきました。

「さぁ……とくに聞いてませんが……」

「ふーむ……連中も大会に出るとか言ってたし、敵情視察ってとこか?」

「そうかもしれませんね」

「しかしお前にまで痛めつけられたなら、トラウマになって試合どころじゃないかもなぁ」

「そもそもあんな弱いなら、どうせ一回戦負けですよ」

「まぁそうかもしれんけど……」

 アルデは頬をポリポリ掻きながら、視線をわたしに戻します。

 む……アルデに見られると、まだちょっと顔が熱くなりますね……

「それでティスリは、このあとどうする? オレは夕方まで、ベラトの稽古に付き合うけど」

「そ、そうですね……」

 わたしは、二日酔いからくる体のだるさを思い出して言いました。

「わたしは、旅館に戻って寝ることにします」

「そうか……ってかさ」

 アルデは不思議そうな顔つきでわたしを見ました。

「なら、ずっと寝てればよかったじゃん」

「う、うるさいですね! わたしにも色々とあるんです!」

 アルデが気になって付けてきた……なんてバレるわけにはいかないのです……!

 なにしろ昨日のアレは、夢だったのですからね!
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