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第2章

第19話 よーし、それじゃあまずは手合わせしてみようか

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「あ~……よく寝た」

 アルデオレは旅館の一室で大きく伸びをすると、ベッドから起き上がる。

 カーテンを開けたら朝日が燦々と入ってきた。これだけ太陽が照りつけていると、そろそろ気温も上がってきそうだな。

 まぁなんにしても運動するには、ちょっと暑いくらいがちょうどいいだろう。

 今日は、ベラトに稽古を付ける約束をしていたから、朝食を済ませたら午前中から訓練場に出向くつもりだった。

 でもまぁ……その前に。

 我があるじをフォローしなくてはいかんのだろうが。

「お~い、ティスリ。起きてるか?」

 オレは身支度をしてから、ティスリの部屋の前まで出向く。そしてノックをしながら声を掛けるが反応はなかった。

 さて……いったいどうしているのやら……

 まぁ、二日酔いになっているのは間違いないだろうが。

 昨夜は急に酔っ払ったかと思ったら、オレに抱きついて、いわんや頬にキスまでしてきたからなぁ……衆目の中で。

 そしてあっという間に酔い潰れやがった。

 以前よりも酒に弱くなってないか? まぁそれはともかく。

 これまでのティスリの言動から察するに、もし昨夜のことを覚えていたのなら……きっと、今頃ベッドでもんどり打っていることだろう。

 だから酒はやめておけと言ったのにさぁ……

 願わくば、酔っ払った記憶がないことを祈るばかりだ。

 ということで、ちゃんと気遣いの出来るオレは、部屋の中のティスリに向かって言った。

「ティスリ、オレは訓練場でベラトの相手をしてくるからな。何かあったらそこにこいよ?」

 部屋からの反応はやっぱりない。本当にまだ寝ているのかもな。

 ということでオレは旅館の食堂に一人でやってくる。この旅館の朝食は、好きな料理を好きなだけ取り放題なのだという。まるで屋台のようなノリだが、出される料理はどれもお高そうだ。なんとも贅沢な話だな。

 なのでオレは朝から食事を堪能して、さらには茶などすすってから旅館を後にした。

 いやぁ……こんなに優雅な生活しててもいいのかな? まるでお貴族様にでもなったかのようだ。

 これまでは、いつもティスリと一緒にいたから実感がなかったんだが、旅館なんぞで一人食事をしていると、衛士時代の無骨な食堂を思い出すから、そのギャップを感じずにはいられない。

 そんなことを思い出したりしながら、オレは訓練場へと向かう。魔動車を出すほどの距離でもなかったし、まだ街中で運転するのはちょっと心配だからやめておいた。

 訓練場に入るとそれなりに広かった。百メートル走を直線で走ってもまだ余るくらいの広さだろう。普段はコロシアムとして使用されているようで客席もあるが、武術大会の期間中、ここは訓練場として解放されているらしい。

 そんな場内では、武術大会の選手達が一定間隔を開けて練習に励んでいた。みんな熱心だな。

 その選手の中で、オレはベラトとフォッテスを見つけた。近づくと向こうも気づいたようで手を振ってくれた。

「アルデさん! 今日は本当にありがとうございます!」

 ベラトが礼儀正しく言ってくる。この姉弟の父親は、地元で警備隊に所属しているそうだから、ベラトも礼儀作法はきちんとしているようだ。

 これなら、オレよりぜんぜん衛士に向いてそうだな──などと思いながらオレも挨拶をした。

「おう、こっちこそよろしくな。最近は、移動ばかりだったから体もなまりがちだし、ちょうどいいよ」

 オレのその台詞に、フォッテスが聞いてきた。

「そう言えば観光でこの都に来たって行ってましたよね。今は休暇か何かなんですか?」

 そう言われてみれば、オレって休暇中なのだろうか?

 ティスリの護衛または従者をしているわけだから、ある意味では年中仕事中でもあるのだが、そのティスリを放っておいて自由に行動しても、別に怒られたりしないし……

 なんというか……オレって特に仕事してなくないか?

 なのでオレは、ちょっと決まり悪さを感じつつもフォッテスに答える。

「ま、まぁ……いちおうオレはティスリの従者ってことになってるんだけど、そのティスリが休暇中だから、その流れでオレも休暇って感じかな?」

「そうなんですか……っていうか、そのティスリさんを放っておいていいんですか?」

「大丈夫だよ。それに今日は、どうせ二日酔いで昼頃まで起きられないだろうから」

「あ、ああ……昨日、急に酔い潰れてましたもんね……」

 フォッテスも結構呑んでいたと思うが、彼女は記憶があるらしい。なので曖昧な笑みを浮かべた。

「ティスリさん……アルデさんと恋仲じゃないことを証明するために、なぜキスをしたんでしょうねぇ……?」

「さぁなぁ……アイツ、頭はメチャクチャいいんだけど、だからかたまにワケの分からん行動をするし」

 まぁ昨日の場合は、ただ単に酔っ払って錯乱してただけだと思うが。

 そんな雑談をしながらオレはウォーミングアップを始め、体を十分に伸ばして温めたあと、模擬戦用の模造刀を何度か素振りしてみた。

 竹で出来た模造刀は魔法的な処置がされていて、体に当たっても怪我をしたりはしない。身体と接触したとき、一定以上の圧力が掛かると砕け散るようになっている。

 魔具の部分は柄なので、刀身が壊れたとしても高価な魔具は使い回せるのだ。とはいえ砕いた刀身の支払いは自分だから、あんまりパキンパキンと砕いては出費がかさむ。なので体に触れる直前で切っ先を止めることが腕のいい証だと見なされていた。

 ちなみに……オレが衛士だったころは、先輩どもは模造刀ではなく、カッチカチの木刀でオレと模擬戦をしていた。まぁ木刀はオレにかすりもしなかったけど。

 ウォーミングアップを一通り終えると、オレはベラトに向き合った。

「よーし、それじゃあまずは手合わせしてみようか。どんなもんかお手並み拝見といったところだな」

「はい、よろしくお願いします!」

 ベラトは行儀良く一礼をしてから、模造刀を構えた。
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