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第2章
第11話 えっ!?
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アルデは滝汗になりながらも、ティスリお手製のスープを飲み干してから考える。
さすがのオレでも、寸胴一つ分ものスープを食べることは出来ないし、そもそも、海水よりもからくてケーキよりも甘い料理(?)を食べ続けたら……体調悪化どころか死んでしまう。
しかしそこまで作りすぎているのなら、ティスリはそのうち食べることになるだろう。そして気づくはずだ。
自分の料理が大失敗しているということに。
いや……後学のためにも失敗を学ばせるのは大切な気もするが、しかしなんとなく、今はそのタイミングではない気がする。
失敗してたことを、どうして教えてくれなかったんだと逆ギレしそうだし……
だからオレは、ティスリがアレを食べる前になんとかしなければならない使命感に駆られていたのだが……ティスリは、オレが食事を終えたあとも部屋から出て行く気配がまったくない。
ベッドサイドに腰を掛けて、なぜかひたすらにオレを見守っていた……睨んでいるとも見えるが、たぶん真剣になりすぎて表情が強張っているのだろう。
「あ、あのぅ……ティスリさん?」
「なんですか?」
「どぉしてオレの部屋にいるのかな?」
「アルデの看病をするためですが?」
「元王女で現主人であらせられるティスリに、看病なんてしてもらわなくても……」
「変な気を使わなくても大丈夫ですよ」
「い、いえ……気を使っているわけではないんですけどね?」
「それに、特にやることもありませんから問題ありません」
「そ、そぉですか……」
「わたしのことは気にせず、アルデは寝ていてください」
どうにもしおらしいティスリに、オレの調子は狂わされっぱなしだった。
「じゃ、じゃあ……ちょっと寝てるな」
なんとなく気まずくなって、オレは寝たふりをすべく目を閉じる。
「ええ、ゆっくりと眠るのですよ」
そうしてティスリの気配を枕元で感じながら、オレはしばらく目をつぶる。
体のだるさと熱っぽさと、あと口の中にまだ残っているなんとも言えない風味が気持ち悪くて、オレはなかなか寝付けずにいた。
っていうか、さっきまで四時間も昼寝していたわけだから、さすがに眠れそうにない。
そんな感じで悶々としていると、ティスリの声が聞こえてきた。
「アルデ……もう寝ましたか?」
ティスリのその声は、今までに聞いたこともないほど弱々しいものだった。
オレは、そんな雰囲気に当てられて戸惑っていると、ティスリが話を続けてしまう。
「どうやら……寝たようですね」
いや、人間はそんなに早く寝付けないと思うが……
ティスリはなぜか、オレがもう寝入ってしまったのだと勘違いしたようで、独り言のように言葉を続けた。
「……その……なんというか……あの……」
何かとてもまごまごした口調だった。ティスリにしては本当に珍しいな……
オレが内心で不思議に思っていると、ティスリは意を決したかのように言ってきた。
「……その……ごめんなさい」
「えっ!?」
ティスリのそんな言葉に、オレは思わず目を開ける。
するとティスリと目が合った。
「あ、あなた……!?」
ティスリの顔が見る見るうちに赤くなる。
「お、起きていたのですか!?」
「ま、まぁな?」
「どうして起きているのですか!?」
「ど、どうしてと言われても……寝付けなくて……」
「あなたが寝付けないだなんてあるはずないでしょう!?」
「いや、なんでだよ?」
まったく意味不明なそしりにオレは首を傾げるしかないが、それはともかく、真っ赤になったティスリにオレは言った。
「もしかして、オレの寝袋をひん剝いて風邪を引かせたこと、けっこう気にしてるのか?」
「う……」
ティスリは視線を逸らしながらも頷いた。
「そ、そうですよ……! 悪いですか!?」
「別に悪くはないけど」
「と、とにかく謝罪はしましたからね!? あと看病もしてあげてるのですから、これで貸し借り無しですよ!」
うーむ……優しいんだかそうじゃないんだか分からない台詞だが……まぁ素直じゃないコイツのことだからな。
「分かった分かった。なら精々がんばって看病してもらうとするか」
オレがそんなことを言うと、ティスリはそっぽを向きながらも言ってきた。
「ふ、ふん……病人は、大人しく看病されるがいいですよ」
耳たぶまで真っ赤になっているティスリが言葉を続ける。
「それで……寝付けないというのなら、おとぎ話でもしてあげましょうか?」
「いや子供じゃないんだから……ああ、そうだ」
子供のころを思い出したら、なぜかトイレに行きたくなった。あとしょっぱいものを食べ過ぎたせいで喉もカラカラだ。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「分かりました」
「って、なんでお前も立ち上がるの?」
「付いて行こうかと」
「だから子供じゃないっつーの!」
オレはティスリを押しとどめると部屋を出た。
そうして用を足してから、宿屋の厨房に出向いて水差しをもらった。これからしばらく喉が渇きそうだから、コップ一杯では足りなさそうだったのだ。
そのとき、厨房に置かれていた寸胴が目に入った。
「あの……もしかしてあの寸胴、オレの連れが作ったスープですか?」
水差しを持ってきてくれた女将さんに尋ねると、彼女は苦笑しながら頷いた。
「ああ、そうだよ。たくさん余ってるみたいだけど、あんた全部食べるのかい?」
「い、いや……さすがに無理なんですが……あ、そうそう」
量もさることながら味も致死量なのでオレは逡巡したが、ふと思いついて女将さんに聞いた。
「あのスープ、味付けを直すことって出来ますか?」
「ああ……そうだねぇ……」
どうやら女将さんはつまみ食いをしていたらしく、肩をすくめながら言葉を続けた。
「汁は捨てて具材だけでよければ、食べられる程度には直せるかもね」
「そうですか。それでいいんでお願いできますか。手間賃はお支払いしますので」
「いやお金はいいよ。お連れさんに十分過ぎるほど頂いてるからね」
「ではお言葉に甘えて……あと、連れには内緒で味付けを直して頂きたいのですが」
「ああ……なるほど。分かったよ」
そう言ってから、女将さんは苦笑いをした。
「とはいえ料理の腕があのままでは……お兄さん、苦労するよ?」
どうやら女将さんは、ティスリが日常的に料理をしていて、酷い味音痴だとでも思っているのだろう。なのでオレは愛想笑いを浮かべた。
「徐々に教えていくつもりです、ハイ……」
「そうかい。ならがんばりな。あのスープは、夕食までには直しておくからね」
オレは女将さんに改めて礼を言うと、ほっとしながら部屋に戻るのだった。
さすがのオレでも、寸胴一つ分ものスープを食べることは出来ないし、そもそも、海水よりもからくてケーキよりも甘い料理(?)を食べ続けたら……体調悪化どころか死んでしまう。
しかしそこまで作りすぎているのなら、ティスリはそのうち食べることになるだろう。そして気づくはずだ。
自分の料理が大失敗しているということに。
いや……後学のためにも失敗を学ばせるのは大切な気もするが、しかしなんとなく、今はそのタイミングではない気がする。
失敗してたことを、どうして教えてくれなかったんだと逆ギレしそうだし……
だからオレは、ティスリがアレを食べる前になんとかしなければならない使命感に駆られていたのだが……ティスリは、オレが食事を終えたあとも部屋から出て行く気配がまったくない。
ベッドサイドに腰を掛けて、なぜかひたすらにオレを見守っていた……睨んでいるとも見えるが、たぶん真剣になりすぎて表情が強張っているのだろう。
「あ、あのぅ……ティスリさん?」
「なんですか?」
「どぉしてオレの部屋にいるのかな?」
「アルデの看病をするためですが?」
「元王女で現主人であらせられるティスリに、看病なんてしてもらわなくても……」
「変な気を使わなくても大丈夫ですよ」
「い、いえ……気を使っているわけではないんですけどね?」
「それに、特にやることもありませんから問題ありません」
「そ、そぉですか……」
「わたしのことは気にせず、アルデは寝ていてください」
どうにもしおらしいティスリに、オレの調子は狂わされっぱなしだった。
「じゃ、じゃあ……ちょっと寝てるな」
なんとなく気まずくなって、オレは寝たふりをすべく目を閉じる。
「ええ、ゆっくりと眠るのですよ」
そうしてティスリの気配を枕元で感じながら、オレはしばらく目をつぶる。
体のだるさと熱っぽさと、あと口の中にまだ残っているなんとも言えない風味が気持ち悪くて、オレはなかなか寝付けずにいた。
っていうか、さっきまで四時間も昼寝していたわけだから、さすがに眠れそうにない。
そんな感じで悶々としていると、ティスリの声が聞こえてきた。
「アルデ……もう寝ましたか?」
ティスリのその声は、今までに聞いたこともないほど弱々しいものだった。
オレは、そんな雰囲気に当てられて戸惑っていると、ティスリが話を続けてしまう。
「どうやら……寝たようですね」
いや、人間はそんなに早く寝付けないと思うが……
ティスリはなぜか、オレがもう寝入ってしまったのだと勘違いしたようで、独り言のように言葉を続けた。
「……その……なんというか……あの……」
何かとてもまごまごした口調だった。ティスリにしては本当に珍しいな……
オレが内心で不思議に思っていると、ティスリは意を決したかのように言ってきた。
「……その……ごめんなさい」
「えっ!?」
ティスリのそんな言葉に、オレは思わず目を開ける。
するとティスリと目が合った。
「あ、あなた……!?」
ティスリの顔が見る見るうちに赤くなる。
「お、起きていたのですか!?」
「ま、まぁな?」
「どうして起きているのですか!?」
「ど、どうしてと言われても……寝付けなくて……」
「あなたが寝付けないだなんてあるはずないでしょう!?」
「いや、なんでだよ?」
まったく意味不明なそしりにオレは首を傾げるしかないが、それはともかく、真っ赤になったティスリにオレは言った。
「もしかして、オレの寝袋をひん剝いて風邪を引かせたこと、けっこう気にしてるのか?」
「う……」
ティスリは視線を逸らしながらも頷いた。
「そ、そうですよ……! 悪いですか!?」
「別に悪くはないけど」
「と、とにかく謝罪はしましたからね!? あと看病もしてあげてるのですから、これで貸し借り無しですよ!」
うーむ……優しいんだかそうじゃないんだか分からない台詞だが……まぁ素直じゃないコイツのことだからな。
「分かった分かった。なら精々がんばって看病してもらうとするか」
オレがそんなことを言うと、ティスリはそっぽを向きながらも言ってきた。
「ふ、ふん……病人は、大人しく看病されるがいいですよ」
耳たぶまで真っ赤になっているティスリが言葉を続ける。
「それで……寝付けないというのなら、おとぎ話でもしてあげましょうか?」
「いや子供じゃないんだから……ああ、そうだ」
子供のころを思い出したら、なぜかトイレに行きたくなった。あとしょっぱいものを食べ過ぎたせいで喉もカラカラだ。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「分かりました」
「って、なんでお前も立ち上がるの?」
「付いて行こうかと」
「だから子供じゃないっつーの!」
オレはティスリを押しとどめると部屋を出た。
そうして用を足してから、宿屋の厨房に出向いて水差しをもらった。これからしばらく喉が渇きそうだから、コップ一杯では足りなさそうだったのだ。
そのとき、厨房に置かれていた寸胴が目に入った。
「あの……もしかしてあの寸胴、オレの連れが作ったスープですか?」
水差しを持ってきてくれた女将さんに尋ねると、彼女は苦笑しながら頷いた。
「ああ、そうだよ。たくさん余ってるみたいだけど、あんた全部食べるのかい?」
「い、いや……さすがに無理なんですが……あ、そうそう」
量もさることながら味も致死量なのでオレは逡巡したが、ふと思いついて女将さんに聞いた。
「あのスープ、味付けを直すことって出来ますか?」
「ああ……そうだねぇ……」
どうやら女将さんはつまみ食いをしていたらしく、肩をすくめながら言葉を続けた。
「汁は捨てて具材だけでよければ、食べられる程度には直せるかもね」
「そうですか。それでいいんでお願いできますか。手間賃はお支払いしますので」
「いやお金はいいよ。お連れさんに十分過ぎるほど頂いてるからね」
「ではお言葉に甘えて……あと、連れには内緒で味付けを直して頂きたいのですが」
「ああ……なるほど。分かったよ」
そう言ってから、女将さんは苦笑いをした。
「とはいえ料理の腕があのままでは……お兄さん、苦労するよ?」
どうやら女将さんは、ティスリが日常的に料理をしていて、酷い味音痴だとでも思っているのだろう。なのでオレは愛想笑いを浮かべた。
「徐々に教えていくつもりです、ハイ……」
「そうかい。ならがんばりな。あのスープは、夕食までには直しておくからね」
オレは女将さんに改めて礼を言うと、ほっとしながら部屋に戻るのだった。
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