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第2章

第10話 隠し味は砂糖だったか! 隠れてないのがいいな!!

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 「空腹に薬を入れるのもまずいですから、簡単な食事を持ってきます」とティスリは言ってから部屋を出て行く。

 ティスリに介抱してもらうだなんて、ほんと違和感しかないなぁ……などと思っていたアルデオレだったが、しかし徐々に心地よさも感じ始めていた。

 なんと言ってもティスリは、見た目だけ、、は想像を絶するほどに美少女だからな……!

 そんな美少女が、甲斐甲斐しく世話をしてくれるだなんて、どんな男だって一生に何度も夢見るはずだ。

 そう、夢でしかないはずなのだ。

 だというのに、今、そんな夢が現実となっている……!

 これはもはや役得というものではなかろうか?

 ティスリがあんなにしおらしくなるなら、オレ、ずっと風邪を引いていてもいいかもなぁ……

 などと考えていたら扉がノックされて、ティスリが戻ってきた。

 手に持つお盆にはスープボウルが乗せられている。

「消化と栄養にいい野菜スープです。鶏肉も入っていますよ。食べられますか?」

「おお……ありがとう。この宿屋の人が作ってくれたのか?」

「いえ、わたしが作りました」

「…………………………はい?」

 一瞬、ティスリが何を言っているのか分からず、オレは思わず聞き返す。

「えっと………………誰が作ったって?」

 するとティスリは、きょとんとした顔つきで再び言った。

「わたしが作ったと言ったのですが?」

「それはまた……どうして?」

「こちらの宿屋食堂のメニューは、どれもこってりとした料理しかありませんでしたからね。なので厨房を借りてわたしが作ったのです」

「そ、そぉなの?」

「ええ……あ、もちろん材料費はお支払いしましたよ。色も付けたので、宿屋の女将も喜んでいましたから安心してください」

「うん……別に女将さんの心証を心配したわけじゃないが……」

 オレは、ベッドのサイドテーブルに置かれたスープをじっと見つめる。

 コンソメであろうスープに入っている野菜と鶏肉はしっかりと煮込まれていて、とても美味しそうではあった。部屋を出てから数分で作れる代物ではないから、オレが寝ているあいだに料理をしてくれていたのだろう──

 ──王女殿下であらせられる、ティスリが。

「あのさ……」

「なんです?」

「ティスリってさ……」

「わたしって?」

「料理も出来たんだな?」

 オレがそう問いかけると、ティスリは一切の躊躇もなく答えてきた。

「王女だったわたしが、厨房に立つわけないでしょう?」

「ならどうして料理してんだよ……!?」

 オレが思わず突っ込むと、しかしティスリは臆することなく答えてくる。

「宮廷料理ならともかく、この程度の料理なんて、超絶天才美少女であるわたしに掛かれば造作もありません」

「そ……そうか……?」

「キャンプではアルデだって出来ていたでしょう? なのにわたしが出来ない道理もありません」

「そ……そうかな……?」

 何か失礼なことを言われた気がするが、ともあれ、せっかくティスリが用意してくれたのだから、食べる前にああだこうだと文句を付けるのも気が引ける。

 だからオレは、一つだけ確認した。

「味見は……したのか?」

 するとティスリが答えてきた。真顔で。

「アジミとはなんです?」

 ず~~~ん……

 オレの頭上に、そんな擬音がのし掛かった、、、、、、気がした。

 オレは、口元が引きつりそうになるのをなんとか堪えてティスリを見た。

 ティスリは、今まで見たこともないほどの純真無垢なまなこでオレを見つめている。自らの手で作った料理が食べられることを期待しているのだろう……

「ま、まさかティスリが手料理を作ってくれるだなんて……嬉しいなぁ……だがなぁ……」

 オレはなんとかごまかしに掛かるが、ティスリの瞳はさらに輝きを増してしまう。

「そ、そうですか? まぁ……わたしは王女でしたからね。世界広しといえど、元とはいえ王女の料理を食べられるだなんてアルデだけですよ?」

「だ、だよなぁ……元とはいえ王女お手製だもんなぁ……しかしなぁ……」

「ええ、なのでじっくりと心して食べてください」

「もちろんじっくりだけどさぁ……けどなぁ……」

「アルデ? 鑑賞するのはそれくらいでいいでしょう? 冷めないうちに食べてください」

「だよね?」

 ダメだ、この状況ではとても誤魔化せない。

 やむを得ず、オレは意を決してスプーンを持った。そのスプーンは小刻みに震えていたが、どうやらティスリは気づいていないようだ。

 そんな震えるスプーンで、オレはゆっくりとスープを掬う。

「で、では……頂きます……」

 ティスリが天才なのは本当だから、初めての料理だってきっと上手いはず……!

 そう思って、オレはひと思いにスープを口に入れた。

「アルデ、どうですか……?」

 オレは、口の中に含んだスープを一気に飲み干してから言った。

「おおお美味しいぞ!?」

 するとティスリは、どこかホッとしたかのような、それでいて誇らしげな笑顔になる。

「ふふ……そうでしょう? 何しろわたしの手料理ですから」

「ああ! 美味しいどころの話じゃないな!」

 そもそも、美味しいどころか海水のようだからな!?

 もはや味なんて分かりゃしない!!

 オレは涙目になってティスリに聞いた。

「にしても……いったいぜんたい、何を入れたんだ……?」

「各種調味料を適量に入れましたよ」

「ほぅ……適量とな? 例えば塩とか入れたのか?」

「ええ。塩はひとびん入れました」

「だと思った! 塩味がとても効いてる!」

「あと、宿屋の厨房には香辛料がぜんぜんありませんでしたから、キャンプで用意したものを色々入れました」

「うん! どぉりでスパイシーなわけだ!」

「ちなみにお砂糖もひと瓶ほど」

「ははっ! 隠し味は砂糖だったか! 隠れてないのがいいな!!」

「いずれにしても、お口に合ったようで何よりです。ちょっと作りすぎましたし、わたしも頂こうかしら」

「い、いや!? やめておくんだ!」

 慌ててオレが制止すると、ティスリは首を傾げた。

「なぜです?」

「これはオレのために作ってくれたんだろ!? ならオレが食べるのが筋ってもんだ!」

 苦し紛れにオレがそう言うと、ティスリの頬がぽっと赤くなる。

「そ、そうですか……そんなに気に入ってくれたのなら、作った甲斐があったというものです」

「ちなみにどれくらい作ったんだ!?」

寸胴鍋ずんどうなべ一つ分です」

 う、う~~~ん……

 オレは気が遠くなるのを感じながらも、ティスリの手料理をいったいどうやって処理したらいいのか……熱っぽい頭を高速回転させる。

 そして出た結論はただ一つだけだった。

 やっぱ、一刻も早く風邪を治さねば……
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