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第2章
第8話 へっくしょん!
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「う……ん……」
柔らかい朝日に気づいて、ティスリは目を開けます。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなかったのですが、すぐにテントの中だと気づきました。日差しがテントの布地を透過して、テント内もほんのり明るくなっていました。
どうやら昨日は、屋外だというのによく眠れたようです。キャンプというのも悪くはないですね。
などと考えてわたしは寝袋から起き上がり──そして寝ぼけ眼を大きく広げます。
「ア、アルデ!?」
なぜアルデが、わたしと同じテントに横たわっているのですか!?
と思った次の瞬間、昨晩のことを思い出しました。
「あっ──!」
そ、そう言えばわたしは……昨晩、アルデのテントに入ってから……そこで眠くなって……
アルデの寝袋を奪って、そのまま寝てしまったんでしたっけ!?
その事実を思い出した途端、アルデが大きなくしゃみをしました。
「へっくしょん!」
それからアルデがモゾモゾと起き上がり、目をしばたたかせてから言いました。
「さ、さっぶ……なんでオレ、寝袋から出て……」
そしてすぐ、わたしの存在に気づきます。
「ティスリ!? おま……ど、どうしてここに……!」
アルデがこちらを見て目を見開いているので、わたしは理由を話そうと口を開きますが……はて?
一体アルデに、なんと説明をすればいいのでしょう?
寝ぼけてアルデの寝袋を奪っただなんて、ダメ過ぎて知られたくないのですが!?
「え、えっと……それは……」
「ってかそれ、オレの寝袋だよな? なんでおまいが入ってるの?」
「で、ですから……えっと……」
「まさかお前……あれだけオレの事をこき下ろしてたくせに……」
アルデは剣呑な目つきをしてから言ってきました。
「自分から夜這いにくるとか──」
「違いますよ!!」
思いも寄らないことを言われ、わたしは思わず叫びました。
「アルデに用があったから起こしに来たのですが、あなたぜんぜん起きなくって!」
「それでどうして一緒に寝てるんだよ。しかもオレの寝袋で」
「そ、それは……あなたを起こしているうちに寝落ちしてしまって……」
もはや嘘をつくための辻褄もなくなり、わたしは正直に話すしかなくなったのでした……
それを聞いたアルデは、呆れ顔で言ってきます。
「お前ってさ……たまにすごくアホだよな?」
「……ア、アホ!?」
こ、このわたしをアホ呼ばわりするなんて、世界広しと言えどもアルデくらいなものですよ!?
が、しかし……今回ばかりは完全にこちらの落ち度なので言い返せません!
わたしが拳を握りしめると、アルデはさらに言ってきました。
「夜這いを避けるためなのに、その本人と一緒のテントで寝るとか油断しすぎだろ?」
「…………」
「だいたいお前ってさ、出会ったばかりのオレと呑みに行ったり、そこで酔い潰れたり、旅館だって同じ部屋だったわけで」
「……………………」
「男女間のことになると騒ぐ割に、見知らぬ男と呑んだり泊まったりとか、脇が甘すぎだ」
「………………………………」
「こっちだってれっきとした成人男性なんだからな? そんなことされ続けたら今後どうなるか分からないんだから、もっとちゃんと──」
「っていうか!」
アルデの小言に、わたしは我慢しきれなくなって言い返します!
「アルデがすぐに起きれば、こんなことにはならなかったんですからね!?」
「おいおい……オレが悪いって言うのか?」
「そうは言ってません! ですがその一端はあるんです!」
「あーもー、分かった分かった。じゃあ次は魔法か何かで叩き起こしてくれよ、まったく……」
確かに……覚醒魔法を使えばアルデを起こせましたが……
しかしあれは、いちど掛かるとその後12時間は寝付けなくなりますから、いくら脳が単細胞のアルデとはいえ、昨晩は眠れなくなるかもしれないわけで……
しかしわたしはイライラが募って言いました。
「なら今度はご希望通り、覚醒魔法で起こしてあげますから覚悟してくださいよ!?」
「へいへい、そうしてくださいよ……って、あれ?」
アルデはそう言いながら腰を上げようとしましたが、すぐその場にへたり込んでしまいます。
身体能力だけは高いアルデにしては珍しいその挙動に、わたしは眉をひそめました。
「……どうしたのです? よろめくなんて」
「いや……なんか体に力が入らなくてな……」
アルデ自身が一番驚いているようで、首を傾げていました。
そんなアルデの顔をよくよく見てみれば、にわかに赤みが差しているかのような……
しかしアルデは、なんどか体を捻ってから言ってきました。
「地面の上で寝てたから体が硬くなっていたのかもな」
「そうですか……? それならいいのですが……」
「体をほぐせば大丈夫だろう。ちょっとストレッチしてくるわ」
そう言いながらアルデはテントを出ました。
わたしもその後に続きます。
朝の平原は、とても澄み渡っていました。今日もいい天気で雲一つない青空が広がっています。
そんな中、アルデがストレッチを始めましたが……その動きには、普段のキレがないというか……いえ、それでも一般的な衛士や騎士より、よほどキビキビと動いてはいるのですが……
わたしがわずかな違和感を覚えていると、一通りのストレッチをこなしたアルデが言ってきました。
「よし、これで大丈夫だ。そしたら撤収すっか」
そう言って、アルデはテントを片付け始めます。
わたしもその作業を手伝いながら……しかしどうにも胸騒ぎが消えません。
だからアルデに言いました。
「アルデ……なんだか顔が赤くないですか?」
「そうか? まぁ今朝はけっこう暑いしな」
「けっこう暑い?」
どちらかというと、今朝は寒いくらいです。ストレッチで代謝が上がっているということなのでしょうか?
途中まではそう思っていたのですが、キャンプ道具を片付けているアルデが息を切らし始めていることを目の当たりにして、わたしの違和感は確信に変わりました。
「アルデ、もしかしてあなた……」
「なんだよ?」
「ちょっと屈んでください」
わたしはアルデの袖を引っ張って屈ませると、おでこに手を当てました。
「やっぱり! 風邪を引いてるじゃないですか!」
アルデは、なんとなくうつろな目になりながら「ああ……」と声を出します。
「なるほど風邪か……通りで怠いと思った……」
「通りでって、けっこうな熱ですよ!?」
「暑いのは熱のせいだったのか……」
「そうですよ! 気づかなかったのですか!?」
「風邪なんて子供の頃以来だから、思い当たらなかったなぁ……」
などと言いながら、アルデは魔動車に寄りかかってため息をつきました。
「と、とにかく! 急いで近隣の宿場町に移動しますからアルデは魔動車で寝ていてください!」
「けど、まだキャンプ用品の片付けが……」
「わたしがやりますからいいですよ!」
そう言うと、赤い顔をしたアルデが目を丸くします。
「な、なんですかその顔は……」
「いや……王女のティスリが一人で片付けとか出来るのか?」
「そのくらい出来ます! いいから寝ててください!」
わたしは助手席のシートを倒すと、半ば強制的にアルデを寝かせます。それから、いちどしまった寝袋を引っ張りだしてアルデの体に掛けました。
「寝袋を広げれば毛布代わりになりますから」
「お、おお……悪いな」
「あと回復魔法を掛けておきます。病気には効きませんが、体力回復にはなりますから、自然治癒力が高まるはずです」
「そ、そうか……助かるよ」
なぜか、妙に戸惑った感じでアルデが言ってきますが、わたしは回復魔法を掛け終わると、すぐさま片付けに戻ることにしました。
「それじゃあ大人しくしているのですよ?」
わたしは助手席の扉を閉めて片付けに戻ります。テントやタープなどの大型用品はすでに畳み終えているので、あとは食器などの小物をしまうだけです。
それにしても……
守護の指輪をしているのにもかかわらず体調を崩したということは、少なくとも病原菌による体調不良ではないわけで……
守護の指輪は、病原菌を含むあらゆる外敵から身を守りますが、疲労や寝不足などから来る体調不良までは防げません。むしろ、そういった体調不良のサインを無理やり抑えては、深刻な病気が発生するまで気づけませんし。
ということは、アルデが体調を崩した理由は……
もしかしなくても、確実に……
わたしが、アルデを寝袋から出して放置していたからですよね……!?
どうしてわたしは、あのままアルデのそばで寝てしまったのか……
いえ、それ以前に、テントを動かそうなどとは思わず大人しく寝ていれば、こんなことにはならなかったというのに……
今まで味わったことのない感情が、胸の奥底から湧き出てくることにわたしは気づきながらも……それをどうすることもできず歯がみするしかありませんでした。
キャンプ用品を片付け終えると、わたしは、魔動車に乗り込んでから魔法を唱えました。
「飛行」
魔法発現した次の瞬間、魔動車全体が宙に浮かびました。
「……え?」
その様子を眺めていたアルデが、赤い顔のまま言ってきました。
「お、おい……!? この車、空を飛んでいるぞ……!?」
「ええ。魔動車の最高速で走っても、次の宿場町に着くのに数時間はかかりますから、空を飛んだ方が早いのです。これなら一時間とかかりません」
「す、すげぇな……」
空を飛び始めたのがよほど珍しいのか、アルデは座席を起こすと窓の外を眺めました。
「今までいた樹があんなに小さく……!」
「体に障りますから、あまり興奮しないでください。というより、アルデは以前にもいちど空を飛んでるのに……」
わたしとアルデが戦った後のことを思い出し──わたしは頬が熱くなるのを感じて途中で口ごもってしまいました。
あのときは雲の上まで飛んで……そこでわたしは何かとても恥ずかしい台詞を言ったような……
……いえ、言ってません! 言ってませんよ!?
わたしの羞恥心は、しかしアルデには気づかれませんでした。発熱と興奮のせいか、ますます顔を赤らめて外を眺めながら言ってきます。
「確かにあのときも空を飛んだが、乗り物に乗って飛ぶのはまた別格だな!」
「そんなものでしょうか」
「ああ、そんなものなんだよ! にしてもすげぇ……空を飛ぶばかりか、めちゃくちゃ早いじゃんか!」
「わたしの魔法なのですから当然です」
「これで空を飛んでいけば、オレの地元なんてあっという間に着くんじゃないか!?」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
それでは、二人でゆっくり旅をするという目的が失われてしまうじゃないですか……! アルデの故郷は目的地ではありますが、目的そのものではないのですから。
しかしそれを説明するのは、なぜか気恥ずかしさを覚えて……だからわたしは、話を逸らすべくアルデに言いました。
「と、とにかく……今は余計なことを考えず大人しくしてなさい。けっこうな熱なのですから」
「そうは言ってもだな……! こんなトンデモ魔法を見せつけられては!」
「いいから、座席を倒して目をつぶってなさい。元気になったらまた飛ばしてあげますから」
「ちぇ……分かったよ……」
まるで子供のような顔つきで、アルデは座席を倒すと目をつぶります。
「まったく……病気なのに元気が有り余っているようで……何よりですよ」
「なーなーティスリ、やっぱり眠くないんだが」
「なら魔法で寝かしつけましょうか? 魔法による睡眠だと、体力回復は見込めませんが」
「うう……分かったよ。大人しくしてるよ……」
などとアルデが観念して……数分後には、もう寝息が聞こえてきました。
今さっき、あれほど興奮していたというのに。
「ほんと、どんな頭の構造をしているのか……いちどじっくり調べてみたいものです」
とはいえ、昨日は寒さで睡眠が浅かったのかもしれません。
そんなことが脳裏をよぎると、わたしは再び嫌な気分になりました。
この気持ちは……後悔、というものでしょうか?
今まで一度も失敗したことのないわたしは、後悔だなんて味わうはずもなかったのですが……
どうしてこんな、しようもないミスをしてしまったのか……
いえ、今はそんな感情のことよりも、一刻も早く、アルデを落ち着いた場所で寝かせないと。
念のため、アルデに再び回復魔法を掛けてから、わたしは全速力で飛行魔法を行使するのでした。
柔らかい朝日に気づいて、ティスリは目を開けます。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなかったのですが、すぐにテントの中だと気づきました。日差しがテントの布地を透過して、テント内もほんのり明るくなっていました。
どうやら昨日は、屋外だというのによく眠れたようです。キャンプというのも悪くはないですね。
などと考えてわたしは寝袋から起き上がり──そして寝ぼけ眼を大きく広げます。
「ア、アルデ!?」
なぜアルデが、わたしと同じテントに横たわっているのですか!?
と思った次の瞬間、昨晩のことを思い出しました。
「あっ──!」
そ、そう言えばわたしは……昨晩、アルデのテントに入ってから……そこで眠くなって……
アルデの寝袋を奪って、そのまま寝てしまったんでしたっけ!?
その事実を思い出した途端、アルデが大きなくしゃみをしました。
「へっくしょん!」
それからアルデがモゾモゾと起き上がり、目をしばたたかせてから言いました。
「さ、さっぶ……なんでオレ、寝袋から出て……」
そしてすぐ、わたしの存在に気づきます。
「ティスリ!? おま……ど、どうしてここに……!」
アルデがこちらを見て目を見開いているので、わたしは理由を話そうと口を開きますが……はて?
一体アルデに、なんと説明をすればいいのでしょう?
寝ぼけてアルデの寝袋を奪っただなんて、ダメ過ぎて知られたくないのですが!?
「え、えっと……それは……」
「ってかそれ、オレの寝袋だよな? なんでおまいが入ってるの?」
「で、ですから……えっと……」
「まさかお前……あれだけオレの事をこき下ろしてたくせに……」
アルデは剣呑な目つきをしてから言ってきました。
「自分から夜這いにくるとか──」
「違いますよ!!」
思いも寄らないことを言われ、わたしは思わず叫びました。
「アルデに用があったから起こしに来たのですが、あなたぜんぜん起きなくって!」
「それでどうして一緒に寝てるんだよ。しかもオレの寝袋で」
「そ、それは……あなたを起こしているうちに寝落ちしてしまって……」
もはや嘘をつくための辻褄もなくなり、わたしは正直に話すしかなくなったのでした……
それを聞いたアルデは、呆れ顔で言ってきます。
「お前ってさ……たまにすごくアホだよな?」
「……ア、アホ!?」
こ、このわたしをアホ呼ばわりするなんて、世界広しと言えどもアルデくらいなものですよ!?
が、しかし……今回ばかりは完全にこちらの落ち度なので言い返せません!
わたしが拳を握りしめると、アルデはさらに言ってきました。
「夜這いを避けるためなのに、その本人と一緒のテントで寝るとか油断しすぎだろ?」
「…………」
「だいたいお前ってさ、出会ったばかりのオレと呑みに行ったり、そこで酔い潰れたり、旅館だって同じ部屋だったわけで」
「……………………」
「男女間のことになると騒ぐ割に、見知らぬ男と呑んだり泊まったりとか、脇が甘すぎだ」
「………………………………」
「こっちだってれっきとした成人男性なんだからな? そんなことされ続けたら今後どうなるか分からないんだから、もっとちゃんと──」
「っていうか!」
アルデの小言に、わたしは我慢しきれなくなって言い返します!
「アルデがすぐに起きれば、こんなことにはならなかったんですからね!?」
「おいおい……オレが悪いって言うのか?」
「そうは言ってません! ですがその一端はあるんです!」
「あーもー、分かった分かった。じゃあ次は魔法か何かで叩き起こしてくれよ、まったく……」
確かに……覚醒魔法を使えばアルデを起こせましたが……
しかしあれは、いちど掛かるとその後12時間は寝付けなくなりますから、いくら脳が単細胞のアルデとはいえ、昨晩は眠れなくなるかもしれないわけで……
しかしわたしはイライラが募って言いました。
「なら今度はご希望通り、覚醒魔法で起こしてあげますから覚悟してくださいよ!?」
「へいへい、そうしてくださいよ……って、あれ?」
アルデはそう言いながら腰を上げようとしましたが、すぐその場にへたり込んでしまいます。
身体能力だけは高いアルデにしては珍しいその挙動に、わたしは眉をひそめました。
「……どうしたのです? よろめくなんて」
「いや……なんか体に力が入らなくてな……」
アルデ自身が一番驚いているようで、首を傾げていました。
そんなアルデの顔をよくよく見てみれば、にわかに赤みが差しているかのような……
しかしアルデは、なんどか体を捻ってから言ってきました。
「地面の上で寝てたから体が硬くなっていたのかもな」
「そうですか……? それならいいのですが……」
「体をほぐせば大丈夫だろう。ちょっとストレッチしてくるわ」
そう言いながらアルデはテントを出ました。
わたしもその後に続きます。
朝の平原は、とても澄み渡っていました。今日もいい天気で雲一つない青空が広がっています。
そんな中、アルデがストレッチを始めましたが……その動きには、普段のキレがないというか……いえ、それでも一般的な衛士や騎士より、よほどキビキビと動いてはいるのですが……
わたしがわずかな違和感を覚えていると、一通りのストレッチをこなしたアルデが言ってきました。
「よし、これで大丈夫だ。そしたら撤収すっか」
そう言って、アルデはテントを片付け始めます。
わたしもその作業を手伝いながら……しかしどうにも胸騒ぎが消えません。
だからアルデに言いました。
「アルデ……なんだか顔が赤くないですか?」
「そうか? まぁ今朝はけっこう暑いしな」
「けっこう暑い?」
どちらかというと、今朝は寒いくらいです。ストレッチで代謝が上がっているということなのでしょうか?
途中まではそう思っていたのですが、キャンプ道具を片付けているアルデが息を切らし始めていることを目の当たりにして、わたしの違和感は確信に変わりました。
「アルデ、もしかしてあなた……」
「なんだよ?」
「ちょっと屈んでください」
わたしはアルデの袖を引っ張って屈ませると、おでこに手を当てました。
「やっぱり! 風邪を引いてるじゃないですか!」
アルデは、なんとなくうつろな目になりながら「ああ……」と声を出します。
「なるほど風邪か……通りで怠いと思った……」
「通りでって、けっこうな熱ですよ!?」
「暑いのは熱のせいだったのか……」
「そうですよ! 気づかなかったのですか!?」
「風邪なんて子供の頃以来だから、思い当たらなかったなぁ……」
などと言いながら、アルデは魔動車に寄りかかってため息をつきました。
「と、とにかく! 急いで近隣の宿場町に移動しますからアルデは魔動車で寝ていてください!」
「けど、まだキャンプ用品の片付けが……」
「わたしがやりますからいいですよ!」
そう言うと、赤い顔をしたアルデが目を丸くします。
「な、なんですかその顔は……」
「いや……王女のティスリが一人で片付けとか出来るのか?」
「そのくらい出来ます! いいから寝ててください!」
わたしは助手席のシートを倒すと、半ば強制的にアルデを寝かせます。それから、いちどしまった寝袋を引っ張りだしてアルデの体に掛けました。
「寝袋を広げれば毛布代わりになりますから」
「お、おお……悪いな」
「あと回復魔法を掛けておきます。病気には効きませんが、体力回復にはなりますから、自然治癒力が高まるはずです」
「そ、そうか……助かるよ」
なぜか、妙に戸惑った感じでアルデが言ってきますが、わたしは回復魔法を掛け終わると、すぐさま片付けに戻ることにしました。
「それじゃあ大人しくしているのですよ?」
わたしは助手席の扉を閉めて片付けに戻ります。テントやタープなどの大型用品はすでに畳み終えているので、あとは食器などの小物をしまうだけです。
それにしても……
守護の指輪をしているのにもかかわらず体調を崩したということは、少なくとも病原菌による体調不良ではないわけで……
守護の指輪は、病原菌を含むあらゆる外敵から身を守りますが、疲労や寝不足などから来る体調不良までは防げません。むしろ、そういった体調不良のサインを無理やり抑えては、深刻な病気が発生するまで気づけませんし。
ということは、アルデが体調を崩した理由は……
もしかしなくても、確実に……
わたしが、アルデを寝袋から出して放置していたからですよね……!?
どうしてわたしは、あのままアルデのそばで寝てしまったのか……
いえ、それ以前に、テントを動かそうなどとは思わず大人しく寝ていれば、こんなことにはならなかったというのに……
今まで味わったことのない感情が、胸の奥底から湧き出てくることにわたしは気づきながらも……それをどうすることもできず歯がみするしかありませんでした。
キャンプ用品を片付け終えると、わたしは、魔動車に乗り込んでから魔法を唱えました。
「飛行」
魔法発現した次の瞬間、魔動車全体が宙に浮かびました。
「……え?」
その様子を眺めていたアルデが、赤い顔のまま言ってきました。
「お、おい……!? この車、空を飛んでいるぞ……!?」
「ええ。魔動車の最高速で走っても、次の宿場町に着くのに数時間はかかりますから、空を飛んだ方が早いのです。これなら一時間とかかりません」
「す、すげぇな……」
空を飛び始めたのがよほど珍しいのか、アルデは座席を起こすと窓の外を眺めました。
「今までいた樹があんなに小さく……!」
「体に障りますから、あまり興奮しないでください。というより、アルデは以前にもいちど空を飛んでるのに……」
わたしとアルデが戦った後のことを思い出し──わたしは頬が熱くなるのを感じて途中で口ごもってしまいました。
あのときは雲の上まで飛んで……そこでわたしは何かとても恥ずかしい台詞を言ったような……
……いえ、言ってません! 言ってませんよ!?
わたしの羞恥心は、しかしアルデには気づかれませんでした。発熱と興奮のせいか、ますます顔を赤らめて外を眺めながら言ってきます。
「確かにあのときも空を飛んだが、乗り物に乗って飛ぶのはまた別格だな!」
「そんなものでしょうか」
「ああ、そんなものなんだよ! にしてもすげぇ……空を飛ぶばかりか、めちゃくちゃ早いじゃんか!」
「わたしの魔法なのですから当然です」
「これで空を飛んでいけば、オレの地元なんてあっという間に着くんじゃないか!?」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
それでは、二人でゆっくり旅をするという目的が失われてしまうじゃないですか……! アルデの故郷は目的地ではありますが、目的そのものではないのですから。
しかしそれを説明するのは、なぜか気恥ずかしさを覚えて……だからわたしは、話を逸らすべくアルデに言いました。
「と、とにかく……今は余計なことを考えず大人しくしてなさい。けっこうな熱なのですから」
「そうは言ってもだな……! こんなトンデモ魔法を見せつけられては!」
「いいから、座席を倒して目をつぶってなさい。元気になったらまた飛ばしてあげますから」
「ちぇ……分かったよ……」
まるで子供のような顔つきで、アルデは座席を倒すと目をつぶります。
「まったく……病気なのに元気が有り余っているようで……何よりですよ」
「なーなーティスリ、やっぱり眠くないんだが」
「なら魔法で寝かしつけましょうか? 魔法による睡眠だと、体力回復は見込めませんが」
「うう……分かったよ。大人しくしてるよ……」
などとアルデが観念して……数分後には、もう寝息が聞こえてきました。
今さっき、あれほど興奮していたというのに。
「ほんと、どんな頭の構造をしているのか……いちどじっくり調べてみたいものです」
とはいえ、昨日は寒さで睡眠が浅かったのかもしれません。
そんなことが脳裏をよぎると、わたしは再び嫌な気分になりました。
この気持ちは……後悔、というものでしょうか?
今まで一度も失敗したことのないわたしは、後悔だなんて味わうはずもなかったのですが……
どうしてこんな、しようもないミスをしてしまったのか……
いえ、今はそんな感情のことよりも、一刻も早く、アルデを落ち着いた場所で寝かせないと。
念のため、アルデに再び回復魔法を掛けてから、わたしは全速力で飛行魔法を行使するのでした。
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ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
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もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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