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第1章

エピローグ なんです? そのスローライフって

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 戦い終えたアルデオレたちは、いちど旅館へ立ち寄って、泥だらけに加えてずぶ濡れになった体を洗い、着替えをした。

 もう日も落ちていたし、そのまま旅館に宿泊してもよかったのだが、諸々の問題が起きた──というより様々な勘違いが起きた場所だっただけに、なんとなく宿泊する気になれず、オレたちは着替えを終えるとすぐ旅館を発った。

 まぁ、王宮から追っ手が掛かるだろうしな。これ以上、旅館の人に迷惑を掛けるわけにもいかないというのもある。

 迷惑と言えば、ティスリが魔力を漏らして、旅館最上階を半壊にしたそうだが、それはティスリ自身の魔法で修復したとのこと。なら王城の空中庭園も直しに行くか? と聞いたら、あっちは放置すると言っていた。

 まぁティスリを欺した連中だし、しばらく雨漏りに悩む程度なら軽すぎる罰だろう。

 そんなわけでオレたちは、その日の夜に魔動車を駆って王都を出た。

 その後しばらく車を走らせて宿場町へと辿り着くと、そこで一泊する。

 もちろん、部屋は別々にした。

 今にして思えば……旅館で宿泊したとき、部屋を別々にしておけばなぁ……王族専用の広い部屋だったとはいえ鍵がついていなかったわけだし。別々にしておけば、こんな騒動に巻き込まれることもなかったと思うとため息しか出てこない。

 それに、戦闘後にティスリはああ言っていたが、どうも、オレが子作りしたと心のどこかでまだ思っている節があるし……

 あれだけ自制したオレの苦悩も知らないで……とんだ言いがかりだ。

 などとグチグチ考えながら宿屋で一晩過ごし、翌日は快晴だった。

 朝飯を食べたいところだが、オレたちはすぐに魔動車に乗り込んだ。ティスリ曰く、どうやら追っ手が来ているらしい。

 なので朝食ナシでオレは助手席に乗り込む。まだ運転を習っていないので御者は──いや魔動車の場合は運転手というそうだが、とにかくそれはティスリなのだ。

 王女に御者まがいのことをさせるなんてとんでもない話ではあるが、本人も運転を楽しんでいるようだしまぁいいか。そもそも王女扱いされるのを嫌がっているしな。

 そして、ティスリが運転する魔動車は宿場町を一気に抜ける。

 バックミラーなる鏡を見たら、数頭の馬が草原を全力疾走しているのが見えたが……魔動車からはどんどん引き離されていった。追っ手の早馬だったのだろう。

「ったく、懲りない連中だな」

「放っておけばよいのです。どうせ、わたしに手出しなんて出来ないのですから」

 ま、先日の強さを見せつけられたら、恐れおののくのも無理はない。

 オレは苦笑していると、ティスリは運転しながら、片方の手のひらをオレに差し出してきた。

「忘れないうちにこれをあげますから、肌身離さず身につけておくように」

「ん? ああ、例の指輪か。スペアを持っていたのか?」

「いえ、昨晩作りました」

「作ったって……これ、とんでもない装備なんだろ……?」

市場しじょうに出せば値が付けられないほどですね」

「まぢかよ……」

「でも別に、大したことはしていません。ただの金属に、わたしの魔法を封じ込めるだけですから」

「さよか……まぁありがたくもらっておくよ」

 オレが指輪を受け取り装着すると、ティスリが説明を続ける。

「そうそう。前回の反省を踏まえて、これまでの効果に加え、誘拐・拘束に対してもカウンター魔法が発現されるようにしました」

「おお、そうか。ならもう寝込みを心配する必要ないな」

「ええ、そうですね。さらに、高所から転落するケースも想定し、加速度検知機能を搭載、人体を損傷するほどの落下速度に達したら自動的に飛行魔法が発現されます」

「へぇ……それも助かるな」

「それと、万が一にでも集団攻勢魔法を受けたときは、カウンター攻撃は爆発魔法だけではなく、広範囲爆撃が可能な魔法も同時発現します。仮に、一万人の魔法士軍隊を相手取ったとしても殲滅可能です」

「な、なるほど……?」

「あとは、通信魔法も付けておきました。誘拐防止が付与されてますから、もう離ればなれになることはないと思いますが、通信できれば何かと便利ですし。のちほど呪文を教えますが、それを唱えればいつでもわたしと通信可能です。どれほどに離れていても」

「ほ、ほぅ……?」

「いずれにしてもアルデの場合、剣の腕だけ、、は確かですから、完全防御結界さえあれば、どんな難局であろうとも切り抜けられるとは思いますが、万が一のときの念のためということですね」

「な、なぁ……ティスリ」

「なんです?」

「おまい……どんだけオレと一緒にいたいの?」

 などとツッコんでみたら、ティスリがハンドルにゴツンと突っ伏して、魔動車が蛇行し出した。

「危ないなオイ!?」

 オレが怒ると、ティスリが真っ赤になった顔を上げる。

「あ、あなたが……おかしなことを言うからでしょう!?」

「だってお前、こんな無茶苦茶な加護がある指輪をくれるだなんて……」

「従者を守るのは主人の務めです! ただそれだけの話です!!」

「いや……オレってお前の護衛じゃなかったっけ?」

「あなたはただの男避け従者ですよ!」

 なんというか……素直じゃないというか……

 まぁ確かに、総合的にはティスリのほうが圧倒的に強いわけだから、護衛といってもやることないしな、オレ。

「へいへい分かりました。優男に群がられないよう、せいぜいスゴんで見せますよ」

「分かればいいのです分かれば……まったく、今後は妙なことを言わないで欲しいですね、ほんとに……」

 ティスリが咳払いをしながら、魔動車を元々の道に戻す。

 空は真っ青に澄み切っていて、雲一つない。

 そんな青空が大地の草原に接して地平線を作り、そこに向かって畦道が一直線に伸びていた。

 今、オレたちはそんな場所を疾走している。爽快に。

「なぁティスリ、とりあえずオレの地元に向かうとして……道中、どうする?」

「どうする、とは?」

「だって、特にすることないだろ? もう追っ手も巻いたようだし」

「そうですね……しばらくは休暇と思って、のんびりすればいいのではないですか?」

「のんびりか……まぁ、そういうスローライフも悪くはないか」

「なんです? そのスローライフって」

「平民の間で流行っている、というか一種の憧れだな。あくせく働くわけでもなく、のんびりゆったり暮らすって感じかな? オレも実践したことないからイメージだけど」

「ふぅん……そうですか」

 ティスリはいっとき考えてから、にこやかな笑みをオレに向けた。

「悪くないですね、それ。ではしばらくスローライフを満喫しましょう」

「そっか。なら、のんびりと旅を楽しむか」

 そうしてオレも笑顔を返すのだった。


(第2章につづく)
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