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第1章

第29話 何か対抗策はあるのかね!?

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 お姉様の心変わり(?)に小一時間ほど失神したリリィわたしでしたが、なんとか気を持ち直します。

 やっぱり、お姉様が男に気を許しただなんて信じられませんからね! 何か絶対裏があるはず。その真偽を確かめるまで、わたしは寝てなどいられないのです!

 ということで間男が、地下厨房の一室に立てこもりを始めたと聞きつけて、わたしは深夜二時にもかかわらず、各部門のトップに招集を掛けました。

 そうして会議室で臨時の作戦本部を開きます。

 集めたのは警備隊長官を始め、近衛隊・親衛隊・衛兵隊それぞれの隊長職、さらには陸海魔各軍の元帥と統合幕僚長も呼びました。国軍は外敵と戦う軍隊ですから、今回の件には直接的な関係性はないものの、彼らのほうが戦い慣れていますのでアドバイザーとして参加してもらいます。

 何しろ相手は、王城を吹き飛ばすほどの魔具を所持していると言っているのです。もはや王国史上最悪の国難と言っても過言ではありませんから総力を結集すべきでしょう。

 だというのに、本来この場にいるべきアジノス陛下はいません。侍従長に聞いたところ、ヤケ酒のあげくフテ寝してしまったそうで、お酒の吞めない陛下が呑んだら、何をしても八時間は目が覚めないとのこと。

 あ、あの男は……今度は腕の骨を二本ともにイかせてやりましょうかね……

 それはともかく、わたしは集まった面々に重苦しく頷いてから切り出しました。

「夜も遅いというのに、皆様方にはご足労感謝致しますわ」

 わたしの台詞に、皆を代表して幕僚長が言ってきました。

「いえ、リリィ様。もったいないお言葉です。大量破壊魔具を所持した犯罪者がこの王城に侵入しているとあらば、我々一同、寝る間も惜しんで撃退する所存でございます」

「ええ、ありがとう幕僚長。では早速なのだけれど、現状を改めて確認致しますわ」

 わたしが視線を向けると、この場の誰よりも事情に精通しているであろう親衛隊長のラーフルが書面を読み上げ始めました。

 ラーフルは、常にお姉様に仕えていましたから、わたしに次いでお姉様のことをよく知っています。だから今回の件では適任なのです。

 ま、まぁ……お姉様に間男の接近を許し、いわんや……夜の営みまで見過ごしたのは許せるものではありませんが……とにかく今は、現状を打破することが先決ですから……!

 わたしがそんなことを考えていると、ラーフルは、淡々と現状説明をしていました。

「現在、所持が確認されている魔具は、王女殿下が開発された『守護の指輪』という魔具です。これ以外も所持しているかもしれませんが現在は確認できておりません。さて守護の指輪ですが、物理・魔法の両攻撃に対して防御結界を展開すると共に、攻撃者に対して攻勢魔法を放ちます。さらに毒検知・病原菌の撃退・自動回復の魔法まで付与されています」

 魔法士軍の元帥が挙手をしました。

「その防御結界の強度は?」

「完全防御結界です」

「……は? その魔法はまだ設計段階で、魔法士100人が共同詠唱しても発現しないはず……」

「王女殿下は、内々ですでに実用化されていたのです。しかも魔具によって自動発現させることも可能としました」

「し、信じられん……そのようなことが……」

「いやしかし……あの王女殿下であれば……」

「うむ……虚言だというわけでもあるまい……」

 おじさま方が険しい顔でつぶやいています。お姉様の凄さを見せつけるのは気分爽快ではありますが、今はそんな感情を味わっている場合ではありません。

 だからわたしは気を引き締めてから、ラーフルに問いました。

「その指輪の持続時間はどの程度ですの?」

「王女殿下は……10年とおっしゃられておりました」

「じゅ、じゅうねん……!?」

 誰かが、叫びに近い声でラーフルに聞きます。

「聞き間違いではないのかね!? 10時間などでは──」

「いえ、王女殿下はわたしに何度も自慢──いえ殿下に何度も説明して頂きましたので、聞き間違いではありません」

「指輪のような小さい魔具の、いったいどこに10年分もの魔力を蓄えておけるというのだ!?」

「自分も不思議に思って王女殿下に伺ったのですが、その理論を聞いても、残念ながら理解できませんでした」

「理解できずとも魔具として実用化しているのであれば、我が国はさらに飛躍できるであろう!? 王女殿下はなぜ我々に隠していたのだ……!」

「王女殿下は『過ぎた力は身も国も滅ぼすものです』とだけおっしゃっておられました」

「過ぎた力……くっ……確かにそうかもしれんが……」

 技術はいつか模倣されますし、軍事力は日々増強され続けるもの。どこかの国が一時的に強大になったとしても、それを模倣し、追いつかんとする国は必ず出てくるのが歴史の必定というものです。

 お姉様は、きっと、そういうことを危惧していたのでしょう。その結果、この世界が滅ぶことすら懸念して。

 目先の利益に捕らわれることなく、大局観をもって治世を行うだなんて……なんて素晴らしいのでしょうお姉様!

 わたしが思わずうっとりしていると、陸将がうなり声を上げました。

「うーむ……いずれにしても……そのような魔具を所持していたら無敵ではないか……! 何か対抗策はあるのかね!?」

 その問いに、ラーフルは臆することなく答えます。

「一つだけ、あります」

「あるのか!?」

「はい。王女殿下自らが手を下すことです」

「殿下自らが……どういうことかね?」

「守護の指輪は、元々は王女殿下ご自身を守るために作られた指輪ですので、殿下を傷つけることは出来ません。つまりカウンターとなる爆発魔法は発現しないとおっしゃっておりました」

「なるほど。しかし完全防御結界は突破できるのかね? あるいはそれも発現しないのか?」

「そこについては言及されておりませんでしたが……しかし、守護の指輪が『最高の盾』であったとしても、王女殿下の攻勢魔法ラインナップには、それを打ち破る『最強の矛』があるのではないかと思われます」

「なるほど……王女殿下であれば……」

「さらに、容疑者が他の魔具を所持していたとしても、開発したのも下賜されたのも王女殿下ですから事前に対策は打てます」

「確かに! では王女殿下はどちらにおいでだ? 確か、見聞を広めるための視察旅行に出られたと聞いたが?」

「はい。ですが王女殿下は、まだこの王都に留まっておいでです」

「なんと誠か!? では早急に王城に戻って頂けるよう手配せねば」

「承知しております。現在殿下は、旅館『水竹すいちく』に宿泊されています。夜が明けましたら、わたしが向かうつもりです」

「おお、急いでくれ! こうなっては王女殿下だけが頼りだ!」

 こうなってはも何も、この国の将軍も高級官吏も、昔っからすべてお姉様に頼りっぱなしではないですか。

 お姉様が尽力したからこそ、国境紛争も圧勝でもって解決できたわけですし、さらには国内の経済も活性化し、我々貴族は元より臣民まで潤うことになったのですから。

 ちょっとは自分たちで問題を解決しようとは思わないのですかね、この方々は……

 とはいえ……今回はお姉様が開発された魔具が原因ですから、どうしてもお姉様を頼らざるを得ないのも事実……またお姉様にご迷惑をおかけしてしまいますわ……

 わたしがため息をついていると、ラーフルが言ってきました。

「リリィ様、王女殿下に戻って頂くため、王命を頂きたいのですが」

「……ああ、そうですわね」

 ここにいる将軍達は知りませんが、無能な陛下のせいで、お姉様は激怒して王宮を去ったのでしたね。となるとラーフルに会うのを拒まれてしまうかもしれません。

 ですが例え王命を出したところで、お姉様が従うとは思えませんが……

 わたしが顔を曇らせると、ラーフルが言ってきました。

「王命は、旅館の支配人を説得する材料としたいだけですので」

「そうだとして、その後、お姉様をどうやって説得するつもりですの?」

「わたしに考えがあります。すでに手はずは整えていますから、説得はさほど難しくないはずです」

「そう……そういうことなら、あなたに任せますわ」

 でしたら日の出と共に、なんとしても陛下を叩き起こして王命を発効して頂きましょう。

 陛下のサインが必要でしょうから、手の骨を折るのは勘弁してあげましょう。

 足の骨がありますしね?
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