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第1章
第22話 こ、こんの……間男が!!
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アルデは、背中にゴツゴツした何かが当たっていることに気づき、それが痛くて目を覚ました。
「いってぇ……なんなんだ……?」
昨夜はティスリを寝かしつけてから、もうちょっと晩酌を楽しみ、食器を下げに来た女将さんと少々談笑してから、ふかふかの布団で眠りについた──はずだったのだが。
「……なんでオレ、牢屋にいんの……?」
目を覚ましてみると、オレは牢屋の中だった。
しかも手枷を填められている。
そして石床の上に寝かされていた……というより転がされていた。体中が痛いのはこのせいか。
錆び付いた鉄格子にヒビ割れた石壁は、高級旅館の優雅さや広さとはあまりに落差が激しくて悲しくなってくる。窓にも鉄格子が填まっていて逃げられそうにない。その窓から入る明るさから察するに、まだ午前中のようではあるが……
そして鉄格子の向こうには誰もおらず、横一線に通路が続いていた。
オレはその鉄格子に取り付くと、通路の先がどうなっているのかに視線を向ける。当たり前だが頭を出すことはできないので、薄暗い通路の奥がどうなっているのかはよく見えなかった。
通路の明るさから察するに、この通路には牢屋が一つだけのようだ。それと日の差し具合から考えると半地下らしい。
となると壁をぶち壊して逃げるわけにもいかないな……まぁオレは魔法なんて使えないから、そんな芸当できないのだが。
だからオレは仕方なく声を上げてみた。
「おーい! いったいこれはどうなっているんだ!? ここはどこだ! ティスリはどこにいる!」
そうやって喚くこと数分間、いい加減、喉が痛くなってきたのでやめるかと思っていたら、通路の奥からガチャン……という音が聞こえた。
どうやら、重い鉄扉が開閉したらしい。その後、複数の足跡がこちらに向かって近づいてくる。
(ようやくお出ましか)
手がかりの少ない状況ではあるが、今の段階で推測できることは、オレとティスリが寝ている隙に旅館から運ばれたということだろう。
となると……ティスリの身が心配だ。
くっそ……護衛役だというのに、一体何をしていたんだオレは……!
オレが歯がみしていると、いよいよ足音はすぐ間近に迫ってきて……そして鉄格子の向こうに男二人、女二人が現れる。
男の方は兵士の格好をしているから看守だろう。しかしなぜ、カルヴァン王国正規兵の格好をしている……?
そして女性二人は、一人はやたらと派手なドレスを着込んでいることから貴族だと思われた。歳は15~6歳ほど。もう一人の女性は、その貴族の護衛か何かといったところか……
鉄格子越しに攻撃を受けないよう、オレは十分に距離を取ってから口を開いた。
「盗賊団の親分でも来るのかと思えば、ずいぶんとナリがいいな? それになぜ、正規兵を伴っている?」
オレのその台詞と殺気に、しかし貴族娘は臆することなくオレを睨み付けてきて、そして開口一番に罵られた。
「こ、こんの……間男が!!」
「……は?」
意味不明なそしりにオレが固まっていると、目前の少女は凜とした声音で言ってきた。
「わたしの名前はリリィ・テレジア! カルヴァン王国の大貴族にして王族の血筋に名を連ねるテレジア家、その長女にして第二王位継承者です!」
豪勢な巻き毛ツインテを頭から垂らし、いかにも気の強そうな感じのつり目な美少女を見て、オレは眉をひそめる。
「……テレジア家?」
その家名は平民のオレでも知っている。このカルヴァン王国貴族の中で序列第一位に君臨する大貴族だ。その上には王族しか存在しない。そしてカルヴァン王家の傍系でもある。
それと現カルヴァン王家は、稀代の天才と謳われている王女以外に子供はおらず、もしその王女に何かあった場合は、縁戚であるテレジア家から国王を擁立することになっているそうだ。
つまり、メチャクチャに身分の高い娘さん、ということになる。平民出で衛士を追放されたオレなどとは、言葉を交わすどころかその姿を目撃することだって出来ないほどの。
だというのにリリィは、なぜか辛気くさい牢屋の中に入ってきて、オレの目の前に現れ、そしてオレを叱責していた。
「あなたですのね!? ティアリースお姉様をたぶらかした不届き者というのは!」
「……はい?」
ティアリースとは王女殿下の名前だ。
ティアリース・ウィル・カルヴァン──軍事経済ともに二流国だったこの国を、わずか数年で一流国の仲間入りをさせ、しかもその頂点である王家連合の常任王家入りまで果たしたほどの策略家にして実業家。さらには魔法士としても群を抜いていて、彼女一人いればちょっとした小国なんて簡単に滅ぼせると言われている。
まぁ……魔法士については噂に尾ひれがついたのだろうが、いずれにしても、王国史上類を見ない天才王女で、しかも反対勢力がぐうの音も出せないほどに明確な成果も上げているという。
だからもちろん、衛士をやっていたころから平民のオレが面識などあるはずもない。
だというのに、そんな雲の上の王女殿下をオレがたぶらかせようはずもないのだが……
「えっと……ちょっと待ってください、リリィ様」
オレは、追放されたとはいえ元衛士なので、教え込まれた貴族への礼儀作法に則り、片膝を床について頭を少し下げてから弁明を試みる。手枷があるので動きづらいことこの上ないが。
「たぶらかすも何も、自分は、王女殿下と謁見したこともないのですが……」
「言い分けとは見苦しい! 先日の二日間、あなたがお姉様と閨を共にしたことは確認済みです!」
「……は? 閨を共にって……」
オレは思わず顔を上げてリリィを見上げる。
「自分が一緒に寝泊まりしたのは、ティスリという政商の娘ですが……」
しかしオレの台詞は火に油だったようで、リリィはさらに激高してきた。
「ですから! その政商の娘がティアリースお姉様その人なのですよ!!」
「………………は?」
そんな荒唐無稽な話を聞かされて。
オレは思考停止するしかないのだった。
「いってぇ……なんなんだ……?」
昨夜はティスリを寝かしつけてから、もうちょっと晩酌を楽しみ、食器を下げに来た女将さんと少々談笑してから、ふかふかの布団で眠りについた──はずだったのだが。
「……なんでオレ、牢屋にいんの……?」
目を覚ましてみると、オレは牢屋の中だった。
しかも手枷を填められている。
そして石床の上に寝かされていた……というより転がされていた。体中が痛いのはこのせいか。
錆び付いた鉄格子にヒビ割れた石壁は、高級旅館の優雅さや広さとはあまりに落差が激しくて悲しくなってくる。窓にも鉄格子が填まっていて逃げられそうにない。その窓から入る明るさから察するに、まだ午前中のようではあるが……
そして鉄格子の向こうには誰もおらず、横一線に通路が続いていた。
オレはその鉄格子に取り付くと、通路の先がどうなっているのかに視線を向ける。当たり前だが頭を出すことはできないので、薄暗い通路の奥がどうなっているのかはよく見えなかった。
通路の明るさから察するに、この通路には牢屋が一つだけのようだ。それと日の差し具合から考えると半地下らしい。
となると壁をぶち壊して逃げるわけにもいかないな……まぁオレは魔法なんて使えないから、そんな芸当できないのだが。
だからオレは仕方なく声を上げてみた。
「おーい! いったいこれはどうなっているんだ!? ここはどこだ! ティスリはどこにいる!」
そうやって喚くこと数分間、いい加減、喉が痛くなってきたのでやめるかと思っていたら、通路の奥からガチャン……という音が聞こえた。
どうやら、重い鉄扉が開閉したらしい。その後、複数の足跡がこちらに向かって近づいてくる。
(ようやくお出ましか)
手がかりの少ない状況ではあるが、今の段階で推測できることは、オレとティスリが寝ている隙に旅館から運ばれたということだろう。
となると……ティスリの身が心配だ。
くっそ……護衛役だというのに、一体何をしていたんだオレは……!
オレが歯がみしていると、いよいよ足音はすぐ間近に迫ってきて……そして鉄格子の向こうに男二人、女二人が現れる。
男の方は兵士の格好をしているから看守だろう。しかしなぜ、カルヴァン王国正規兵の格好をしている……?
そして女性二人は、一人はやたらと派手なドレスを着込んでいることから貴族だと思われた。歳は15~6歳ほど。もう一人の女性は、その貴族の護衛か何かといったところか……
鉄格子越しに攻撃を受けないよう、オレは十分に距離を取ってから口を開いた。
「盗賊団の親分でも来るのかと思えば、ずいぶんとナリがいいな? それになぜ、正規兵を伴っている?」
オレのその台詞と殺気に、しかし貴族娘は臆することなくオレを睨み付けてきて、そして開口一番に罵られた。
「こ、こんの……間男が!!」
「……は?」
意味不明なそしりにオレが固まっていると、目前の少女は凜とした声音で言ってきた。
「わたしの名前はリリィ・テレジア! カルヴァン王国の大貴族にして王族の血筋に名を連ねるテレジア家、その長女にして第二王位継承者です!」
豪勢な巻き毛ツインテを頭から垂らし、いかにも気の強そうな感じのつり目な美少女を見て、オレは眉をひそめる。
「……テレジア家?」
その家名は平民のオレでも知っている。このカルヴァン王国貴族の中で序列第一位に君臨する大貴族だ。その上には王族しか存在しない。そしてカルヴァン王家の傍系でもある。
それと現カルヴァン王家は、稀代の天才と謳われている王女以外に子供はおらず、もしその王女に何かあった場合は、縁戚であるテレジア家から国王を擁立することになっているそうだ。
つまり、メチャクチャに身分の高い娘さん、ということになる。平民出で衛士を追放されたオレなどとは、言葉を交わすどころかその姿を目撃することだって出来ないほどの。
だというのにリリィは、なぜか辛気くさい牢屋の中に入ってきて、オレの目の前に現れ、そしてオレを叱責していた。
「あなたですのね!? ティアリースお姉様をたぶらかした不届き者というのは!」
「……はい?」
ティアリースとは王女殿下の名前だ。
ティアリース・ウィル・カルヴァン──軍事経済ともに二流国だったこの国を、わずか数年で一流国の仲間入りをさせ、しかもその頂点である王家連合の常任王家入りまで果たしたほどの策略家にして実業家。さらには魔法士としても群を抜いていて、彼女一人いればちょっとした小国なんて簡単に滅ぼせると言われている。
まぁ……魔法士については噂に尾ひれがついたのだろうが、いずれにしても、王国史上類を見ない天才王女で、しかも反対勢力がぐうの音も出せないほどに明確な成果も上げているという。
だからもちろん、衛士をやっていたころから平民のオレが面識などあるはずもない。
だというのに、そんな雲の上の王女殿下をオレがたぶらかせようはずもないのだが……
「えっと……ちょっと待ってください、リリィ様」
オレは、追放されたとはいえ元衛士なので、教え込まれた貴族への礼儀作法に則り、片膝を床について頭を少し下げてから弁明を試みる。手枷があるので動きづらいことこの上ないが。
「たぶらかすも何も、自分は、王女殿下と謁見したこともないのですが……」
「言い分けとは見苦しい! 先日の二日間、あなたがお姉様と閨を共にしたことは確認済みです!」
「……は? 閨を共にって……」
オレは思わず顔を上げてリリィを見上げる。
「自分が一緒に寝泊まりしたのは、ティスリという政商の娘ですが……」
しかしオレの台詞は火に油だったようで、リリィはさらに激高してきた。
「ですから! その政商の娘がティアリースお姉様その人なのですよ!!」
「………………は?」
そんな荒唐無稽な話を聞かされて。
オレは思考停止するしかないのだった。
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