孤高のぼっち王女が理不尽すぎ! なのに追放平民のオレと……二人っきりの逃避行!?

佐々木直也

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第1章

第19話 いやそれ……紛う方なきレモン水だったんだよ、砂糖入りの

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 覗かれたのはアルデオレだというのに、なぜかティスリはご機嫌斜めで夕食をつついていた。

 せっかくの豪勢な夕食だというのに気まずいままで……オレはついに耐えきれなくなってティスリに言った。

「な、なぁ……ティスリ」

「……なんですか?」

「覗かれたのはオレのほうだというのに──」

「覗いてなどいません!」

「いやだけどな、オレのマッパを見たのはお前の方だろ?」

 そう指摘すると、ティスリは顔をカッと赤くして、目をキッと尖らせて言ってきた。

「見たくて見たわけではありませんよ!」

「じゃあなんて風呂に入ってきたんだよ」

「露天風呂に仕掛けていた警報魔法が反応したからに決まっているでしょう!?」

「え……? 決まってるって……オレはそんなの、ぜんぜん知らなかったんだが……」

「言わなくても察しなさい! 先に乙女が入っていたのですから警報魔法を使うのは当たり前です!」

「そ、そぉかなぁ……?」

 少なくとも、平民の公衆浴場にはそんなご大層な魔法は仕掛けられていないが……そもそも警報を鳴らす魔法なんて、その存在自体をオレは知らないし。

 オレが戸惑っていると、ティスリがさらに言ってくる。

「だいたい、なんなのですかあの奇行は!?」

「あの奇行って……夜景を眺めていたことか? 夜風にアレを晒して」

 オレがそういうと、ティスリはますます赤くなって目を逸らす。

「あなたがあんな奇行に走らなければ、警報なんて鳴らなかったんですよ!」

「えー……? けどあれほどの解放感であるならば、男なら、夜風にプラプラさせたくなるもの──」

「い、いい加減にしてください!?」

 いよいよティスリは茹でタコのようになって、頭から湯気を出した……気がする。

「純潔で清いわたしに、いったいなんてものを見せたと思っているのですか!?」

「あ、やっぱ見たの?」

「みみみ、見てません! 夜だったのが不幸中の幸いだったのです! ですがこれが朝風呂だったならどうなっていたことか!」

「どうなってんたんだ?」

「わたしをけがした罪で、アルデは間違いなくギロチンでした!」

「ま、まぢかよ……」

 政商の娘ともなると、たかがアレを見せただけでギロチン刑にまでなるのか……しかもオレのせいじゃないというのに。

 いや……そうでもないのか?

 オレは、ティスリが怒っている理由をなんとなく理解する。

「あー……つまりなんだ? もしかすると、オレのこと心配してくれたのか?」

「は……!?」

「だってそうだろ? 警報が鳴ったから慌てて駆けつけてみれば、オレが奇行に走ってて、いわんや見たくもないモノまで見せつけられた、と。だからお前は怒っているわけか」

 ティスリは勢いよく立ち上がると、地団駄を踏んで否定した。

「そそそ、そんなわけないでしょう!?」

 ……ってか地団駄踏むヤツなんて初めて見たぞ? あと浴衣の合わせ目から、白い足がチラチラ見えてしまっているんだが……

「あ、あなたの事なんて心配してません! でも警報が鳴ったから念のため確認に向かっただけです!!」

「その割に、ずいぶん慌ててたじゃんか」

「慌ててなどいませんから! あなたの見間違いですから!!」

「分かった分かった……」

 わずか二日の付き合いだが、ティスリが天の邪鬼な性格であることはよーーーく分かったので、オレは謝ることにした。

 どうやら、オレの身を案じてくれたことに違いはないようだからな。

「ティスリ、悪かったよ。何か言うこと聞いてやるから勘弁してくれ」

「ではしんでわ──」

「生命に関わることは無しで!」

 間違いなく『死んで詫びろ』と言いかけてたのでオレは慌てて遮った。

 もっとも、本気で死ネと言ったわけではない(はずの……)ティスリは、ムスッとしながら着席して、それからオレの酒を指差した。

「なら、その東酒を呑ませなさい」

「……えぇ……?」

 東酒とは、この夕食の席に用意された酒で、これまた東の国の逸品とのこと。とっくりという容器に入っていて、おちょこというグラスで飲むものだと女将さんに聞いている。

 原材料は稲という植物の果実で、水のように透明だ。口に含むと甘みが広がり、それでいてほどよいコクもあって大変に美味しい。女将さんの話によると、味のバリエーションは様々にあるそうだ。もちろんオレは、こんな高級酒を呑むのは初めてだからめちゃくちゃ感動している。

 だがけっこうアルコールがキツく、今日の品は葡萄酒よりも酒精が強いとのこと。だからティスリが呑むのを止めさせたのだ。

 ティスリは納得していなさそうだったが、「あの辛い二日酔いをまた味わいたいのか?」と言ったら、渋々ながら引き下がった……はずなのだが。

 だからオレは改めて言った。

「さっきも言ったけど、二日酔いになるのは目に見えてるぞ?」

 だがティスリはむくれながら言ってくる。

「わたしがお酒を吞めないと決めつけるのは早計です」

「いや、麦芽酒半分で二日酔いならむしろ遅計、、じゃね?」

 オレのツッコミはスルーされてティスリがなおも言い募る。

「先日の葡萄酒は安酒だったから二日酔いしたのです。この旅館で出される東酒であれば問題ないはず。そもそも、わたしは以前も東酒を呑んでいます」

「どんな味だった?」

「甘くてフルーティーで、まるでレモン水に砂糖を入れたかのようでした」

「いやそれ……まごかたなきレモン水だったんだよ、砂糖入りの」

 きっと、ここの女将さんもティスリが吞めないことを知っていたんだろうなぁ……

 だがそんな気遣いを知るよしもないティスリは傲然と言い放つ。

「そんなことありません! 以前わたしが呑んだのは東酒です! だからそれを呑ませなさい!」

「あー、分かった分かった。どうなっても知らないからな?」

 そしてオレは、東酒をおちょこに注いでからティスリに渡した。

「最初から、素直に渡しておけばいいのですよ」

 ティスリはふんすと鼻を鳴らしてから、おちょこを顔に近づける。

「いい香りです。まさに以前、わたしが呑んだ東酒そのもの」

 ぜんぜん違うと思うがなぁ……そもそもさっき、女将さんは季節によって違う東酒を出すとか言ってたし。

 オレがそんなことを思っていると、ティスリはおちょこを唇に付けて、東酒をこくんと呑んだ──

「けほッ……! けほけほッ……!」

 ──そのとたん、むせていた。

「ほら、言わんこっちゃない。酒精が強すぎたんだよ」

 ティスリは、テーブルナプキンで口元を拭きながら言ってくる。

「そ、そんなことありません! ちょっと変なトコに入っただけです!」

「変なトコってどこだよ……それに、前に飲んだレモン水ともぜんぜん違う味だろ?」

「まったく同じです! わたしは以前もこれを呑みました!」

 もー、こうなったら聞きやしねぇんだから。

 オレが半ば諦めていると、ティスリが胸を反らして言ってくる。

「とにかく、これでわたしが東酒を吞めることは分かりましたね? 女将にわたしの分も持ってきてもらいますからね!」

 ……相変わらずよい胸だ。薄布一枚だけで隠れていると思うとドキドキしてしまう。しかもこの浴衣って、胸元がぱっくり割れているし……きっと、東の国の男連中はみんなスケベなんだろう。

 だがしかし、ティスリに指一本でも触れたら爆死してしまうからな。しかもオレの逸物を見せたらギロチンだっていうし。

「ちょっとアルデ? 聞いてるんですか?」

「え? あ、なに?」

「ですから、わたしの分の東酒も持ってきてもらいますからね!」

「ああ、分かった分かった、好きにしろよもう……」

 オレは、ティスリの外見だけ、、はどれほど魅力的であろうとも、絶対に手を出さないことを誓いながら、ティスリの飲酒を認めるのだった。
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