上 下
14 / 192
第1章

第14話 さすがは爆発娘……爆発のことになると頭が冴え渡るらしい

しおりを挟む
「な、なんだこれ!? 馬車とぜんぜん違うじゃないか……!」

 アルデオレとティスリは魔動車商会の店舗兼倉庫に入ると、そこにはズラリと荷車が展示されていたのだが……そのどれもが馬車とまったく違っていた。

 まず御者台がないし、馬を繋ぐくびきもない。車輪はぶっとくて小さめだし、車体はなんと鋼鉄で出来ていた。しかも荷台の四面がガラス張りときた。

 な、なぜだろう……どうしてなのかは分からないが、この魔動車は男心を絶妙にくすぐられる……

「ふふん、どうですアルデ。驚いたでしょう?」

 オレが魔動車に見とれていると、その横で、ティスリが腰に手を当てて大きくふんぞり返っていた。

 ……こいつ、背は低いくせに胸はデカいな……

「ちょっとアルデ? 聞いているのですか? さきほどあなたは、魔動車なんかで興奮しないと言っていたでしょう?」

「え、ああ……そうだったか……」

 どちらかというとお胸のほうに興奮しそうだったオレは、内心を見透かされないように視線を逸らした。

「いやだって、お前が馬車に似た乗り物だっていうから、荷馬車に毛が生えた程度のものを想像していたんだよ」

「まったくアルデは想像力が貧相ですね。わたしなんて、馬車のない車を考えた時点で、このデザインを思いつきましたよ」

「え……? もしかしてこれってお前が作ったの?」

「作ったのはたくさんの技師ですが、基礎理論を考えたのはわたしです」

「ま、まぢかよ……」

 ティスリといると驚かされることばかりだな、ほんと。

 なのでまたもや驚かされたオレは、つい本音を言ってしまう。

「お前って……性格はアレだけど頭脳は天才なんだな……」

「アレとはなんなのです? ちゃんと言ってご覧なさい?」

「あ、いや……アレとは……素直、みたいな意味?」

「『性格は素直だけど、、、頭脳は天才』では文脈がおかしいですよね?」

「ちょっとした言い間違いだって! 性格も素直で頭脳も天才! さすが!! 少なくともお前が稀代の大天才だということは、学がないオレでもよくわかったしさ!」

「まったく……調子がいいんですから」

 ティスリは頬を膨らませるが、しかしまんざらでもないようで、それ以上は何も言ってこなかった。

 こいつ、意外とチョロいな?

 それからオレたちは応接間に案内されて、ティスリと店長とで小難しい話をしていた。えんじんがどうだとかハイキリョウがいくらだとか。それら言葉はサッパリ分からなかったが、どうやら魔動車を選んでいることは分かる。

 洋服選びのようにまた何時間もかかるのか? と思っていたが、魔動車選びはものの十数分で完了したようで、ティスリのお眼鏡に適った魔動車が店内倉庫から引っ張り出されてきた。

「いちおうアルデの意見も聞いておきましょう。どうですか?」

「か、格好いい……!」

 ティスリ曰く、この魔動車はクロスカントリー四駆と呼ばれているそうで、街の外の畦道はもちろんのこと、道すらない荒野や砂漠ですら走ることができるという……!

 黒光りする角張った車体といい、馬の鼻のように突き出した前面といい、そこに付いている丸っこい目玉、、といい、見ているだけで血湧き肉躍るようだ。車体全身から力強さのような気迫を感じられる。

 だからオレは、一も二もなく頷いた。

「いいんじゃないかこれ! どんな場所でも走れるってことは、海でも走れるのか!?」

「え……? いえ……海は走れません。水陸両用ではないので……」

「そ、そうなのか……」

 オレがなんとなくトーンダウンすると、ティスリはなぜか慌てて言ってきた。

「で、ですが! わたしの魔法を併用すれば海だろうと川だろうと走れますよ……!」

「そうなのか!?」

「そうなのです! なんだったら空だって飛べます!」

「まぢかよ!?」

 いったいこんな鋼鉄の物体が、どうやって空を飛ぶっていうんだ!?

 オレが興奮しきっていると、ティスリはハタと我に返ったような顔つきになった。

「で、ですが……車は地上を走るものですから……空を飛んでは味気ないというものです」

「そうかな?」

「そうですよ。緊急時以外は飛ばしたり泳がせたりはしませんからね?」

「まぁ分かったよ。お前の魔力をたくさん使わせるのも酷だしな」

「わたしの魔力は無尽蔵ですが……分かって頂いて何よりです」

 魔力が無尽蔵などという見栄に、今は突っ込む余裕もなく、オレは胸の高鳴りを抑えきれず次の質問をする。

「それで、これにはいつ乗れるんだ?」

「そうですね……運転の練習もしなければなりませんし……支配人、これから試乗は可能かしら?」

 すると支配人と呼ばれた男性は、躊躇うことなく頷いた。

「もちろんでございます。ですが、街中を走らせるのは練習してからがよろしいかと思いますので、わたくしが練習場まで運転致しますが、いかがでしょう?」

「そうですね、ではお願いします」

 こうしてオレたちは、支配人さんの運転で試乗することになった。

「な、なぁティスリ! オレ、前に乗ってもいいか!?」

「ええ、構いません。というよりお付きは前に乗るものですからね」

「そうなのか! なら遠慮なく!」

 魔動車に乗り込むと、外の様子がよく見える。

 屋根を除き、車体の上半分がほとんどガラス張りだからな……これは凄い。馬車よりも車高は低いが、これなら街並みがよく見えるだろう。

 乗っただけでオレが興奮していると、支配人さんが言ってきた。

「それではエンジンを掛けますね」

 支配人さんが手元で何かを捻ると──

 ブロロォン!

 ──という重低音が腹に響く!

「な、なんだこれ!? 爆発するのか!?」

 オレが驚くと、後ろの座席に座ったティスリが、呆れた感じで言ってきた。

「違いますよ。あ、いえ、正確には爆発していますが」

「逃げないとだろ!?」

「大丈夫です。爆発はエンジンという装置に封じ込められていますから。その爆発によって推進力を得るのです」

「爆発力を……な、なるほど?」

 いまいち意味が分からなかったが、オレも爆発魔法は見たことがある。あの威力を推進力に変えることが出来るのなら、それは馬並みの力を生み出すことだって可能かもしれないな。

 オレが落ち着きを取り戻したことを見計らって、支配人さんが声を掛けた。

「それでは発進致しますね」

 そして魔動車はブロロロロ……と低い唸りを上げて進み始める。

 腹に響くような重低音こそ感じるものの、それ以外は至ってスムーズだ。揺れなんかほとんど感じない。

 そして魔動車が店舗兼倉庫から出て、馬車道に乗り入れると、その速度を徐々に上げていった。

「は、早い……! 鋼鉄で出来てて重そうなのに、馬車より速くないか……!?」

 ガラス越しに、どんどん流れていく風景にオレは瞠目する。すると支配人さんが、前を見ながら説明してくれた。

「今は時速15キロほどですから……平時の馬車の約2倍強ですね。本来ならもっと速度を出せますが、今は市中でございますので」

「すでに馬車より速いのに、もっとはやくできるのか……!?」

 すると後ろのティスリが答えてきた。どことなく、誇らしげな声で。

「そうですよ。早馬の全速力よりスピードが出せますからね」

「こんな鉄の塊が!?」

「ええ。むしろ、鉄の塊で出来ているから、爆発魔法を封じ込め、その速度を出せるのですから」

「つまり、重量なんて関係ないほど、この車体のどこかで爆発していると?」

「そういうことですね」

「お、お前……よくこんなもんを考えついたな……」

「ふふん。このような発明、世界の真理を見抜いたわたしには造作もないことです」

 さすがは爆発娘……爆発のことになると頭が冴え渡るらしい。

 しかしオレは、その爆発がどこからか漏れてきやしないかと、ちょっと気が気じゃなくなるのだった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...