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第1章
第14話 さすがは爆発娘……爆発のことになると頭が冴え渡るらしい
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「な、なんだこれ!? 馬車とぜんぜん違うじゃないか……!」
アルデとティスリは魔動車商会の店舗兼倉庫に入ると、そこにはズラリと荷車が展示されていたのだが……そのどれもが馬車とまったく違っていた。
まず御者台がないし、馬を繋ぐくびきもない。車輪はぶっとくて小さめだし、車体はなんと鋼鉄で出来ていた。しかも荷台の四面がガラス張りときた。
な、なぜだろう……どうしてなのかは分からないが、この魔動車は男心を絶妙にくすぐられる……
「ふふん、どうですアルデ。驚いたでしょう?」
オレが魔動車に見とれていると、その横で、ティスリが腰に手を当てて大きくふんぞり返っていた。
……こいつ、背は低いくせに胸はデカいな……
「ちょっとアルデ? 聞いているのですか? さきほどあなたは、魔動車なんかで興奮しないと言っていたでしょう?」
「え、ああ……そうだったか……」
どちらかというとお胸のほうに興奮しそうだったオレは、内心を見透かされないように視線を逸らした。
「いやだって、お前が馬車に似た乗り物だっていうから、荷馬車に毛が生えた程度のものを想像していたんだよ」
「まったくアルデは想像力が貧相ですね。わたしなんて、馬車のない車を考えた時点で、このデザインを思いつきましたよ」
「え……? もしかしてこれってお前が作ったの?」
「作ったのはたくさんの技師ですが、基礎理論を考えたのはわたしです」
「ま、まぢかよ……」
ティスリといると驚かされることばかりだな、ほんと。
なのでまたもや驚かされたオレは、つい本音を言ってしまう。
「お前って……性格はアレだけど頭脳は天才なんだな……」
「アレとはなんなのです? ちゃんと言ってご覧なさい?」
「あ、いや……アレとは……素直、みたいな意味?」
「『性格は素直だけど頭脳は天才』では文脈がおかしいですよね?」
「ちょっとした言い間違いだって! 性格も素直で頭脳も天才! さすが!! 少なくともお前が稀代の大天才だということは、学がないオレでもよくわかったしさ!」
「まったく……調子がいいんですから」
ティスリは頬を膨らませるが、しかしまんざらでもないようで、それ以上は何も言ってこなかった。
こいつ、意外とチョロいな?
それからオレたちは応接間に案内されて、ティスリと店長とで小難しい話をしていた。えんじんがどうだとかハイキリョウがいくらだとか。それら言葉はサッパリ分からなかったが、どうやら魔動車を選んでいることは分かる。
洋服選びのようにまた何時間もかかるのか? と思っていたが、魔動車選びはものの十数分で完了したようで、ティスリのお眼鏡に適った魔動車が店内倉庫から引っ張り出されてきた。
「いちおうアルデの意見も聞いておきましょう。どうですか?」
「か、格好いい……!」
ティスリ曰く、この魔動車はクロスカントリー四駆と呼ばれているそうで、街の外の畦道はもちろんのこと、道すらない荒野や砂漠ですら走ることができるという……!
黒光りする角張った車体といい、馬の鼻のように突き出した前面といい、そこに付いている丸っこい目玉といい、見ているだけで血湧き肉躍るようだ。車体全身から力強さのような気迫を感じられる。
だからオレは、一も二もなく頷いた。
「いいんじゃないかこれ! どんな場所でも走れるってことは、海でも走れるのか!?」
「え……? いえ……海は走れません。水陸両用ではないので……」
「そ、そうなのか……」
オレがなんとなくトーンダウンすると、ティスリはなぜか慌てて言ってきた。
「で、ですが! わたしの魔法を併用すれば海だろうと川だろうと走れますよ……!」
「そうなのか!?」
「そうなのです! なんだったら空だって飛べます!」
「まぢかよ!?」
いったいこんな鋼鉄の物体が、どうやって空を飛ぶっていうんだ!?
オレが興奮しきっていると、ティスリはハタと我に返ったような顔つきになった。
「で、ですが……車は地上を走るものですから……空を飛んでは味気ないというものです」
「そうかな?」
「そうですよ。緊急時以外は飛ばしたり泳がせたりはしませんからね?」
「まぁ分かったよ。お前の魔力をたくさん使わせるのも酷だしな」
「わたしの魔力は無尽蔵ですが……分かって頂いて何よりです」
魔力が無尽蔵などという見栄に、今は突っ込む余裕もなく、オレは胸の高鳴りを抑えきれず次の質問をする。
「それで、これにはいつ乗れるんだ?」
「そうですね……運転の練習もしなければなりませんし……支配人、これから試乗は可能かしら?」
すると支配人と呼ばれた男性は、躊躇うことなく頷いた。
「もちろんでございます。ですが、街中を走らせるのは練習してからがよろしいかと思いますので、わたくしが練習場まで運転致しますが、いかがでしょう?」
「そうですね、ではお願いします」
こうしてオレたちは、支配人さんの運転で試乗することになった。
「な、なぁティスリ! オレ、前に乗ってもいいか!?」
「ええ、構いません。というよりお付きは前に乗るものですからね」
「そうなのか! なら遠慮なく!」
魔動車に乗り込むと、外の様子がよく見える。
屋根を除き、車体の上半分がほとんどガラス張りだからな……これは凄い。馬車よりも車高は低いが、これなら街並みがよく見えるだろう。
乗っただけでオレが興奮していると、支配人さんが言ってきた。
「それではエンジンを掛けますね」
支配人さんが手元で何かを捻ると──
ブロロォン!
──という重低音が腹に響く!
「な、なんだこれ!? 爆発するのか!?」
オレが驚くと、後ろの座席に座ったティスリが、呆れた感じで言ってきた。
「違いますよ。あ、いえ、正確には爆発していますが」
「逃げないとだろ!?」
「大丈夫です。爆発はエンジンという装置に封じ込められていますから。その爆発によって推進力を得るのです」
「爆発力を……な、なるほど?」
いまいち意味が分からなかったが、オレも爆発魔法は見たことがある。あの威力を推進力に変えることが出来るのなら、それは馬並みの力を生み出すことだって可能かもしれないな。
オレが落ち着きを取り戻したことを見計らって、支配人さんが声を掛けた。
「それでは発進致しますね」
そして魔動車はブロロロロ……と低い唸りを上げて進み始める。
腹に響くような重低音こそ感じるものの、それ以外は至ってスムーズだ。揺れなんかほとんど感じない。
そして魔動車が店舗兼倉庫から出て、馬車道に乗り入れると、その速度を徐々に上げていった。
「は、早い……! 鋼鉄で出来てて重そうなのに、馬車より速くないか……!?」
ガラス越しに、どんどん流れていく風景にオレは瞠目する。すると支配人さんが、前を見ながら説明してくれた。
「今は時速15キロほどですから……平時の馬車の約2倍強ですね。本来ならもっと速度を出せますが、今は市中でございますので」
「すでに馬車より速いのに、もっとはやくできるのか……!?」
すると後ろのティスリが答えてきた。どことなく、誇らしげな声で。
「そうですよ。早馬の全速力よりスピードが出せますからね」
「こんな鉄の塊が!?」
「ええ。むしろ、鉄の塊で出来ているから、爆発魔法を封じ込め、その速度を出せるのですから」
「つまり、重量なんて関係ないほど、この車体のどこかで爆発していると?」
「そういうことですね」
「お、お前……よくこんなもんを考えついたな……」
「ふふん。このような発明、世界の真理を見抜いたわたしには造作もないことです」
さすがは爆発娘……爆発のことになると頭が冴え渡るらしい。
しかしオレは、その爆発がどこからか漏れてきやしないかと、ちょっと気が気じゃなくなるのだった……
アルデとティスリは魔動車商会の店舗兼倉庫に入ると、そこにはズラリと荷車が展示されていたのだが……そのどれもが馬車とまったく違っていた。
まず御者台がないし、馬を繋ぐくびきもない。車輪はぶっとくて小さめだし、車体はなんと鋼鉄で出来ていた。しかも荷台の四面がガラス張りときた。
な、なぜだろう……どうしてなのかは分からないが、この魔動車は男心を絶妙にくすぐられる……
「ふふん、どうですアルデ。驚いたでしょう?」
オレが魔動車に見とれていると、その横で、ティスリが腰に手を当てて大きくふんぞり返っていた。
……こいつ、背は低いくせに胸はデカいな……
「ちょっとアルデ? 聞いているのですか? さきほどあなたは、魔動車なんかで興奮しないと言っていたでしょう?」
「え、ああ……そうだったか……」
どちらかというとお胸のほうに興奮しそうだったオレは、内心を見透かされないように視線を逸らした。
「いやだって、お前が馬車に似た乗り物だっていうから、荷馬車に毛が生えた程度のものを想像していたんだよ」
「まったくアルデは想像力が貧相ですね。わたしなんて、馬車のない車を考えた時点で、このデザインを思いつきましたよ」
「え……? もしかしてこれってお前が作ったの?」
「作ったのはたくさんの技師ですが、基礎理論を考えたのはわたしです」
「ま、まぢかよ……」
ティスリといると驚かされることばかりだな、ほんと。
なのでまたもや驚かされたオレは、つい本音を言ってしまう。
「お前って……性格はアレだけど頭脳は天才なんだな……」
「アレとはなんなのです? ちゃんと言ってご覧なさい?」
「あ、いや……アレとは……素直、みたいな意味?」
「『性格は素直だけど頭脳は天才』では文脈がおかしいですよね?」
「ちょっとした言い間違いだって! 性格も素直で頭脳も天才! さすが!! 少なくともお前が稀代の大天才だということは、学がないオレでもよくわかったしさ!」
「まったく……調子がいいんですから」
ティスリは頬を膨らませるが、しかしまんざらでもないようで、それ以上は何も言ってこなかった。
こいつ、意外とチョロいな?
それからオレたちは応接間に案内されて、ティスリと店長とで小難しい話をしていた。えんじんがどうだとかハイキリョウがいくらだとか。それら言葉はサッパリ分からなかったが、どうやら魔動車を選んでいることは分かる。
洋服選びのようにまた何時間もかかるのか? と思っていたが、魔動車選びはものの十数分で完了したようで、ティスリのお眼鏡に適った魔動車が店内倉庫から引っ張り出されてきた。
「いちおうアルデの意見も聞いておきましょう。どうですか?」
「か、格好いい……!」
ティスリ曰く、この魔動車はクロスカントリー四駆と呼ばれているそうで、街の外の畦道はもちろんのこと、道すらない荒野や砂漠ですら走ることができるという……!
黒光りする角張った車体といい、馬の鼻のように突き出した前面といい、そこに付いている丸っこい目玉といい、見ているだけで血湧き肉躍るようだ。車体全身から力強さのような気迫を感じられる。
だからオレは、一も二もなく頷いた。
「いいんじゃないかこれ! どんな場所でも走れるってことは、海でも走れるのか!?」
「え……? いえ……海は走れません。水陸両用ではないので……」
「そ、そうなのか……」
オレがなんとなくトーンダウンすると、ティスリはなぜか慌てて言ってきた。
「で、ですが! わたしの魔法を併用すれば海だろうと川だろうと走れますよ……!」
「そうなのか!?」
「そうなのです! なんだったら空だって飛べます!」
「まぢかよ!?」
いったいこんな鋼鉄の物体が、どうやって空を飛ぶっていうんだ!?
オレが興奮しきっていると、ティスリはハタと我に返ったような顔つきになった。
「で、ですが……車は地上を走るものですから……空を飛んでは味気ないというものです」
「そうかな?」
「そうですよ。緊急時以外は飛ばしたり泳がせたりはしませんからね?」
「まぁ分かったよ。お前の魔力をたくさん使わせるのも酷だしな」
「わたしの魔力は無尽蔵ですが……分かって頂いて何よりです」
魔力が無尽蔵などという見栄に、今は突っ込む余裕もなく、オレは胸の高鳴りを抑えきれず次の質問をする。
「それで、これにはいつ乗れるんだ?」
「そうですね……運転の練習もしなければなりませんし……支配人、これから試乗は可能かしら?」
すると支配人と呼ばれた男性は、躊躇うことなく頷いた。
「もちろんでございます。ですが、街中を走らせるのは練習してからがよろしいかと思いますので、わたくしが練習場まで運転致しますが、いかがでしょう?」
「そうですね、ではお願いします」
こうしてオレたちは、支配人さんの運転で試乗することになった。
「な、なぁティスリ! オレ、前に乗ってもいいか!?」
「ええ、構いません。というよりお付きは前に乗るものですからね」
「そうなのか! なら遠慮なく!」
魔動車に乗り込むと、外の様子がよく見える。
屋根を除き、車体の上半分がほとんどガラス張りだからな……これは凄い。馬車よりも車高は低いが、これなら街並みがよく見えるだろう。
乗っただけでオレが興奮していると、支配人さんが言ってきた。
「それではエンジンを掛けますね」
支配人さんが手元で何かを捻ると──
ブロロォン!
──という重低音が腹に響く!
「な、なんだこれ!? 爆発するのか!?」
オレが驚くと、後ろの座席に座ったティスリが、呆れた感じで言ってきた。
「違いますよ。あ、いえ、正確には爆発していますが」
「逃げないとだろ!?」
「大丈夫です。爆発はエンジンという装置に封じ込められていますから。その爆発によって推進力を得るのです」
「爆発力を……な、なるほど?」
いまいち意味が分からなかったが、オレも爆発魔法は見たことがある。あの威力を推進力に変えることが出来るのなら、それは馬並みの力を生み出すことだって可能かもしれないな。
オレが落ち着きを取り戻したことを見計らって、支配人さんが声を掛けた。
「それでは発進致しますね」
そして魔動車はブロロロロ……と低い唸りを上げて進み始める。
腹に響くような重低音こそ感じるものの、それ以外は至ってスムーズだ。揺れなんかほとんど感じない。
そして魔動車が店舗兼倉庫から出て、馬車道に乗り入れると、その速度を徐々に上げていった。
「は、早い……! 鋼鉄で出来てて重そうなのに、馬車より速くないか……!?」
ガラス越しに、どんどん流れていく風景にオレは瞠目する。すると支配人さんが、前を見ながら説明してくれた。
「今は時速15キロほどですから……平時の馬車の約2倍強ですね。本来ならもっと速度を出せますが、今は市中でございますので」
「すでに馬車より速いのに、もっとはやくできるのか……!?」
すると後ろのティスリが答えてきた。どことなく、誇らしげな声で。
「そうですよ。早馬の全速力よりスピードが出せますからね」
「こんな鉄の塊が!?」
「ええ。むしろ、鉄の塊で出来ているから、爆発魔法を封じ込め、その速度を出せるのですから」
「つまり、重量なんて関係ないほど、この車体のどこかで爆発していると?」
「そういうことですね」
「お、お前……よくこんなもんを考えついたな……」
「ふふん。このような発明、世界の真理を見抜いたわたしには造作もないことです」
さすがは爆発娘……爆発のことになると頭が冴え渡るらしい。
しかしオレは、その爆発がどこからか漏れてきやしないかと、ちょっと気が気じゃなくなるのだった……
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