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第1章
第12話 野良犬に服を着せた感じというか……
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(うーん……動きづらい……)
インフォーマルの上着を着せられたアルデは、姿鏡の前で、体をぎこちなく動かしてみる。腕やら袖やらが突っ張って、今にも破けそうで怖かった。
オレが内心で唸っていると、店長さんが言ってきた。
「いかがでしょうか? 実際には仕立て直しが必要ですので、サイズ感は調整できますが」
「そうですか……ではもう少し動きやすくすることはできますか?」
「はい、可能です。ではワンサイズ大きめに仕立てましょう。デザインのほうはいかがでしょうか?」
「うーん……デザインとかオレはよく分からなくて。ティスリに見てもらってもいいですか?」
「かしこまりました。ではティスリ様が試着を終えられるまで、他の服も合わせておきましょう」
そんな感じで小一時間近く着せ替えられて、オレはこっそりため息をつくのだった。
試着を終えて、オレが貴賓室でティスリを待つことしばし、彼女が戻ってくる。
ティスリはさきほどの服のままだったが、オレはティスリに服を選んでもらいたかったので試着のままだ。
だからか、ティスリは入室した途端、ポカンとしていた。
「なんだよティスリ? 似合わないってのか?」
「え……? ええまぁ、奇妙な感じですね」
「ほっとけ」
「なんというか……野良犬に服を着せた感じというか……」
「オレは人間だ!」
まったく。服をちゃんとしろと言ったのはティスリのほうなのに、酷い言われようだ。まぁ予想はしていたが。
だからオレは、ため息交じりにぼやくのだった。
「ま、似合わないんだったらどんな服でもいいか。そしたらいま着ているヤツを──」
「ちょ、ちょっと待ちなさいッ」
オレが貴賓室を出ようとすると、ティスリが慌てて止めてきた。
「せっかくだから、わたしが選んであげます。他の上着はないんですか?」
「えぇ……? もう一時間も着せ替えさせられているし、これでいいよ……」
「いいから! 似合わないからこそ、なんとか似合いそうなものを選ぶ必要があるのですから!」
……普通の男なら、この辺で泣いているのではなかろうか?
あまりにもな言われようではあるが、元々ティスリに選んで欲しかったのもあり、オレは渋々ながらもハンガーからいくつかの上着を手に取った。
「えっと……店長さんが見繕ってくれたのはこの辺なんだが……」
「なるほど……よい服です。やはりこの店、センスだけはありますね」
服はいいのに似合わないって……どんだけオレがダメってことなんだ……?
まぁいいや。別に、上流階級に成り上がりたいわけでもないし、宿屋に出入り出来るだけでいいのだから。
まぁ……宿屋に出入りするだけで、これほどに手間とカネが掛かるだなんて、オレは上流階級に生まれなくて本当によかった、と心底思うが。
ティスリはオレの服を手に取りながら、ああでもないこうでもないとブツブツ言っている。オレから見ると、服の色が違うくらいにしか見えないが。
そうしてまたぞろ小一時間近く掛かって、ティスリがようやく決めたのが──
「──最初に着てた服でいいなら、こんなに時間を掛けなくてよかったろ!?」
オレはいささかウンザリしてティスリに文句を言っていた。
しかしティスリは悪びれる様子もなく反論してくる。さも当然と言わんばかりに。
「何を言っているのです。洋服選びというのは、比較検討を繰り返した過程が大切なのです。あなたにも分かるように例えてあげるならば、屈強な戦士になるために、毎日の鍛錬は欠かせないでしょう? つまりはそういうことなのです」
「いや……服をなんど着替えたって技量は上がらないが……」
「か・て・い、が大切なのです! それとも、その服ではまだ不満ですか?」
「いやいや、これでいいよ! 大満足だ!」
オレが大慌てでそう伝えると、ティスリはふんすと鼻を鳴らす。
「でしょう? 服選びを入念に行った結果に得られる、その満足感こそが重要なのですからね」
いや……たった今、過程が大切だと言ったばかりなのに?
しかしここで突っ込んだら、さらなる服選びに付き合わされそうだったので、オレはぐっと堪えることにした。
するとティスリが上機嫌で話を続ける。
「馬子にも衣装という諺がありますからね。それなりにサマになりましたよ」
「その諺はどういう意味だよ?」
「平凡な人間でも、衣装を変えれば立派に見えるという意味です」
「へいへい……どうせオレは平凡ですよ。そもそも平民だしな」
今さっき、野良犬に服を着せた感じだと言っていたのに今度は馬子かよ……まぁ犬じゃなくて、馬を引く人間に昇格しただけマシなのか?
しかしティスリは、とても機嫌よさげに言ってきた。
「ではその服を仕立て直してもらいますよ。急げば明日には完成するでしょうから、楽しみですね」
「オレの服が出来上がるだけなのに、なんでお前が楽しみなんだ?」
「……!?」
ティスリはいっとき目を見開くが、すぐに咳払いをして訂正してくる。
「わ、わたしの服も仕立て直しをするからですよ! あなたの事じゃありませんから!」
「ああ、そういうことか」
まぁ、女性はオシャレするのが楽しみらしいからな。
オレは、田舎の母と妹が、貧乏暮らしにあっても手造りで首飾りとか作っていたのを思い出すのだった。
インフォーマルの上着を着せられたアルデは、姿鏡の前で、体をぎこちなく動かしてみる。腕やら袖やらが突っ張って、今にも破けそうで怖かった。
オレが内心で唸っていると、店長さんが言ってきた。
「いかがでしょうか? 実際には仕立て直しが必要ですので、サイズ感は調整できますが」
「そうですか……ではもう少し動きやすくすることはできますか?」
「はい、可能です。ではワンサイズ大きめに仕立てましょう。デザインのほうはいかがでしょうか?」
「うーん……デザインとかオレはよく分からなくて。ティスリに見てもらってもいいですか?」
「かしこまりました。ではティスリ様が試着を終えられるまで、他の服も合わせておきましょう」
そんな感じで小一時間近く着せ替えられて、オレはこっそりため息をつくのだった。
試着を終えて、オレが貴賓室でティスリを待つことしばし、彼女が戻ってくる。
ティスリはさきほどの服のままだったが、オレはティスリに服を選んでもらいたかったので試着のままだ。
だからか、ティスリは入室した途端、ポカンとしていた。
「なんだよティスリ? 似合わないってのか?」
「え……? ええまぁ、奇妙な感じですね」
「ほっとけ」
「なんというか……野良犬に服を着せた感じというか……」
「オレは人間だ!」
まったく。服をちゃんとしろと言ったのはティスリのほうなのに、酷い言われようだ。まぁ予想はしていたが。
だからオレは、ため息交じりにぼやくのだった。
「ま、似合わないんだったらどんな服でもいいか。そしたらいま着ているヤツを──」
「ちょ、ちょっと待ちなさいッ」
オレが貴賓室を出ようとすると、ティスリが慌てて止めてきた。
「せっかくだから、わたしが選んであげます。他の上着はないんですか?」
「えぇ……? もう一時間も着せ替えさせられているし、これでいいよ……」
「いいから! 似合わないからこそ、なんとか似合いそうなものを選ぶ必要があるのですから!」
……普通の男なら、この辺で泣いているのではなかろうか?
あまりにもな言われようではあるが、元々ティスリに選んで欲しかったのもあり、オレは渋々ながらもハンガーからいくつかの上着を手に取った。
「えっと……店長さんが見繕ってくれたのはこの辺なんだが……」
「なるほど……よい服です。やはりこの店、センスだけはありますね」
服はいいのに似合わないって……どんだけオレがダメってことなんだ……?
まぁいいや。別に、上流階級に成り上がりたいわけでもないし、宿屋に出入り出来るだけでいいのだから。
まぁ……宿屋に出入りするだけで、これほどに手間とカネが掛かるだなんて、オレは上流階級に生まれなくて本当によかった、と心底思うが。
ティスリはオレの服を手に取りながら、ああでもないこうでもないとブツブツ言っている。オレから見ると、服の色が違うくらいにしか見えないが。
そうしてまたぞろ小一時間近く掛かって、ティスリがようやく決めたのが──
「──最初に着てた服でいいなら、こんなに時間を掛けなくてよかったろ!?」
オレはいささかウンザリしてティスリに文句を言っていた。
しかしティスリは悪びれる様子もなく反論してくる。さも当然と言わんばかりに。
「何を言っているのです。洋服選びというのは、比較検討を繰り返した過程が大切なのです。あなたにも分かるように例えてあげるならば、屈強な戦士になるために、毎日の鍛錬は欠かせないでしょう? つまりはそういうことなのです」
「いや……服をなんど着替えたって技量は上がらないが……」
「か・て・い、が大切なのです! それとも、その服ではまだ不満ですか?」
「いやいや、これでいいよ! 大満足だ!」
オレが大慌てでそう伝えると、ティスリはふんすと鼻を鳴らす。
「でしょう? 服選びを入念に行った結果に得られる、その満足感こそが重要なのですからね」
いや……たった今、過程が大切だと言ったばかりなのに?
しかしここで突っ込んだら、さらなる服選びに付き合わされそうだったので、オレはぐっと堪えることにした。
するとティスリが上機嫌で話を続ける。
「馬子にも衣装という諺がありますからね。それなりにサマになりましたよ」
「その諺はどういう意味だよ?」
「平凡な人間でも、衣装を変えれば立派に見えるという意味です」
「へいへい……どうせオレは平凡ですよ。そもそも平民だしな」
今さっき、野良犬に服を着せた感じだと言っていたのに今度は馬子かよ……まぁ犬じゃなくて、馬を引く人間に昇格しただけマシなのか?
しかしティスリは、とても機嫌よさげに言ってきた。
「ではその服を仕立て直してもらいますよ。急げば明日には完成するでしょうから、楽しみですね」
「オレの服が出来上がるだけなのに、なんでお前が楽しみなんだ?」
「……!?」
ティスリはいっとき目を見開くが、すぐに咳払いをして訂正してくる。
「わ、わたしの服も仕立て直しをするからですよ! あなたの事じゃありませんから!」
「ああ、そういうことか」
まぁ、女性はオシャレするのが楽しみらしいからな。
オレは、田舎の母と妹が、貧乏暮らしにあっても手造りで首飾りとか作っていたのを思い出すのだった。
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