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第1章
第6話 こんな、見ず知らずの男に手籠めにされるなんて……
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「う……う~ん……なにこれ……頭痛い……」
ティスリは強烈な頭痛と、さらに吐き気まで感じてうっすらと目を開けます。
体も重くて起き上がれそうにありません。風邪でも引いたのでしょうか?
「どこ……ここ……?」
ひとまず、ベッドで寝ていることは分かったので、わたしは痛む頭をゆっくりと動かします。
すると、馬小屋かと見紛うほどにチープで粗雑な室内でした。
合板で出来た壁は隙間風が入ってきそうなほど雑な作りですし、調度品や生け花なども一切無く、安っぽいテーブルとソファが一つずつ、あとはわたしが寝ているベッドという有様です。
ちなみにこのベッド、少し動くだけでギシギシと軋みます。
そんな室内にわたしが唖然としていると扉が開きました。
「お、目が覚めたか」
一瞬、誰が入ってきたのか分かりませんでしたが、すぐにアルデのことを思い出します。
そうでした……わたしは昨日、王族を追放されて彼と出会い、酒場で飲み交わしたはず……
おかしいですね? そこからの記憶が曖昧です。
確か、アルデを雇うとか雇わないとかの話をしていたと思うのですが……
痛む頭でわたしが考えていると、アルデがコップを差し出してきました。
「ほら、水をもらってきたから。起きれるか?」
「……うう……起きられません……起こしてください」
「まったく。世話が焼けるな」
アルデはわたしの背中に手を添えて、上体を起こしてくれました。
「ほら。水を飲めば少しはラクになるから」
「……うう……このお水……臭いです……」
「ワガママ言うなら取り上げるぞ」
「わ、分かりましたよ……」
わたしは息を止めて、お水を一気に流し込みました。
「……ラクにならないじゃないですか」
「そんなすぐに効くか。ほら、また横になってろって」
アルデは再びわたしの上体を支えると、横にしてくれます。
……まったく……侍女以外に、しかも男性に介抱されるなんて大失態です。生を受けてから16年間、これほどの失敗をしたことなどないというのに……そもそも男性が寝所に入ってくるなんて……
そんなことを考えていたら、なぜか顔まで火照ってきました。
「やはり……風邪を引いたようです……」
「違うって。お前のそれは、ただの二日酔いだ」
「……ふつかよい? なんですかそれは」
「お酒を呑みすぎると、アルコールが翌日も抜けずに、頭痛や倦怠感が出てくるんだよ。病気じゃないから安心しろ」
「……何を言っているのです? このわたしが、お酒に酔うわけないじゃないですか……これまでにも、様々な晩餐会でたくさんの葡萄酒を呑んできたのですよ……」
もちろんそのときは、翌日にこんな症状にはなりませんでした。
「アルデ……まさかあなた……わたしに毒物を……」
「んなわけあるか! ただの二日酔いだ」
確かに、わたしが常時発現させている毒物検知の魔法には反応しませんでしたが……
しかしわたしはどうにも納得がいかず、むっつりとアルデを睨んでいると、アルデが言ってきます。
「あ、もしかすると……」
「やはり毒物を……!?」
「違う違う。ちょっと待ってろ」
そういってアルデは部屋を出て、それから数分ほどでまた戻ってきました。
アルデはまたコップを持っていましたが、そこに入っているのはお水ではなく葡萄酒です。
「ちょっとこれ飲んでみ?」
「……はい? 二日酔いだという話なのに、さらにお酒を呑ませるのですか?」
「いいから飲んでみろって」
わたしは渋々ながらグラスを受け取ります。やはり、毒物検知はしていません。
仕方なく葡萄酒を一口含んでみると、その芳醇な甘さと香りが口の中いっぱいに広がって行きました。
「そうそう……これです。わたしがいつも呑んでいた葡萄酒です」
「はぁ……やっぱりか」
「やっぱりって、どういう意味ですか」
「あのな。これは葡萄酒じゃなくて葡萄ジュースだ」
「……はぁ?」
意味不明なことを言われ、普段の千分の一しか回転していないわたしの頭脳は疑問符で埋まりました。
アルデがさらに言ってきます。
「つまりアレだ。お前んちの執事さんだか侍女さんだかは、お前がお酒を飲めないことを知っていて、葡萄酒の代わりに葡萄ジュースを出してたんだろ。晩餐会とかそういう場で」
「………………は?」
わたしは、わたしが葡萄酒だと思わされていたジュースに視線を落としてからつぶやいていました。
「つまり……欺されていたと……?」
「欺されたってか、気を使われてたんだろ? あと、そう言う場では商談なんかもあったんだろう? そんな場所で、昨日みたいに倒れられたら困るだろうしな、特に執事さんたちが」
「え……わたし、昨日倒れたんですか?」
「ああ。それは見事に意識を失っていたよ」
「……えっと……それでそのあと、あなたはどうしたんです?」
「どうしたも何も、お前を担いでこの宿に来たんだ」
「こ、この宿で……あなたとわたしが、一晩過ごしたんですか……!?」
「仕方がないだろ? 今のオレは、収入も住居もないんだから。あとこの宿の空き部屋がここだけだったんだよ」
「へ、変態!」
わたしは両腕で自分の体を覆うと、ベッドの端まで身を引きました。
「女性の意識がないのをいいことに、寝所に連れ込むなんて!」
「ち、違う! 誤解だ!!」
「誤解も何も、今あなたはこうして、わたしの寝所に入ってきているではありませんか!?」
「二日酔いを介抱してんだから仕方がないだろ!? こんな安宿に、お前んちみたく侍女なんていないからな!?」
「そもそも安宿なんかに連れ込んで!」
「だからお金がないんだっつーの!?」
「お金なんて、あとでわたしが払えばよかったでしょう!」
「この辺の宿はみんな先払いなんだよ! そもそも旅館に行ったって、オレの格好じゃ門前払いだからな!?」
「ああ……実家を追放されたと思ったら……こんな、見ず知らずの男に手籠めにされるなんて……」
「だったらオレに付いてこなければよかっただろ!?」
「ということは犯行を認めるのですね!?」
「認めてねぇ!? そもそも人妻のお前に興味なんてあるか!」
「わたしは清い体の独身です!」
「じゃあなんで結婚指輪してるんだよ!?」
そう言われて、わたしは左手の薬指を見ました。
確かに指輪を填めていますが、これはダミーなのです。わたしほどの容姿にもなれば、独身男性がしょっちゅう言い寄ってきますから、その男避けに付けているものでした。だから結婚なんてしていません。
ちなみにこの指輪は魔法が宿っている魔具で、毒物検知魔法もこの指輪から発現されています。さらに、わたしの身に危険が及んだときには爆発魔法が発現して、暗殺者や不逞の輩を爆殺してくれます……
……はて?
「あなた、どうしてまだ生きてるんですか?」
「どういう意味だそれは!?」
この男がわたしに手を出したのなら、間違いなく吹き飛んで、今頃はこの部屋が血と肉にまみれているはずですが……
普段の万分の一の出力となっている頭脳を、わたしは懸命に動かしてから言いました。
「よかったですね? わたしに手を出していたら、今ごろ爆死してましたよ?」
「その前に謝罪だろ!?」
アルデは、引きつった笑顔で青筋を浮かべていたのでした。
ティスリは強烈な頭痛と、さらに吐き気まで感じてうっすらと目を開けます。
体も重くて起き上がれそうにありません。風邪でも引いたのでしょうか?
「どこ……ここ……?」
ひとまず、ベッドで寝ていることは分かったので、わたしは痛む頭をゆっくりと動かします。
すると、馬小屋かと見紛うほどにチープで粗雑な室内でした。
合板で出来た壁は隙間風が入ってきそうなほど雑な作りですし、調度品や生け花なども一切無く、安っぽいテーブルとソファが一つずつ、あとはわたしが寝ているベッドという有様です。
ちなみにこのベッド、少し動くだけでギシギシと軋みます。
そんな室内にわたしが唖然としていると扉が開きました。
「お、目が覚めたか」
一瞬、誰が入ってきたのか分かりませんでしたが、すぐにアルデのことを思い出します。
そうでした……わたしは昨日、王族を追放されて彼と出会い、酒場で飲み交わしたはず……
おかしいですね? そこからの記憶が曖昧です。
確か、アルデを雇うとか雇わないとかの話をしていたと思うのですが……
痛む頭でわたしが考えていると、アルデがコップを差し出してきました。
「ほら、水をもらってきたから。起きれるか?」
「……うう……起きられません……起こしてください」
「まったく。世話が焼けるな」
アルデはわたしの背中に手を添えて、上体を起こしてくれました。
「ほら。水を飲めば少しはラクになるから」
「……うう……このお水……臭いです……」
「ワガママ言うなら取り上げるぞ」
「わ、分かりましたよ……」
わたしは息を止めて、お水を一気に流し込みました。
「……ラクにならないじゃないですか」
「そんなすぐに効くか。ほら、また横になってろって」
アルデは再びわたしの上体を支えると、横にしてくれます。
……まったく……侍女以外に、しかも男性に介抱されるなんて大失態です。生を受けてから16年間、これほどの失敗をしたことなどないというのに……そもそも男性が寝所に入ってくるなんて……
そんなことを考えていたら、なぜか顔まで火照ってきました。
「やはり……風邪を引いたようです……」
「違うって。お前のそれは、ただの二日酔いだ」
「……ふつかよい? なんですかそれは」
「お酒を呑みすぎると、アルコールが翌日も抜けずに、頭痛や倦怠感が出てくるんだよ。病気じゃないから安心しろ」
「……何を言っているのです? このわたしが、お酒に酔うわけないじゃないですか……これまでにも、様々な晩餐会でたくさんの葡萄酒を呑んできたのですよ……」
もちろんそのときは、翌日にこんな症状にはなりませんでした。
「アルデ……まさかあなた……わたしに毒物を……」
「んなわけあるか! ただの二日酔いだ」
確かに、わたしが常時発現させている毒物検知の魔法には反応しませんでしたが……
しかしわたしはどうにも納得がいかず、むっつりとアルデを睨んでいると、アルデが言ってきます。
「あ、もしかすると……」
「やはり毒物を……!?」
「違う違う。ちょっと待ってろ」
そういってアルデは部屋を出て、それから数分ほどでまた戻ってきました。
アルデはまたコップを持っていましたが、そこに入っているのはお水ではなく葡萄酒です。
「ちょっとこれ飲んでみ?」
「……はい? 二日酔いだという話なのに、さらにお酒を呑ませるのですか?」
「いいから飲んでみろって」
わたしは渋々ながらグラスを受け取ります。やはり、毒物検知はしていません。
仕方なく葡萄酒を一口含んでみると、その芳醇な甘さと香りが口の中いっぱいに広がって行きました。
「そうそう……これです。わたしがいつも呑んでいた葡萄酒です」
「はぁ……やっぱりか」
「やっぱりって、どういう意味ですか」
「あのな。これは葡萄酒じゃなくて葡萄ジュースだ」
「……はぁ?」
意味不明なことを言われ、普段の千分の一しか回転していないわたしの頭脳は疑問符で埋まりました。
アルデがさらに言ってきます。
「つまりアレだ。お前んちの執事さんだか侍女さんだかは、お前がお酒を飲めないことを知っていて、葡萄酒の代わりに葡萄ジュースを出してたんだろ。晩餐会とかそういう場で」
「………………は?」
わたしは、わたしが葡萄酒だと思わされていたジュースに視線を落としてからつぶやいていました。
「つまり……欺されていたと……?」
「欺されたってか、気を使われてたんだろ? あと、そう言う場では商談なんかもあったんだろう? そんな場所で、昨日みたいに倒れられたら困るだろうしな、特に執事さんたちが」
「え……わたし、昨日倒れたんですか?」
「ああ。それは見事に意識を失っていたよ」
「……えっと……それでそのあと、あなたはどうしたんです?」
「どうしたも何も、お前を担いでこの宿に来たんだ」
「こ、この宿で……あなたとわたしが、一晩過ごしたんですか……!?」
「仕方がないだろ? 今のオレは、収入も住居もないんだから。あとこの宿の空き部屋がここだけだったんだよ」
「へ、変態!」
わたしは両腕で自分の体を覆うと、ベッドの端まで身を引きました。
「女性の意識がないのをいいことに、寝所に連れ込むなんて!」
「ち、違う! 誤解だ!!」
「誤解も何も、今あなたはこうして、わたしの寝所に入ってきているではありませんか!?」
「二日酔いを介抱してんだから仕方がないだろ!? こんな安宿に、お前んちみたく侍女なんていないからな!?」
「そもそも安宿なんかに連れ込んで!」
「だからお金がないんだっつーの!?」
「お金なんて、あとでわたしが払えばよかったでしょう!」
「この辺の宿はみんな先払いなんだよ! そもそも旅館に行ったって、オレの格好じゃ門前払いだからな!?」
「ああ……実家を追放されたと思ったら……こんな、見ず知らずの男に手籠めにされるなんて……」
「だったらオレに付いてこなければよかっただろ!?」
「ということは犯行を認めるのですね!?」
「認めてねぇ!? そもそも人妻のお前に興味なんてあるか!」
「わたしは清い体の独身です!」
「じゃあなんで結婚指輪してるんだよ!?」
そう言われて、わたしは左手の薬指を見ました。
確かに指輪を填めていますが、これはダミーなのです。わたしほどの容姿にもなれば、独身男性がしょっちゅう言い寄ってきますから、その男避けに付けているものでした。だから結婚なんてしていません。
ちなみにこの指輪は魔法が宿っている魔具で、毒物検知魔法もこの指輪から発現されています。さらに、わたしの身に危険が及んだときには爆発魔法が発現して、暗殺者や不逞の輩を爆殺してくれます……
……はて?
「あなた、どうしてまだ生きてるんですか?」
「どういう意味だそれは!?」
この男がわたしに手を出したのなら、間違いなく吹き飛んで、今頃はこの部屋が血と肉にまみれているはずですが……
普段の万分の一の出力となっている頭脳を、わたしは懸命に動かしてから言いました。
「よかったですね? わたしに手を出していたら、今ごろ爆死してましたよ?」
「その前に謝罪だろ!?」
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