3 / 236
第1章
第3話 なんだかこの子、オレの心をガリガリえぐってくるんだが……(涙)
しおりを挟む
「ちょ、ちょっと君!? いったいどこから入り込んだの……!?」
城壁の外とはいえ、ここはまだ王城管轄の庭園だ。関係者以外がむやみやたらと入ってきていい場所ではない。
だからオレは慌てながらも、しかし嘲笑している先輩達に気づかれるわけにはいかないから、声を潜めてその少女に言った。
「あの衛士たちに見つからないように、樹々に隠れながら庭園を出なさい……!」
先輩達はオレの姿に注目しているだろうから、少女には気づかないはずだ。
「分かったわ」
少女がそう言ってくると、オレはあえて彼女から離れて歩いて行く。
そうして──
──先輩達の嘲笑も聞こえなくなり、裏庭も抜けて大通りにさしかかると、さきほどの少女が木の陰からひょっこりと現れた。
どうやら先輩達には見つからずにやり過ごせたようだ。オレは安堵の吐息をはいた。
「ふぅ……まったく……ダメだよ。無断で王城裏庭に入ってきては」
「あなた、もう衛士ではないんでしょう? であれば注意される言われはないと思うけど」
「う……言われてみれば確かにその通りだけど……」
「それであなた、名前は?」
急に名前を聞かれて、オレはちょっと戸惑いながらも答える。なんだか話の間合いが掴みづらいコだな……
「アルデ・ラーマ。カルヴァン王国の衛士……をやっていた者デス……」
「そ。わたしは……ティスリ・レイド。超絶天才美少女です」
「は、はぁ……?」
「それでアルデ。あなたは理不尽な理由で衛士を追放になったようですが、それでいいのですか?」
「よくはないが……しかし、正式な辞令が出てしまってはどうすることも出来ないし……」
「そうですか。情けないことですね」
「ぐっ……!」
なんだかこの子、オレの心をガリガリえぐってくるんだが……(涙)
言い返す言葉も見つからないオレだったが、なんとか反論したくて彼女──ティスリを睨んでみた。
「……!?」
と、そこで気づく。
自分のことを美少女というだけあって、ティスリは息を呑むほどに美しかった。
さっき裏庭で出会った時は慌てていたから、彼女の顔をよく見ていなかったのだ。
やや赤みがかった髪の毛はゆったりとウェーブが掛かっていて、背中の中程まであるロング。二本の編み込みを後ろで束ねたハーフアップだ。
目は大きな二重のレッドアイで強い意志を感じられる。肌も雪のように白く、スタイルなんて出るところは出ているのに華奢な感じで、手に触れるだけで壊れてしまいそうだった。
こりゃ……どう考えても平民ではないだろう。平民なら、日々の労働で、女性と言えどももっと逞しくなっているはずだし。
貴族だとしたら、別に慌てて裏庭を出てくる必要なかったか──と思いながらもオレは襟を正した。
「も、申し訳ありませんティスリ様。まさか貴族の方だとは露知らず……」
「何を言っているのかしら? わたしはただの平民ですよ」
「いやそんな……身なりだっていいですし……」
「身なりのいい平民もいるでしょう?」
「それはえーと……政商の方とかなら……」
「そう──実はわたし、政商の娘なんです」
なるほど……だから王城付近にいたってわけか。
とはいえ政商ともなれば、身分が高いことに違いない。平民出で田舎出身のオレなんかが失礼をしたら、あっさり首を飛ばされるほどには。
そんなことを考えて寒気を覚えているとティスリが言った。
「それでアルデ。あなたは理不尽に追放されて、これからどうされるのですか?」
「ど、どうと言われても……」
なんだかこの子、やたらと追放について言ってくるな……今はそれに触れて欲しくないのに……
そもそも突然のことで、これからどうしたらいいのかオレだってまるで考えられないのだ。
そんな心境だったからか、オレはつい本音を言ってしまう。
「仕方がないので……とりあえず今日は呑んだくれようかと……」
「なるほど。現実逃避というわけですか」
「うぐっ……!!」
この子は、何かオレに恨みでもあるのだろうか? 初対面のはずだが……(涙)
オレが呻いていると、ティスリが言ってきた。
「ではご一緒しましょう。酒場とやらに連れて行ってください」
「は、はぁ……!?」
何を好き好んで、身分が上の人間と一緒にいなくてはならないのか。下手をすれば(物理的に)クビが飛ぶというのに。
「ちょ、ちょっと待ってくださいティスリ様。下町の酒場なんて、あなたのようなお方が──」
「アルデ。わたしは平民だと言ったはずです」
「し、しかし……」
「ですから、もっと砕けた感じに接してください」
「は、はぁ……?」
「あなたがそうやってかしこまっていると、むしろ目立ってしまうのですよ?」
「確かに……そう言われてみればそうかもですが……」
「ですから敬称も敬語も無しで。ああ、わたしの口調は癖ですからお気になさらず。あなたに敬意を払っているわけでもありませんので」
「そ、そぉですか……」
思わず口元が引きつりそうになるが、ここは我慢がまん……
オレが苛立ちを抑え込んでいると、ティスリはなおも言ってきた。
「さぁ酒場に連れて行ってください。案内料として、わたしがご馳走しますから」
こうして、オレは政商の娘に根負けするのだった。
これくらい強引でないと、政商なんてやっていられないのかもな……
城壁の外とはいえ、ここはまだ王城管轄の庭園だ。関係者以外がむやみやたらと入ってきていい場所ではない。
だからオレは慌てながらも、しかし嘲笑している先輩達に気づかれるわけにはいかないから、声を潜めてその少女に言った。
「あの衛士たちに見つからないように、樹々に隠れながら庭園を出なさい……!」
先輩達はオレの姿に注目しているだろうから、少女には気づかないはずだ。
「分かったわ」
少女がそう言ってくると、オレはあえて彼女から離れて歩いて行く。
そうして──
──先輩達の嘲笑も聞こえなくなり、裏庭も抜けて大通りにさしかかると、さきほどの少女が木の陰からひょっこりと現れた。
どうやら先輩達には見つからずにやり過ごせたようだ。オレは安堵の吐息をはいた。
「ふぅ……まったく……ダメだよ。無断で王城裏庭に入ってきては」
「あなた、もう衛士ではないんでしょう? であれば注意される言われはないと思うけど」
「う……言われてみれば確かにその通りだけど……」
「それであなた、名前は?」
急に名前を聞かれて、オレはちょっと戸惑いながらも答える。なんだか話の間合いが掴みづらいコだな……
「アルデ・ラーマ。カルヴァン王国の衛士……をやっていた者デス……」
「そ。わたしは……ティスリ・レイド。超絶天才美少女です」
「は、はぁ……?」
「それでアルデ。あなたは理不尽な理由で衛士を追放になったようですが、それでいいのですか?」
「よくはないが……しかし、正式な辞令が出てしまってはどうすることも出来ないし……」
「そうですか。情けないことですね」
「ぐっ……!」
なんだかこの子、オレの心をガリガリえぐってくるんだが……(涙)
言い返す言葉も見つからないオレだったが、なんとか反論したくて彼女──ティスリを睨んでみた。
「……!?」
と、そこで気づく。
自分のことを美少女というだけあって、ティスリは息を呑むほどに美しかった。
さっき裏庭で出会った時は慌てていたから、彼女の顔をよく見ていなかったのだ。
やや赤みがかった髪の毛はゆったりとウェーブが掛かっていて、背中の中程まであるロング。二本の編み込みを後ろで束ねたハーフアップだ。
目は大きな二重のレッドアイで強い意志を感じられる。肌も雪のように白く、スタイルなんて出るところは出ているのに華奢な感じで、手に触れるだけで壊れてしまいそうだった。
こりゃ……どう考えても平民ではないだろう。平民なら、日々の労働で、女性と言えどももっと逞しくなっているはずだし。
貴族だとしたら、別に慌てて裏庭を出てくる必要なかったか──と思いながらもオレは襟を正した。
「も、申し訳ありませんティスリ様。まさか貴族の方だとは露知らず……」
「何を言っているのかしら? わたしはただの平民ですよ」
「いやそんな……身なりだっていいですし……」
「身なりのいい平民もいるでしょう?」
「それはえーと……政商の方とかなら……」
「そう──実はわたし、政商の娘なんです」
なるほど……だから王城付近にいたってわけか。
とはいえ政商ともなれば、身分が高いことに違いない。平民出で田舎出身のオレなんかが失礼をしたら、あっさり首を飛ばされるほどには。
そんなことを考えて寒気を覚えているとティスリが言った。
「それでアルデ。あなたは理不尽に追放されて、これからどうされるのですか?」
「ど、どうと言われても……」
なんだかこの子、やたらと追放について言ってくるな……今はそれに触れて欲しくないのに……
そもそも突然のことで、これからどうしたらいいのかオレだってまるで考えられないのだ。
そんな心境だったからか、オレはつい本音を言ってしまう。
「仕方がないので……とりあえず今日は呑んだくれようかと……」
「なるほど。現実逃避というわけですか」
「うぐっ……!!」
この子は、何かオレに恨みでもあるのだろうか? 初対面のはずだが……(涙)
オレが呻いていると、ティスリが言ってきた。
「ではご一緒しましょう。酒場とやらに連れて行ってください」
「は、はぁ……!?」
何を好き好んで、身分が上の人間と一緒にいなくてはならないのか。下手をすれば(物理的に)クビが飛ぶというのに。
「ちょ、ちょっと待ってくださいティスリ様。下町の酒場なんて、あなたのようなお方が──」
「アルデ。わたしは平民だと言ったはずです」
「し、しかし……」
「ですから、もっと砕けた感じに接してください」
「は、はぁ……?」
「あなたがそうやってかしこまっていると、むしろ目立ってしまうのですよ?」
「確かに……そう言われてみればそうかもですが……」
「ですから敬称も敬語も無しで。ああ、わたしの口調は癖ですからお気になさらず。あなたに敬意を払っているわけでもありませんので」
「そ、そぉですか……」
思わず口元が引きつりそうになるが、ここは我慢がまん……
オレが苛立ちを抑え込んでいると、ティスリはなおも言ってきた。
「さぁ酒場に連れて行ってください。案内料として、わたしがご馳走しますから」
こうして、オレは政商の娘に根負けするのだった。
これくらい強引でないと、政商なんてやっていられないのかもな……
1
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる