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第1章
第2話 あなた、本当にそれでいいのかしら?
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「え? 今なんとおっしゃいましたか?」
「聞こえなかったのか? お前は追放だと言ったんだよ」
「はぁ……!?」
王城裏門に呼びつけられたと思ったら、アルデは、先輩の衛兵数人に取り囲まれていた。
そうして彼らが開口一番に放った言葉が追放である。
常日頃、彼らには何かと嫌がらせを受けてはいたが、努力に努力を重ねて、やっとの思いで就けた王城勤務。先輩たちの身勝手で、追放なんてされるわけにはいかなかった。
オレのクニには、病気がちな両親と、腹を空かせた妹と、愛くるしいわんこがいる。ここで職を失ったら、家族に仕送りをすることができなくなるのだ。
「な、なぜです!? オレは追放になるような失敗をした覚えはありませんよ!?」
そもそも彼らに、オレを追放するような権限はないはずだ。だからオレは食い下がるも、しかし先輩の一人がニヤニヤしながら書面を広げた。
「そ、それは……!」
正式な辞令の書面だった。
しかもそこに『アルデ・ラーマを追放に処す』と書かれている。
つまりオレの追放は決定済みだった。
「ど、どうしてですか! いったい何を理由に追放だというのです!?」
先輩は、引き続きのニヤケ顔で言ってくる。
「どうしても何も、この神聖な王城に、平民無勢であるお前が立ち入っていること自体、間違いだったんだよ」
この先輩達は、全員が地方貴族の出である。だから、平民出身のオレと同じ仕事をするのが我慢ならなかったのだろう。これまでにも再三に渡り嫌がらせを受けていた理由も同じだ。
しかし──稀代の天才と謳われている王女殿下の発案により、衛士という仕事は、実力があるなら身分を問わず召し上げられることになったはずだ。だからこそオレは死ヌ気でがんばって勉強と訓練に励み、衛士試験に合格したのだ。
だからオレは抵抗を試みる。
「オレがこの場にいることが間違いだというのは、王女殿下が間違っていると言っているのも同義ですよ!?」
「はぁ? 何をほざいてやがる」
「優秀な平民を召し上げるのは王女殿下の意向であるはずだ! それを間違いなどと言うのなら不敬罪にも値する!」
「くくく……バカかお前は」
オレのその主張に、しかし先輩達は臆することなく言ってくる。
「だれも王女殿下の批判なんてしていないだろう? お前がこの場にいること自体が間違いだと言っているんだよ、なぜなら無能だからだ」
「今さっき、平民無勢といいましたよね!?」
「はて? そんなこと言ったっけ?」
先輩の一人がわざとらしく肩をすくめると、周囲の面子に視線を送る。
「言ってねぇよなぁ?」
「ああ、オレも聞いてないぞ」
「きっとあの馬鹿が勘違いしてんだろ」
「っていうか、王女殿下批判をしているのはアイツだよなぁ?」
「そうだな。殿下の施策を間違いだと今言っていたな」
……くっ! 話にならない!
どうせここで押し問答していても、もはや意味はないだろう。そもそも、正式な通知書が発行された時点で、オレの負けは確定なのだ。
一体どうやって書類を発行したのかは知らないが……きっと、ないことばかりをでっち上げて上官の了承を得たのだろう。
そんな先輩達は、終始ニヤつきながら言ってくる。
「さぁてアルデよ、どうする? お前はもう衛士でも何でもないわけだから、まだこの場にとどまろうとするなら逮捕せざるをえないぞ?」
「…………!」
もしもこの場に、超優秀だと言われている王女殿下が居合わせてくれたなら話はまったく変わるだろうが、そんなはずがあるわけない。先輩達も含めたオレたち下っ端は、王女殿下のお姿すら目にしたことがないのだから。
特にこの国の王女殿下は、人前に姿を現さないことで有名だ。まぁ確かに、わずか16歳で国政を取り仕切るほどだから、身バレしたら暗殺やら何やらで大変に物騒なのだろう。
いずれにしても、だ。
王女が助けてくれるなんて、そんなありもしない妄想に取り付かれるほどにオレは切羽詰まっていた。
しかし反撃の糸口は見つけられない。拳を握りしめるしかなかった。
「わ……分かりました……」
ここで引き下がらないのなら、この先輩達なら本当にオレを逮捕するだろう。
職を失った上に冤罪にまでなったら、もはや仕送りの心配をするどころではない。
「今まで……お世話になりました……!」
そういって、オレは奴らに背を向ける。
背後から、ゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。
オレは悔しさに身を震わせながらも、王城裏門を後にする。
「あなた、本当にそれでいいのですか?」
すると唐突に、横から声が聞こえてきた。
王城裏門付近は広大な裏庭になっているのだが……
声の主は、裏庭に生える木々の陰に隠れていた。
「聞こえなかったのか? お前は追放だと言ったんだよ」
「はぁ……!?」
王城裏門に呼びつけられたと思ったら、アルデは、先輩の衛兵数人に取り囲まれていた。
そうして彼らが開口一番に放った言葉が追放である。
常日頃、彼らには何かと嫌がらせを受けてはいたが、努力に努力を重ねて、やっとの思いで就けた王城勤務。先輩たちの身勝手で、追放なんてされるわけにはいかなかった。
オレのクニには、病気がちな両親と、腹を空かせた妹と、愛くるしいわんこがいる。ここで職を失ったら、家族に仕送りをすることができなくなるのだ。
「な、なぜです!? オレは追放になるような失敗をした覚えはありませんよ!?」
そもそも彼らに、オレを追放するような権限はないはずだ。だからオレは食い下がるも、しかし先輩の一人がニヤニヤしながら書面を広げた。
「そ、それは……!」
正式な辞令の書面だった。
しかもそこに『アルデ・ラーマを追放に処す』と書かれている。
つまりオレの追放は決定済みだった。
「ど、どうしてですか! いったい何を理由に追放だというのです!?」
先輩は、引き続きのニヤケ顔で言ってくる。
「どうしても何も、この神聖な王城に、平民無勢であるお前が立ち入っていること自体、間違いだったんだよ」
この先輩達は、全員が地方貴族の出である。だから、平民出身のオレと同じ仕事をするのが我慢ならなかったのだろう。これまでにも再三に渡り嫌がらせを受けていた理由も同じだ。
しかし──稀代の天才と謳われている王女殿下の発案により、衛士という仕事は、実力があるなら身分を問わず召し上げられることになったはずだ。だからこそオレは死ヌ気でがんばって勉強と訓練に励み、衛士試験に合格したのだ。
だからオレは抵抗を試みる。
「オレがこの場にいることが間違いだというのは、王女殿下が間違っていると言っているのも同義ですよ!?」
「はぁ? 何をほざいてやがる」
「優秀な平民を召し上げるのは王女殿下の意向であるはずだ! それを間違いなどと言うのなら不敬罪にも値する!」
「くくく……バカかお前は」
オレのその主張に、しかし先輩達は臆することなく言ってくる。
「だれも王女殿下の批判なんてしていないだろう? お前がこの場にいること自体が間違いだと言っているんだよ、なぜなら無能だからだ」
「今さっき、平民無勢といいましたよね!?」
「はて? そんなこと言ったっけ?」
先輩の一人がわざとらしく肩をすくめると、周囲の面子に視線を送る。
「言ってねぇよなぁ?」
「ああ、オレも聞いてないぞ」
「きっとあの馬鹿が勘違いしてんだろ」
「っていうか、王女殿下批判をしているのはアイツだよなぁ?」
「そうだな。殿下の施策を間違いだと今言っていたな」
……くっ! 話にならない!
どうせここで押し問答していても、もはや意味はないだろう。そもそも、正式な通知書が発行された時点で、オレの負けは確定なのだ。
一体どうやって書類を発行したのかは知らないが……きっと、ないことばかりをでっち上げて上官の了承を得たのだろう。
そんな先輩達は、終始ニヤつきながら言ってくる。
「さぁてアルデよ、どうする? お前はもう衛士でも何でもないわけだから、まだこの場にとどまろうとするなら逮捕せざるをえないぞ?」
「…………!」
もしもこの場に、超優秀だと言われている王女殿下が居合わせてくれたなら話はまったく変わるだろうが、そんなはずがあるわけない。先輩達も含めたオレたち下っ端は、王女殿下のお姿すら目にしたことがないのだから。
特にこの国の王女殿下は、人前に姿を現さないことで有名だ。まぁ確かに、わずか16歳で国政を取り仕切るほどだから、身バレしたら暗殺やら何やらで大変に物騒なのだろう。
いずれにしても、だ。
王女が助けてくれるなんて、そんなありもしない妄想に取り付かれるほどにオレは切羽詰まっていた。
しかし反撃の糸口は見つけられない。拳を握りしめるしかなかった。
「わ……分かりました……」
ここで引き下がらないのなら、この先輩達なら本当にオレを逮捕するだろう。
職を失った上に冤罪にまでなったら、もはや仕送りの心配をするどころではない。
「今まで……お世話になりました……!」
そういって、オレは奴らに背を向ける。
背後から、ゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。
オレは悔しさに身を震わせながらも、王城裏門を後にする。
「あなた、本当にそれでいいのですか?」
すると唐突に、横から声が聞こえてきた。
王城裏門付近は広大な裏庭になっているのだが……
声の主は、裏庭に生える木々の陰に隠れていた。
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