上 下
2 / 192
第1章

第2話 あなた、本当にそれでいいのかしら?

しおりを挟む
「え? 今なんとおっしゃいましたか?」

「聞こえなかったのか? お前は追放クビだと言ったんだよ」

「はぁ……!?」

 王城裏門に呼びつけられたと思ったら、アルデオレは、先輩の衛兵数人に取り囲まれていた。

 そうして彼らが開口一番に放った言葉が追放クビである。

 常日頃、彼らには何かと嫌がらせを受けてはいたが、努力に努力を重ねて、やっとの思いで就けた王城勤務。先輩たちの身勝手で、追放なんてされるわけにはいかなかった。

 オレのクニには、病気がちな両親と、腹を空かせた妹と、愛くるしいわんこがいる。ここで職を失ったら、家族に仕送りをすることができなくなるのだ。

「な、なぜです!? オレは追放になるような失敗をした覚えはありませんよ!?」

 そもそも彼らに、オレを追放するような権限はないはずだ。だからオレは食い下がるも、しかし先輩の一人がニヤニヤしながら書面を広げた。

「そ、それは……!」

 正式な辞令の書面だった。

 しかもそこに『アルデ・ラーマを追放に処す』と書かれている。

 つまりオレの追放は決定済みだった。

「ど、どうしてですか! いったい何を理由に追放だというのです!?」

 先輩は、引き続きのニヤケ顔で言ってくる。

「どうしても何も、この神聖な王城に、平民無勢であるお前が立ち入っていること自体、間違いだったんだよ」

 この先輩達は、全員が地方貴族の出である。だから、平民出身のオレと同じ仕事をするのが我慢ならなかったのだろう。これまでにも再三に渡り嫌がらせを受けていた理由も同じだ。

 しかし──稀代の天才と謳われている王女殿下の発案により、衛士という仕事は、実力があるなら身分を問わず召し上げられることになったはずだ。だからこそオレは死ヌ気でがんばって勉強と訓練に励み、衛士試験に合格したのだ。

 だからオレは抵抗を試みる。

「オレがこの場にいることが間違いだというのは、王女殿下が間違っていると言っているのも同義ですよ!?」

「はぁ? 何をほざいてやがる」

「優秀な平民を召し上げるのは王女殿下の意向であるはずだ! それを間違いなどと言うのなら不敬罪にも値する!」

「くくく……バカかお前は」

 オレのその主張に、しかし先輩達は臆することなく言ってくる。

「だれも王女殿下の批判なんてしていないだろう? お前がこの場にいること自体が間違いだと言っているんだよ、なぜなら無能だからだ」

「今さっき、平民無勢といいましたよね!?」

「はて? そんなこと言ったっけ?」

 先輩の一人がわざとらしく肩をすくめると、周囲の面子に視線を送る。

「言ってねぇよなぁ?」

「ああ、オレも聞いてないぞ」

「きっとあの馬鹿が勘違いしてんだろ」

「っていうか、王女殿下批判をしているのはアイツだよなぁ?」

「そうだな。殿下の施策を間違いだと今言っていたな」

 ……くっ! 話にならない!

 どうせここで押し問答していても、もはや意味はないだろう。そもそも、正式な通知書が発行された時点で、オレの負けは確定なのだ。

 一体どうやって書類を発行したのかは知らないが……きっと、ないことばかりをでっち上げて上官の了承を得たのだろう。

 そんな先輩達は、終始ニヤつきながら言ってくる。

「さぁてアルデよ、どうする? お前はもう衛士でも何でもないわけだから、まだこの場にとどまろうとするなら逮捕せざるをえないぞ?」

「…………!」

 もしもこの場に、超優秀だと言われている王女殿下が居合わせてくれたなら話はまったく変わるだろうが、そんなはずがあるわけない。先輩達も含めたオレたち下っ端は、王女殿下のお姿すら目にしたことがないのだから。

 特にこの国の王女殿下は、人前に姿を現さないことで有名だ。まぁ確かに、わずか16歳で国政を取り仕切るほどだから、身バレしたら暗殺やら何やらで大変に物騒なのだろう。

 いずれにしても、だ。

 王女が助けてくれるなんて、そんなありもしない妄想に取り付かれるほどにオレは切羽詰まっていた。

 しかし反撃の糸口は見つけられない。拳を握りしめるしかなかった。

「わ……分かりました……」

 ここで引き下がらないのなら、この先輩達なら本当にオレを逮捕するだろう。

 職を失った上に冤罪にまでなったら、もはや仕送りの心配をするどころではない。

「今まで……お世話になりました……!」

 そういって、オレは奴らに背を向ける。

 背後から、ゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。

 オレは悔しさに身を震わせながらも、王城裏門を後にする。

「あなた、本当にそれでいいのですか?」

 すると唐突に、横から声が聞こえてきた。

 王城裏門付近は広大な裏庭になっているのだが……

 声の主は、裏庭に生える木々の陰に隠れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...