2 / 245
第1章
第2話 あなた、本当にそれでいいのかしら?
しおりを挟む
「え? 今なんとおっしゃいましたか?」
「聞こえなかったのか? お前は追放だと言ったんだよ」
「はぁ……!?」
王城裏門に呼びつけられたと思ったら、アルデは、先輩の衛兵数人に取り囲まれていた。
そうして彼らが開口一番に放った言葉が追放である。
常日頃、彼らには何かと嫌がらせを受けてはいたが、努力に努力を重ねて、やっとの思いで就けた王城勤務。先輩たちの身勝手で、追放なんてされるわけにはいかなかった。
オレのクニには、病気がちな両親と、腹を空かせた妹と、愛くるしいわんこがいる。ここで職を失ったら、家族に仕送りをすることができなくなるのだ。
「な、なぜです!? オレは追放になるような失敗をした覚えはありませんよ!?」
そもそも彼らに、オレを追放するような権限はないはずだ。だからオレは食い下がるも、しかし先輩の一人がニヤニヤしながら書面を広げた。
「そ、それは……!」
正式な辞令の書面だった。
しかもそこに『アルデ・ラーマを追放に処す』と書かれている。
つまりオレの追放は決定済みだった。
「ど、どうしてですか! いったい何を理由に追放だというのです!?」
先輩は、引き続きのニヤケ顔で言ってくる。
「どうしても何も、この神聖な王城に、平民無勢であるお前が立ち入っていること自体、間違いだったんだよ」
この先輩達は、全員が地方貴族の出である。だから、平民出身のオレと同じ仕事をするのが我慢ならなかったのだろう。これまでにも再三に渡り嫌がらせを受けていた理由も同じだ。
しかし──稀代の天才と謳われている王女殿下の発案により、衛士という仕事は、実力があるなら身分を問わず召し上げられることになったはずだ。だからこそオレは死ヌ気でがんばって勉強と訓練に励み、衛士試験に合格したのだ。
だからオレは抵抗を試みる。
「オレがこの場にいることが間違いだというのは、王女殿下が間違っていると言っているのも同義ですよ!?」
「はぁ? 何をほざいてやがる」
「優秀な平民を召し上げるのは王女殿下の意向であるはずだ! それを間違いなどと言うのなら不敬罪にも値する!」
「くくく……バカかお前は」
オレのその主張に、しかし先輩達は臆することなく言ってくる。
「だれも王女殿下の批判なんてしていないだろう? お前がこの場にいること自体が間違いだと言っているんだよ、なぜなら無能だからだ」
「今さっき、平民無勢といいましたよね!?」
「はて? そんなこと言ったっけ?」
先輩の一人がわざとらしく肩をすくめると、周囲の面子に視線を送る。
「言ってねぇよなぁ?」
「ああ、オレも聞いてないぞ」
「きっとあの馬鹿が勘違いしてんだろ」
「っていうか、王女殿下批判をしているのはアイツだよなぁ?」
「そうだな。殿下の施策を間違いだと今言っていたな」
……くっ! 話にならない!
どうせここで押し問答していても、もはや意味はないだろう。そもそも、正式な通知書が発行された時点で、オレの負けは確定なのだ。
一体どうやって書類を発行したのかは知らないが……きっと、ないことばかりをでっち上げて上官の了承を得たのだろう。
そんな先輩達は、終始ニヤつきながら言ってくる。
「さぁてアルデよ、どうする? お前はもう衛士でも何でもないわけだから、まだこの場にとどまろうとするなら逮捕せざるをえないぞ?」
「…………!」
もしもこの場に、超優秀だと言われている王女殿下が居合わせてくれたなら話はまったく変わるだろうが、そんなはずがあるわけない。先輩達も含めたオレたち下っ端は、王女殿下のお姿すら目にしたことがないのだから。
特にこの国の王女殿下は、人前に姿を現さないことで有名だ。まぁ確かに、わずか16歳で国政を取り仕切るほどだから、身バレしたら暗殺やら何やらで大変に物騒なのだろう。
いずれにしても、だ。
王女が助けてくれるなんて、そんなありもしない妄想に取り付かれるほどにオレは切羽詰まっていた。
しかし反撃の糸口は見つけられない。拳を握りしめるしかなかった。
「わ……分かりました……」
ここで引き下がらないのなら、この先輩達なら本当にオレを逮捕するだろう。
職を失った上に冤罪にまでなったら、もはや仕送りの心配をするどころではない。
「今まで……お世話になりました……!」
そういって、オレは奴らに背を向ける。
背後から、ゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。
オレは悔しさに身を震わせながらも、王城裏門を後にする。
「あなた、本当にそれでいいのですか?」
すると唐突に、横から声が聞こえてきた。
王城裏門付近は広大な裏庭になっているのだが……
声の主は、裏庭に生える木々の陰に隠れていた。
「聞こえなかったのか? お前は追放だと言ったんだよ」
「はぁ……!?」
王城裏門に呼びつけられたと思ったら、アルデは、先輩の衛兵数人に取り囲まれていた。
そうして彼らが開口一番に放った言葉が追放である。
常日頃、彼らには何かと嫌がらせを受けてはいたが、努力に努力を重ねて、やっとの思いで就けた王城勤務。先輩たちの身勝手で、追放なんてされるわけにはいかなかった。
オレのクニには、病気がちな両親と、腹を空かせた妹と、愛くるしいわんこがいる。ここで職を失ったら、家族に仕送りをすることができなくなるのだ。
「な、なぜです!? オレは追放になるような失敗をした覚えはありませんよ!?」
そもそも彼らに、オレを追放するような権限はないはずだ。だからオレは食い下がるも、しかし先輩の一人がニヤニヤしながら書面を広げた。
「そ、それは……!」
正式な辞令の書面だった。
しかもそこに『アルデ・ラーマを追放に処す』と書かれている。
つまりオレの追放は決定済みだった。
「ど、どうしてですか! いったい何を理由に追放だというのです!?」
先輩は、引き続きのニヤケ顔で言ってくる。
「どうしても何も、この神聖な王城に、平民無勢であるお前が立ち入っていること自体、間違いだったんだよ」
この先輩達は、全員が地方貴族の出である。だから、平民出身のオレと同じ仕事をするのが我慢ならなかったのだろう。これまでにも再三に渡り嫌がらせを受けていた理由も同じだ。
しかし──稀代の天才と謳われている王女殿下の発案により、衛士という仕事は、実力があるなら身分を問わず召し上げられることになったはずだ。だからこそオレは死ヌ気でがんばって勉強と訓練に励み、衛士試験に合格したのだ。
だからオレは抵抗を試みる。
「オレがこの場にいることが間違いだというのは、王女殿下が間違っていると言っているのも同義ですよ!?」
「はぁ? 何をほざいてやがる」
「優秀な平民を召し上げるのは王女殿下の意向であるはずだ! それを間違いなどと言うのなら不敬罪にも値する!」
「くくく……バカかお前は」
オレのその主張に、しかし先輩達は臆することなく言ってくる。
「だれも王女殿下の批判なんてしていないだろう? お前がこの場にいること自体が間違いだと言っているんだよ、なぜなら無能だからだ」
「今さっき、平民無勢といいましたよね!?」
「はて? そんなこと言ったっけ?」
先輩の一人がわざとらしく肩をすくめると、周囲の面子に視線を送る。
「言ってねぇよなぁ?」
「ああ、オレも聞いてないぞ」
「きっとあの馬鹿が勘違いしてんだろ」
「っていうか、王女殿下批判をしているのはアイツだよなぁ?」
「そうだな。殿下の施策を間違いだと今言っていたな」
……くっ! 話にならない!
どうせここで押し問答していても、もはや意味はないだろう。そもそも、正式な通知書が発行された時点で、オレの負けは確定なのだ。
一体どうやって書類を発行したのかは知らないが……きっと、ないことばかりをでっち上げて上官の了承を得たのだろう。
そんな先輩達は、終始ニヤつきながら言ってくる。
「さぁてアルデよ、どうする? お前はもう衛士でも何でもないわけだから、まだこの場にとどまろうとするなら逮捕せざるをえないぞ?」
「…………!」
もしもこの場に、超優秀だと言われている王女殿下が居合わせてくれたなら話はまったく変わるだろうが、そんなはずがあるわけない。先輩達も含めたオレたち下っ端は、王女殿下のお姿すら目にしたことがないのだから。
特にこの国の王女殿下は、人前に姿を現さないことで有名だ。まぁ確かに、わずか16歳で国政を取り仕切るほどだから、身バレしたら暗殺やら何やらで大変に物騒なのだろう。
いずれにしても、だ。
王女が助けてくれるなんて、そんなありもしない妄想に取り付かれるほどにオレは切羽詰まっていた。
しかし反撃の糸口は見つけられない。拳を握りしめるしかなかった。
「わ……分かりました……」
ここで引き下がらないのなら、この先輩達なら本当にオレを逮捕するだろう。
職を失った上に冤罪にまでなったら、もはや仕送りの心配をするどころではない。
「今まで……お世話になりました……!」
そういって、オレは奴らに背を向ける。
背後から、ゲラゲラと笑う声が聞こえてきた。
オレは悔しさに身を震わせながらも、王城裏門を後にする。
「あなた、本当にそれでいいのですか?」
すると唐突に、横から声が聞こえてきた。
王城裏門付近は広大な裏庭になっているのだが……
声の主は、裏庭に生える木々の陰に隠れていた。
2
お気に入りに追加
365
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる