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ー自叙伝ー 私の心の不安虫「恋愛編」

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 高校生まで、自分は女らしい自分が嫌いだった。髪は常にショートカットで、スカートは制服以外ほとんど着ない。あるときの一人称は「僕」だった。
そんな私を好いてくれる女子がいて、私はまんざらでもなかった。自分より背の低い可愛い女の子を「守らなきゃ」と思っていた。彼女は、私の腕によくしがみついてきた。
親友には「あなたが彼氏だったらいいのに」そんなことをいわれたりした。自分は男の子っぽい自分が好きだったけど、実際は男の子に対してどう接したらいいのか分からないただの臆病者だった。
進学先に女子大を選んだのは、エスカレーター式の高校に通っていたこともあるけれど、男性がいない女子大の方が安心して通えると思ったから。大学推薦の面接時、そのことを試験監督の先生に話したら、笑われた。そんな私だが、大学に入ってバレー部のコーチに恋をした。


「理想の彼氏」

 大学の入学式。学校までの道のりは、サークルのチラシを配っている男子女子学生でひしめいていた。高校までの雰囲気と全く違って、一気に大人の世界に入っていくような変な感覚に襲われた。
一通りチラシをもらい、テニスサークルのコンパに参加してみたけれど、どれもピンと来るものはなかった。テニス部だった私は、大学のテニス部を見学しにいくことになるのだが、大学のテニス部のわりに高校より練習がハード。「私には無理だ」そう思って体育館を覗くと、バレーボールの練習が目にとまった。
元々、球技なら何でも好きで得意だったから。それと、そこにいたコーチらしき男性に目がとまったから。「バレーボール同好会」練習内容が緩くて、でも、真面目に練習していて、私はすぐその同好会に入部の申し込みをした。
思った通り楽しかった。バレーボール自体楽しかったが、そのコーチに会えるのがまた楽しみだった。男性とうまく話せない私は、いつも遠巻きに見ているだけだったけど、彼と話す機会がある度、私の心は弾んだ。彼は一流大学の院生で、うちの女子大にコーチとして来てくれていた。可愛い感じの男性だった。就職予定の会社も一流企業だ。
お見合いで結婚した私の父と経歴がそっくりだった。まさに、理想的な男性だった。
大学に入るまで、男性との接点なんてほとんどなかった私。ショートだった髪も彼の影響があったからなんだろうか。私は、髪を伸ばしお化粧して、段々と少女から女性に変わっていった。彼は、もう院生の二年生で来春にはコーチをやめてしまうはずだ。
意を決して、人生で初めてのラブレターを書いた。十二月の最後の練習日に、駅のホームでラブレターを渡した。後日来た返事は「付き合おう」。その場で、応援してくれていた友達に報告し皆喜んでくれた。初めての彼氏だった。
それからデートを何回か重ねた。彼は一人暮らしだったから家にも遊びに行った。二十四歳の彼が十九歳の私と付き合うことに、彼の友達からは「犯罪じゃん」なんてからかわれたりもしたけど、それもなんだか嬉しかった。何もかもが初めてだった。キスをしたのも生まれて初めてだった。肌を重ねたのも初めてだった。けれど、最後まではできなかった。

 一流大学の一流企業に内定が決まっている容姿も申し分ない彼。何にも分からない私は「この人と結婚したら自分も幸せで親も大喜びだ」。母は二十四歳で結婚したから、自分も二十四歳で結婚するとして、あと五年。どうやって付き合っていったらいいのだろう。私には、彼が彼氏を通り越して結婚相手に映っていた。
うれしい気持ちの反面、私は不安定になった。一体どうしたらいいの?訳もなく彼の前で泣いたりした。結婚しなきゃ、いずれ別れが来る。経験したことのない「別れ」に怯え、私はいつも不安だった。三ヶ月もすると彼の態度が変わっていったように思う。練習日の帰り、電車の中で喧嘩になった。十年以上前の記憶なので何を話したのか詳細は覚えていない。
覚えているのは、
「おまえ、重いんだよ」
彼は立ち去り、私は駅のホームで号泣した。以後ずっと、この言葉は私を苦しめた。


 「初めての人」
 
 春になり新しい出会いもあったけどうまくいかなかった。大学二年の九月。バイトを始めた。コンビニのアルバイト。とても緊張したけれど、バイト仲間はほとんど大学生で男女ともに仲が良かった。仕事の楽しみと同時に、バイト仲間に会えるのが楽しみだった。
その頃の私は合コン三昧で、毎月のように合コンに参加していた。一年前に比べると、私はだいぶ男の人に慣れた。別れた彼は、相変わらずバレーのコーチをしていた。練習中彼と顔を合わせる時間は苦痛だった。唯一の楽しみは、土曜日の夜の練習帰りにコンビニに立ち寄ると優しく笑ってるk君だった。彼もまた、ちょっとくせ毛の可愛い感じの男の子だった。
バイトをはじめて二ヶ月後、けがをした私をkは優しく気遣ってくれた。私たちはお互いの思いを伝え付き合うことになった。kは私の一つ年上だったが、あまり恋愛経験が豊富ではなかった。茶髪で垢抜けて見えたけど、それは大学デビューであって、同じ大学デビューした自分とは似たもの同士だった。
三ヶ月後、私たちはまだ一つに繋がっていなかった。それより以前に私の「不安虫」が心の中に寄生し始めたからだ。理由もなく不安になって私は泣いた。得体の知れない感情が常に私を襲ってきた。kは根気よく私の話を聞いてくれた。手紙をくれた。内容は忘れてしまったけど、その手紙は何年も持ち続けた。
「不安虫」と戦いながら、私たちは付き合い続けた。そして更に一ヶ月後、私達はやっと繋がることができた。

私は生まれたとき、仮死状態で産まれてきてすぐ肺炎にかかり一ヶ月半保育器の中で育った。そこで昼夜逆転してしまったのだろうか。生死を彷徨ったからだろうか。全く寝ない、寝付きの悪い子供で、両親をヘトヘトにさせた。寝付きの悪さは大人になった今も変わらない。

kとのセックスは正直気持ちいいものではなかった。よく分からなかった。kも私も初めて同士だったから。けれど、最中はそれほど気持ちの良いものではないのに、終わった後、不思議と安心して彼の前では眠りにつくことができた。
ただ、kは二十代前半の言い方は悪いが、盛りのついた動物だった。私が乗り気じゃないときでもkは求めてきた。知識も実体験もほとんどなく、漫画やAVの見過ぎもあったのだろう。悲しくなる行為も多々あった。性交中、よく泣くようになった。「どうして泣くの?」と聞かれたけど、私には答えられなかった。
抱きしめられて彼が絶頂へ向かう中、私の目からは涙が流れ続けた。kとの付き合いは四年続いた。
今はもうないが、昔、自宅近所の海沿いにマクドナルドがあった。子供の頃からあってそこは慣れ親しんだ場所だった。「話があるから」kはそう言ってそこに私を呼び出した。
「好きな人ができた」
四年たって倦怠期に入っていたけど、その言葉は私を傷つけた。私だってk以外にいいな、と思った人が居ないわけじゃない。けど、いつだって別れ話になりそうなのは、私の「不安虫」が起きたときで、kからそういう話をふられたことはなかった。「君のことも大事だけど今は距離をあけたい」そう言って私達は別れることになった。
二十四歳の十一月。付き合って四年ちょうどのことだった。


 「夢に出る人」

 kに対していつも私は真っ直ぐだった。やはり「結婚」の二文字が頭に浮かんでいた。結婚が終着駅でないことはもっと後で知ることだが、私は結婚したらこの不安は消えるものだと思っていた。結婚したらいつか来る別れなんて考えなくて済むから。kは安らぎと同時に不安との戦いだった。

社会人二年目になった私は、もうすっかり女性になっていた。正直、気に入ってくれる異性は何人かいた。会社の先輩に、「もっと色んな人とつきあってみたら?」と言われたことがある。
別れた、二十四歳の十一月。「しばらく誰とも付き合わない」そう自分に誓った。
 そこから百八十度変わって私の「自由恋愛」が始まった。交際はしないが、デートをしたりセックスはした。同僚でも上司でも知人でもナンパでも何でもありだった。今までの真面目だった自分を壊したくなった。悲しかったはずなのに、私の心は解放された。
「別れてもいいんだ。初めから永遠なんて考えなくていいんだ」
その考えは、私の心を軽くしてくれた。人の心を弄んだ。けれど、元々付き合う気なんてないから、そう公言して堂々と行為にふけることができた。快楽だけを求めてる。それだけでいいんだ。痛い目にもあったけど、それは私を傷つけたけれど、別れを考えなくていい付き合いを私はやめることができなかった。誰のものでもない自由が私の心を軽くした。

 そんな中で一際、思い出深い男がいる。十二歳年上の妻子持ちの、nだった。nは高学歴・高身長・高収入のいわゆる三高で、とてもよくモテる人だった。奥さんとはすでに早い段階で家庭が崩壊しており、何人も不倫してきたそんな男である。私には、この人の存在が好都合だった。だって、初めから「いつか終わらせる関係の人」であることが明白だったからだ。
しかもその主導権は多分に、私の方が持つことができそれを躊躇なく行える人物だからだ。「体の相性」ってあるのかな。そう思ったのものこの相手だった。甘えベタな私は、十分甘えることができた。途中関係が怪しくなったとしても、私達は元の鞘に収まった。あんなに、「何も考えず」行為に没頭できたのは彼だけだった。
そんな関係は、彼が転勤するまでの二年間続いた。合間に、ほかの男とも寝てみたりもしたが、この人のところに必ず戻ってきた。不思議なことに今でも彼の夢を見る。あんなに真剣に向き合ったkじゃなく、夢に出てくるのはnだった。これはどういうことなのだろうか。
kの夢を見たこともある。覚えているのは旦那氏と結婚してすぐ、旦那氏のアパートで週末婚していたときだ。小さな男の子がkの所へ行き、kが私に「おめでとう」とその子に伝えてきて。といったような内容の夢だったと思う。目覚めたとき、寝ている旦那氏の隣で声を抑えて泣いた。
nと別れた後、私は「真面目に彼を探そう」とその「自由恋愛」に幕を閉じた。出会いは訪れた。二歳年下の彼だった。私は彼のことがものすごく好きになってしまい、起きていては彼のことを考え、寝ていては毎晩彼の夢を見た。ついには不眠症にまでなってしまった。私の心はまた不安定なあの頃へ少しずつ近づいて行った。
これから先を大事にしようと思う人ほど私の心は不安定になり、不器用な愛し方しかできなくなっていった。私は、「人を傷つけたくない」という建前を振りかざして、本当は「自分が傷つきたくない」本音を隠している。年下の彼が結婚を考えていないと分かった時に、別れを告げた。
「君は別れの原因を自分の年齢のせいだ、と言うけれど。本当は結婚の意思のない僕を責めてるんだろ?」優しさのつもりでついた?は彼を傷付けた。

 二十八歳を迎えた私の周りは結婚ラッシュだった。適齢期で恋に破れた私は、自分には結婚なんて無理なんじゃないか。また泣き暮らす日々が始まった。それでも、もがいてもがいてお見合いしたりしたけれどうまくいかなかった。「またしばらく真剣に恋するのはやめよう。前の自由恋愛に戻って遊ぼう。」
 そう思った矢先、旦那氏に出会った。二十八歳の三月のことだった。
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