本能のままに

揚羽

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甲信の動乱

七尾城落城

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またしても、天下の名城が落城の危機にあった。

七尾城はかつて能登守護であった畠山氏によって築城された難攻不落の名城であったが畠山家臣の遊佐続光と長続連の対立、そして越後の上杉謙信の侵攻により落城した。

しかしその後上杉謙信が急死し、織田家が能登へと侵攻したことにより今度は織田家に吸収された。

そして今、上杉謙信の養子である上杉景勝が七尾城を陥落させようとしていた。

「…またしても七尾を上杉が落とすのか。」

「はい。しかし前回と違うのは城主が前田利家であることと、城の中で分裂する気配がないことです。」

「七尾を落とせるか?兼続?」

「もちろんです。もう一度七尾城を上杉の配下に置きましょう。」

「頼んだ。それと、真田はどうした?」

「真田昌幸殿がこちらに向かっていると春日山から連絡がありました。」

「…昌幸のみか。」

「…?何かご不満でもあるのですか?」

「いや、そういうわけではないのだが…」

「いかんせん、真田だから何かしてくるのではないかと思ってしまう…いや、考え過ぎか。」

七尾城内

ここには緊急時ということもあり、重臣である前田利家が籠城をしていた。

「やはり内乱の影響もあり、上杉は以前よりは弱くなっているがまだ強いな…。このままでは落城してしまうぞ…。」

 「殿!朗報でございます!柴田様が北ノ庄城に入られたようです!」

「おぉ!それは本当か!」

「…しかし例え柴田様だとしてもこの上杉に勝てるだろうか…」

前田利家はかつて柴田勝家が手取川の戦いで上杉謙信に負けていたことからまた負けてしまうのではないかと心配していた。

越前 北ノ庄城

ここでは清洲城から一目散に帰ってきた柴田勝家が出陣の準備を始めていた。

「ところで成政はどこへ行った?」

「佐々様は越中から加賀に撤退していますが…」

「はぁ…こんな時にも利家と共に戦えないのか…」

「何か策があるとおっしゃっていましたが…」

「どうせまた利家をおとしめる、ろくでもない策だろう…」

「殿!佐々成政殿から文が届きました!」

「噂をすれば、だな」

柴田勝家は佐々成政の文を受け取ると読み始めた。

そこにはこう書かれていた

『勝家様、まずは越中の防衛に失敗してしまい申し訳ありませんでした。此度の上杉は以前の手取川よりは弱くなっておりますが、その代わりに樋口兼続の知略が高いです。この後には謀略の真田昌幸も加わるようなのでおそらく利家でも七尾は耐えられないでしょう。そこで進言いたします。
上杉は能登を制圧したら越後へと戻ると思われます。上杉は信濃を獲得しましたが安定しておらず一揆も多発しております。よって加賀に陣を敷いておけばすぐに撤退するかと思われます。
どうか我が策を採用してくだされ。』

「…珍しくまともな策であったな。」

「このような非常時にふざけてはいられないでしょう。佐々殿の策を使いますか?」

「あぁ、あまり無駄な血を流すのも良くないだろう。利家に七尾の脱出を命令する。」

七尾城内

「脱出、ですが…」

「利家様。我ら足軽は利家様の考えに付いていきます。いかがなさいますか。」

「勝家様は名よりも実を取るらしい。
今夜、すぐに脱出するぞ!」

明くる日、上杉勢はもぬけの殻となった七尾城に入城した。

「まさか、七尾を捨てるとは…」

「…兼続も予想出来なかったようだな。」

「はい…このような名城を捨てるのは随分と思い切った決断が必要になるますから…」

「織田もそれほど判断力が鈍っているのであろう。このまま加賀へと攻め入るぞ…」

「殿!信濃で大規模な一揆が発生しました!」

「はぁ…またか…」

「その一揆は本隊の救援が必要なほどか?」

「はい…。現在信濃に駐留していた軍は敗走を続けています。」

「…仕方ない。信濃に戻るぞ。」

「真田殿はどうしますか?」

「春日山で合流するよう伝えておけ。」

「分かりました。」

こうして天下の名城、七尾城はほとんど攻城戦が行われずに落城した。

もうここまで来たら名城と言えないのかもしれない
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