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今日は僕達の晴れ舞台。
参列者の数は多くないものの、僕らにとって大切な人たちがきてくれており、白で包まれたこの空間の中で神父様に相対する僕達2人を祝福してくれている。

荘厳な雰囲気の中、神父が定形の誓いの言葉を述べる。

まずは僕、御門朝人みかどあさひとに問いかけてくる。

「新郎、朝人。あなたはしんを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め愛、共に助け、命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

僕は隣りにいるのは御門晴みかどしん、旧姓、福音晴ふくねしん
世界で最も大事な女性であり、これから僕自身の妻になる人だ。

彼女は神父様の深く厳かな声が問いを響ききるのを見計らい、僕の方を見つめてニッコリと柔らかく微笑む。
真っ白なウエディングドレスに包まれた彼女の表情はこの世の何より美しい。

あぁ、僕の最愛の女性はまさに女神だ。
ここに降臨してくれたことに深い感謝を!!!


あぁ......あぁ......!
ここまで本当に長かった......!
幼稚園で出会ってすぐの頃から明らかに両思いだったにも関わらず、23歳を迎えるこの年まで、2人の関係を邪魔するような様々な事件や障害など、紆余曲折があった。
それでも今日、こうして最高に幸せな日を迎えられたのだから、これまでのことも全て、この日の素晴らしさを盛り上げる材料だったと思える。
これからは、日常に立ちはだかるよしなしごとは軽くいなし、この最愛の妻だけに、僕のすべてを注ぎ込もう。


参列者席には、僕達の両親や親戚、それと特に親交の深い幼馴染が参列してくれている。
実際には、もう数名の幼馴染を招待しようとしていたのだが、当人たちに確認したところ、不参加の意を示されてしまっていた。


朝人が幸せを噛み締めながらそう決心し、神父様からの「ずっと愛し続けるか?」などという迷うべくもない問いかけに答えるべく、ゆっくりと、そしてしっかりとした声で誓う。

「はい。誓いまs......『『その結婚、ちょっと待ったぁ!!!』』」





誓いきれなかった。



朝人の誓いの言葉は、式場の後方にあるドアをバンッと勢いよく開け放った2人の闖入者によって遮られてしまう。

何事だ!?と半分パニックになる新郎新婦と参列者たち。

式場の入り口からは強い光が逆光のように輝いており、乱入者2人のシルエットしか見えない。

少しして目が慣れてきた頃、サワザワという空気と大量の視線の先には、艶のある黒の中にピンクのメッシュの髪をした女性と、白スーツに髪をバッチリ決めたスマートな雰囲気をまとう男性。

朝人と晴は一瞬驚愕の表情を見せるが、すぐに呆れを湛えたものに変化させ、この非常識極まりない2人の乱入にため息をつく。
そう、新郎新婦の2人は、乱入してきたこの2人を知っている。とても良く知っている。


*****


まずはこの乱入者たちについて説明しよう。


まず、ピンクメッシュの女性。
彼女は名前を御巫乙女みかなぎおとめという。
朝人と晴の幼馴染である。彼/彼女らの出会いは同じく小学校。
他に数名いる幼馴染たちとともに、長い時間を共有してきた親友の1人。

そして、何を隠そう朝人のストーカーのような存在だ。
幼い頃のストーキング行為は可愛いもので、見つめてきたり消しゴムなんかの私物を交換する程度だった。
しかし最近は多少エスカレートしており、朝人の身辺調査をしてきたり、いつのまにか自宅に侵入されていたりする。

ただ、性的なことや晴に対する嫌がらせなどはかつて一切なく。
ストーキング行為についても、朝人と晴に対して「家に入れてもらうわね!」と堂々と宣言するようなやつだ。
朝人と晴も、あけすけな乙女の態度と長年一緒にいた経験から無害認定しており、引き続き仲のいい幼馴染でいたいとも思っている。
そういうわけで、朝人らは「ほどほどにしてくれよ~」とだけ忠告して黙認状態を続けてきており、正確にはストーキングには当たらないかもしれない。

なんなら、朝人らは結婚式をあげるにあたって、このほんの少しだけ異常な幼馴染も招待するつもりでいた。
そう、彼女は招待に対して不参加と表明した幼馴染の1人だったのだ。




次に、白スーツの男性。
彼の名前は求道護くどうまもる
乙女同様、朝人と晴の小学校の頃からの幼馴染で親友である。

そして、何を隠そう晴のストーカーのような存在なのである。
彼のストーキング行為は今も昔も可愛いものだ。基本、背後の電柱の影から見守るか、乙女と同じく宣言したうえで家に侵入するか。
可愛いものじゃない?いやいや、親友だし一線は絶対に超えないよう注意を払っているようだし、許してやれるレベルじゃないですかね。
乙女に負けず劣らずのあけすけな性格で、自身のストーカー的行為の一部始終を朝人と晴に報告してくる。
2人はそれを容認しているので、実質ストーカーではない。間違いない。揺るぎない。

彼も、朝人らが式に招待しようとして断られた幼馴染の1人だ。



護と乙女は、お互いの想い人が朝人と晴のペアということもあり、昔から協力関係を築いているようで、定期的にデートにしか見えない作戦会議をする仲のようだ。


正直彼らが2人揃って参加を断ったとき、おそらく今回も2人して何か企むんだろうな、ということはなんとなく推察していたことで、このような自体に陥る可能性は想定の範囲内だ。
それゆえ、新郎新婦の2人はそれほど慌てることなく目の前の異常事態に向かうことができているというわけだ。



*****


話を現在に戻そう。

開け放たれた式場のドアの前に、今にもババーンッという効果音がつきそうなポーズを決めた2人の闖入者は、周りのざわつきを意に介さず2人並んで赤色のバージンロードを歩き、朝人と晴に接近してくる。

乱入してきた2人は、式の主役である2人の目の前までやってくる。
護は晴の目の前に。乙女は朝人の目の前に。

すると護ると乙女はそろって地面に片膝をついて手を伸ばし、そろって同じ言葉を口にする。



「「俺 (私)と、結婚してください!」」




シンッと静まり返る会場。
ややあって朝人の親戚の1人が我慢の限界を迎えたのだろうか、大きな声で怒鳴る。

「な、なんだこれは!なんっと非常識な!こんなことが。こんなことが許されると思っておるのか!」

この人は、朝人のことをいつも気にかけてくれているおじさんであり、それゆえに目の前で繰り広げられている暴挙が許せないのだろう。

ただ、朝人と晴にとっては想定内の事態。
朝人は怒髪天を衝くかのような親戚の男を「まぁまぁ落ち着いてください。大丈夫ですよ、全然問題なく想定の範囲内です」とにっこり笑いかけながら諌める。

大切にしている本日の主役に諌められたことで、「これ以上自分から言うことはない」と言わんばかりにどっかりと着席する。
今日参列してくれている人たち、つまり、朝人と晴の親戚と幼馴染は皆、基本的にめちゃくちゃおおらかな性格をしているのだ。

静観していた他の参列者も「主役がそういうなら」と落ち着きを取り戻していた。


そんな中、肝心の闖入者らは相変わらず片膝をつけて本日の主役を見上げながら、回答を待っている。


誤解のないようにお伝えしておくと、朝人と晴は政略結婚だとか、親の都合で仕方なくした結婚だとか、過去に浮気や裏切りがあってしこりを残した結婚だとか、そういう類の話は一切ない。
小学校で出会ってすぐのころから一瞬も変わらず愛し合っている限界ラブラブカップル、いや、今日から限界ラブラブ夫婦である。

ゆえに、ここで返される答えも必然、決まっていて。


「「うん、無理だよね」」


当然だよね。と夫婦揃って、にこやかで穏やかな表情できっぱりと放たれる回答。
だが流石に結婚式に乱入する不調法者だけあって、容易に諦めることはない。


「「そんなこと言わずに、俺 (私)とここから抜け出して結婚してくれないか!」」


現実世界でやってるとは思えない。
リアルでここまで突き抜けたバカなことができる人間がどこにいるだろう。ここにいた。

これだけありえない状況でも本日の主役の2人の表情はもう崩れない。
そのままの表情で、謎の求愛行動をとるアホ2人に、ハモりながら優しく語りかける。


「「僕 (私)達のことはもういいから、2人で結婚しな?」」




*****



乙女と護くんは、私、福音晴、改め御門晴の掛け替えのない幼馴染だ。

なにやら私達にストーカーまがいの行為を20年弱続けてきている。
ただ、先程も語られているように、乙女と護が2人でしている定期的な作戦会議はデートにしか見えない。

はぐれないため、などとのたまってはいるが、手をつないだりして歩いたりしている。
なんなら私達へのストーキング的行為を実行しやすくするためと称して、私達が住んでいるアパートの隣の部屋に、2人で住んでいる。
性行為には至っていないらしいが、健全な男女がひとつ屋根の下で暮らしていて、そんなことあるの?って思っちゃうけど、この純粋な子たちは本気でそういっているように見える。
周りから見たら両思いでラブラブのバカップルにしか見えないのだ。

にもかかわらず、2人とも互いに違う人、私達に思いを寄せていて、どうやって振り向かせようかを語り合っているなどと言っている。

この子たちは昔からめちゃくちゃバカなので、「私達に思いを寄せているということがただの執着に近い思い込み」であって、実際にはすでに両思いであることに気づいていないのだ。
その思い込みが留まるところを知らず、私達の結婚式にまでこんな乱入の仕方をするなんて、本当に救いようのないバカな子たちだ。

でも、私、今日は朝人さんに一緒になれる人生最高の日なの。
だから私は、いつもより寛大な心で、この子たちの目を覚まさせてあげようと思うの。

きっと朝人くんも、私と同じことを思ってる。
それくらいは、表情を見ればわかるわ。

だから言わせて?


「「私 (僕)達のことはもういいから、2人で結婚しな?」」




*****




い、意味がわからないわ。
なんでこの私、御巫乙女が、ただの同好の士である護くんと結婚しろなんて言われなきゃならないの!?

私は朝人くんが好きなのに!
今、私が結婚を申し込んでいるのは朝人くんなのに!
全然意味がわからない!

だけど、朝人くんも晴ちゃんもただの意地悪でそんなこと言う人じゃないのは、20年弱も一緒に過ごしてきたのだし良くわかってる......。
だとしたら、この発言にはなにか意味があるというのかしら?

朝人くんと一緒になる前に、まずはそれを確認しなきゃ!




*****



ど、どういうことだ!?
俺、求道護が結婚を申し込んだ相手は福音晴のはず......。

なのに、どうしてただの同じ嗜好を持った仲間である乙女と結婚しろなんて話がでてくる!?

だが待て、こいつらは伊達や酔狂、まして嫌がらせでこんなことを言う奴らではない。
俺はそのことをよく知っている。
だとしたら、この言葉には何か意図があるのか?

晴と結婚する前に、まずはそれを確認せねば......。



*****



乱入したときとは逆に、混乱させられる侵入者の2人。
長年同じ志のもと、ほとんど一緒の時間を過ごした2人は、ここでも必然のごとく、同じ疑問をはく。


「「なんでこいつと結婚しなきゃいけないんだ (のよ)!!!」」


このバカな質問を受けて、朝人と晴は顔を見合わせて同時にクスッと笑い合うと、会場の参列者に向けて同じ言葉を放つ。


「「皆様、我々の親友たちがお騒がせしてしまい、大変申し訳ございません。
ただこの2人には気づいてもらわないといけない大切なことがあるのです。
もしお許しいただけるのであれば、ほんの少し、この2人を説得するお時間をいただけませんでしょうか」」


異常事態であるにもかかわらず、2人はこの長文を、事前の打ち合わせもなしに完全にハモってみせる。

その卓越したシンクロニシティに、参列者たちはほほえましい気持ちになる。
そして所々から「いいよ!やってあげな!」といった声が聞こえてくる。
席についている全員、優しい笑みを湛えており、誰も席を立とうとはしていなかった。

その様子を確認すると、朝人が護に、晴が乙女に近づいて、腰を落として目線を合わせる。
そして、今日一番真面目な表情で、このバカな乱入者2人がこれまでに2人でしてきたことがいかにラブラブカップルにしか見えないか、例え話なども交えて10分ほど懇切丁寧に説明するのだった。




説明が終わる頃には、乙女と護は、たこ焼きの中のゆでダコもかくやと言うほどに顔を赤くしており、今にも湯気が立たんばかりになっている。
その反応を見るに、自分たちの気持ちやそれまでの行動の異常性を理解したようだ。


「ぷしゅ~っ」という効果音が聞こえそうな2人は、壊れたブリキのロボットのようなギギギギとぎこちない動きで首を動かし、お互いを見つめ合う。
目止めが会った瞬間、ボンッと爆発する。頭から湯気が出てる。ついにでてしまったか。


明らかに狙い通りの自覚を促せたことがわかる様子に、朝人と晴が「「うんうん、やっとだね!ほら、プロポーズして結婚しちゃいな!」」と満足そうに後押しする。
その他の会場の人たちも、20歳も越えて意味不明なバカをやっている元乱入者2人を (生)温かい目で見守りつつ、すぐに発せられるであろうプロポーズの言葉を待つのだった。


お互いの、なにより自分の真の気持ちを自覚した護と乙女は揃って立ち上がり、お互いにゆっくりと一歩一歩近づき、そして............ゆっくりと、少し震えた声でプロポーズの言葉を発する。


「「今まで自分の気持ちに気づいてなかった。
でも今、漸く本当の気持ちがわかった。
俺 (私)と結婚してくだs......『『その婚約、ちょっと待ったぁ!!!』』」」



少し前に聞いたものととんど同じセリフとともに勢いよく開かれたドアの前に立つ男女のペアが目に入った瞬間、会場の全員が一様に頭を抱えた。




*****




自分は、宗理武そうおさむ
今、僕の目の前には小学校の頃からの幼馴染であり親友でもある御門朝人と福音晴の結婚が執り行われている結婚式場、そのドアがある。
壁に耳をあてて、中で起きていることに耳を澄ます。

先程、自分が追いかけてきていた乙女と、そこに一緒に居やがった護がこのドアをぶち開けて乱入していった。
今は、自分の隣りにいるやつと一緒に、中の様子をチェックしている最中だ。

そう、自分は小学生の頃から乙女を影 (?)から見守るジェントルマンだ。
決してストーカーなどではない。いつも見守ることや乙女と護が住んでいる部屋に入ることにも合意をもらって遂行している。
なにもやましいところはない。

彼女らが中にはいったあと、少し聞こえにくいがいくつか言葉がかわされている。


「「俺 (私)と、結婚してください!」」


聞きたくなかった言葉が聞こえてくる。
自分はとっくの昔から知っていた。乙女が朝人のことを好きだと思っていること。だけどその実、すでに護に心を惹かれており、自覚するのを待つだけであること。
それでも、自分の好きな人が他の人間に結婚を申し込む様子を見て平気でいることはできない。


「「2人で結婚しな?」」


朝人と晴の言葉も聞こえる。
あいつら、言いやがった!
そんなこと言ったら、乙女が本心に気づいちまうじゃねぇか!

余計なことは言わないでくれ!
朝人に振られた状態なら、乙女も俺に振り向いてくれるかもしれないじゃないか!

自分の隣りでドアに耳を合わせているこいつも、ワナワナとしている。俺と同じ気持ちなのだろう。
だけど自分たちの淡い期待とは裏腹に、乙女と護は式場の主役に説得され、互いの気持ちに気づいてしまったようだ......。

2人はゆっくりと近づいていく。

だめだ......やめてくれ............。お願いだから......。


今にもプロポーズをしてしまうかのようだ......。

もうだめだ、見てられない。

「「俺 (私)と結婚してくだs」」


その言葉が聞こえた瞬間、自分の我慢の糸はキレてしまったようだ。
隣のこいつも、同時に。

「「その婚約、ちょっと待ったぁ!!!」」



*****


ウチは帝釈紗綾たいしゃくさあやって名前。

今、隣りにいる理武と一緒に、小学校時代からの幼馴染で親友の結婚式場のドアに耳を合わせて盗み聞き、もとい愛しい人の監視をしている。

先程ドアを開け放って威勢よく式場に乱入していった男性は私の想い人である護。

なにやら護と乙女がファミレスでいつもの作戦会議をしているところから、理武と2人で一緒に監視の任についている。
もちろん仕事ではない。ウチが自分自身に課したタスクだ。

このタスクを自分に課したのはもうずっと前、出会ってそれほど間もない頃、小学生のころだったか。
そのころから監視を続けているわけ。当然、ストーカーなんかじゃないの。
護には許可をとっている。

彼だけじゃなく、彼と一緒に住んでいる乙女にも、部屋に入る許可はもらっているのでなんにも問題ない。無問題。モーマンタイ。


聞き耳を立てていると、耳をふさぎたくなるような、ウチが聞きたくない言葉が聞こえてくる。


「「俺 (私)と、結婚してください!」」


つらたん......。
ウチの護が別の人に求婚してる......。
隣で一緒に聞き耳を立てている理武も、ワナワナと震えている。
多分、ウチと同じ気持ちなんだろうな。


「「2人で結婚しな?」」


なっ!朝人も晴も、護に余計なこと吹き込まないでよ!
なにも言わないでおいてくれたら、護は本当の気持ちに気づかないままで、私になびいてくれるかもしれないのに!


ウチがどれだけ祈っても、朝人と晴による説得は護と乙女に効いていて、2人の様子はみるみる変わっていくのがわかる。

そして2人が頬を染めながら近づいていき......。

だめ......やめて......。


「「俺 (私)と結婚してくだs」」


その言葉が聞こえた瞬間、ウチの堪忍袋の尾は消滅してしまった。
隣の理武も、同時だった。

「「その婚約、ちょっと待ったぁ!!!」」



*****


護と乙女を説得して本当の気持ちに気づかせて、間もなくプロポーズに至りそうだ。

と思っていたところで、また僕と晴の幼馴染が乱入してきた。

2組目の乱入のお客様。
まぁこれも想定の範囲内だ。

でも、参列に来てくれている皆さんには本当に申し訳ない。
僕達の愛しくも愚かな幼馴染たちが大変なご迷惑をおかけしております......。


ちなみに新しい闖入者は僕らの共通の幼馴染である宗理武と帝釈紗綾の2人だ。

彼らにも招待の話を持ちかけたが断られてしまっていた。
そのときに、すでにこういう展開になる可能性があることは推察していたわけだ。
しかも、2組目ということもあって特に驚きはない。

あーやっぱり来たか~という感じだ。


とはいえ、他の参列者の皆様は意味不明の闖入者の連続に辟易としていることだろう。
改めて謝罪せねばなるまい。
だけどその前に......。


この2人はそれぞれ、護と乙女のことを好きだと思い込んでいる・・・・・・・
理武と紗綾は小学生のころから、それぞれ護と乙女にストーカーまがいの行為を繰り返していた。
堂々と許可はとっていたので、実際ストーカーではないだろう。そこに揺るぎがあることはあるまい。事件性はない。

そういう行為に勤しんでいる側面も目立たないわけではないが、周りの目をもっと惹くのは、理武と紗綾のラブラブっぷり。
読者諸氏にはもう説明するまでもないだろうが、さっきと同じ展開である。

理武と紗綾は、僕と晴の部屋の2つ隣、護と乙女の隣の部屋に2人で住んでいる。
彼らも同じくプラトニックな関係を貫いているらしい。謎すぎる。

それに、いろんなところでいちゃついているようにしか見えない作戦会議をしているのを見かける。
例えば、ファミレスではパフェを互いにアーンしていたりする。
本人たちによると、その理由は、高度な作戦を実行するにはお互いの理解が重要であり、お互いが食べ物をどういう角度でスプーンを入れて食べるのかまで理解しているべき、という思想からくる純粋な目的意識に基づくものなのだそうだ。

全く意味はわからないが、客観的に見てこの2人が愛し合っていると言うべき証拠は揃っているだろう。



にもかかわらず、今、目の前の現状、いや惨状が繰り広げられているわけだ。

先程、僕と晴に非常識な略奪を仕掛けてきて、僕らに説得されてお互いの気持ちに気づき、プロポーズしようとしていた護と乙女に、理武と紗綾が略奪を仕掛けている。
控えめに言って地獄絵図と言って差し支えないだろう。

さっきのリピート配信、見逃し配信を見せられている気分だ。

だけど、彼らも僕達の大切な幼馴染だ。
せっかくなので悲しいすれ違いはここでなくしておきたい。



「「僕 (ウチ)と逃げ出しましょう!それで結婚してください!」」



理武と紗綾が同時に告げる。

周りは唖然として誰一人微動だにすることができない。
それくらいカオスに満ち満ちた空間だった。

さて、こっちのおバカたちにも、自分たちの本当の気持ちに気づいてもらいましょうかね。



*****



あーあ、私と朝人くんの結婚式がめちゃくちゃだよぉ。
でも、面白いからいっか!

皆、私の大好きな幼なじみたちなんだもん。
これくらい、幸せな様子を見せてくれたら許しちゃう♫


朝人くんも私と同じこと考えていそうだし、新しく乱入してきたこの鈍感さんたちにも、わかりやすく説明してあげなきゃね!
それに、多分だけど、護くんと乙女も同じこと思ってるんだろうな。



「「「「2人で結婚しな?」」」」



*****



後の展開はさっきとほぼ一緒。
真っ赤になった理武と紗綾は、自分とお互いの気持ちに気づいて徐々に接近する。


そして......。


「「今まで自分の気持ちに気づいてなかった。でも今、漸く本当の気持ちがわかった。僕 (ウチ)と結婚してください」」


今度は乱入するものはいない。

この2人、あろうことか主役の朝人と晴を差し置いて、無事にプロポーズを成功させやがった。
とはいえ、その主役の2人が焚き付けたのだから文句はない。


最後の闖入者らの恋路が整備できたことを確認すると、次いで護と乙女もプロポーズの続きをする。
またしても主役より先に幸せを享受している。
でも、これにも当然文句はない。


だけど......。


護と乙女、理武と紗綾がそれぞれ顔を近づけていく。
キスをしようとしているのだ。

両者の唇が今にも接合しようかというほど近づいたそのとき。


「「その接吻、ちょっと待ったぁ!!!」」


さすがに見逃せないと朝人と晴が叫ぶ。
幸せなのは良いけど、このままでは主役の立つ瀬がなさすぎるというわけだ。

朝人と晴は2人して似たような微笑みを浮かべ、額に似たような青筋を怒りマークのようにを浮かべて同時に告げる。


「「僕 (私)達より先に誓いのキスをするの、やめてもらえるかな?」」




*****





いろいろ騒ぎはあったけれど、改めて誓いの言葉もキスもできた。
そこからは邪魔されることなく、2人の式はつつがなく (?)終了し、あれほどの騒ぎがあったにも関わらず誰一人として欠けていない親族と、幼馴染たちから盛大な祝福を受けることができた。


新婚の2人の家庭にこれまでのようにストーカーまがいの幼馴染が居座ることもなくなった。
数カ月後には護と乙女、理武と紗綾が結婚するわけだ。
皆が両思いで結婚できるただただご都合主義で力技のハッピーエンド。

どちらの結婚式も素晴らしいものだったが、そこでは謎の闖入者が出現することはなかったことが、心残りだ、なんてなw



こうしてバカな幼馴染ばっかりの結婚式は、間違いなく生涯忘れない、インパクトのある思い出になった。
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