前世馴染と来世でも絶対に一緒になるハナシ

赤茄子橄

文字の大きさ
上 下
8 / 19
第1章 最期の別れの後、最初に出会うまで

第8話 キミの居ないハジマリ その3

しおりを挟む
父さん母さんと一緒に、国際線のターミナルを出たところにある自動車用の送迎スペースで待っていると、ほどなくして1台の乗用車が僕達の前に停止した。
運転席にはメガネを掛けた知らないおじさんが乗っている。
だけどどうやら父さんたちは彼と面識があるようで、運転席から彼が下りて「よぅ」と微笑みながら声をかけてきたそのおじさんに、父さんが「おぅ龍兎りゅうと!リアルに会うのはホントに久しぶりだなぁ!」なんて返しながら、握った拳をコツンと軽くぶつけ合っていた。
ニコニコとその様子を眺めながら「久しぶり」という母さんの横で初対面のおじさんに硬直していると、そのおじさんが僕の目の前にやってきて、僕の視線の高さに合わせるようにしゃがみこんで話しかけてくる。

「やぁ、君が知夜ともやくんだね?はじめまして、僕は天使龍兎あまつかりゅうと。君のお父さんと同じ会社で働いてるんだ。君の話はお父さんからよく聞いてるよ!とっても優秀なんだってね!これからお隣さんになるんだし、仲良くしてくれると嬉しいな!あ、いきなりこんなに話したらびっくりしちゃうか、ごめんね!」

天使龍兎なる人物がマシンガンのように矢継ぎ早に語りかけてくる。
勢いに圧倒されてしまったけど、初対面の人にはちゃんと挨拶をしないとね。

「あ、はい、御門知夜です。はじめまして。優秀......かどうかはわかりませんが、いろんなことに努力していたいとは思っています。これからどうぞよろしくおねがいします」

ペコリと身体を曲げながら単純な挨拶を返す。
あれだけ言葉の自動装填機能を濫用していた龍兎さんから何の返答も返ってこないので、不自然に思って頭を上げて彼の顔を見てみると、ポカンという擬音がきこえそうな抜けた表情をしていた。

「あの、えっと......何か間違えてしまいましたか?あ、日本語おかしかったですかね?」

心配になって尋ねると、はっとした表情をした後、すぐにふっと表情を崩し、僕の手を頭に伸ばして撫でてくる。

「いやいや、あんまりにも礼儀正しくて大人びた挨拶をするもんだから、もの凄くびっくりっしちゃっただけなんだ。うん、聞いていた以上にイイ男に育っているみたいだね」

そういってニッコリと微笑むと、すくっと立ち上がる。

「それじゃあそろそろ、行こうか。とりあえず荷物をトランクに積もう」

おじさんに促されて、荷物を載せてから座席に乗り込んだ。






新しい家までの道中、父さんと母さんが龍兎おじさんと思い出話に花を咲かせている中、僕は正直暇を持て余していた。
だからだろうか、アメリカで過ごした日々のことを思い出す。

自分で言うのもなんだけど、これまで僕はいろんなことに全力で努力してきたし、それなりのレベルでこなせるようになっていると思う。万能な両親の遺伝子のおかげかもしれないが、苦手と感じることもほとんどなかった。
学校の勉強やスポーツなんかはもちろんのこと、父さんの影響もあってプログラミングも一通りできるようになってきている。

だけど、その努力になにか明確な目的があったわけじゃないんだ。
とにかく努力して、誰か・・に釣り合うようにならないと、という苛立ちにも似た焦燥感がこれまで僕を駆り立ててきた。

なんとなくだけど、たまに夢で見るだれか。彼女、と思しき人物。本当は女性なのかどうかもわからないけど、僕はあの微睡みの世界でだけ会えるキミ・・に、釣り合う人間になりたいと信じてがんばってるんだと思う。
どんな人なのかもわからないし、夢でしかあったことないんだから実在するはずもない。今の努力は全然意味ないのかもしれないんだけど、とにかくそのために頑張ってきたんだ。
プログラミングを勉強して、名前もわからないキミを思って作ったシステムは、そんな夢の中の「キミ」という意味も込めて「You」AIなんて名前にしてみた。

そうやっていろんなことを試してきたけど、僕の心の中にはいつも空虚な部分があり続けていて、「なんで僕は頑張ってるんだろう」という空虚な疑問が日常的に浮かんでは消えていた。
それでもこれまでクサらずに走り続けてこれたのは、やっぱりどこかに未来に期待する気持ちがあって、いつか人生に劇的な転機が訪れるんじゃないかって期待してしまってるからだと思う。

だから、僕の生活が劇的に変わる今回の日本への移住で、なにか見つかると良いなぁ、なんて希望を抱いているんだ。
そんな期待をしながら、アメリカとはぜんぜん違う道路や街中の景色が流れていくのを眺めていた。




たまに両親や龍兎おじさんから話しかけられたりもしながらぼんやりと車に揺られて、空港からしばらく走った頃、どうやら目的地についたようだ。

「知夜~。ここが今日から僕達の住む家だよ。昔、僕とお母さんが住んでた家だ」

車を降りて、父さんが指す方を見てみると、2階建ての白を基調にした1軒家があった。

僕が「おぉ~」と感動していると、父さんたちが中に入っていくので、僕も追いかける。

父さんたちが昔住んでた家ってことは、家中ホコリだらけだったりするのかな?なんて心配していたけど、すごくきれいに掃除されていた。
父さん曰く、家政婦さんを雇って定期的に掃除してもらっていたのだとか。なるほど、きれいなまま保たれているわけだ。

時刻は16時を少し過ぎている。どうやらもうすぐ日が沈むみたいで、空が暗くなり始めているようだ。
昨日までは家についたら周りを探検しようかなと思ってたんだけど、この様子だととりあえず今日は家の中を探検する躯体に留めておいたほうが良さそうだ。

僕はそのまま大人しく家に入った。全部の部屋を一通り見回し終わった頃、家の外からなんだか騒がしい声が聞こえた。子供の声だろうか。
少し気にはなったけど時差がキツくて眠たくなってきたので、荷物の整理もほどほどに眠りについた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

処理中です...