追い出されて田舎でヘヴィーなスローライフを送るお話

バイオベース

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第二話①

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「まだ見つからないのかッ!」

 ライネルは檄を飛ばした。
 今日何度目になるかも分からない。
 目は血走り、手には震えも起きている。

 それが事態が進展しないことに対する怒りなのか、恐怖なのか。
 もはや当人にも判別がつかない。

 あの謁見の場での騒動のあと、ライネルは即座に王城を追い出される事となった。
 かつての英雄候補が、薄汚い野良犬のように。
 徒党の問題は自分たちで解決しろ――そう王に吐き捨てられて。

 体の良い厄介払い。
 自分は切り捨てられたのだ、とその時の周囲の目を見てはっきりと悟った。
 何処までライネルに責を擦り付けられるのか、今頃はそんな試算をするのに忙しいことだろう。

 だが、結局は王も無傷では居られない。
 有力諸侯の三男坊とはいえ、教会が出張って来るのならば王も監督責任を問われる。
 信仰心篤い枢機卿の怒りぶりは、悪魔もはだしで逃げ出す有様だった。

 ことここに至っては一刻も早くルークを探し出し、何とか懐柔して傷を少なくするしかない。
 もっとも、それで自分の首が繋がる補償など何処にも無いのだが。

「もうやだぁ! わたし、徒党辞める!」

 仲間の『天術師ハイ・ソーサレス』が情けない悲鳴を上げる。
 ライネルはその頬を引っぱたいて黙らせた。

「今更逃げられるかぁ! あの時同じ場にいたお前たちも同罪なんだよ! なんで王がオレ達の首をまだ刎ねていないかよく考えろ!」

 ライネルたちにまだ利用価値があるとすれば、ルークの顔を知っているのが彼らしかいないからだ。

「だ、だってアイツ徹夜で探しても見つからないしぃ……」
「門は固めてるんだ、まだ王都からは出ていない。泣き言ほざく暇があるなら足動かせ!」

 しかし手が足りない。
 徒党の数も今は減りに減ってライネル含めてたったの5人。
 あの召喚の場にいなかった連中は、保身の為にさっさと徒党を抜けてしまったのである。

 腐っても高レベルの高位職業の集まり。
 王も使える駒を無駄に切り捨てる気も無いし、復帰先は幾らでもあった。
 残ったのは主犯格であり、徒党の中心人物たちばかりだ。

「おいアンタら! 他にネズミが逃げ込みそうな穴倉は無いのか!」
「……言葉には気をつけて欲しいものですな。私どもにも家名の名分を保つ義務がある」

 捜索の手として王から借り受けた騎士たちは、ぞんざいな口調のライネルに厳しい目を返した。
 昨日まで羨望の眼差しで自分たちをみていた連中なのに。
 その事実がライネルの脳を焦がす。

「それがアンタらの仕事だろうが! 役立たずが!」
「私どもの仕事は悪人を斬ることでしてね。

 軽蔑の眼差しは、いつの間にか剣呑な色を帯びている。
 昨日の騒ぎは、さすがにこの王の手勢には周知の事実だった。
 そう遅くないうちに、国中に知れ渡るだろう。

「……王都にいるのは確かなんだ。すぐに見つけては解いてみせるさ」

 子供のように口を尖らせながら、ライネルは昨日ルークに投げ渡した金貨のことを思い出す。
 自分にとっては端金はしたがねだが、市井の人間からすればそうではない。
 市壁の外に無用の大金を持ち出すのは徴税対象だ。
 そうで無くては財貨の流失に歯止めが利かず、国家の経済が混乱する。
 王都の門壁の徴税記録を調べても、今日までそんな大金を持ち出した人物はいなかった。

「誤解、ね。そうあって欲しいものです」

 騎士はそう言って睨みつけて来た。
 彼らはルークを探す手伝いをする他にも、ライネル達を見張るという指名を帯びているのだろう。
 目がそのことを雄弁に語っている。

 ――こんな使いっ走りの屑どもにまでこんな扱いをされるとは。

 ライネルはもう怒りと羞恥で脳内がはじけ飛びそうだった。
 末とはいえライネルも尊い身の上。
 命も惜しいがそれ以上に名も惜しい。

 否、ライネルの自尊心はいつの間にか極大まで肥大化していた。
 強者としての自負からくるものか、生来のものか。
 おそらくはその両方だろう。

 その自尊心が昨日から軋みを上げる。
 王の顔を潰しただけでも貴族としては致命傷。
 その上、神の名を自らの出世のために利用したとあっては教会からの破門もありうる。

 破門とは人間性の死。
 人が神から授かった、生まれながら有する権利全てを否定されるに等しい。

 そうなったら、自分の名は後世どのように語り継がれることになるのか。

「すぐに見つけ出してやるぞ、ルーク。手間かけさせてくれた礼はいつかしてやるからな……」

 隙を見て、必ず。
 そう人知れず胸に誓い、ライネルはまた新しい路地裏の中へ足を踏み入れたのだった。
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