狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 国境で敵と睨み合って年を越し、矢傷の治療のためにギデオンの別宅に寄り、領城に戻るのがずいぶんと遅くなってしまった。
 ギデオンの後に続いて十数日ぶりに城に入ると、ゲイルが無表情で「ご無事で戻られ、何よりでございます」と頭を下げた。
 顔を上げたゲイルとリオの目が合う。しかしすぐに、ゲイルの目はギデオンの方に向けられた。

「ああ、何か変わったことは?」
「特には。ただお知らせ致しました通り、王城から書状が届いております」
「うむ。早速目を通そう」
「お疲れでは?」
「大丈夫だ。リオ。これを部屋へ持っていってくれ」
「あ、うん」

 ギデオンにコートを渡され、リオは両手を差し出した。ずっしりと重い。ギデオンは身体が大きいから使う革の量が多いし、剣や矢が通らないよう分厚く作られているのだ。
 帰る道中で、リオにも同じ素材のコートを作ってやると、ギデオンが約束してくれた。着ると重くて疲れるだろうからと、今までのリオのコートは少し薄い革で作られたものだった。そのために矢が生地を突き破り腹に刺さった。そのことをギデオンはずっと悔やんでいた。
 ギデオンが悔やむことなど全くない。俺が不注意だっただけ。油断しただけ。怪我しても魔法で治せるし…と安易に考えていただけ。だから俺のことで、辛い顔はしてほしくないなぁ。
 リオは周りに気づかれぬようコートに顔を近づけ、匂いをいだ。
 コートはまだ温かく、ほんのりとギデオンの匂いがする。それだけで胸が高鳴り嬉しい気持ちになる。これが人を愛するということか。ギデオンがキラキラとして見えるのも、そういうことか。恋って楽しい!
 リオは皆にお疲れ様でした!と挨拶をして、浮き立つような足取りで部屋に向かった。もちろんアンと共に。

 アンと風呂に入って旅の汚れを落とし、石鹸せっけんの良い香りのするアンの毛を魔法で乾かしていると、ギデオンが戻ってきた。

「あ、おかえり!ギデオンも風呂に入る?」
「そうだな。リオと一緒に入りたかったのだが」

 そう話すギデオンの顔は笑っているけど、リオは気づいた。眉がピクリと動いたぞ。
 リオは立ち上がり、ギデオンの傍に行く。

「何かあっただろ?風呂の後でいいから教えて。あ、俺には言えない話だったら言わなくていいから」
「リオ」

 ギデオンの顔がとても優しいものになる。そしてリオの髪の毛にキスをする。

「いい匂いだな…。自分の髪も早く乾かせよ?」
「うん、今からする」
「それと、俺の髪も乾かしてもらおうか」
「うん!」

 リオは笑顔で頷いた。
 とにかくギデオンに触りたい。触れられたい。だから髪を乾かしてと言われたことが、嬉しくてたまらない。
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