狼領主は俺を抱いて眠りたい

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 ギデオンが期待に満ちた目を向けてくる。
 リオは気まずくて、紫の瞳を見つめ返すことができない。

「アンは何と？」
「えっ…と、無理、だって」
「はあ？リオの話だと、アンの主は俺ではなかったのか？納得いかぬ」
『無理』
「あのっ…アンはまだ成獣じゃないから、無理なんだってっ」
「なるほど…」

 リオが何とか誤魔化し、ギデオンが疑いながらも納得したのでホッと息を吐き出した。そして考える。
 デックの話は本当なのかな…。アンの主がギデオンだということ…。アンがギデオンに従うとは思えないんだけど。だけど俺とギデオンとアンが選ばれた者同士ということは、すごく嬉しい。だって俺は、ギデオンもアンも大好きだから！でも、俺と同じようにデックもアシュレイとロンが好きだったんだよな…アシュレイがバカなことを考えなければ、行動に移さなければ、デックは幸せに暮らせてたかもしれないのに。
 またリオの目に涙が浮かんできた。デックのことを思い出すと悲しくて仕方がない。
 ギデオンがリオの様子に気づき、心配そうに顔をのぞき込んできた。

「大丈夫か？」
「うん…大丈夫だよ。ギデオン、帰ったら話がある。俺とギデオンとアンのこと。デックから聞いたんだ」
「わかった。屋敷に戻ったらゆっくり聞こう」
「うん」

 ギデオンが優しく微笑みリオを抱き寄せる。
 ギデオンは優しい。すごく優しいとリオは思う。出会った頃は目の下の隈くまがひどく怖い顔だし冷たい人だと思ったけど、傍で過ごしているうちに、本当はとても思いやりのある優しい人だとわかった。
 もしアトラスにそう話したものなら、「はあ？そんなのリオの前だけだぞ！俺達にはとても怖いんだぞ！」と叫びそうだけど、アトラスが大袈裟に言ってるだけだとリオは思うに違いない。だがリオは未だ知らないのだ。ギデオンが狼領主と呼ばれるに相応しく、真実怖いということを。
 

 念願のアンの背中に乗って空を飛んだリオは、興奮してはしゃいだ。そのため屋敷の庭に降り立った瞬間、足に力が入らず膝をついた。驚いたギデオンが、慌てて抱き起こしてくれたけど。だが、倒れたのは興奮したせいもあるが、腹の傷が完全に癒えてない上に睡眠不足であり、ロンやアンの背中に乗っての不安定な長距離移動、ロンによる肩の怪我とアシュレイの部下による足の怪我の心的負担、デックの惨状を見た心的負担、魔法を使ったこと…。様々なことが複合して体調不良を起こしていたせいもあった。
 ギデオンに支えられながらリオは「これ絶対に発熱するな」と小さく息を吐き出した。