狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「アンはすごいね。俺を追いかけてくれてありがとう。ギデオンを連れてきてくれてありがとう。心から感謝してるよ。さすが神獣だ」
「なんだ、神獣とは」
『神の獣だ。俺を敬え』
「アンが何を考えてるかわからぬが、俺に文句を言ってることは、何となくわかるな」
「そんなこと…ないよ」

 リオは苦笑しながら、アンに頬ずりをした。
 もしもアンが、先ほどのロンのように目の前で殺されたら耐えられない。きっと俺は相手にやり返す。
 デックとロンの姿を思い出して、リオはまた涙する。そしてアンに「小屋へ降りてくれる?」と優しく囁いた。
 小屋の前に降り立ち、背後の屋敷を見上げた。人がいる気配がない。小屋が壊れる時に、かなりの音がしたはずなのに、誰も出てこない。ということは、ここにはアシュレイとあの男、それと見張りしかいなかったのか。デックは魔獣を操れるくらいの魔法の力があるのに、警戒しなさすぎではないか?魔法を無効にする薬を飲ませていたから、安心していたのか?今となっては、アシュレイが何を考え何を企んでいたのかわからないけど。

「リオ、大丈夫か?」

 ギデオンが、リオの頬に触れる。
 リオはギデオンの手に手を重ね、「大丈夫」と頷いた。そして改めて小屋を見た。屋根は無くなり壁にも所々に穴が空いている。かろうじて残った扉を開けて中に入る。デックがいた奥の部屋に通じる扉が壊れ、その付近に騎士の制服姿の男が、うつ伏せに倒れていた。リオとギデオンは、男をけて奥の部屋へと進む。そこで目にした光景に、リオは驚き固まり、そして震えた。

「デック…ロン…それにアシュレイ…どういうことだよ」

 デックは、ロンを守るように抱きしめて倒れていた。そしてアシュレイは、そのデックを守るように抱きしめている。とても優しい顔をして。

「なんだよ…あんなにデックにひどいことをして、ロンまで殺したくせに…。デックに触るなよ…今さら優しい顔するなよ…」
「リオ、憶測だが、アシュレイ王子はデックのことを愛おしく想っていたのではないか?」
「そんなことないっ!だってデックを傷つけてっ、神獣のロンまで殺した!」
「そうか…そうだな。余計なことを言った、すまない」
「ううん…俺も、ごめん」

 リオはギデオンの手を握り、デックに近づいた。デックの傍で膝をつき、濡れて顔にまとわりついた金髪を撫でてやる。あらわになった顔を見て、少しだけ安堵した。幸せそうな顔をしていたから。苦しまずに逝けたんだ。そう思って安堵した。

「ギデオン…デックとロンを埋めてやり…た…」
「そうだな」

 ギデオンに顔を向けようとして、ある物が目に止まった。それを見て衝撃を受け腹が立った。
 アシュレイが、デックの手を握りしめていたのだ。
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