狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「デック…」

 ポツリと呟いた瞬間、リオの目から涙が落ちた。泣き始めると止まらなくなった。リオは声を上げて泣いた。泣くリオの身体は、まだ上空に浮かんだままだ。デックが死んだのなら、魔法の効果がなくなり地上に落ちるはずなのに。でもそんなことを気にする余裕などなかった。悲しい気持ちでいっぱいだった。流れる涙もそのままに、子供のように声を上げて泣き、そのうち頭も目も喉も痛くなってきて、リオはようやく泣くのを止めた。

「デック…ロンも…捜しにいかないと。…あれ?なんでまだ浮いてるの?俺、魔法使ってない…」
「もういいのか?」
「え?」

 耳元で、大好きな声が聞こえた。声が聞こえた瞬間、柔らかい毛並みの背中に座り、大好きな人に抱きしめられていることに気づいた。

「ギデオン!アンもっ」
「大丈夫か?怪我はないか?」
『あやつ…死んだのか。おろかな』

 リオはギデオンに抱きつき、また泣き出した。

「うっ、うっ…、助けられなかった!デックを助けたかったのに…っ、俺が助けられてっ」
「そうか。辛かったな。だが、よくがんばった」
「がんばれてない…っ。何もできなかったっ」
「そんなことはない。デックは、おまえが危険を冒してまで来てくれたことを、嬉しく思っていたはずだ。反面、おまえがデックを助けたかったように、デックもリオを守りたかったのだろう。だからおまえを逃がしたのではないのか?ここに一人でいるのは、そういうことなのだろう?デックは真実の良き友だな」
「うん…っ」
「あと、薄情なことを言うようだが、俺は、おまえが無事であったことに安堵している」
「うん…」

 ギデオンの腕の中は落ち着く。匂いに安心する。デックを失った悲しみは深いけど、ギデオンが傍にいてくれてよかった。来てくれてよかかった。それに尻の下の柔らかい毛並みの感触にも安心する。アンの毛並みは本当に極上…。
 とても辛い状況を目の当たりにし、いきなりギデオンが現れたことで気づかなかったけど、すごいことが起きていると、リオは勢いよく顔を上げた。
 ギデオンが目を細めて「どうした?」と優しく聞く。
 リオは、右手でギデオンの上着を掴んだまま、左手でアンの背中を撫でた。

「ねぇ…アン…飛んでる?」
「そのようだな」
「翼っ!生えてる!」
「ああ、俺も驚いた」
「すごいっ!いつ?俺がロンに連れ去られたあと?」
「そうだ。だが、翼が出るまでに、かなり時間がかかったけどな」
『黙れ。本来ならまだ出せぬのに強引に出したのだ。心から感謝しろ』

 アンが首を後ろに向けてギデオンを睨んだ。
 リオは、上半身を倒してアンの首に抱きついた。
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