狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 リオは立ち上がると、ゆっくりと振り向いた。

「お久しぶりです。アシュレイ王子」
「そうだね。会いたかったよ、リオ」

 アシュレイが、大袈裟に両手を広げた。 
 リオの声は穏やかだが、肩が怒りで震えている。

「俺に会うために、デックにこんなひどい仕打ちをしたのですか?」
「違うよ。これは罰だ。デックは王子の俺を殺そうとしたのだ。本来なら死罪のところを、鞭打ちで済ましてあげたのだから、感謝して欲しいな」
「デックが理由もなしにアンタを襲うとは思えない。よほどの理由があったんでしょうね」
「ふーん。君たち魔法を使う一族は皆、素直じゃないな。飼い主の言うことを聞けない奴らばかりだ」
「はあ?飼い主ってなに?」
「俺や狼領主のことだよ」
「ギデオンは飼い主じゃねぇし。悪いけどアンタと話してる暇はないんですよ。デックは俺が連れて行くから。こんなひどいことをする人の傍には置いておけない」
「連れて行かせないし君もここに残るんだよ」
「なに言っ…」
「アシュレイ!」

 それまで黙っていたデックが、大きな声で叫んだ。震える足でリオの隣に立ち、両手のひらをアシュレイに向けている。

「これ以上…俺の仲間を殺させないっ。リオに何かしたら、即座にアンタの首をへし折るからな」
「デック…?」

 リオは驚いてデックを見た。
 デックは理由もなく人を傷つけたりしない。人にこんなことを言ったりもしない。リオの知らない何かがある。だからデックはアシュレイ王子を襲ったんだ。

「デック…一体なにが」
「リオ…ごめんな。俺が気づいていれば、村の人達が殺されることはなかった。村が無くなることはなかった」
「どういう…こと?」
「俺達の村は、アシュレイに壊されたんだ。俺を村に帰せなくするために、自分の傍に置くために、アシュレイが村人をさらって、人買いに売ったり抵抗する者を殺したりしたんだ。だから…村が無くなったのは俺のせいなんだ!」
「…え?そんな…」

 リオは混乱した。
 子供の頃に見た、村人が連れ去られる光景を思い出す。あれは、アシュレイが命じてやったこと?え?待って。そういえば王都で、村人を連れ去っていく男達に、指示を出していた男を見かけた。あの男はなんで王都にいたのか?

「しつこいなぁ。まだそんなことを言ってるのか?君たち魔法を使う一族は、我々権力者のために存在しているというのに」
「じゃあなぜ、連れ去った仲間を殺した!」
「全員は殺してないよ。魔法の力が弱く利用価値が無い者や、反抗した者だけだ。その点、デックは俺に懐いて利用しやすかったのになぁ。もう俺の言いなりだと安心していたのに、君達の村を壊した話を聞かれるなんて、うっかりしてたよ」
「くそがっ」

 デックが手のひらに力を込めた。白い光の玉がアシュレイに向かって飛ぶ。しかしアシュレイに届く前に、光が消えた。
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