狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「治ってないじゃん!痛い!なんで?アンが舐めたら治るけど?」

 ロンが更に顔をそむける。
 リオは、仕方なく魔法で傷を治した。あまり魔法は使いたくない。デックを助けるために、力を温存しておきたい。だからロンが治してくれるなら良かったと思ったのに。
 …でもそうか。俺がアンの言葉しか理解できないように、アンしか俺の傷は治せないんだ。それならロンは、デックの傷は治せる。デックの傷はロンに任せて、俺はデックを助け出すことだけに魔法を使おう。
 リオは両肩を回し、痛みが無いことを確認する。ロンの爪でできた傷は治った。でも腹の傷跡がじくじくと痛い。それも魔法で治せるけど、今は少しでも使いたくない。
 なのでロンの背中に乗りながら聞いた。

「なぁロン、デックを助ける前に街に行けるか?薬と服を調達したい。少しでも懸念があると魔法に集中できないし、コートの下は寝衣だから動きづらいんだよな。あ…」

 話してる途中で金が無いと気づいて落ち込んだ。でも何気なくコートのポケットに手を突っ込んで、指先に硬いものが触れたので取り出してみると、一枚の銀貨だったので両手を上げて喜んだ。

「おお!持ってたじゃん!俺ってすごい!」
「ピ…」

 ロンが息を吐き出して身体を揺する。
 リオは銀貨をポケットに戻し落とされないようにロンの首にしがみついた。
 直後にロンが大きな翼を動かして、空高く舞い上がった。


 無事に国境に着いたが、まだ夜が明けたばかりだったので、店が開くまで街の近くの森の中で休むことにした。ちなみにまだ国境を越えてはいない。
 リオは休めそうな場所を探したが、どこも地面が湿っていて座れない。それに風を避けれそうな場所もなく、コートを着ていても寒い。
 リオが自身の身体を抱くようにして震えていると、ロンが身体を寄せてきた。そして翼でリオの身体を包んだ。

「あったかい……ありがとう」
「ピイ」

 まあ無理やり連れてきたのはロンなのだから、これくらいしてくれて当然だよな、とリオは思ったけど口には出さなかった。
 ロンの体毛に触れていると、本当に暖かい。冷えていた身体に熱が戻る。それにいい匂いがする。例えばシーツを洗って干した後の匂いのような。石鹸ではなくて、太陽の匂いっていうの?アンもいい匂いがするんだよな。アンは柑橘系のような匂いだ。嗅ぐと頭も心もスッキリとして落ち着くんだ。俺の大好きな匂い。

「アンに会いたい」

 こんなにアンと離れていたことはない。だから寂しくなって、思わず言葉が出た。
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