狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 夜遅くになって、ようやくギデオンが部屋に戻ってきた。狼領主という呼び名に相応しく、恐ろしい顔をしている。
 最近は、リオの前では優しい顔ばかりしていたので、久しぶりに見たな…とリオは感動を覚えた。
「ふーっ」と息を吐き革張りのソファーに深く腰を下ろしたギデオンに、リオが近づく。
 今デックのことを話したら、もっと怖い顔になりそうだなと躊躇ちゅうちょしながら、口を開いた。

「お疲れ様。もしかして、昼に捕まえた隣国の騎士に会ってきた?」
「ああ。王への報告書を作成し終えた後に行ってきた。とんでもない話も聞いた。隣国のあの王子は、これからどうするつもりだろうか」

 リオもソファーに座ると、ギデオンの手を両手で握りしめ、紫の目を見つめた。
 残った方の手で、ギデオンがリオの頬を撫でる。

「あの男、リオの魔法のことも話していたが、幻覚だということにしておいたぞ」
「…ありがとう」
「リオの友のことも心配だな。王子に刃向かったそうじゃないか」
「うん…一体何があったんだろう」
「大切な友のリオを傷つけたくはなかったのだろう。あるいはリオに協力する気になったのではないのか?」
「それは違うと思う」

 即座に答えてリオは視線を床に向ける。
 アンが足下に伏せて目を閉じているが、きっと話を聞いている。

「だってデックは、俺の話なんて聞いてなかった。それにアシュレイ王子のこと、すごく信頼してた。命の恩人だって言ってたし…」
「そうか。その恩人を襲うってことは、よほどのことがあったのだな」
「そうだね…」

 しばらく黙って俯いていたリオが、意を決したように顔を上げた。
 ギデオンが少しだけ目を見開き、リオの言葉を待つ。

「あのさ、ギデオン」
「ダメだ」
「まだ何も言ってない!」
「言わなくともわかる。デックを助けに行きたいのだろう?」
「そ…だけど。だって、このままだと処刑されてしまうかもしれないっ」
「それは無いと思うぞ。彼は魔法を使える。どこの国にとっても喉から手が出るほど欲しい希少な存在だ。それを王子が自らの手で失うようなことはしない。ああ、それと勘違いをするなよ。俺はリオが魔法を使うからではなく、愛しているから手放さないのだ。わかっているな?」
「うん、わかってる…。俺もギデオンから離れたくないよ」
「なら、デックを助けに行くとは言わないでくれ」
「うん…」

 ギデオンがリオを抱き寄せた。
 リオは、ギデオンの匂いに包まれて、恍惚こうこつと目を閉じた。
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