狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 鷹との睨み合いの末、王子が皆を止め、鷹をなだめた。敵意をむき出しだったのに、鷹は王子の言うことを素直に聞き、威嚇いかくをやめて翼で若い男の身体を包んだ。
 王子の命令で、夜が明ける前に陣営地を片付けて引き上げた。王子は、鷹から若い男を離すと、若い男を抱いて自身の馬に乗せた。その時の王子の顔を見て震えた。綺麗な顔で、いつも優しく微笑んでいる王子が、とても冷酷な表情をしていたからだ。あの若い男はきっと、ひどい目に合う。折檻される。王子を襲ったのだから当然だ。運が悪ければ殺されるだろう。

「俺は魔獣が人を襲う様を見て怖くなった。あんな化け物を使っていたら、いつか自分が殺される。剣で殺されるならまだしも、魔獣に食われるなどまっぴらだ。それに王子も怖いし若い男も気味が悪い。…ところであんた、なぜもう動いている?矢が腹に貫通していたはずだ。それに確か…あの時あんたも怪し」
「悪いがその話、主の前でしてもらおうか」
「なに?俺はもう騎士ではない!離せっ」
「アトラス、ジス、身体に縄を」
「はっ!」

 ニコラの指示でアトラスが男を押さえ、ジスが手際よく縄で縛る。そして近くの衛所に連れて行き、男を牢に入れておくよう命じた。


 屋敷に戻る道中も戻ってからも、リオは不安で何も手につかなかった。でも持って帰ってきた花は枯らしたくない。何も手につかなかったけど、アトラスに鉢を持ってきてもらい、丁寧に植えた後、鉢を抱えて部屋に戻った。
 出窓に鉢を置き、ぼんやりと眺める。
 花を見つけた時は楽しかった気持ちが、今は暗くどんよりとしている。デックが今どうしているか、無事なのか、心配で仕方がない。
 デックは、あんなに王子に心酔していたのに、どうして襲ったんだろう。何があった?怒った王子に折檻せっかんされてないかな、もしや処刑!…されないよな…。でも王子を襲うなんて、大罪だ。処刑されてもおかしくない。嫌だ、デックが殺されるのは嫌だ。どうする?
 リオの脳裏に母親の言葉が浮かぶ。

『リオ、もっと強くなりなさい。そしていつか…捕まっている仲間を見つけたら、絶対に助けなさい。でも、あなたの命をかけて助けるようではダメよ…。圧倒的な魔法の力で、助けなさい』

 そうだ、助けなきゃ。まだ圧倒的な力はないけれど、俺はデックよりは強い。
 リオが決意して頷き、窓から離れて振り返ると、アンと目が合った。アンは何も言わなかった。リオの考えていることを、わかっているはずなのに。長い間、ずっと一緒にいるのだから。でも黙って傍に来て、リオの手をペロリと舐めただけだった。

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