狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 屋敷の裏に小高い丘がある。今日は風もなく晴れているので、丘に登ろうとニコラが言い出し皆が同意した。
 丘はとても低く斜面も緩やかで、リオの傷に負担がかからずに登れる。リオの速度に合わせてゆっくりと進み、四半刻の半分の時間でいただきに着いた。冬にしては暖かな陽気で、リオの首と背中が汗ばんでいる。
 頂には、座るのにちょうど良い石が点在している。それぞれが石に座り、しばらくは、まるで春に吹く光風こうふうのような風に当たりながら、景色を楽しんでいた。
 リオは、隣に座るアンの柔らかい毛並みを撫でていた。暖かい陽射しに心地よい風、気持ちの良い感触にウトウトとしかける。するとニコラが、迷った様子で口を開いた。

「国境でのことだが…まさか魔獣を操れる者がいたとは、驚いた」
「本当に」
「信じられないよな」

 ジスとアトラスが深く頷く。
 リオは、曖昧あいまいに頷いた。だって真相を知っている。俺も魔獣を操れる。魔法を使う者なら、誰でも操れるのだ。

「しかし最後の夜の魔獣の声、もしかして操りきれなくて、暴れていたんじゃないのか?だから敵は慌てて対岸に戻り、朝にはいなくなっていた」
「そうかも」
「俺もそう思います」

 ニコラの言葉に、ジスとアトラスが同意する。
「俺も…」と言おうとして、リオは続けられなかった。だって、操ることができなかったってことは、デックが魔獣に襲われたかもしれないってことだ。そんな不吉なこと、考えたくない。少し疲れて魔力が途切れて、魔獣は逃げ出したんだ。きっとそう。
 視線を感じて横を見ると、アンが何か言いたげにリオを見ている。なに?俺の頭の中に話せよと念じるけど、アンは何も言わない。 
 アンは気まぐれだと思う。話したい時にしか話してこない。だから、頭の中に響く声が、本当にアンなのか、確信が持てないでいる。
 三人が魔獣について話しているのを聞きながら、リオは遠くを眺めていた。すると、街へと続く道が通る森の中に開けた場所あり、そこに群生している紫の花に気づいた。気づいた瞬間に立ち上がったために、三人と一匹が一斉にリオを見た。

「どうした?」
「傷が痛いのか?」
かわや?」

 順番に聞かれ、最後のアトラスの問いに「なんでだよ」と突っ込む。

「あそこ、見て。綺麗な花が咲いてる。あの花、持って帰りたいんだけど、いいかな?」

 リオが指差すと、皆が揃ってそちらを見た。
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