狼領主は俺を抱いて眠りたい

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 そして思う。
 もちろんデックは心配だけど、ギデオンのことも心配だよ。今は周りに人がいて聞けないけど、今夜、テントに戻ったら聞いてみようかな。俺といて、少しは心が軽くなってる？俺はギデオンを癒いやしたい。
 ギデオンに頬を撫でられ、リオは顔を上げる。「見ろ」と言われ、対岸に目を向ける。
 アシュレイの問いに誰も答えないからか、アシュレイが後方に下がり姿が見えなくなった。その際、近くにいた騎士にデックを運ばせていた。とりあえずは休ませてもらえるみたいだと、リオは安堵した。
 アシュレイは、魔獣が動かなければ攻めてくるつもりはないらしく、デックが倒れて以降、再び膠着こうちゃく状態になる。


 リオは、ギデオンと同じテントを使っている。本来なら、領主であるギデオンが一人で使うテントだ。さすがにこんな所に来てまで、一緒には寝ないだろうと、リオはアトラスとジスのテントを使わせてもらおうと考えていた。それなのにテントが完成するやいなや、ギデオンに腰を抱かれテントに連れ込まれた。もちろんアンもついて来た。
 ギデオンのテントに連れ込まれるリオを見ても、誰も何も言わない。狼領主が就寝時、必ず金髪の可愛らしい男を隣に寝かせているという噂は、今や周知されているのだ。
 それゆえ、中にはリオがギデオンの愛人だと誤解している者もいる。自分にも他人にも厳しく常に冷たい表情の狼領主が、リオにだけは優しい顔をするのだから、そう思われても仕方がない。という話をアトラスから聞いた時は、リオは恥ずかしさで顔が燃えるかと思った。
 愛人ってなんだよ！眠れないっていうから、隣でただ寝てるだけだよ！なぜかわからないけど、俺が隣で寝ると眠れるって言うから！
 そう反論するリオを、アトラスは「へぇ～」と笑いながら見ていた。


 魔獣に攻撃された夜、テントで寛いでいる時に、リオは、昼間に思ったことを聞いてみるつもりだった。
 ギデオンは領主として重い責務を持っているけれども、辛くはないのか。辛くても、リオが傍にいることで心が軽くなっているだろうか。
 しかし、熱い香茶こうちゃを飲みながら、真剣な表情で書類に目を通しているギデオンを見ていると、口にできなかった。そして勝手に落ち込んだ。
 自分如ごときが傍にいるくらいで、重い責務が軽くはならないよな。今日、ギデオンにキスをされ好きだと言われて、特別だと自惚うぬぼれてしまった。ダメだな…自省しないと。