狼領主は俺を抱いて眠りたい

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 リオは怒った。
 横でデックが辛そうにしてるのに、なぜ放置してるのか。アシュレイ王子にとっても、大切な存在じゃないのか。俺とデックは、この世界で、とても希少な存在の魔法を使う者だぞ。魔法を使えなくたって、俺の友達を、ぞんざいに扱うな！すぐに休ませてやれよ！デックはアシュレイ王子に心酔してるのに、アシュレイ王子はデックのことを、剣や弓矢のような道具としか思っていないのか？そんなの、デックが可哀想だろ！
 リオは拳を握りしめ、無意識に川に近づこうとした。しかしギデオンの力強い腕に抱きとめられる。

「待て。どこへ行く」
「デックの所へ。俺が治癒魔法を使う。アシュレイ王子は、デックを介抱する気がないみたいだから」
「行けば、おまえが捕まる」
「その時は、俺が魔獣を操あやつって敵に襲わせる」
「リオは、そんなことできない」
「どうして？デックより俺の方が力が強いよ？」
「バカめ…そういう話ではない。おまえは優しいから、人を傷つけることはできないという話だ」
「そんな…ことは…」

 ない、という続きの言葉が出てこない。
 確かにそうだ。一人で旅をしている時に、悪い人達に囲まれた時があった。大抵は逃げるのだけど、どうしても逃げられない時に、こっそりと魔法を使って倒したことがある。ほんの少し
、痛い目にあってもらっただけだけど、倒れて呻うめく人達を見て、すごく心が傷んだ。心の中で「ごめんなさい」と謝って、その場を離れていた。
 そんな俺が、魔獣を使って人を襲う？怪我だけじゃ済まない。死人が出るかもしれない。そうなったなら、一生立ち直れそうにない。
 俯くリオの頭に、大きな手が優しく置かれる。

「友のことが心配だろうが、今は大人しくしていてくれ。俺は、リオに人を襲わせるようなことをさせたくない。そういう役目は、領主である俺がやる。領地を、領民を守るためには、手を血で染めなければならないこともある」
「ギデオン…」

 リオは、ギデオンを見上げた。
 領主とは、並大抵の覚悟じゃできないのだ。リオと出会う前は、ろくな睡眠も取れないまま、領主という重い責務を果たしていたのだ。
 でも今は、少しは楽になっただろうか。俺がいて、眠れるようになって、目の下の隈くまも取れて、頭がスッキリとして、心も軽くなった？
 ギデオンがリオを見て、優しく目を細める。

「そのように悲しい顔をするな。すぐにデックとやらを助けはできないが、彼も休めば回復するのだろう？」
「そ…だけど」

 リオは、そっとギデオンの腕にすり寄った。